夢の中でTSして女になる男、夢日記をつけはじめる   作:(ノ≧▽≦)ノ

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 連続投稿2話目(2/2)

【注意】
 第4話:『不安定な自己』を読んでいない場合は、先にそちらを読むことを推奨します。

 ちょーっとキツい展開が続きますが…………ちゃんとハッピーエンドで終わるので、安心してください。


夢、現。運命を決めるのは?

 

 

 

 

「────ふぅ」

 

 あのあと、俺とぶつかった男の子──『夢川(ゆめかわ) (すぐる)』が、自身の妹の誤解を解いてから──

 

 ──なんやかんやあって、俺は彼らの家のお風呂に入れさせてもらいました……。あー、死にてぇ。

 

「なーにやってんだ、俺はよー……」

 

 今思いだしても、顔から火がでそうになるレベルの醜態だ。それに、夢川兄妹には多大な迷惑をかけてしまった。服の洗濯とか、着替えの用意まで…………。

 

 なにがひどいって、迷惑をかけた相手がよりにもよって、夢川 優であることだ。

 

 

「……夢川 優、かぁ。間違いなく、あいつのことだよなぁ」

 

『俺』は、夢川 優を知っていた。

 

 彼は、あの"大喧嘩"の関係者である。

 

 

「えーっと、確か……」

 

 来年、姉と優が同じ委員会だかなにかになって、いい感じの仲(俺から見たら、姉の方だけ意識している感じだったが)になってしまい──それを知った萌美が、『お姉ちゃんは渡さない!』的な感情をこじらせて──

 

「──そうだ。萌美"が"優と、つき合ったんだ」

 

 その結果が、姉妹の大喧嘩である。まぁ、その喧嘩だけでは腹の虫がおさまらなかったのか……それから萌美は、長きにわたり、姉からイジメを受けていくことになるのだが。

 

 

「……あれ?」

 

 今気がついたが、その喧嘩のあとに姉と優がカップルになったわけではないようだ。萌美に、優と別れるように()()()して、それで終わりである。

 

 

「あいつと恋仲になりたいわけではなかったのか?」

 

 

 ──でも、だったらなんであんな大喧嘩に発展したんだ?

 

 

「…………わからん。あとで考えよう」

 

 そうだ。人様のお風呂に長く入浴するわけにはいかないし、そろそろでなければ。

 

 

 でも、正直言って、彼とは顔を合わせたくないんだよなぁ。

 

 

「あいつ……なんで、俺と同じクラスなんだよー……」

 

 

 

 ──俺と夢川 優は、同級生である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お風呂ありが──」

 

「お姉さん! スマ○ラ、しよう!」

 

「──え?」

 

 お風呂のお礼をしにいったら、夢川妹にゲームのお誘いをされた件。

 

 

「……あー、ごめん。数戦したら満足すると思うから、ちょっとつき合ってくれないかな?」

 

「え、あ、うん」

 

 いや、『うん』じゃねぇよ、俺っ!

 

 どうしてこうなった!?

 

 

「ほらほらー、こっちに座って!」

 

「あ、はい」

 

 結局、その場の雰囲気に流されてゲームをすることになってしまった。

 

 

「本当にごめん。…………えっと、クラスメートの道本さん、だよね? 僕は夢川 優。妹もいるし、優って呼んでね」

 

「あ、はい…………。道本 萌美、です」

 

「私は、夢川(ゆめかわ) 夏帆(かほ)! よろしくね、お姉さん!」

 

「……うん、よろしく」

 

 ここまできたら、もう覚悟するしかないな。スマ○ラをする覚悟って、よくわからんが。

 

 というか、スマ○ラかぁ。

 

 W○iのやつまではやったが、それ以降の作品は全くやれていない。ってか、6○以外のスマ○ラのプレイ時間なんて、全て塵芥に等しいのだが。

 

 

 不安だ。

 

 

 

 …………いや、やっぱりおかしいよな、この状況。まぁ、あれだ。俺の醜態をうやむやにするための夏帆ちゃんなりのフォローなのかもしれないな。うん、そう思うことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お姉さん、よわっ!」

 

「ちょっ、夏帆、失礼だよ! いくら本当のことでも、そんなストレートに言ったらいけないって」

 

「は、はははっ……」

 

 優よ、あんたも大概失礼だぞ。

 

 ってか、6○どころかW○iのやつと比べても、結構操作性とか違うじゃないか。そんなの聞いてない。

 

 

「うーん。お姉さん、わりと強そうな気がしたんだけどなぁ」

 

 …………6○のスマ○ラでは、いわゆる(自称)地元最強というやつだったし。別に、最新作でも強くある必要はないし。

 

 

 

「なんというか、がっかり? お姉さん、ザコですね!」

 

 

「は?」

 

 

「…………へ?」

 

「ひぇ」

 

 おっと、俺としたことが大人げないぞ。年上なんだし、こんなの軽く──

 

「ふ、ふん! なんにしても、私の勝ちですけどね!」

 

「おい、夏帆!」

 

 

 ……………………。

 

 

「あー、妹も悪気は……って、道本さん?」

 

「──なぁ、夏帆ちゃんや。もう一戦やろうか」

 

「……? いいよ! 何度対戦しても勝つのは私だけどね!」

 

「…………え、道本さんってそんな口調だったっけ? なんか、キャラ違くない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとはできるようになったみたいだけど、まだまだね!」

 

「もう一戦」

 

 

 

 

 

「あ、あれ? なんかめっちゃうまくなってない?」

 

「もう一戦」

 

 

 

 

 

「そんな……。この私が、負けた?」

 

「もう一戦」

 

「え」

 

 

 

 

 

「みぎゃあぁぁぁあ!?」

 

「しゃあ、完全勝利! ────もう一戦」

 

「お、お姉さん♥️ もう許して♥️」

 

「おう! 許す!」

 

「ありがとう♥️ …………バタンキュー」

 

「えぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい…………」

 

「いや、道本さんが謝る必要はないよ。あおりまくった夏帆の自業自得だし」

 

 夏帆ちゃんに対して心の底から謝罪の言葉を口にすると、彼女の代わりに優のやつが言葉を返した。

 

 

「うぅー……。お兄ちゃーん、プライドを粉砕されちゃった妹に優しい言葉をかけてよー、役目っしょー」

 

「お前はそこで反省していなさい」

 

「やだー! 優しい言葉をかけてー。ついでに、おこづかいも増やして♥️ お兄ちゃん♥️」

 

「増やすわけないだろう」

 

「くたばれクソ兄貴」

 

「怒るよ?」

 

「はい……」

 

 この子、超スピードで正座の姿勢を取ったんだが、もしかして正座をし慣れているのか?

 

「ねぇ、道本さ──」

 

「──お兄ちゃん! 夢川 夏帆、反省終わりました! うおー、スマ○ラの時間だー!」

 

「お・こ・る・よ?」

 

「ごめんなさい……」

 

「ぷっ、ふはっ!」

 

 目の前で繰り広げられる兄妹漫才に、思わず吹いてしまう。

 

 

「仲がいいんだな」

 

「え、そう? ……というか、道本さん。もう完全に取り繕う気ゼロだよね」

 

「あー、この口調のことか?」

 

「うん。僕、道本さんがそういう感じの話し方をするなんて知らなかったよ」

 

 そりゃあ、そうだろう。知っているやつがいたら怖いわ。

 

 

「今さら取り繕っても滑稽な気がしてな。…………気持ち悪かったら、改めるが」

 

「──僕は、今の口調の方が好きだけどね」

 

「ふぇ?」

 

 想定外の返しをされ、変な声がでてしまう。

 

 

「なんか、今の道本さん、"いい感じ"だからね」

 

「……なんだそりゃ」

 

「その、外で会ったとき、今にも死にそうな雰囲気をまとっていたから……」

 

「それは……なんというか、すまん。でも、確かにそうだな。今は、"いい感じ"だ。…………これは、夏帆ちゃんのおかげかもな」

 

 そこで、俺と優は夏帆ちゃんの方に目を向けた。

 

 彼女は、俺たちのことをにらんでいた。

 

 

 ………………?

 

 

「えっと、夏帆ちゃん?」

 

「カット」

 

「はい?」

 

「カットカットカット、カーット! 二人とも、違ーう! そうじゃないでしょ!」

 

「……え?」

 

 

 そうじゃないって、なにが?

 

 

 

「そこは! 『す、好き!? 優くん、そんな大胆な……』『えっ、ち、ちがっ! いや、道本さんはかわいいと思うけど!』『か、かわいい…………ふわわわわっ』って感じになるところでしょうがー!」

 

 

 

「……おい、優くんよ。妹さんいくつ?」

 

「十歳。小五だよ」

 

「ませすぎでは?」

 

「そうかな? みんな、こんなものだと思うけどね」

 

 そうなのか……。

 

 いや、でも、『ふわわわわっ』はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────なぜか、夢川宅に泊まることになった。

 

 

 いや、なぜかもなにも、例のごとく夏帆ちゃんによるごり押しの結果であるが。俺としても、夏帆ちゃんの服を着たまま帰りたくはなかったし、渡りに船であった。……おもらししちゃったこととか、家族に言いたくないし……。

 

 友達の家に泊まる旨を家族に電話で伝えたあとは、三人でゲーム三昧の時間を過ごした。

 

 

「うーん……。二人とも、もう寝ない?」

 

「なんだ、もうギブアップか。情けないな」

 

「そうだぞー。情けないぞー、お兄ちゃん」

 

「深夜なんだけど……」

 

「え、マジか」

 

 時計を見てみると、優の言う通り、時刻は0時──深夜である。

 

 

「……寝るか」

 

「うん、寝よう」

 

「えぇー!」

 

「夏帆、わがままを言ってはいけないよ?」

 

「うぅー……。はぁい」

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、夏帆ちゃんと一緒に眠ることになった。

 

 俺はソファーで寝ると言ったのだが、夏帆ちゃんがこれを断固として拒否したため、なし崩し的に彼女と同じベッドで寝ることになったのである。

 

 ……俺の中身はおっさんなわけだが、これは犯罪にならないのだろうか。夏帆ちゃんはかわいいが、さすがに、今の俺に眼福がどうとか言うほどの余裕はない。

 

 

「お・ね・え・さ・ん♥️」

 

「ちょっ、どこさわってんだ!」

 

「お胸ですが、なにか?」

 

「お前、堂々としていればなにやっても許されるだなんて思ってないよな?」

 

「私は、お胸をモミモミできて気持ちいい。お姉さんは、お胸をモミモミされて気持ちいい。これって、Win-Winの大正義じゃん!」

 

「セクハラだが」

 

「気持ちいいなら、ハラスメントにはならないよ!」

 

「なるに決まってんだろう!」

 

 こいつ、レスバ最強か?

 

 

 

 

「────お姉さん、最近眠れてる?」

 

 

 不意を、つかれた。

 

 

「…………なにを言って」

 

「隈、ひどいよ?」

 

「…………。お……私の隈は、他の人のものより目立たない方だと思っていたが」

 

「まぁ、普通の人なら気がつかないかも?」

 

 どういうことだ?

 

 

「つまり、夏帆ちゃんは普通の人ではなく、変人だということか」

 

「そうだぞー、私は変人だぞー」

 

「おい、胸をもむな!」

 

「ケチー」

 

 全く、油断も隙もない。

 

 

「ほら、うちの両親、研究職に就いてるって言ったじゃん」

 

「……あぁ。忙しいから、今日みたいに帰ってこれない日も多いんだっけ?」

 

「そそ。それでね、パパとママが研究しているのが"睡眠"とか"夢"とか、そういうのなんだよ」

 

 なるほど、話が見えてきた。

 

 普通の人ならーっていうのは、そういう意味だったのか。

 

 

「つまり、ご両親の影響で、夏帆ちゃんもそういう分野に詳しいってことだな。だから、私が眠れていないことにも気がつけた、と」

 

「うん! ふふーん、すごいでしょ!」

 

「……うん。夏帆ちゃんは、すごいよ」

 

 いやほんと。悩んで、自滅して、年下に心配されてーなんて、そんなひどい生き方をしている俺なんかと比べたら、すごすぎるくらいだ。

 

 

「…………っ」

 

「? うおっ」

 

 夏帆ちゃんが突然、俺に抱きついてきた。

 

 また、胸をもむつもりなのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 

 

 なんというか、そう。不安な幼子が母親にすがりつくかのような──そんな感じだ。

 

 

 

「…………お姉さん、死なない、よね?」

 

「…………。お前、なに言ってんだ?」

 

「ごまかさないで、ちゃんと答えてっ」

 

 彼女の声は、震えていた。

 

 

「…………別に、そんな気はねぇから、安心しろよ」

 

「……うん。じゃあ、また一緒に遊ぼう?」

 

「ん、あぁ、了解。約束だ。……ほら、もう寝るぞ」

 

「うん」

 

 

 ──全く、幼子はどっちなんだか。

 

 

 

 

 

「……ってか、私の寝不足に気がついていたのに、こんな時間までゲームに誘うのって──」

 

「──い、いや、その……。それはそれ、これはこれ、ってやつだよ!」

 

「ぷっ、なんだそれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──結局、あれから毎日のように、夢川宅にお邪魔してしまった。

 

 夏帆ちゃんとの約束を守るため──なんて、そんなきれいな理由じゃない。

 

 

 俺はまだ、姉とどう接するべきか悩んでいた。

 

 

 

「はぁ…………」

 

 

 今日も俺は、夢川宅に遊びにいく。

 

 

『なにもしないよりは、ましだろう』『気分転換にはなるはずだ』『遊んでいるうちに、妙案が思い浮かぶかもしれない』──そんな薄っぺらい言い訳を、つらつらと頭に並べながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──つまるところ、夢川兄妹と遊ぶのは、逃避や先送りというやつだったのだろう。

 

 

 でも、社会人になってからは無縁であった友達とのバカ騒ぎ──ゲームに熱中したり、みんなで動画を見て笑ったり、そういう時間を過ごせたのが、本当に楽しくて、嬉しくて。

 

 彼らの隣が心地よくて、たまらなくて。

 

 

 ずっとずっとそれに甘えていたいと思う自分に、腹が立って仕方なくて。

 

 

 

 少し前までは『俺』の夢しか見なかったのに、いつからか、彼らとの夢ばかり見るようになって。『俺』の記憶をノートに写しているのに、『俺』としての振る舞いを増やしているのに、強めているのに、どんどん、『俺』が薄くなっていくのを感じて。

 

 

 

 

 自分が誰なのかわからなくなって、『道本 萌美』としての振る舞いも曖昧になっていって。あわてて、ノートに記録して。誰に、どんな自分を見せればいいのか不安になって。ノートに書く時間よりも、ノートを読み込む時間の方が増えていって。いつの間にか、家族や夢川兄妹とふれあう時間が少なくなって。ノートを見て、気が狂いそうで、頭がどうにかなりそうで。

 

 

 

 

 

 誰とも会話をせず、ノートを読み込むだけで一日が終わったとき──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、ぁ………………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」

 

 

 

 

 ────そのときにはもう、俺の心は壊れていたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────道本 萌美が死んだ。

 

 自殺、だそうだ。

 

 

 

 その知らせは、穏やかな日常を過ごす僕にとって、あまりにも唐突で──

 

 ──彼女が死んだという実感がわくことなく、夏休みが過ぎていった。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん」

 

「っ! 夏帆、か」

 

 どうやら今日も、いつの間にか、眠ってしまったらしい。

 

 ……()()、夏帆に起こされてしまった。

 

 

「お兄ちゃん、今昼なんだけど……。……今日も、こんな時間まで眠っていたの?」

 

「まぁね」

 

「…………。お兄ちゃんにはわざわざ言う必要もないだろうけど、眠りすぎも体に良くないからね?」

 

「うん……。大丈夫、わかっているよ」

 

 夏帆の表情がわずかに曇る。

 

 たぶん、僕が本気で答えていないことに気がついたのだろう。

 

 

「そう。……お昼ごはん、食べる?」

 

「いや……。今日は、いいかな」

 

「……っ了解! ──じゃあ、また、夜にくるからっ!」

 

「うん。また、夜に」

 

「うん!」

 

 夏帆が、僕の部屋をあとにする──

 

 

 

「…………お姉さんの嘘つきっ」

 

 

 

 ──その直前に呟かれた彼女の言葉が、やけに、僕の耳に残っていた。

 

 

 

 

「…………ははっ。なんとも、情けないな」

 

 

 夏帆も道本さんと仲が良かった。

 

 だから、彼女も辛いはずなのだ。

 

 

 ──それなのに、僕は彼女に迷惑をかけている。

 

 

 兄として、本当に情けない気持ちでいっぱいだ。

 

 

 

 

『……………………』

 

「──おや。また、遊びにきたのかい?」

 

 白色の尾っぽが特徴的な黒猫が、僕の部屋に侵入してきた。

 

 

 ──驚きはない。

 

 

「君がくるのは、これで何回目だったか」

 

『……………………』

 

「…………ねぇ、君は道本さんについて、なにか知っていたりしないかい?」

 

『────ごめんなさい』

 

「…………。こっちこそ、ごめん。変なことを聞いてしまったね」

 

 

 そう。こんなことを聞く必要も、聞く権利も、僕にありはしないのだ。

 

 

 ──道本さんについて聞くと、悲しそうに謝罪をしてくる理由も。

 

 ──この子がくると眠くなる理由も。

 

 ──その際に見る夢が、僕と夏帆と道本さんの三人で遊ぶ『楽しい夢』である理由も。

 

 

 僕は知らない。知ることは、できないのだろう。

 

 

 

「また、ねむ、く…………」

 

 

 こうして今日も、僕は夢に落ちる。

 

 

 

 あぁ──

 

 

 

 

 ──夢がこれだけ幸せならば、現実は一体、どれほどの────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────はぁ、はぁ、はぁっ! い、今のは、夢……?』

 

『汝よ』

 

『っ!』

 

 サメさんに声をかけられて、私は現実に戻された。

 

 

 ──ここは、電車の中。

 

 乗員は私とサメさんだけで──お兄さんは、もういない。

 

 

『そうだ! お、お兄さんがっ』

 

『落ち着くのだ、汝よ。……今、汝が見てきたものは、悪魔によって狂わされた世界なのだ』

 

『…………え、えっと?』

 

 悪魔? 世界? サメさんの言っていることがわからず、疑問の声をあげてしまう。

 

 

『それは、汝があの男に対しての干渉を躊躇した世界であり、その結果から誕生した"可能性"である』

 

『可能性……』

 

 

 その言葉にハッとする。

 

 

 ──あの夢が可能性の一つだと言うのであれば、別の可能性というのも考えられるのではないか?

 

 

 

『我は、長い間ここを離れることができぬ。だから、あの男を救えるとしたら、汝だけなのだ』

 

『私が……』

 

『それは、重圧であろう。それは、困難であろう。だからこそ、我は決して汝に命令はせぬ。今の話を聞かなかったことにするのも、汝の正しい選択の一つと言えよう』

 

『……………………』

 

 

『それでも、我の願いを聞いてもらえるのであれば──あの男を、汝の言う『お兄さん』を、悪魔の呪縛から解放してやってほしいのだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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