少し時を遡り、現実側では初号機と使徒に寄生された3号機が死闘を繰り広げていた。
「こんのォ!」
初号機が3号機の背中から生えた第三、第四の腕の手首を握り潰し、背後に回ってアスカを奪還すべく両手を3号機のエントリープラグに伸ばす。……が、
「ぐうッ!」
まだ無事だった3号機の両腕が初号機の両手首を掴み、お返しとばかりに握り潰そうとしてくる。
「させるか……アスカを、返せェ!」
初号機で唯一空いている口をがばりと開き、3号機のエントリープラグに噛みついて無理矢理引っ張り出そうと試みた。
3号機―第9の使徒は悲鳴を上げて初号機を投げ飛ばし、その衝撃でアンビリカルケーブルが千切れ飛んだ。
『アンビリカルケーブル断線!活動限界まで後5分!』
(構うもんか……アスカは、ここで絶対助けるッ!)
そこから五分間は、壮絶な殴り合いだった。お互いに殴っては蹴り、殴っては蹴りの繰り返し。互いに一歩も譲らず、一進一退の攻防が続いた。―そして。
「活動限界……!?」
『エヴァ初号機、活動限界です!予備も動きません!』
『……』
動力が有限だった初号機の活動限界が遂に来てしまい、動きが止まる。その隙を第9の使徒は見逃さず、背部の腕を再生させ、四本の腕が抜き手で初号機の胴体を貫いた。
「がはッ!」
『そんな……』
『シンジ君、しっかりしろ!』
『立て、シンジ君!』
『……碇』
『……分かっている』
胴体に風穴が開けられ、その傷口から真っ赤な体液を垂れ流しながら第9の使徒に投げ飛ばされる初号機。―これが、始まりだった。
「……行けるよな、初号機!」
機能停止し、力なく地面に横たわっていたはずの初号機の目に光が戻る。しかし、その目の色は赤。体表の緑色のラインも、赤く染まる。
『活動限界のはずなのに……』
『……まさか、彼女で覚醒するとはな』
『……ああ。想定外だが、まあいい』
顎部の拘束が外れ、胴体に空いた風穴がすべて瞬時に塞がる。異常を察知した第9の使徒が飛び掛かったが、起き上がりかけた初号機が目から光線を発射して吹き飛ばした。そこから初号機が立ち上がり、頭上に光輪が浮かぶが、不安定な様子で点滅していた。
『まさか……完全ではないのか?』
『完全に使徒のコアを取り込んだ訳ではない。あくまでも一部だ。時間との闘いだな』
『プラグ深度、180をオーバー!もう危険です!』
『シンジ君、戻ってこい!』
『君が人でなくなるぞ!』
マヤが悲鳴を上げ、青葉と日向が制止しようとするが、シンジは歯牙にもかけなかった。
「かまわない。僕がどうなってもいい、戻ってこられなくても……アスカは絶対に助ける!」
初号機はもう一度光線を発射して、第9の使徒を吹き飛ばし、背部の手を吹き飛ばすとうつ伏せの姿勢に強引に持ち込む。左足で使徒の背中を踏みつけ、動かせないようにすると初号機は両手でエントリープラグを握った。
「アスカ……どこだ!?」
さらに深い深度に潜り、アスカを探すシンジ。……声が、聞こえた。
『……来ないで!』
「アスカ!?どうして……」
『アタシは造り物……普通の人間じゃない。アタシはあの水槽の中にいた魚たちと同じ……籠の鳥よ。……やっぱりアタシに価値なんてない』
「……そんなこと言うなよ!」
『!?』
「アスカはアスカだ……生まれがどうとか関係ない!僕は、俺は……君と一緒に居たい。だから……絶対助ける!おおおおおおおおおおッ!」
初号機は、ついに抵抗する使徒からエントリープラグを引き抜き、口で咥えると、そっと砕いた。
エントリープラグから赤い液体が噴出した後、それは瞬時に巨大なアスカの形に変わった。それを初号機は装甲がはじけ飛んだ胸から取り込み、光輪が完全なものに変わると、上空に赤い扉のようなものが出現した。周囲のものが浮き上がり、吸い込まれてゆく。……発令所にリツコが居れば、こう評しただろう。
『セカンドインパクトの続き……終わりの始まり』、と。
「始まったな。いささかイレギュラーだが」
「この程度のずれは、いくらでも修正できる。問題ない」
発令所では職員が慌てふためく中、すべてを裏から操る二人は静観していた。
「……少し大人になったな、シンジ」
現場に車で全速力で向かった加持は、車を途中で止めて上空を睨みつけた。
「まさか数が揃わぬ内に初号機をトリガーとするとは……碇司令、ゼーレが黙っちゃいませんよ」
そして、現場付近の学校の屋上から事態の推移を見守っていた眼鏡をかけた少女は、にやりと笑う。
「まっさかこのタイミングで始まるとは……ゲンドウ君はどうするのかにゃー」
このまま世界が滅びるのかと思われたその時、上空から一本の槍が飛来して初号機の胸を貫いた。赤くなっていた上空は元に戻り、星々が空で輝く。そして、空から光輪を発生させている一体の紺色のエヴァが降下してきた。
「……いやはや、まさかこのタイミングで起きるとはね。流石と言うべきか……まあ、構わないさ。君は僕が……幸せにするのだから」