「固定作業、終了しました」
「エヴァ初号機、所定位置へ」
「艦長、いつでも接続可能です」
AAAヴンダー、元ヴ―セの艦橋にて。自立型から人の手によって動かせるよう改造された箱舟を動かすため、アダムスの器の代替品として大気圏から強奪されたエヴァ初号機が使用される。四肢は不要なため既に排除されており、定位置に固定されて接続される時を待っていた。
「了解、作業を進めて」
「ミサト、本当にいいのね?接続後、初号機からシンジ君たちをサルベージするわ」
他のブリッジ要員に聞こえないよう、こっそり話すリツコ。ミサトはちらりと視線を向けた後、頷いた。
「あの子たちも被害者よ。エヴァに乗せるわけにはいかないけど……せめて外には出してあげたい」
「……そうね」
二人が話しているのを他所に、作業は進行していた。クレーンによって吊るされた初号機がゆっくり降ろされ、人の手によって主機と接続された。後は、回路を開くだけ。
『作業、完了しました!』
「ありがとう、マヤ。……艦長、後はあなた次第よ」
「了解。……接続、開始!」
主機と船の回路が開いて未解明システムが立ち上がり、AAAヴンダーは飛翔までの準備を始めた。
だが、WILLEの面々が気付かない内に異常が起こっていた。主機と船が繋がる回路から何かが流れ込み、目を覚ました。
「ここ……どこ?」
それは、赤みがかった金髪の美少女。名を、『式波・アスカ・ラングレー』。
本来の歴史であれば彼女の左眼に使徒が寄生してしまっていたが、この世界線ではシンジと共に初号機の中で14年間溶け合った結果、ゆっくり時間をかけてアスカの全身と融合する形で残存していた。アスカは現状を確かめるため、暗い底から浮上してゆく。
ヴンダーの立ち上げ作業が進んでいたその時、突如として警報が鳴り響いた。
「どうした!?」
「システムに未確認信号が入り込みました!制御系、正体不明物に侵食されていきます!」
「NERVの置き土産か!?」
「分かりません!ですが、主機からの侵食です!」
「判別不能、正体不明!」
WILLEクルーが慌てふためいて対処するが、それは留まることなくシステムに完全に入り込んでしまった。ミサトは舌打ちし、リツコも厳し気な表情だ。
―そして、少女が目覚める。艦橋の中央から当初確認できなかった機能によりパネルがせり上がり、その液晶画面には一人のプラグスーツを着た少女が現れた。
『ふわ……あれ、アタシどうなってるの?』
あくびをするのは、今サルベージ作業中の碇シンジと共に初号機の中に溶けていたはずの少女。―『式波・アスカ・ラングレー』だ。
「……アスカ?」
『あれ、もしかしてミサト?なんか老けたわね』
信じられない、といった様子でバイザーの奥で目を見開いたミサト。リツコも表情には出していないが、内心驚いていた。
「……式波・アスカ・ラングレー、であってるのよね?」
『?当たり前じゃない』
「……現状が分からないだろうから、説明させてもらうわ、アスカ」
ミサトはアスカに淡々と起きたことを説明していく。シンジがアスカを助けた後、ニア・サードインパクトが起きたこと。初号機が第10の使徒認定されたこと。第11の使徒襲来。WILLEのメンバーがNERVから離反し、サードインパクトが再開されたこと。加持が自らガフの扉に飛び込み、中から閉じたこと。その後14年間、WILLEとNERVが戦ってきたこと。そしてこの船はNERVから強奪した船であること。アスカは顔をしかめながら、ミサトの話を聞いていた。
『……なるほど。だからアタシは睨まれている訳か』
旧NERVから居た日向や青葉は兎も角、新規のメンバーからの視線は好意的なものではない。特に北上ミドリは、殺意のこもった眼でアスカを睨みつけていた。
『ま、いいわ。それよかシンジのことよ。サルベージしたら、どうするつもりなのかしら』
「彼にはこれを着けてもらうわ」
ミサトが取り出したのはDSSチョーカー。アスカは瞬時にデータベースにアクセスし、その使われ方を知った。
『……へえ。殺すんだ、シンジを。世界を守るために命がけで戦った彼を』
アスカは口元を歪めて笑った。―その瞳に宿るのは、怒りだ。
「……あくまでも保険よ。エヴァに乗らなければ、それにこしたことはないわ」
『でも殺す用意はある、と』
「……アスカ、分かって頂戴。WILLEの皆は、何かしらサードで何かを失っているの。次を絶対に起こさせない保証がなければ、安心できないのよ」
『……シンジは起こしたくて起こした訳じゃない。アタシを助けるために、使徒を倒すために戦っただけよ。それに、碇ゲンドウの計画だったんでしょ?シンジもアタシも利用されただけじゃない。何も知らなかったのよ?』
「知らなかったって、それで許されると思ってるワケ?」
『……あ?』
ミドリは殺意をむき出しにして、憎悪の籠った言葉をアスカに叩きつけた。
「アタシらはサードのせいで家族を、大切なものを奪われた。この14年間、アタシらは泥を啜って生きてきたのよ。それなのに、知らなかったからって済ませられると思ってんの!?」
『……』
アスカは溜息を吐いた後、己の心情を吐露し始めた。それと同時にシステムにアクセスし、全艦に会話を流し始めた。
『確かに、アタシらにも責任はある。……でも、アタシらだってエヴァに乗りたくて乗った訳じゃない。アタシは、クローンの式波タイプの一体にすぎない。エヴァに乗って戦うしか価値を示せなかったし、それ以外の生き方を知らず、選べなかった。シンジも、親の愛情を満足に受けられた訳じゃない。欠けたものを埋めるために、父親に褒めてもらうにはエヴァしかなかったし、乗らなければ大切な人たちが死ぬ。……だから、エヴァパイロットとして命がけで戦うしかなかった。心の奥底では普通の生活を、褒めてもらえることを望んでいた。それなのに、この仕打ちは何?保護者は守ってもくれず、大勢から知らぬ罪で恨まれ、唯一価値を示せるエヴァには乗るなと言われ……。アンタらの恨み、憎しみは分かる。でも、少なくともアンタらはアタシらよりは大人でしょ?大人は子供を守るのが仕事のはずでしょうに……そんな場所にシンジが居たいと思うかしら?……アタシも居たくない』
アスカの言葉を聞いて、乗組員たちはそっと目を伏せた。自覚はあったのだ……子供に背負わせていたことは。
「……アスカ……」
『……ミサト、一つだけ約束して。シンジはなるべく死なせない、隠し事はしないって。それが守られれば、アタシは何も言わないわ』
「……了解したわ。その約束、必ず守る」
「ミサト!」
「……リツコ、せめてこれぐらいは叶えて上げたいのよ」
「……艦長がそういうなら、私は従います」
「……と、いうことよ」
『……ありがと。じゃ、アタシはこの船を見て回るから』
アスカを映し出していたパネルは格納され、システムも正常に戻った。
「皆、聞いた通りよ。あなたたちが思うところがあるのは分かる。でも、あの子たちも被害者なのよ」
「……」
ミドリはぶすっとしたまま、自分の持ち場で作業を再開した。納得までは行っていないが、ある程度理解はしたのだろう。他のメンバーも了解の意を示した後、作業に戻った。