私は惣流と式波は別物として分けているので、そこはご承知おきください。
シンジとアスカの関係は、旧劇と比べると比較的穏やかですが、14年間の離別が二人の心のすれ違いとなってしまい、それがQで現れてしまったのかな、と自分は感じています。……でも、それでも想いは通じていた、消えてはいなかった、というのがシンエヴァだったのでしょう。
今回はアフターシンのお話でしたが、これから描く式波ヴンダー√はまた違ったエンディングにしようと思っております。シンエヴァではシンジが中心だったので、こちらではアスカ中心で。
では、また次回。
オリジナルの手に墜ち、第13号機に取り込まれたアタシ。気が付くと……赤い海の傍の砂浜で”寝て”いた。
「アタシ……寝てた?」
使徒の力の影響で、睡眠や食事が不要になり、欲求も消え失せていたはずだった。成長も止まり……14歳のままだった、はずなのだが。気が付くと自分の体は年齢通りの姿で、何故か成長してボロボロになってしまった初期のプラグスーツで、砂浜に寝そべっていた。涙が流れ、空を見上げるアスカ。そんな彼女に声をかけたのは、微笑んで見つめるシンジ。
「良かった、最後に話ができて」
「バカシンジ……」
シンジの顔を見ると、とうに捨て去ったはずの感情が蘇ってくる感覚が。
(やっぱり、捨てられてなかったな……)
「ありがとう、アスカ。僕も、君のことが好きだったよ」
「……!」
「ケンスケによろしく」
シンジのその言葉で、捨て去ったはずの感情が完全に蘇ってしまった。(―アタシは、シンジが好き)
そしてまた、アスカがはっと気が付くと第13号機のエントリープラグの中で、ケンケンの家でのいつもの恰好で射出されていった。
(!待って……!)
まだ、シンジと話がしたい。まだまだ沢山、積もる話がある。伝えたい想いもある。まだ、まだ……!
アスカは懸命に腕を伸ばしたが……彼女の手は何も掴むことはなかった。上昇が終わり、エントリープラグが下降していくのを感じるアスカ。
やがてドスンという重い音と共に、エントリープラグが地面に落ちる音がした。
アスカはよろめきながらドアをこじ開け、外に出た。―そこは、アスカがこの14年間時々滞在していたケンケンの家だった。アスカはその瞬間、シンジの最後の言葉の意味を悟った。
「……何が、『ケンケンによろしく』よ。あんのバカシンジ……!」
両手、両膝を地面に着いて泣きじゃくるアスカ。凡そ14年ぶりの涙だ。
(アタシの気持ちも知らないで、勝手に送り出しちゃってくれちゃって……!……アンタ、死ぬつもりだったんだってのは直ぐに分かった。だったら……)
「だったら、猶更アタシも一緒に居たかった……!」
アスカは慟哭し、涙を流し続ける。その涙は床に垂れ続ける。
そんな彼女を見つけたのは、インパクトが収まったのを確認して一先ず戻ってきたケンスケだった。
「アスカ!?どうしてここに……」
「ケンケン……シンジが……シンジが……!」
「!」
ケンスケはアスカの身に何があったのかを察したが、何も言わずそっとハンカチを差し出した。アスカがそのハンカチで涙を拭いながら尚も泣き続けるのを尻目に、親友たちの安否の確かめとアスカの帰還を知らせるべくその場を一旦立ち去った。
その内心は嬉しいような悔しいような、ごちゃ混ぜだ。
(結局俺は、君の父親にしか慣れなかったんだな、アスカ……)
数十分か数時間か涙が枯れるまで泣き続け、ようやっと泣き止んだ後。アスカはケンスケに手を引かれ、鈴原家にお邪魔した。無事を喜ばれた後、アスカの服装が女の子らしくないとプンプン怒ったヒカリの手により着せ替え人形にされたアスカは最終的にお古の第壱中の制服に着替えさせられ、居間に通された。
「これでよし。うん、やっぱり似合ってる」
「つ、疲れた……」
「せやな。やっぱりよう似合うとるで、式波」
「うっさい、鈴原」
前みたいにそう言い返した直後、ぎゅるる~!というお腹の音を鳴らしてしまいアスカは赤面した。三人の大人たちは朗らかに笑い、ヒカリはクスクス笑いながら台所に向かった。
「あらあら。じゃあ腹ペコさんに、ご飯を上げましょうね」
「……」
ヒカリが運んできたのは、お盆に乗せられた三個のおにぎりだった。
「時間が無かったから簡単なものしか出来なかったけど……」
「ううん、ありがと」
差し出されたお盆からおにぎりを掴み、口に運ぶ。14年ぶりの食事だ。一口齧り、その美味しさを噛み締める。
「うまいか?」
「……うん、美味しい」
(美味しいけど……でも)
アスカの頭にすぐ浮かんだのは、シンジが作ってくれた食事、お弁当だ。確かにヒカリのおにぎりは美味しい。……でも、アスカが一番に食べたいのはこの味ではないのだ。
「……食べたいな、シンジのお弁当」
「「「……」」」
アスカの言葉に、顔を見合わせる三人。
アスカがおにぎり三個を食べ終えた後、アスカはケンスケから改めて何があったのか尋ねられた。
「それでアスカ……一体何があったんだ?」
「詳しくは分からないけど……」
アスカは己が話せる範囲で、何が起きたのかを話し出した。NERVのインパクト阻止のために出撃し、決死の覚悟でインパクトを止めようとしたこと。結果として失敗し、敵のエヴァに取り込まれたこと。おそらくその結果インパクトが起こってしまったが、シンジが止めたこと。シンジが自分を救い、ここまで届けてくれたこと。
「センセが……」
「アタシを引っ張り出してくれたことは感謝してる。……でも、勝手過ぎるのよ、アイツは!何が『ケンスケによろしく』、よ!アタシの気持ちも知らないで、有無を言わさずここに飛ばしてくれちゃって……!」
そう言ってアスカはまた泣き出してしまう。
三人は何か言おうか、とも思ったが今のアスカには逆効果だと判断し、そっとしておくのだった。
それから五日が経った。アスカはシンジが遠くに行ってしまったことに絶望し、ショックを受けて生きる気力を失ってしまった。かつてシンジが第三村に来たばかりの頃とまったく同じように、NERV施設跡で両膝を抱えて座り込む。何度か相田や鈴原が来たが、追い返してしまった。
「……シンジ……」
もし生きているのならば、会いたい。会って色々話がしたい。……想いを、伝えたい。
アスカの中で想いがぐるぐるし、また沈み込もうとした時。―人の気配がした。
またあいつらなら、追い返してやろう。そう意気込んで振り返ったアスカは、言葉を失う。―そこに立っていたのは、砂浜で別れたきり会うことが叶わなかった、アスカが会いたいと焦がれていた少年、碇シンジだった。
「あ……」
「……ただいま、待たせてごめん」
アスカは思わず立ち上がり、飛びつくようにしてシンジに抱き着いた。シンジはたたらを踏んだもののアスカをしっかり受け止め、抱き締める。アスカはシンジの胸板に顔を押し当て、泣きじゃくった。
「……ッ、シンジィ……」
「アスカ……」
シンジはしょうがないなぁ、というように困った感じで笑い、アスカをあやした。
アスカは涙が収まるとすぐに、シンジの顔をビンタした。
「ッう、ア、アスカ……」
「何でアタシをここに送ったのよ!アタシの意思も聞かずに……」
「だ、だって、全部の落とし前を着けるつもりだったから……死ぬかもしれなかったし……」
「だからアタシを死なせたくないから送り出したって!?ふっざけんな!アタシを見くびんじゃないわよ!」
「え……!?」
アスカはシンジに有無を言わさず、己の感情をぶちまけた。―14年間アンタのために溜め込んだんだ、聞いてもらおう。
「アタシはね、アンタが死んだと思って……胸が張り裂けそうになりながら14年間過ごしてきた。でも、アンタが生きてるって分かって、どんなに嬉しかったか……」
「それって……」
「それだけじゃない。『好きだった』って言ってけじめをつけようとした……でも、アンタに砂浜で会って、想いを伝えられて……ああ、アタシはやっぱりアンタが好きだって改めて思った……」
「……」
「それなのに、『ケンスケによろしく』って何!?アタシをバカにしてんの!?」
「あ、いや、それは……僕は居なくなるかもしれないから仲良さそうだったケンスケに託そうって……」
アスカはシンジの胸倉をつかみ上げ、目元に涙を浮かべながら想いを叩きつけた。
「ざっけんじゃないわよ!ケンケン……相田はアタシの父親代わりよ!アタシ、式波・アスカ・ラングレーが好きなのは碇シンジなの!……もしアンタが本当に死ぬんだったら、アタシも残ってた。アタシは、もう二度とアンタから離れたくなかった」
「!」
アスカがそう言って顔を伏せたのを見て、シンジは己が未熟だったことを悟った。成長したつもりでも、己のことを好きな女の心を理解してやれてなかったのだ。シンジはアスカをそっと抱き締め、埋め合わせをすべく口を開いた。
「……ごめん、アスカ。僕がバカだったよ……もう二度と、君を離さない。約束する」
「……ホント?」
「うん、約束する。……僕でよければ、君の傍に居させてください」
「……しゃーない、それで許してあげるわ。バカシンジ……」
二人はそっと体を離した後、口付けを交わした。
―今日もまた、風が吹く。