かたなリバース   作:白山羊クーエン

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千の道、万の悪

 

 

 

 ヒゼン・ソーマの力。その力を見たのはたった二回きりだがサンジはもう確信している。そもそも悪魔の実の能力者の能力判断は一部を除いて特に難しいものではない。そして彼の力は見たとおりのもの、疑う余地はない。

「ふー」

 余地はない、が。それは予想以上に頭を使う苦しい戦いになることを証明している。単純な能力だが、しかしそれは地上に住む生物には不可避の力だ。この島の特性が万全ならその限りではなかったはずだが是非もない。

 そんな機能は既にない。

「チョッパー、サポート頼む」

「わかった」

「…………」

 相対する“導き”は自然体だ、それがどういった考えの下での行為かは知らない、とにかくも先手こそが重要である。

 

 そして、サンジは駆けた。蹴撃のみを駆使する彼の絶大な脚力で離れていた距離を一瞬でゼロにする。直前に踏みしめた右足を軸にした鞭のような一撃、それはまっすぐ相手の米神を抉り――

「ち」

 切れず、風切り音とともに空気を飛ばした。瞬間伸びてくる右掌底はサンジの背中を射抜こうとする。それを不発に終わった蹴りの反動で回避。着地した左脚で地面を蹴り回転のままに右足裏で右肩を狙う。

 今度は対空、狙いは正確に。

「――っ」

 肩に入った自身の足、その感触に違和を覚えつつ、その反動で後方に飛びぬいた。

「おらぁあああ!」

 交代するように飛び込んでくるチョッパーは獣人形態、両腕が恐ろしいまでに発達したパワー型の形態だ。振りかぶった右拳を相手の正中線目掛けて放つ。

「くっ」

 が、それは後一歩で届かない。振り切った腕を挟み込むように相手の両手が伸びてくる。間一髪、必死に戻したおかげでその両手は打ち鳴らすだけに終わった。チョッパーは後方に退き、サンジと足並みを揃える。

「思ったよりも厄介だね」

「ああ、間合いの大事さをひしひしと感じる」

「そんなに強い攻撃をしないでくれないか、俺の防御力じゃもって一撃程度なんだ」

 自身の貧弱ぶりを言っているが、ヒゼンの言葉の裏には一撃ももらわないという自信が見える。それが癇に障り、サンジはタバコを噛んだ。

「てめぇは悪魔の実の能力者だな。ミチミチの実ってところか」

「俺達の攻撃の瞬間、足元が微妙に動いて狙いが外れる。間合いの制圧こそがこの力の一番の肝だ。一本道を迷路にしたり、高速で動かしてたどり着けないようにする、なんてかく乱もできるあたり汎用性のある能力だよ」

「空鳥の道≪ウイングロード≫」

「ッ!?」

 言葉に構わずヒゼンは戦闘を続行する。二人と一人を繋ぐ道が大地から切り離され、うねる。突然の変化に二人がたたらを踏む間にヒゼンは駆けた。

 脚力では二人に劣るが、彼には環境の援護がある。エスカレーターのように移動スピードを速め、かつ二人の足元を引き寄せる。一秒に満たず到達し速度の乗った拳を放った。

「……っ!」

「チョッパー!?」

 狙いは体格の大きなチョッパーである。パワー系の変化の代償か、その速度に反応できずにまともに受け血を撒き散らしながら中空に投げ出される。既に高高度、落下ダメージは無視できない。

「く、ランブル……!」

 特製の丸薬ランブルボールを咀嚼、ガードポイントの強化で体毛を練り上げ衝撃を殺した。

 基本的に悪魔の実動物系の変化は三種類、しかしチョッパーはランブルボールで悪魔の実の波長を狂わせることで更に四つの変形ポイントを持っていた。ダメージなく弾み復帰したチョッパーだが自身の失態に臍を噛む。ランブルボールの効力は三分間、そのとっておきをいきなり使う破目になってしまった。

 元来臆病な性格である、後々を考えればとっておく必要のあったそれを目先の痛みに気を取られて使ってしまったのは痛い。だが後悔しても遅い、ジャンピングポイントで再び空の道に復帰する。

「サンジ!」

「下がってろチョッパー! 近い位置に来るな!」

「ッ! うん!」

 空中で反転して距離を取る。彼の視界には近接の応酬を繰り広げるヒゼンとサンジの姿があった。

「ッ!」

「…………」

 蹴りの乱舞、抜群のボディバランスで空振りの隙を最小限にして連撃を放っている。一方は微妙なコントロールで狙いを外しつつ攻勢に出るも、相手のポテンシャルの高さに決定打を打ち込めない。戦況は五分に見えるが、実際の二人の心情にそんな余裕はなかった。

 

 くそ、当たらねぇ……!

 サンジは螺旋の勢いとフェイントで攻撃のタイミングを逐一変えつつ相手に攻撃させないように息を吐く間もなく戦っていた。足場の微妙な変化にはまだ慣れない、結果振るう蹴撃全てが不発に終わり、その反動で反撃を回避しているものの肉体に蓄積される空足の負担は長期戦を望んでいなかった。

 事実、彼はここで攻撃を休めたら終わりだと思っている。今でこそ微妙な変化で致命傷はないが、攻撃が当たらないことは致命的でもある。

 だがそれが、自身が相手に余裕を持たせていないからこその現状であることは今の状況を生み出してしまった隙からの教訓だ。のんきに相手の能力がわかりました、なんて話しているからこそ空の舞台に引き上げられこちらの手札を一枚切ってしまった。

 自分の能力がたとえばればれでも話そうとしない慎重な相手にじっくりと時間をやるなんて愚行はできないのである。仮に一端距離を置いた場合、どんなびっくり効果が襲ってくるかわからないのだ。

 跳躍――空に浮けばその瞬間は確かに相手の領域外、確実に目論見どおりの一撃、いや複数撃を放てるだろう。しかしそれが万一不発になった場合、その隙が齎す結果は想像に難くない。その予測と現状を天秤にかけると、彼にとっては安易に踏み出せない一歩だ。

 幸いこちらは二対一の数的優位、後方にはチョッパーが控えている。彼がこの間に突破口を考え付いてくれなければ時が経つにつれて戦況は不利になるとしても、まだ分のわからない賭けに出る必要はない。ただ少し、忍耐が必要なだけだ。

 自分が踏ん張ればいい、その一心で足を振り続けていた。

 

 そして、ヒゼン・ソーマにはそんな考えを巡らせる余裕すらなかった。

 彼は自己申告どおり身体能力の面では最弱の部類である。元々の生まれが平均的な彼にはサンジやチョッパーとやり合えるだけの力はない。故に偶然手に入れた能力に感謝し、同時にこれを鍛えるほかないとその力の全てを捧げてきた。

 ミチミチの実、彼はその力で村の道を馴らしたり、子ども用の滑り台を作ったりなど、戦闘用に使うことなど一切なかった。が、能力を使っていたのは事実、普段の生活ですら自然と訓練になっていた。

 転機となった数多の事象、そして村の壊滅。ヒゼンが村のために、あの姉妹のためにできることはもう戦闘しかない。戦って戦って敵を退け、イリカの生きる道を作っていくことしかできない。

 ミチミチの能力を使うにつれて唯一底上げされた視力だけが彼の全てで、それ故に彼はサンジの攻撃をいなすことができた。しかしそれでも息の詰まる緊迫戦において高出力の能力発現はできない、このまま続けば自分がとちることは明白だ。

 

 状況は膠着、サンジは蹴り続け、ヒゼンはいなし続けた。この状況を望んでいるのは一人だけだった。

 

「……ッ」

 だからこそ、彼は攻勢に出る。イリカのためにいくつもの命を奪ってきたヒゼンにとって、後ろに続く道はない。既に見飽きるほどの悪魔のような足を避けさせ、しかしまた流れに乗った蹴りが来る。それを――

「何っ!?」

 四分の一ほど受ける。額の傷をなぞるように焼けるような感覚が突き抜ける。それでもこれは一撃ではない、故に耐え切れる。四分の一の代償に四分の一の速さを得てヒゼンは能力を行使する。サンジの蹴りの到達点、その僅か前を凝視し――

「通行止め≪デッドロック≫!」

「が――っ!?」

 苦悶の声、それは突如生まれた痛み。ヒゼンの額を裂いた足は着地の前で止められる。それまで何もなかった中空に僅かな道が生まれたことでその軌跡は阻まれた。振りぬかれるはずだったサンジの右足を強引に停止させ、ヒゼンは勝負を仕掛けた。

「――――ッ!」

 その一瞬の好機は逃せない。ヒゼンは道と共に後方に退き、追撃をかけるサンジより早く次の行動に移った。両手を地面に押し当てる、紫電が身体を走り、道に通じる。

「砂利蛇行≪バウンドスネーク≫!」

 空の道がうねりを上げて上下に不規則に動き、それに呼応して道の破片が刃のように無数に襲いかかる。小さく捉えづらいそれは完全には防げず、また相殺しようにも足場は不確か。故に両手で顔を守るしかできない。

「があぁあああああっ!?」

「サンジっ!?」

 裂傷は過多、裂けたスーツからは夥しい血の色が見える。それでも隆起の終わった足場に立ち、サンジは膝を屈しない。

 チョッパーは駆け出そうとして、しかし思いとどまった。自分のやるべきことはそうじゃないのだと、腕の蹄を合わせてダイヤを作り、ヒゼンを覗き込む。

「ブレーンポイント、スコープ!」

 弱点を解析する、それが離れながらにできること。今サンジがどうなろうとも、勝つためにはこれしかできない。チョッパーは歯を食い縛り血まみれの仲間を見た。自分の脆弱さに吐き気がした。

 

 彼の視界の中のヒゼンが動く。これぐらいで打倒できる相手ならば苦労はしないのだ、自分が勝つためにはこれからの全てを相手に受け止めさせなければならない。

 両手で空気の玉を練りこむように形作る。それを更に足場に叩きつける。

「螺旋蝸牛≪スピンループ≫!」

「っ!」

 サンジの後方の道が渦を巻いて巨大化しながら迫ってくる。先の攻撃の余波か歪に削られたそれは凹凸を凶器に変えて唸りをあげている。あれでは蹴ろうにも足が傷つく、避けるしかない。それは当然ヒゼンとの間合いを詰めるもの、一石二鳥である。

 が……

「そうだよなぁっ!」

「二重螺旋≪ダブルループ≫」

 当然ヒゼンにもわかっていて、彼はもう一撃を繰り出していた。前後から同種の螺旋が迫る。横によければ道を外れ空に投げ出されてしまう。覚悟して飛び降りる分損傷は気にしなくてもいいだろう。だがその距離はまずい、再びたどり着く前にチョッパーが狙われるだろう。故に選択肢ではない。

「上だ!」

 チョッパーの声、咄嗟に反応して跳躍する。彼の跳躍力と螺旋の巨大速度では前者に分があり、故に彼の真下で二つの螺旋は互いを削りあい相殺された。

「まだだ」

 振り向く先には追撃を試みるヒゼン、半ば呆れたような表情でサンジは見つめた。中空で激しく動く術はなく精々体勢を変える程度だ、大技には対抗できない。

「伽藍道≪ゼロ≫」

 空の道が遡行するように大地に帰っていく。僅か一秒でそれは元の高度ゼロへと戻り、チョッパーとヒゼンは大地に降り立った。

 結果、サンジとの距離は絶望的に開く。

 見上げる前に一度チョッパーを見つめたヒゼンは彼の動作に意図を知り、しかし無視をする。サンジを見上げ、両手を引き絞った。指は曲がり鉤爪のよう、それは猛禽類の攻撃力を夢見た彼の意思の体現。

「沿道≪エンド≫」

 サンジの落下の軌跡と自身の速度、それらを加味した上で交差する場所に道が生まれる。それを知ったサンジも衝突のタイミングを知りそれに合わせるように体勢を整えた。

 

 道が走り、ヒゼンも走る。両者の速度を加算したおぞましい速度は常人には捉えられないが、それができるのがサンジである。筋肉を強引に使役して体幹を軸に回転する。

 回転しながら落下するサンジ、腕を引き絞り駆けるヒゼン。両者の激突はこれより二秒後。それが現在の速度から見て取れる未来だった。

 

 そして、それより先にスコープを終えたチョッパーは結果に愕然とし声を振り上げた。

「だめだサンジ――」

 

「滝道≪ロード≫!」

 

「な」

 気がつけば、予測より早くヒゼンの両腕が迫っていた。自身の予測より半瞬、いやもっとずっと早い。

 そして自身の体勢が驚くほどに崩れているのに気づき、違和感に気がついた。踏みしめられる足場が現れていることに気がついた。

 野郎……っ!

 脳内で罵倒し、胸部に走る衝撃に吹き飛んだ。 

「がふ――!」

「ジャンピングポイントッ!」

 チョッパーが脚部を強化、吹き飛んだサンジを追い、抱きとめる。ゆっくりと着地、ダメージを診る。

「まずい、肋骨が……」

「がはっ、ごほ、はぁ……」

 吐血し、呼吸も苦しそうだ。折れた骨が内臓を傷つけている可能性もある。これ以上の戦闘は難しいと判断した。だが――

「ぐ……っ」

 だが一方で、攻撃を成功させたヒゼンもまた、その両腕の痛みに必死の形相で耐えていた。指は数本が歪に曲がり使い物にならない。赤く腫れ上がった左手首は折れているのだろう。

 それでも気持ちは決して折れず、痛みを堪えて握り締め、腕から血液を吐き出していた。

 あっちももう無理だ。チョッパーはそう確信し、サンジに応急処置を施しながら口を開いた。

 

「スコープで見てわかった。お前には弱点なんかない、ないけど――その全てが平均以下だ、きっとサンジの攻撃が一発でも当たっていたら立ち上がれないほど身体面のポテンシャルは低い。だから必然的に攻撃は避けるしかできない、耐えられないから」

「…………っ」

「その証拠がそれだ。攻撃した側がこんなに傷ついて、だからこそ不思議だ」

 

「お前、最後どうしてサンジに近づいたんだ?」

 

 どうして、最後まで距離を保たなかったのか。

「……それを、俺が答えると思っているのか? トニー・トニー・チョッパー……」

「…………」

「――もういい、チョッパー」

 サンジが治療の手を止めて身体を起こす。チョッパーの制止を振り切り立ち上がり、タバコに火を灯した。

「ふー」

「化け物だな、羨ましいよ」

「これくらいで寝てたらルフィの相手はできねぇし、糞マリモに舐められるんでね」

 タバコを落とし、踏みつける。大きく息を吸い、痛みが走る身体を実感した。

 

「これからお前をへし折るわけだが……」

「大きく出るね」

 別にそんな大きくはないか。ヒゼンは内心では自分を否定していた。

「その前に、お前の間違いを正さなきゃ俺の気がすまん」

 サンジは目を細め、睨む。血で汚れた相貌には今まで以上の迫力があった。

「女の子のために俺達と敵対したんだったな」

「そうだ。俺はイリカのためにこの島を滅ぼす。その邪魔は絶対にさせない」

「女の嘘は笑って許す、女は死んでも蹴らねぇ。それが俺だし多分お前だが、だが女が間違っているなら正すのが俺だ。そこが俺とお前の最大の違いだ」

「俺は嘘は許さないし女も殺すよ。間違っていてもイリカがいいならそれでいい」

 サンジの思想は女という種類で、ヒゼンのそれはイリカという個人だ。比べるのもおかしいが、それでも大別すれば同じこと。故にサンジはその中で一番許せない、正しくないことを勝手に叫ぶだけだ。

「女が間違った道に行くならそれを正しい方向に持っていく。それが男で、そしててめぇの役割だろうが! そんなお誂え向きな力持っといてほざくんじゃねぇぞッ!」

 ≪導き≫ヒゼン・ソーマ、道を操るミチミチの実の能力者。しかし誤った道に進む大事な少女は正さない。そんな怠惰、彼に許せるはずもない。

 

「……はは」

 それがどんなに正論か、ヒゼンにもわかっている。そしてそれが理想論で、力がなければ守れないことも知っている。だから笑う。

 嗤って、ふざけるんじゃないと言った。

「そんな理想押し付けるなよ黒足。お前のような天才が背負える荷物はな、一般人には重過ぎんだよ!」

 右腕を振るう。ヒゼンの足元が隆起し遥か高みへと至っていく。巨大な坂を目の当たりにしたサンジは見上げ、高い坂の上に立ったヒゼンは激情を滾らせた。

「お前はいいさ! 守るための力も振るうべき力も持っている。そんなお前が自分に見合った理想を持つのは結構だ! だがそれは他者には通じない! 自分を基準にしてのたまうな! 最初に言った言葉、訂正する。俺とお前が同じなのは守るべき対象の一つの要素が同じってだけだ! お前は女全て! 俺はイリカ一人! これが身の丈にあった理想だ! 多くを守れるお前と一人も守れない俺の差で、決定的な違いだッ!」

 だん、と。大きく足を踏みしめた。そこを起点としていくつもの皹が走り道を分断する。坂の中間まで続いた皹は道を八つに分け、大顎を以って威嚇した。

 八岐大蛇、その圧力で強引に新たなルートを掘っていく大地の化け物である。それを見上げ、サンジはしかし泰然としていた。

「間違った道に進むなら正せと言ったな。でもな、イリカにはもうそんなことはわからないんだ! 善とか悪とか、そんな概念なんてイリカには本の中の言葉でしかないんだよっ! イリカは全てに平等だ、そこに善も悪もない! イリカの進む道が多くの悪だったとしても俺はそれを曲げたりしない、それが俺の進む道だッ!」

 悪を是とする道でもいい。悪是道(あぜみち)こそがヒゼンの進む道だ。だからこそ彼は全てを犠牲にし、全てをイリカに委ねている。

 

 決して悲しくならないように、イリカが生きてくれるように。

 

「サンジっ」

「いや、いい。もうわかってる――――頼めるな?」

「うん、ランブルの時間ももうない。最後だよ」

 サンジは片足を軸に回転、それは風を巻き起こし唸りを上げ、次第にその身体を熱で包んでいく。大地との摩擦は攻撃力、昇ってくる熱さは黒の足を深紅に染め上げた。

「――悪魔風脚」

「行くよ、ジャンピングポイント!」

 両足に全てを注いだチョッパーは軽く跳躍してリズムを作る。相手の攻撃の呼吸を読み、最適解を導き出す。

 

 幾度目かの着地、その一瞬後――

 

「穿て――っ!」

 八つ首の大蛇が圧殺せんとその大顎を振り上げた。同時、チョッパーが駆ける。その俊敏性は屈指、八つの凶器の隙間を正確になぞりながら回避する。

 が、八岐大蛇の攻撃は一度では終わらない。回避されたそれは大地を穿ちトンネルを作り、また舞い戻ってくる。後方からの攻撃に気づいたチョッパーは辛くもそれを回避、しかし着実に逃げ場はなくなっていく。

 と、五つの大蛇が同時に迫った。その迫力たるやさながら壁が押し寄せてくるかのよう、前後左右に道はない。

「はッ!」

 故に、チョッパーは大きく跳躍した。そのためのジャンピングポイント、大蛇の群れを凌駕する高高度、それはちょうど坂の上に立つヒゼンと同じ高さだ。

「サンジ!」

 呼ぶ声。それに応えるようにサンジが駆ける。先ほど不発に終わった五つの大蛇、それを避けるように展開する三つの同種。その先方に狙いを定め高速で接近。

「ジェンガシュートッ!」

 首を切り飛ばすように高熱の蹴撃が切断する。切り離された頭部を更に上へと蹴りこみ攻撃へと昇華する。

「く……!」

 飛んできた巨岩にヒゼンは横っ飛びで対応するも、無様に地面を滑った。八岐大蛇の操作で手一杯の彼にはこんなことしかできず、またこんなことで、一瞬の操作不能に陥ってしまう。

 

「チョッパーッ!」

「おお!」

 ――そして、その隙を見逃してくれる二人ではない。大蛇の上を走り高度を得、更に跳躍することでチョッパーの傍へと来る。

「アームポイント!」

 強化を両腕に、拳を握り締め極大の力で引き絞る。その腕の前にサンジは足を合わせ待つ。見据える先は同じ高みの導き。

 

 果たして、深紅の弾丸は放たれた。

 

「刻蹄 画竜点睛(フランバージュ)ショット――ッ!!」

 

 放たれた巨腕に後押しされるように跳んだサンジはまっすぐヒゼンに迫る。八岐大蛇が迎撃せんと立ちはだかるも無残に破壊され、勢いこそ若干弱ったものの、その一撃はヒゼンにとっては致命的だった。

 

 鈍い、しかし確かな破壊音。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 絶叫し、血だるまになって吹き飛ぶヒゼン。荒々しく道を滑り土煙を上げ、ようやっと止まったときには既に動くことはできなかった。

「ぐ、あ……」

 着地したサンジもまた、胸の痛みに膝を着いた。ランブルボールの効力が切れたチョッパーが獣形態で走り寄る。サンジのスーツは血に染まっていた。

「無茶だよサンジ! こんなひどい怪我で……」

「何言ってやがる。こんなもん怪我に入んねーよ……」

 確かに過去の戦いではもっと大きな怪我をしていた、故にサンジの言葉は真実だ。しかし真っ赤なスーツを見るにあたり過去を振り返っても見ないほどの大怪我のはずである。

 が、服を裂き、傷を見たチョッパーは首を傾げた。

「あれ? ほんとだ、そんなに大怪我じゃない」

「だから言ったろうが、ったく」

「おかしいな、この怪我じゃここまで出血しないのに……」

 そして、ああそういえば相手も怪我をしていたなと思い出して。

 

「――――血路≪ブラッドライン≫」

 

 

 一際大きく鼓動が響いて――

 

 

「俺の、勝ち、だ…………っ」

 

 

 そして。

 ヒゼン・ソーマはそう言った。

 

 

 

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