夢の中でTSして女になる男、夢日記をつけはじめる 作:(ノ≧▽≦)ノ
【注意】
第4話:『不安定な自己』を読んでいない場合は、先にそちらを読むことを推奨します。
ちょーっとキツい展開が続きますが…………ちゃんとハッピーエンドで終わるので、安心してください。
「────ふぅ」
あのあと、俺とぶつかった男の子──『
──なんやかんやあって、俺は彼らの家のお風呂に入れさせてもらいました……。あー、死にてぇ。
「なーにやってんだ、俺はよー……」
今思いだしても、顔から火がでそうになるレベルの醜態だ。それに、夢川兄妹には多大な迷惑をかけてしまった。服の洗濯とか、着替えの用意まで…………。
なにがひどいって、迷惑をかけた相手がよりにもよって、夢川 優であることだ。
「……夢川 優、かぁ。間違いなく、あいつのことだよなぁ」
『俺』は、夢川 優を知っていた。
彼は、あの"大喧嘩"の関係者である。
「えーっと、確か……」
来年、姉と優が同じ委員会だかなにかになって、いい感じの仲(俺から見たら、姉の方だけ意識している感じだったが)になってしまい──それを知った萌美が、『お姉ちゃんは渡さない!』的な感情をこじらせて──
「──そうだ。萌美"が"優と、つき合ったんだ」
その結果が、姉妹の大喧嘩である。まぁ、その喧嘩だけでは腹の虫がおさまらなかったのか……それから萌美は、長きにわたり、姉からイジメを受けていくことになるのだが。
「……あれ?」
今気がついたが、その喧嘩のあとに姉と優がカップルになったわけではないようだ。萌美に、優と別れるように
「あいつと恋仲になりたいわけではなかったのか?」
──でも、だったらなんであんな大喧嘩に発展したんだ?
「…………わからん。あとで考えよう」
そうだ。人様のお風呂に長く入浴するわけにはいかないし、そろそろでなければ。
でも、正直言って、彼とは顔を合わせたくないんだよなぁ。
「あいつ……なんで、俺と同じクラスなんだよー……」
──俺と夢川 優は、同級生である。
◇
「お風呂ありが──」
「お姉さん! スマ○ラ、しよう!」
「──え?」
お風呂のお礼をしにいったら、夢川妹にゲームのお誘いをされた件。
「……あー、ごめん。数戦したら満足すると思うから、ちょっとつき合ってくれないかな?」
「え、あ、うん」
いや、『うん』じゃねぇよ、俺っ!
どうしてこうなった!?
「ほらほらー、こっちに座って!」
「あ、はい」
結局、その場の雰囲気に流されてゲームをすることになってしまった。
「本当にごめん。…………えっと、クラスメートの道本さん、だよね? 僕は夢川 優。妹もいるし、優って呼んでね」
「あ、はい…………。道本 萌美、です」
「私は、
「……うん、よろしく」
ここまできたら、もう覚悟するしかないな。スマ○ラをする覚悟って、よくわからんが。
というか、スマ○ラかぁ。
W○iのやつまではやったが、それ以降の作品は全くやれていない。ってか、6○以外のスマ○ラのプレイ時間なんて、全て塵芥に等しいのだが。
不安だ。
…………いや、やっぱりおかしいよな、この状況。まぁ、あれだ。俺の醜態をうやむやにするための夏帆ちゃんなりのフォローなのかもしれないな。うん、そう思うことにしよう。
◇
「──お姉さん、よわっ!」
「ちょっ、夏帆、失礼だよ! いくら本当のことでも、そんなストレートに言ったらいけないって」
「は、はははっ……」
優よ、あんたも大概失礼だぞ。
ってか、6○どころかW○iのやつと比べても、結構操作性とか違うじゃないか。そんなの聞いてない。
「うーん。お姉さん、わりと強そうな気がしたんだけどなぁ」
…………6○のスマ○ラでは、いわゆる(自称)地元最強というやつだったし。別に、最新作でも強くある必要はないし。
「なんというか、がっかり? お姉さん、ザコですね!」
「は?」
「…………へ?」
「ひぇ」
おっと、俺としたことが大人げないぞ。年上なんだし、こんなの軽く──
「ふ、ふん! なんにしても、私の勝ちですけどね!」
「おい、夏帆!」
……………………。
「あー、妹も悪気は……って、道本さん?」
「──なぁ、夏帆ちゃんや。もう一戦やろうか」
「……? いいよ! 何度対戦しても勝つのは私だけどね!」
「…………え、道本さんってそんな口調だったっけ? なんか、キャラ違くない?」
「ちょっとはできるようになったみたいだけど、まだまだね!」
「もう一戦」
「あ、あれ? なんかめっちゃうまくなってない?」
「もう一戦」
「そんな……。この私が、負けた?」
「もう一戦」
「え」
「みぎゃあぁぁぁあ!?」
「しゃあ、完全勝利! ────もう一戦」
「お、お姉さん♥️ もう許して♥️」
「おう! 許す!」
「ありがとう♥️ …………バタンキュー」
「えぇ……」
◇
「ごめんなさい…………」
「いや、道本さんが謝る必要はないよ。あおりまくった夏帆の自業自得だし」
夏帆ちゃんに対して心の底から謝罪の言葉を口にすると、彼女の代わりに優のやつが言葉を返した。
「うぅー……。お兄ちゃーん、プライドを粉砕されちゃった妹に優しい言葉をかけてよー、役目っしょー」
「お前はそこで反省していなさい」
「やだー! 優しい言葉をかけてー。ついでに、おこづかいも増やして♥️ お兄ちゃん♥️」
「増やすわけないだろう」
「くたばれクソ兄貴」
「怒るよ?」
「はい……」
この子、超スピードで正座の姿勢を取ったんだが、もしかして正座をし慣れているのか?
「ねぇ、道本さ──」
「──お兄ちゃん! 夢川 夏帆、反省終わりました! うおー、スマ○ラの時間だー!」
「お・こ・る・よ?」
「ごめんなさい……」
「ぷっ、ふはっ!」
目の前で繰り広げられる兄妹漫才に、思わず吹いてしまう。
「仲がいいんだな」
「え、そう? ……というか、道本さん。もう完全に取り繕う気ゼロだよね」
「あー、この口調のことか?」
「うん。僕、道本さんがそういう感じの話し方をするなんて知らなかったよ」
そりゃあ、そうだろう。知っているやつがいたら怖いわ。
「今さら取り繕っても滑稽な気がしてな。…………気持ち悪かったら、改めるが」
「──僕は、今の口調の方が好きだけどね」
「ふぇ?」
想定外の返しをされ、変な声がでてしまう。
「なんか、今の道本さん、"いい感じ"だからね」
「……なんだそりゃ」
「その、外で会ったとき、今にも死にそうな雰囲気をまとっていたから……」
「それは……なんというか、すまん。でも、確かにそうだな。今は、"いい感じ"だ。…………これは、夏帆ちゃんのおかげかもな」
そこで、俺と優は夏帆ちゃんの方に目を向けた。
彼女は、俺たちのことをにらんでいた。
………………?
「えっと、夏帆ちゃん?」
「カット」
「はい?」
「カットカットカット、カーット! 二人とも、違ーう! そうじゃないでしょ!」
「……え?」
そうじゃないって、なにが?
「そこは! 『す、好き!? 優くん、そんな大胆な……』『えっ、ち、ちがっ! いや、道本さんはかわいいと思うけど!』『か、かわいい…………ふわわわわっ』って感じになるところでしょうがー!」
「……おい、優くんよ。妹さんいくつ?」
「十歳。小五だよ」
「ませすぎでは?」
「そうかな? みんな、こんなものだと思うけどね」
そうなのか……。
いや、でも、『ふわわわわっ』はないだろう。
◇
────なぜか、夢川宅に泊まることになった。
いや、なぜかもなにも、例のごとく夏帆ちゃんによるごり押しの結果であるが。俺としても、夏帆ちゃんの服を着たまま帰りたくはなかったし、渡りに船であった。……おもらししちゃったこととか、家族に言いたくないし……。
友達の家に泊まる旨を家族に電話で伝えたあとは、三人でゲーム三昧の時間を過ごした。
「うーん……。二人とも、もう寝ない?」
「なんだ、もうギブアップか。情けないな」
「そうだぞー。情けないぞー、お兄ちゃん」
「深夜なんだけど……」
「え、マジか」
時計を見てみると、優の言う通り、時刻は0時──深夜である。
「……寝るか」
「うん、寝よう」
「えぇー!」
「夏帆、わがままを言ってはいけないよ?」
「うぅー……。はぁい」
そんなこんなで、夏帆ちゃんと一緒に眠ることになった。
俺はソファーで寝ると言ったのだが、夏帆ちゃんがこれを断固として拒否したため、なし崩し的に彼女と同じベッドで寝ることになったのである。
……俺の中身はおっさんなわけだが、これは犯罪にならないのだろうか。夏帆ちゃんはかわいいが、さすがに、今の俺に眼福がどうとか言うほどの余裕はない。
「お・ね・え・さ・ん♥️」
「ちょっ、どこさわってんだ!」
「お胸ですが、なにか?」
「お前、堂々としていればなにやっても許されるだなんて思ってないよな?」
「私は、お胸をモミモミできて気持ちいい。お姉さんは、お胸をモミモミされて気持ちいい。これって、Win-Winの大正義じゃん!」
「セクハラだが」
「気持ちいいなら、ハラスメントにはならないよ!」
「なるに決まってんだろう!」
こいつ、レスバ最強か?
「────お姉さん、最近眠れてる?」
不意を、つかれた。
「…………なにを言って」
「隈、ひどいよ?」
「…………。お……私の隈は、他の人のものより目立たない方だと思っていたが」
「まぁ、普通の人なら気がつかないかも?」
どういうことだ?
「つまり、夏帆ちゃんは普通の人ではなく、変人だということか」
「そうだぞー、私は変人だぞー」
「おい、胸をもむな!」
「ケチー」
全く、油断も隙もない。
「ほら、うちの両親、研究職に就いてるって言ったじゃん」
「……あぁ。忙しいから、今日みたいに帰ってこれない日も多いんだっけ?」
「そそ。それでね、パパとママが研究しているのが"睡眠"とか"夢"とか、そういうのなんだよ」
なるほど、話が見えてきた。
普通の人ならーっていうのは、そういう意味だったのか。
「つまり、ご両親の影響で、夏帆ちゃんもそういう分野に詳しいってことだな。だから、私が眠れていないことにも気がつけた、と」
「うん! ふふーん、すごいでしょ!」
「……うん。夏帆ちゃんは、すごいよ」
いやほんと。悩んで、自滅して、年下に心配されてーなんて、そんなひどい生き方をしている俺なんかと比べたら、すごすぎるくらいだ。
「…………っ」
「? うおっ」
夏帆ちゃんが突然、俺に抱きついてきた。
また、胸をもむつもりなのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
なんというか、そう。不安な幼子が母親にすがりつくかのような──そんな感じだ。
「…………お姉さん、死なない、よね?」
「…………。お前、なに言ってんだ?」
「ごまかさないで、ちゃんと答えてっ」
彼女の声は、震えていた。
「…………別に、そんな気はねぇから、安心しろよ」
「……うん。じゃあ、また一緒に遊ぼう?」
「ん、あぁ、了解。約束だ。……ほら、もう寝るぞ」
「うん」
──全く、幼子はどっちなんだか。
「……ってか、私の寝不足に気がついていたのに、こんな時間までゲームに誘うのって──」
「──い、いや、その……。それはそれ、これはこれ、ってやつだよ!」
「ぷっ、なんだそれ」
◇
──結局、あれから毎日のように、夢川宅にお邪魔してしまった。
夏帆ちゃんとの約束を守るため──なんて、そんなきれいな理由じゃない。
俺はまだ、姉とどう接するべきか悩んでいた。
「はぁ…………」
今日も俺は、夢川宅に遊びにいく。
『なにもしないよりは、ましだろう』『気分転換にはなるはずだ』『遊んでいるうちに、妙案が思い浮かぶかもしれない』──そんな薄っぺらい言い訳を、つらつらと頭に並べながら。
◇
──つまるところ、夢川兄妹と遊ぶのは、逃避や先送りというやつだったのだろう。
でも、社会人になってからは無縁であった友達とのバカ騒ぎ──ゲームに熱中したり、みんなで動画を見て笑ったり、そういう時間を過ごせたのが、本当に楽しくて、嬉しくて。
彼らの隣が心地よくて、たまらなくて。
ずっとずっとそれに甘えていたいと思う自分に、腹が立って仕方なくて。
少し前までは『俺』の夢しか見なかったのに、いつからか、彼らとの夢ばかり見るようになって。『俺』の記憶をノートに写しているのに、『俺』としての振る舞いを増やしているのに、強めているのに、どんどん、『俺』が薄くなっていくのを感じて。
自分が誰なのかわからなくなって、『道本 萌美』としての振る舞いも曖昧になっていって。あわてて、ノートに記録して。誰に、どんな自分を見せればいいのか不安になって。ノートに書く時間よりも、ノートを読み込む時間の方が増えていって。いつの間にか、家族や夢川兄妹とふれあう時間が少なくなって。ノートを見て、気が狂いそうで、頭がどうにかなりそうで。
誰とも会話をせず、ノートを読み込むだけで一日が終わったとき──
「あっ、ぁ………………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」
────そのときにはもう、俺の心は壊れていたのだろう。
◇
────道本 萌美が死んだ。
自殺、だそうだ。
その知らせは、穏やかな日常を過ごす僕にとって、あまりにも唐突で──
──彼女が死んだという実感がわくことなく、夏休みが過ぎていった。
「お兄ちゃん」
「っ! 夏帆、か」
どうやら今日も、いつの間にか、眠ってしまったらしい。
……
「お兄ちゃん、今昼なんだけど……。……今日も、こんな時間まで眠っていたの?」
「まぁね」
「…………。お兄ちゃんにはわざわざ言う必要もないだろうけど、眠りすぎも体に良くないからね?」
「うん……。大丈夫、わかっているよ」
夏帆の表情がわずかに曇る。
たぶん、僕が本気で答えていないことに気がついたのだろう。
「そう。……お昼ごはん、食べる?」
「いや……。今日は、いいかな」
「……っ了解! ──じゃあ、また、夜にくるからっ!」
「うん。また、夜に」
「うん!」
夏帆が、僕の部屋をあとにする──
「…………お姉さんの嘘つきっ」
──その直前に呟かれた彼女の言葉が、やけに、僕の耳に残っていた。
「…………ははっ。なんとも、情けないな」
夏帆も道本さんと仲が良かった。
だから、彼女も辛いはずなのだ。
──それなのに、僕は彼女に迷惑をかけている。
兄として、本当に情けない気持ちでいっぱいだ。
『……………………』
「──おや。また、遊びにきたのかい?」
白色の尾っぽが特徴的な黒猫が、僕の部屋に侵入してきた。
──驚きはない。
「君がくるのは、これで何回目だったか」
『……………………』
「…………ねぇ、君は道本さんについて、なにか知っていたりしないかい?」
『────ごめんなさい』
「…………。こっちこそ、ごめん。変なことを聞いてしまったね」
そう。こんなことを聞く必要も、聞く権利も、僕にありはしないのだ。
──道本さんについて聞くと、悲しそうに謝罪をしてくる理由も。
──この子がくると眠くなる理由も。
──その際に見る夢が、僕と夏帆と道本さんの三人で遊ぶ『楽しい夢』である理由も。
僕は知らない。知ることは、できないのだろう。
「また、ねむ、く…………」
こうして今日も、僕は夢に落ちる。
あぁ──
──夢がこれだけ幸せならば、現実は一体、どれほどの────
◇
『────はぁ、はぁ、はぁっ! い、今のは、夢……?』
『汝よ』
『っ!』
サメさんに声をかけられて、私は現実に戻された。
──ここは、電車の中。
乗員は私とサメさんだけで──お兄さんは、もういない。
『そうだ! お、お兄さんがっ』
『落ち着くのだ、汝よ。……今、汝が見てきたものは、悪魔によって狂わされた世界なのだ』
『…………え、えっと?』
悪魔? 世界? サメさんの言っていることがわからず、疑問の声をあげてしまう。
『それは、汝があの男に対しての干渉を躊躇した世界であり、その結果から誕生した"可能性"である』
『可能性……』
その言葉にハッとする。
──あの夢が可能性の一つだと言うのであれば、別の可能性というのも考えられるのではないか?
『我は、長い間ここを離れることができぬ。だから、あの男を救えるとしたら、汝だけなのだ』
『私が……』
『それは、重圧であろう。それは、困難であろう。だからこそ、我は決して汝に命令はせぬ。今の話を聞かなかったことにするのも、汝の正しい選択の一つと言えよう』
『……………………』
『それでも、我の願いを聞いてもらえるのであれば──あの男を、汝の言う『お兄さん』を、悪魔の呪縛から解放してやってほしいのだ』
次回最終回