ネオンジェネシス ヒーロー社会   作:香枝ゆき

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(3)霹靂 雄英中等部(仮)

「雄英中等部カッコカリィー!?」

 ヒーロー科の教室では、山田ひざしの声を皮切りに、どよめきがあがっていた。

 国立雄英高校は、その他の通り、高校課程のみの設置である。進学希望者は受験勉強し希望の進路へすすむが、ヒーロー科のほとんどは卒業後はプロヒーロー、またはどこかの事務所でサイドキックとして活躍する。

 また、国内ではヒーロー科の設置は高校からであり、中学生以下で専門的に学ぶ教育機関はない。

「静かに! これは機密性の高い情報だ。ヒーロー志望たるもの、情報漏洩は命取りだぞ」

 担任教師に、すっと手を挙げる生徒がいる。

「説明は、していただけるんでしょうか」

「もちろんだ」

 担任教師は、口を開く。

「端的に言うと、児童相談所の受け皿かつメンタルケアを目的とした実験的取り組みだ」

 ──個性婚。次世代に有利な個性を残すため、より強い個性、自己の個性とかけあわせてより強力・便利な個性を作るため、相手の個性を重視して結婚する行為や傾向を示す言葉。この言葉の初出は第2世代。相澤たち第4世代から見て、祖父母にあたる代からだ。

 個性婚はすぐに世界的な問題になった。しかし、明言はしなくとも、個性婚を望む者は多かった。

 第3世代において、問題提起がようやく実を結び、社会倫理としては「よくないもの」として浸透し始めた。

 相澤たち第4世代では、「個性婚をしたい」と公言する者がいれば、陰では倫理に欠ける思想の持ち主だとひそひそ噂されるまでになった。

 それでも、生まれた子供たちは、とけていなくなったりはしない。

「いまだ個性婚から生まれてくる子供は一定数存在する。特に問題なのが、生まれた子供が養育拒否されるなどの事案だ。個性発現後、思っていたものと違う個性だからという理由で施設に子供を置き去りにするケースは、ニュースにならないだけでそれなりの件数ある。児相はパンク状態だ。小さい子供たちの世話に追われて、十代の入所者に手が回らない」

 そこで、と担任が息を吸う。

「学業の巻き返しと、夏休みの間だけでも安定した場所の提供を、という名目で、雄英中等部(仮)が実験的に設置されることになった。半端な時期だが、一期生の選抜はもう済んでいる。全寮制で、雄英敷地内に寮を設置する。ヒーロー科には、中等部生への学習指導ボランティア、メンターとしてよき相談相手になることが求められている。これは加点扱いで成績に含まれるものの、強制はしない。参加しなかったからと言って、ペナルティは特にない」

 教室はしんとした。

「一応言っておく。雄英中等部から雄英高校へのエスカレーター式進学は、現状想定していない。コネなどを作るつもりは一切ない。よって中等部生に筋違いな感情を持ったりしないように」

 学級委員長が、クラスを代弁するかのように発言した。

「いくつか質問をさせてください。その一。なぜ(仮)がつくのでしょう。その二。一期生と言われていましたが、中等部の設置期間と、我々に求められる中等部生の対応期間はどれくらいでしょうか。その三、中等部一期生の選抜方法はどのようなものだったんでしょうか」

「……その一とその二をまとめて答える。中等部の設置は、第三新東京グループとの期限付き合同プロジェクトだ。……元々は第三新東京グループが慈善事業として、個性婚で生まれた、育児放棄された子供を育てていたんだが、ボリュームゾーンの子供が中学生に当たり始め、教育ノウハウを学びたいと泣きついてきたらしい。が、詳しいことは校長が関係各所と協議している。分かり次第またアナウンスする」

 重たい内容にも関わらず、包み欠かさず答えるのは、誠実さの表れだろう。

 説明中、誰も口を挟まなかった。

「その三。中等部一期生の選抜は、第三新東京グループが作成した候補者リストと学力テストを総合して決定している。……が、それは建前だ」

 教室内に動揺が走る。

 実験的措置とはいえ、雄英の名前を関する中等部だ。

 入りたい人は山のようにいるだろう。

 だからこそ、公平でない選抜方法であれば、それは抗議しなければならない。

 自分たちが、厳しい競争を勝ち抜いて入学してきたのだから。

「ヒーロー科の生徒だからこそ、信頼して話す。トップシークレットだ。中等部一期生には、児相がお手上げ状態だと判断した子供が一定数存在する。なにも素行不良ってわけじゃない。学力はある程度担保されている。集団生活もおおむねできる。ただ、なにかの拍子に癇癪を起こして個性を発動させた時、一般的な児相の職員が抑え込むのが難しい子供──個性なしでの対応難度が高いと思われる人物を優先的にピックアップしている」

 誰も意見しなかった。

 設置経緯からして理由が理由なのだ。この受入方針がずるいと抗議できるわけがない。

「よって先に言っておく。生半可な気持ちで中等部生と関わろうとするな。ヒーロー科の生徒であっても、冗談抜きで怪我するぞ」

 ごくり、と誰かが生唾を飲み込んだ。

 個性婚の結果生まれた子供だ。強個性であることは容易に想像できる。

 それを感情のままふるってくるとなると、対応はかなり困難を極めるだろう。

 相手はヴィランではない。倒せばいいというわけではない。

 教室のあちこちで、視線が交わされる。おまえはやるのか? それとも見送るか? 

「……では最後に、教えてください。機密性の高い情報だと、先生は最初に言いました。ヒーロー科とヒーロー科以外で開示されている内容が違うということでよろしいでしょうか?」

 学級委員長のさらなる問いかけに、教室の空気がまたも変化した。

「……そうだ」

 与えられた答えに、教室内の動揺がさざ波のように広がっていく。

「表向きには、雄英高校の敷地内に第三新東京グループが私立の児童養護施設を設置する実験的試みとして発表される。これは、マスコミへのプレスリリースと、ヒーロー科以外の生徒たちへのアナウンス、どちらもだ。ヒーロー科と教職員以外、この一件は知らない。お前たちも絶対に漏らさないように」

 ──第三新東京グループ。

 相澤は記憶を紐解いた。

 将来の進路選択の助けとなるよう、先輩たちの進学先・就職先は学校内に記録され、現役の生徒は自由に閲覧できる。

 相澤もその記録を見たことがあるが、第三新東京グループで活躍する先輩の名前を見た覚えはない。

 産学連携といえば聞こえはいいが、ここまでやれるものだろうか。

 そんな疑問は、ホームルームが終わり、先ほどの件でボランティアを受けるかどうか、そんな探り合いになっている教室の喧騒に消えていった。

 

 

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