夢の中でTSして女になる男、夢日記をつけはじめる 作:(ノ≧▽≦)ノ
『私はっ────私は、やりたい。私に、やらせてください! お兄さんを救える可能性が少しでもあるというのなら、それに賭けてみたいのです!』
言った、言ってしまった。
だけど、後悔はない。
『汝よ』
『は、はいっ』
『本来であれば、我の立場でこのようなことを言うべきではないのだろう。それでも、言わせてほしい。──感謝する』
『……っはい!』
私の返事に満足そうにうなずいたサメさんは、どこからともなくスマホを取りだした。
『あれ? 私のスマホと同じ……?』
『汝のものであるが、心配無用だ。写真あぷりしか入っていない』
『あ、本当ですね。……いえ、特に見られて困るアプリを入れていたわけではありませんが』
サメさんはカメラアプリを起動して、カメラロールを表示する。
……ヒレでスマホを操作するサメさんの姿が、なんともシュールでたまらない。
『ふふっ…………ん? これ、私の写真でいっぱいですね』
カメラロールには、私の自撮り写真がたくさん保存されていた。
……そういえば、スマホを買ってもらったばかりのころに、大量に自撮りをした覚えがある。確か……そうだ。ベストショットを撮って、お姉ちゃんに送ろうとしたんだ。
『……これらは、重要ではないな』
サメさんは、私の自撮り写真をスクロールして底へと送っていく。
『…………そういえば、汝は己の記憶を取り戻せたのだな』
『はい。──過去と向き合うって、お兄さんと約束しましたから』
──『もっと過去に目を向けてもいいんじゃねぇかな』
『…………。あ、あの、サメさん』
『なんだろうか』
『……お姉ちゃんは、私にひどいことをしました。その、私はそうされるだけの罪を犯したのですから、それは仕方ありません。当然、そのことでお姉ちゃんを恨んでもいません』
『うむ』
『私は、お姉ちゃんの恨みの理由が"夢川 優"にあると思っていました。ですが、それならばなぜ、お姉ちゃんは優さんとつき合わなかったのでしょうか。──過去と向き合っても、そこだけが、いまいちピンとこなかったのです……』
『……ふむ』
サメさんの声色が、どことなく渋いものに変化した。
サメさんからしても、よくわからないことなのだろうか?
『いや、わかってはいるのだ。ただ、それを我の口から言うのはよろしくないのでは、と思ってな。……まぁ、汝の身内の話だ。特例で教えることにしよう』
『あ、ありがとうございます!』
『────欲求だ』
『…………へ?』
『確かに、汝の姉が汝を痛めつけた理由──そのきっかけは、"夢川 優"にある。しかし、それ以降の行為に対する理由は、汝にあるのだ』
『私、ですか』
なんだろう……ものすごく嫌な予感がする。
『そうだ。汝の姉はな、汝を痛めつけることに強い快楽を覚えたのだ。本人も、戸惑いながらもその快感を受け入れていき──』
『──あの、もういいです。十分理解できましたので』
『む? あぁ、すまない。いささか、紳士さに欠如していたな。謝罪しよう』
『い、いえ。しかし、いや、まさか、そんなことで…………』
『……そんなこと、とは言うがな。良くも悪くも、人の"欲求"に際限はないのだ。だから、そういうことも起こり得る。我は、"欲求"が原因で狂った人、狂わされた人をたくさん、たくさん知っているぞ』
『…………はい』
サメさんのその言葉には、万感の思いが込められているように思えた。
『────む。あったぞ。我の力で、汝をこの写真の時間軸に送り込むことができる』
サメさんが、スマホの画面を私に向けた。
『……? こ、これはっ』
そこには、血走った目で自宅から外にでる私が──お兄さんが、いた。
『これって、お兄さんが……その、自殺した日のものですよね? こんな写真、一体誰が……?』
『誰も撮影していない。この写真はいわば、世界のほころび、そのものだ』
『世界のほころび……?』
『悪魔の奴らが、世界に干渉しすぎた結果である』
『干渉……。あの、もしかして、お兄さんが自殺したのって──』
『──いや、奴らも、そこまで好き勝手に動けるわけではない。ただ、自虐的思考を誘発させる小細工くらいは、していてもおかしくないな』
『……………………』
それはつまり、このときのお兄さんはネガティブな感情に支配されている、ということで。
……私の言葉は、ちゃんと、彼に届くのだろうか。
『──あの男は、汝と向き合った』
『あっ』
『汝もただ、彼と向き合えばよい』
そうだ。なにを弱気になっているのだ。
結果がどうなるかは、わからない。だけど、それは弱気になっていい理由になんかならない!
『──そう、ですね。私、お兄さんと向き合います! 私の思いを、彼に伝えてきます!』
『うむ。──それでは、はじめるぞ?』
『ふぅ…………。────お願いしますっ!』
体が消えていく。
私はこの電車から消えて、あの世界に移動するのだろう。
──そうして、サメさんは一人になるのだ。
『っサメさん!』
『む?』
『──ありがとうございます』
『礼ならば、正気に戻ったあとのあの男にでも言ってやるのだな』
『は、はい。いえ、そうではなくて!』
──すぅ、はぁ。
深呼吸を一つして、言いたいことを整理する。
『その、サメさんとはあまりお話できませんでしたが、私は、お兄さんにも、サメさんにも感謝しています。……こんなことまでしてもらえましたし。それに──』
『……………………』
『──それに、お兄さんは、サメさんに救われたと言っていました。
わずかな沈黙。
そして──
『────どういたしまして、だ』
◇
『────うぅ……。頭がクラクラします……』
己の体に気合いと活を入れ、現状把握につとめる。
『……視線が低いですね』
どうやら、私の体は猫さんのままらしい。
『えっと、ここは…………お兄さんが自殺した場所ですね』
私とお兄さんの運命を狂わせた交差点。
私が見た夢では、お兄さんはここで頭を地面に打ちつけて死亡した。
──何回も、何回も、頭を地面に叩きつけたのだ。
『…………もうすぐ、お兄さんがくるはず。弱気になるな、私っ!』
……………………。
『あっ』
いた。
お兄さんが、いた。
『────お兄さん!』
「うわぁ!?」
──頭が真っ白になった私は、用意していた言葉やらなにやらを投げ捨てて、お兄さんの胸元に突っ込んでいた。
あっ、やわらかい──って、そうじゃなくて!
すぐにどいて、急いでお兄さんの様子を確認する。……見た感じ、特に怪我はしていなさそうだった。
よ、よかった……。今ので頭から転倒していたら、大変なことになっていたかもしれない。
そんな感じで、私が内心で戦々恐々としていると、お兄さんがうめき声をあげながら目を開けた。
──私の姿を見て、目を見開く。
……怪我の功名というべきか、私の体当たりは、お兄さんにとってちょうどよい気つけになったようだ。
写真で見た狂気を感じさせる瞳が、いくぶん、ましになっている。
「え? …………え? 猫ちゃん!? なんで!?」
『お兄さん』
「どういうことだ? 俺は、確かに……。いや、これは夢? でも、そんなはず──」
『──お兄さん!』
「…………っ」
どうやら、お兄さんはこの状況をうまく理解できていないようだ。電車にいるはずの私がここにいるのだから、混乱するのも無理ないと思う。
──それなら、彼に理解してもらえるまで、一つ一つ言葉を紡いでいけばいい。
『ふぅ……。いいですか、お兄さん。私は、お兄さんがなぜここにいるのか、なんの目的でここにきたのか、知っています』
「なにを──」
『──自殺、でしょう?』
「なっ!?」
お兄さんは驚きの声をあげ、固まった。
「知っている……? 本当に、全部知っているというのか?」
『えぇ、そうですね。……お兄さんがいろいろと悩んでいたことも、知っていますよ』
「──ははっ、なんだよそれっ…………ははっ」
乾いた笑いが響く。
──否。それは"笑い"ではなく、"怒り"。
その怒りの対象は──私か、それとも。
「あんたは、俺の自殺をとめたいのか?」
『はい』
お兄さんの瞳から、恐怖の闇が消え去った。
「……あんたは、過去に向き合えたのか?」
『はい。全てを思いだしました。お兄さんのおかげですね』
お兄さんの瞳から、憤怒の炎が燃えあがる。
「それならっ…………それなら、わかるだろう? あんたを殺したのは、この俺だ! なぜ、とめる!? なぜっ──」
『──"あんた"って、誰のことですか?』
「…………は? 誰って、そりゃあ"道本 萌美"に決まっているだろう?」
『違う! 今の私は、道本 萌美ではありません! ただの猫です!』
──お願いします。
『私はこれから、猫としての"自分"を生きていきます! だから、お兄さんも──『萌美』も、"自分"を生きてください! "あなたが殺した道本 萌美"でも、"事故で死んだお兄さん"でもない──"今を生きる自分"を! 今の萌美を! 生きるんですよっ!』
どうか、この人を悪魔の呪縛から──
『あなたが女として生きたって、"私"にはなれません! 男として生きたって、"お兄さん"にはなれません! ──そんなものに、とらわれないでっ!』
────解放してください。
静寂──
嗚咽──
落涙──
慟哭──
────静寂。
『お兄さんからもらった、"過去に向き合う"勇気を──』
震える体によりそって──
『"逃げずに立ち向かう"勇気として──あなたに』
────その日、滅びの運命にあった一つの命が、救われた。
◇
「────あれから、もう三年かぁ」
家でのんびりとしながら、懐かしむ。
苦しくもあり、恥ずかしくもあり──でも、暖かな、その思い出を。
「……………………」
あのあと──
俺を探していた家族に叱られたり、抱き締められたりして、確かな愛情を感じた。
それでほだされたのか、胸の中でくすぶっていたものを、号泣しながらぶちまけてしまった。
あのときの記憶は曖昧だが…………おそらく、支離滅裂な語りだっただろう。理解しにくい話だっただろう。
それでも、ちゃんと真剣に聞いてくれて──最後には、みんなに受け入れられたのだ。
「……あぁいや、姉貴呼びは断固拒否されたっけ」
そんな姉……お姉ちゃんも、最初はギクシャクしていたが、今では普通に話せている。
……でも、普段はパーフェクトな優等生なのに、妹の俺が絡んだとたんにポンコツ化──もとい、大暴走するのは勘弁してほしい……。
いや、例のイジメよりは断然ましなのだが。とはいえ、これはこれで恐怖である。
『──お姉ちゃんの悪口は許しませんよ?』
「ひえっ」
猫ちゃんが俺の肩に乗っかり、そうささやいた。……ものすごく、ねっとりとした声色で。
…………あれ? 俺、声にだしてなかったよな?
「い、いやいや、別に悪口を言っていたわけじゃねぇって。ほら、妹思いなところもかわいいなぁって話だよ、うん」
『……なるほど。それならば、今回の件は不問にしましょう』
ゆ、許された……。
「つーか、『猫として生きる』って話は、どこに行ったんだよ」
『……それはそれ、これはこれです。私がお姉ちゃんの妹であることは世界の真理ですので、特に問題ありません』
「…………? お、おう。そうだな」
わけわからんし、問題しかない気がするが…………わざわざ、藪をつついて蛇をだす必要もあるまい。
『……………………』
無言の圧力を感じるがこれをスルーし、適当にネットニュースを流し読む。
「んー…………」
『萌美ー。そんなものより、お姉ちゃんの写真集を一緒に見ませんか?』
「……昨日、見ただろ?」
『そうですね。では、今日も見ましょうね』
「あー、わかった、わかった。これが終わったらな」
『やったー。萌美、大好きです!』
「はいはい…………ん?」
気になる見出しの記事を見つけ、スクロールをとめる。
──現在人気沸騰中のあの芸人さんに、インタビューしてきました!
◇
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『──つまり、"相方との喧嘩"がきっかけだったと言うことでしょうか?』
『えぇ、そうなりますね。……実は、その喧嘩においらたちのファンの一人が──当時は、ファンではなかったそうですが──関わっていたんですよ』
『ファンの方ですか』
『はい。詳細は省きますが、おいらがその方にご迷惑をおかけしてしまって……。そのことで、こいつに怒られたんですけど……いろいろとありまして、コンビ解散の話にまで発展してしまったんです』
『まぁ、そのときはワイら二人とも冷静やないってことで、解散したんや。……せやけど、そっからがなぁ……。なんもかんも、うまくいかへん』
『だけど、さっき話したファンの方が、おいらたちの現状をどこかで知ったみたいで──プレゼントをくれたんですよ』
『……プレゼント、ですか?』
『はい。"二人に勇気を"というメッセージと共に、こちらの"サメのぬいぐるみ"をいただいたんです』
(ぬいぐるみを取りだす)
『おー、これが。なんと言いますか……独創的、ですね?』
『手作りって言ってましたよ。…………いやー、いつ見ても不細工やなー、お前!』
(ぬいぐるみを激しくなでる)
『あははっ。……でも、不格好ながらも一生懸命さを感じるこのぬいぐるみを見ていると、確かに、勇気がわいてくるんですよ』
『せやなー。スゴいぞ、お前!』
(ぬいぐるみを優しくなでる)
『……勇気をもらって、思ったんです。あの喧嘩のあと、おいらはこいつと、ちゃんと向き合えてなかったなって』
『そっからは、お互いに腹わって話し合いましたわ。そしたら急に、おもろいネタがポンポン浮かぶよーなってなー。……ほんと、感謝しかないで』
『──うん、そうだね』
(二人でぬいぐるみをなでる)
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◇
「──ふっ。なんだよ、"いい感じ"じゃねぇか」
『ん? なにかおもしろい記事でもありましたか?』
「いや、なに。サメ野郎のすごさを改めて実感してな」
『……なぜ、ここでサメさんが?』
あいつらは、自分の夢に向かって羽ばたいていった。
だから、俺も──
今の俺の夢は──
「……………………」
俺は、スマホから目を離し、学生鞄を開く。鞄の中に入っていたプリントを一枚、取りだした。
【将来の夢を叶えよう! 進路希望調査!】
「──夢から逃げず、だったよな? サメ野郎」
『わっ。な、なんですか、萌美? いきなり抱き締めたりして』
「逃げずに立ち向かう勇気を、補充しようかなぁと」
『…………?』
──さぁ、俺の夢を叶えにいこう。
「──もしもし」
『はい。……どうしたの、萌美?』
「あー、明日、お前ん家に行ってもいいか?」
『え? うん、いいよ。夏帆も喜ぶと思うし。…………ねぇ、もしかして、なにかあった?』
「……そう、だな。──少し、相談にのってほしいんだ」
◇
「────ありがとう!」
『あぁ、どういたしまして』
電車からでていく幼子を見送り、一息つく。
『……無事に行けたようだな。しかし、なんの妨害もないとは……悪魔どもめ、一体なにを考えている?』
ここ最近、悪魔どもの介入事象が著しく減少している。全く介入しないわけではないため、忘れているということはなさそうだが……。
『まぁいい。我は、ここに連れ去られてきた魂を救うだけだ』
──グゥゥゥ~。
『む……食事にするか。腹が減ってはなんとやら、だ』
そう判断した我は、見慣れた倉庫に転移した。
『ここも、すっかり寂れたな。……最後に、ここで誰かと談笑しながら飯を食したのは、いつのことだったか』
昔々、天使たちがまだ"天使"たり得たころは、あの電車の浄化機構としての役割も、正しく働いていたというのに。
──魂たちが安らぎながら成仏できるような、"楽しかった思い出"を……"楽しい夢"を見せる──そんな役割。
『……………………』
長きにわたる安寧は天使たちの性根を腐らせていき──やがて、天使は悪魔へと堕落した。
天使全員がそうなったわけではない。
しかし、全うな"天使"たち──彼らは少数であった。当然、悪魔どもにとって、彼らは目障りな存在でしかない。
──駆逐が、はじまった。
我の親友も含め、"天使"は全員殺された。おそらく、我も不老不死でなければ殺されていたことだろう。
魂を弄ばされて壊された彼らに、救いが訪れることはない。──今も、あの電車の動力源として、無限の苦痛を味わっているのだ。
『──いただきます』
この場所は、我の親友を含めた"天使"たちの活動拠点だった。ここにいるときだけが、我の心に安らぎを与えてくれる。
"天使"が滅んでからも、我がここを利用できるのは──みんなが、親友が、この場所の隠匿に尽力してくれたからだ。
……残念ながら、もう、ここにくる理由もなくなってしまったが。
『……美味ではなかったが、もう食せないかと思うと無性に寂しく感じるな』
親友が作り、遺してくれた"サメふーど"──その最後の一袋を食べ終わる。
これから、我は際限のない飢餓にさいなまれることだろう。不老不死とはいえ、それが苦痛であることは変わりない。
──だが、我の使命も、使命に対する我の思いも、変わりない。
『…………さようなら、だ』
転移を行い、電車に戻った。
『────なっ』
ありえない。
どうして、汝がここにいる。
「──よぉ。久しぶりだなぁ、サメ野郎」
『な……に…………』
『ふふっ。サメさんもうろたえたりするのですね。新発見です』
『猫…………汝まで』
我は、夢でも見ているのだろうか?
『ばかなっ。霊体に近い存在となっている猫の方はともかく、生身の人間がこんなところに入れるはずがない』
『……え? 今、さらっと、とんでもないことを言いませんでした?』
「問題ねぇよ。──回りを見てみな」
『む? …………こ、これはっ』
──電車が、崩壊しはじめている?
『…………今までよくがんばったね』
『……っ!』
久しく聞いていなかった懐かしい声色が耳に入り、思わず顔をあげる。
そこには、親友が──いや、"天使"たちがいた。
みんな、天へと還っていく。
「──よしっ、成功したよ。この場所にとらわれていた天使は解放され、巣くっていた悪魔も解放された。……もっとも、解放先は真逆だけどね」
「……やった、やったぞ…………私はやったんだー! 頭おかしいレベルで抵抗してくる悪魔どもを! この私が! アッハッハー! ようやく自由な時間ができる! ゲームを……私にゲームをやらせろー!」
「……なんか、お前の妹さんぶっ壊れてないか?」
「ここ最近は、機器の最終チェックとかで全く眠れていなかったからね。……仕方ない。一足先に、地球へと帰ってもらおうかな」
「げーむぅー……げー…………うげ────」
また、新たに人間がやってきたと思ったら、そのうちの一人が転移してしまった。
最後の方……あの娘、嘔吐していたように見えたのだが、大丈夫だったのだろうか?
「──なぁ、優。成功したってことはさ、もう、サメ野郎にあのことを話してもいいんだよな?」
「うん、いいよ。…………それはそうと、どうして君はまた、僕をにらんでいるのかな?」
『夢川 優……萌美をたぶらかす存在…………』
「うーん……。僕は、君とも仲良くしたいんだけどね」
『誰があなたなんかと……!』
「ここに、君たちのお姉さんに関する極秘データがあるんだけど」
「おい、お前なにやってんだ」
『夢川 優。あなたは、私の親友です』
「……おい!?」
「あははっ。僕はこの子とお話しているからさ。萌美は彼とお話してきなよ」
「…………おう!」
彼と、対面する。
「──俺のこと、覚えているか?」
見た目も声も性別も、なにもかも変わっているが、誰なのかわかる。忘れるはずもない。
そもそも、ここにきてしまった魂のことは、全員覚えている。
『あぁ、もちろんだ。我を足蹴にして興奮していた人間だろう。覚えているとも』
「そうそう、俺が興奮……って、ちげぇよ! 興奮していたのはテメェの方だろうが!」
うむ。どことなくしっくりとくるやり取りだ。
……向こうで、猫ちゃんが吹きだしたな。相変わらず、笑いの沸点が低いようだ。
「…………ったく。変わってねぇな」
『そういう汝は変わったな』
「まぁ、今の俺は女だしな」
『……そういう意味ではなく、精神的な話だ。まさか、汝がこのようなことをするようになるとはな』
「──俺が変われたのは、テメェや猫ちゃん、周囲の優しく暖かな人たちのおかげだよ」
確かに、周りの環境や人間関係は、人格の形成に大きく影響するだろう。
しかし、"周り"だけでは、人は変わらないのだ。──人格と意思は、切っても切れない関係なのだから。
『……それらだけではなく、汝の努力の結果でもあるだろう』
「……ん、んなこたぁねぇよ、別に。…………ばーかっ」
『我は阿呆ではないが』
「今のは、照れ隠しというやつだ! …………なんか、前も似たようなやり取りをしたな?」
『あぁ、懐かしいな。とはいえ、汝の姿を見るに……あの日からまだ、二十年も経過していないだろう。──決して、汝ら人間を侮っているわけではないが、よくその期間でここまでの装置を開発できたものだと、素直に感心するぞ』
先ほどの光景を思いだす。
……人間が、あのようなことをできるようになるとはな。人間界の技術力の進化には、いつも驚かされる。
「いろんなとこに手を貸してもらったからな! どうだ、すごいだろう!」
『うむ。…………奇跡、だな』
「……それは違うぞ、サメ野郎」
『なに?』
どういうことだ?
「こっちの世界にな、いたんだよ。俺や猫ちゃん以外で、あんたに救われた奴らがな。──みんな、テメェに感謝していたぜ?」
『…………。そういえば、そうだった。汝らと同じ世界に行くことになった魂も、確かに存在した』
──まさか。
「そいつらの協力があったから、ここまで短期間で、こいつを作りあげることができたんだよ。……俺だけだったら、テメェの話をしても作り話ということで流されて、この装置の開発自体がされなかったかもしれないんだ」
『そんなことが…………』
……みんな、我のことを覚えていてくれたのか。
天に送ってやれなかったのだ。恨まれていてもおかしくないと考えていた。それなのに、感謝されていたとは。
──心が、暖かくなる。
「あぁ。だから、これは奇跡なんかじゃない。テメェの行いが、自分に返ってきただけだ」
『そう、か。…………ありがとう。汝のおかげで、ここにとらわれていた"天使"たちは救われた。礼を言おう』
「……なに言ってんだ?」
『む?』
「そいつらだけじゃねぇ。俺は、テメェも救いにきたんだよ!」
『……我か?』
「そうだよ! 当たり前だろう! ……あと一時間もすれば、ここは完全に崩壊する。当然、悪魔どもが魂を拾うこともない。──テメェが悪魔どもと戦う必要は、もうないんだよ」
──頭が真っ白になる。
そんなことを言われるとは、思ってもいなかった。
「まったく……。自分に無頓着すぎるんだよ、テメェは!」
『いや、そんなことは──』
「──言い訳は聞かん! 俺と一緒にきてもらうからな!」
「────あっ!?」
……今の声の主は、夢川 優、といったか?
突然叫んだりして、一体どうしたというのだろう?
「…………ど、どうしたんだよ、優? いきなり、大きな声をだして」
「……あー、しまったなぁ。…………いやさ、こっちの猫はどうとでもごまかせたけど、サメに関しては、そうもいかないよね?」
「あっ」
『あっ』
どうやら、我を人間界に連れていったあとのことを、なにも考えていなかったらしい。
……おそらく、世界中がパニックになるだろうな。
『……汝ら、四人も……いや、もっとたくさんいたのだろう? それなのに、誰もそのことを考えていなかったのか?』
「う…………うるせぇ! 俺は、アホじゃねぇ!」
『いや、我は別に阿呆とは言ってないが』
「ぷっ」
「あははっ!」
誰からともなく、笑いだす。
我も、大声をだして笑ってしまった。
なんとも、締まらない話である。
だが、それで良い。
こんなにも、笑うことができたのだから。
久方ぶりの、大笑いである。
『──あぁ、そうだ。心の底から笑うというのは、こんなにも愉快なことだった』
拙作【夢の中でTSして女になる男、夢日記をつけはじめる】は、これにて完結となります。
ここまでご愛読ありがとうございました。
長々としたあとがきは、活動報告に掲載しております。よろしければ、下記リンクよりご覧ください。
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