ネオンジェネシス ヒーロー社会   作:香枝ゆき

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(7)日常 雄英中等部

「いやこれもう仕事だろ」

 制服のままベッドに倒れこむ山田ひざしを横目に、相澤はエナジードリンクをすすっていた。

 雄英高校の敷地内、校舎から徒歩五分。 雄英中等部生の寮は、急ごしらえにしては各人に個室を提供できる贅沢なつくりをしていた。

 その寮の一角に、『ボランティア』を行う雄英生の待機場所がある。入寮している中等部生より部屋数のほうが多いため作れる場所だ。

 そして待機場所とは別に、雑然とした部屋がある。

「なにが『監督生』だよ、くそが……」

 パウチをゴミ箱に投げ捨てて、相澤は息を吐いた。

「──悪い、ここまでとは思わなかった」

 雄英中等部生のサポートボランティア。

 ふたをあけてみれば、常にオンコール待機をするようなものだった。

 緊急時に呼び出されて個性を封じに行く可能性は、相澤の役割として大いに考えられる。

 ただそれは、放課後にあたる時間、具体的には中等部生の授業終了後から夕食前くらいまでだと考えていた。

 認識が甘かった。

「学生バイトかそれ以上の時間拘束と負荷になると分かってたら、お前を巻き込まなかった」

 実体は、自分たちの授業終了後に雄英中等部生が寝食を行う『第三寮』に直行し、共同スペースとして設置されている一階の隅に陣取り、目を光らせるというものだった。

 話しかけられれば答える。小競り合いが起きていれば、自主性を重んじて見守るが臨機応変に対応。助けを求められれば宿題の指導。

「……いや、気にするな。こりゃ仲いい奴と一緒じゃなきゃやってられねえよ」

 山田は顔だけを相澤に向けた。性質上、ボランティアは二人以上で行われる。一人になるシフトはどこにもなかった。

「まさか、第三新東京グループの職員が誰もついてこないなんて思わねえだろ」

 相澤は眉間にしわを寄せた。

 まさに、丸投げ。

 かき集められた『ボランティア』は、一斉に処遇の改善を訴えた。

 雄英高校ヒーロー科は、忙しい。雄英に部活動はあるものの、両立するのは難しいため所属する生徒はまずいない。バイトはもっと難しい。なのにこの仕打ちとなれば、声を上げるのは当然だ。

 その結果、上級生を中心に、放課後二時間程度の見守り活動をシフト制で行うという運用へと早々に切り替わった。相澤と山田以外は。

「……まあ、乗りかかった船だから最後まで付き合うけどな? 鬼のようなシフトだなっていう、ぼやきは許してくれよ……」

 相澤と山田も物申した。

 拘束時間と負荷は変わらなかったが、インターン等のプロヒーローへの口添えに加え、有償ボランティアに切り替わったので御の字だろう。

「……せめてあったかい飯は食いたいよなあ」

 相澤はストックボックスの中から丸い食品を取り出した。

 第三寮に自炊できる設備はない。

 冷蔵庫と湯沸かしポットはあるものの、食事は宅配弁当を頼むか、購買で好きなものを購入する必要がある。

「カップラーメンでよければ作るぞ」

「マ・ジ・で!? 頼むわ……」

 ポットの湯が沸くのを待つ間、相澤はマル秘と書かれた資料に目を通した。

「熱心だな……それ、中等部生の名簿だろ?」

 うげえという顔で山田は声をかける。

 出席番号、名前、性別。そんな簡単なぺら紙のリストは、書き込まれた情報でいっぱいだった。

「ささいなことでもメモしておかないと忘れるからな。おまえが話を聞いてたり、先輩達

 からの噂を仕入れてきてもらって助かる」

 相澤にすすんで話しかける中等部生はいなかった。

 唯一挨拶してくれたのは、学級委員長に任命された洞木ヒカリくらいだったか。

「顔と名前と、大体の性格は、もう把握してるだろ」

 貴重な時間を中等部生に注いでいいのか? 

 山田ひざしは婉曲的に、自分のことはしないのかと問うている。

「入寮してるやつらは、な」

 相澤は、網掛けされた三つの出席番号に目をやった。

 雄英中等部は全寮制。しかし、一部通学生がいる。

 

 綾波レイ、女。健康上の理由により、入寮せず通学。

 碇シンジ、男。理由空欄。通学。

 惣流・アスカ・ラングレー、女。帰国子女のため現時点では通学。入寮の可能性もあり。

 

 ボランティアは授業時間外の稼働が絶対の条件となっている。そして、ヒーロー科の授業がみちみちに詰まっている関係で、通学生とは一度も顔を合わせていない。

 顔写真はないが、シンジとアスカという名前に、覚えはあった。

 彼らであるという、確信があった。

 

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