かたなリバース   作:白山羊クーエン

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今週のシリアルなナンバー

 

 

 同僚その2がぶつぶつとぼやいているのを見た。

 彼は幾度となく俺の窮地を救ってくれた恩人だ、できることなら力になってやりたい。そう思い話しかけたところ、どうやら目当てのものが手に入らなかったらしい。その目当てとは悪魔の実図鑑、存在が確認された悪魔の実を網羅した一冊である。

 そも、悪魔の実は同一の実が存在しないとされているが、それは同時期に、という前提が付く。過去に存在した実、及び能力者がいた場合、その存在が消え去ってしまえば後に再びその実が現れるのだ。

 だからこその図鑑、子どもの頃は図鑑に実が載っているのにどうして能力者はばらばらの場所から現れるのだろうと思った(実を確認したならその時点で確保しているはず)が、長い世界の歴史からそれは編纂されたのだからそれも納得がいく。

 つまりはかの有名な海賊王ゴールド・ロジャーも能力者で、その実も既に新しく生まれている可能性すらあるのだ。実質、その能力者こそがひとつなぎの大秘宝に最も近いという極論も出てくる。

 

 等しく弱点はあるとはいえ、どんなびっくり能力があっても不思議じゃない。海軍として、知ることができるのなら知っておきたいはずだ。その2さんは図鑑を持っている人物を知っているらしいが、その人に断られてしまったらしい。

 で、その人はラマラ曹長だと。

「金でも取る気か?」

 あの人ならあり得る話だ。

 

 

「曹長、悪魔の実の図鑑持ってるんですか?」

 というわけで交渉である。

「ん……まぁ、持ってるな」

 何故だろう、曹長はあまり気の進まなさそうな顔で頬を掻いている。図鑑自体がプレミアというわけではないので持っている人は持っているが、それでもなかなかお目にかかれるものではないのは確かなので一度見てみたかったのだが。

「興味深いですね、見せてもらえませんか?」

 それでも一応頼んでみる。こちらがお願いする側なので礼儀は欠かさない。すると曹長は少し考えるように間を置き、やがて口を開いた。

「……ちなみに、一番見たいのは何だ?」

「もちろん中佐のです」

 いや、確かに中佐の実も見てみたいんだけど、他にどんな種類の実があるのかが知りたいというのが一番だと思う。食べたいとは思わないが不測の事態を考えて知識を増やしておくのも悪くない。

 そんな風に思っていたはずなのだが、口に出たのはその一言だった。

 

「………………まぁ、お前ならいいか」

 どうしてそんなにもったいぶる必要があるのだろう。そして俺ならどうしていいのだろう。

「どういう意味です?」

「中佐のお気に入りだし、お前も中佐を気に入っているみたいだしな」

「別に俺は気に入ってませんよ、このムスコ曹長」

「後で俺んとこ来い」

 いつもなら乗ってくる軽口に曹長は一切の反応を見せずに踵を返した。去っていく背中は言葉をかけづらく、無言のままそれを見送ってしまう。

 

 悪魔の実の詳細を知ること、それがどんな意味を持つのか、俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 なんか知らないけど、麦わらの一味は一味でどこぞの海賊にちょっかいかけられているらしい。

「フォクシー? ごめん、知らないや」

「銀ギツネのフォクシーっていう頭の割れたキツネみたいな男よ。デービーバックファイトをしょっちゅう仕掛けてくるの」

 デービーバックファイトとは、何でも仲間を賭けて勝負するゲームらしい。海賊旗でもいいとか。それでもらわれた奴はもらった側に忠誠を誓わないといけないとかなんとか。

「馬鹿じゃないの?」

「ほんっとそう! うちもルフィの馬鹿が軽はずみに受けなければそもそもこんな面倒なことになってないのにっ!」

「いででででっ、やめろナミ!?」

 頬を常人離れした勢いで伸ばされる麦わら。しかしゴムなのに痛いとはどういうことだろう、覇気を使っているようには見えないのに。精神的なものか異次元空間か、少し羨ましい。

「でも私が知らないってことは大したことないんでしょ?」

「……すごい自信ね。確か懸賞金は3千いってなかったと思うわ」

 ほら、雑魚じゃん。でもそのデビルなんとかだと無類の強さを発揮するらしい。つまりは小ざかしいってことだね。

「馬鹿言えナミ、あいつのすごいところはビームだ! ノロノロビームだ!」

「ああそうねそうだったわねすごいわねビーム」

 全く相手にしないみかんさん。しかしビームか、風の噂で大将の一人がビーム撃つって聞いたことあるけど似たようなものかな?

「で、そのキツネさんが目の前にいる、と」

 つまりはそういうことだ。ウッドチェアに座ったまま眺めると、そこには巨大な海賊船。でも海賊旗はなかった、取られたからだろう。

 

 みかんさんが双眼鏡を貸してくれたので船員を見る。えーと、変なマスクを被った群れがなんかすごい勢いで踊ってる。

「え、何これ怖い」

「ほんと、怖いわ」

 みかんさんの同意を得られると妙に安心するのはきっと彼女が数少ないこの船の良心であるからだろう。というか、私ってばいつの間にか海賊に馴染んでる不思議。海賊=悪の考えは変わっていないはずなんだけどなぁ。

「おいウソップ、チョッパー! ビームだ、ビームが見られるぞ!」

「うお、そういえばそうだ!」

「う……おれは嫌だな」

 興奮する長鼻君とトナカイ君。トナカイ君のおびえる姿がかわいくてうっとりしてしまう。そう、この子タヌキじゃないんだってさ。

「でもよ、なんか様子がおかしくねぇか?」

 水色の変態が呟く。私は変態とは距離を離すようにしているので声が聞こえた瞬間には飛び退くことにしている。彼は彼で気にする様子もないのは海軍が嫌いだからだろう。

「確かに楽しそうに踊ってるな、宴か?」

 麦わらよ、どうして他の船に見せ付けるように宴を開く必要があるんだ。嫌がらせか? だとしたら頭悪いぞ。

「あれ? なんか誰かに罵倒されたような気がする……」

「というより踊っているんじゃなくて慌てているんじゃない?」

 ニコ・ロビンの言葉にもう一度覗き込む。確かに踊っている。

「いや踊ってるよ」

「いや慌ててるわよ?」

「…………」

 みかんさんと意見が違えると落ち込むのは、きっと彼女が数少ないこの船の良心だからだろう……

「じゃあ何に慌ててるんだ? ウソップ、何か見えるか?」

「ちょっと待ってな…………あぁ、なんかすごい勢いで船の後方から波が来てるな」

「なんだ、ナミか――ってえええええええええ!?」

「私じゃないわよ!」

 トナカイ君が目を剥いてみかんさんを見、みかんさんの強烈な拳が炸裂した。

「ナミじゃない!? じゃあ何だ!?」

「だから波だって言ってんでしょうが!」

 どうしてそこで麦わらが便乗して殴られるのか、私にはわからない。

 

 というより大波が来るからか、船の揺れが強くなって――

「ぶえるげれごぉぉっ!?」

「あんたも大概にしろぉ!」

 スッパーン、と素晴らしい音が響いて頭に痛みが来る。わざとじゃないのに酷すぎる。そして吐いた直後の私の頭を叩かないでほしい。そこはお腹と同様、ジャックポッドなのだ。

「むげらあぁああ!」

「きゃあああああああああああ!?」

 追撃のセカンドリバースである。このまま範囲が広がればみかんさんの大事なみかんが私のゲロを栄養にしてしまいそうだ。

「ナミさん、じゃれあってる場合じゃなさそうだぜっ」

 気づくと黒足君が厨房から出てきて状況を見つめている。眼前のフォクシー海賊団は相変わらず不思議な踊りを披露しこちらに迫ってくる。その気持ち悪さは吐き気を誘引して仕方がない。

「く、その変な踊りをやめれうぇろあああ!?」

「舵取って! 避けるわよ!」

「最悪風来バーストを使うか……」

 慌しく動き回るクルー達と、吐き続ける私。その元凶は同じである。

 

「よくも私の胃と喉に多大な負担を……許すまじ!」

 口元を拭い船首に立つ。麦わらが何か喚いていたが無視だ。前方、既にほど近い海賊船に集中し、目を閉じる。

 イメージは地獄の釜、煮えたぎる極熱の念。感情を無から最大に、初速から最高速へのギアチェンジ。両手を前に、世界を掌握するように。

「覇王色――煉!」

 開眼と握撃は同時、瞬間波濤のように突き進む覇王色の覇気は海賊船を丸ごと飲み込み、その船員全てを卒倒させる。

 覇王色――煉。最近覇王色の訓練中に見つけた独自のものだ。実際はただ方向性を限定できるようになったっていうだけだが、私はこう言わないとそれができない。そこらへんがまだまだ未熟であるという証である。

「武装色、硬化」

 そして危機は去っていない。まだ船員を止めただけ、向かってくる船は止まらない。吐き気を催すおぞましい原因は絶ったが、どうせならここで藻屑になってもらおう。どうせ海賊、生きている必要は皆無なのだ。

「麦わらっ、破壊できるだろ!?」

「当たり前だ!」

 隣に降り立つは3億の首。世界政府に喧嘩を売るほどの男があれを下せないはずはない。

「ギアサード!」

 指に息を吹き込むと、それが腕に伝わっていき巨大となる。まるで巨人族の腕、その一撃は絶大だろう。流石は麦わらのルフィと言ったところか。

「ゾロ、サンジ、フランキー、来い!」

 麦わらの一声に三人が集まる。それぞれが思い思いの構えを見せた。

 ちなみにみかんさんと長鼻君、トナカイ君は涙目である。回避運動は取らない辺り、その信頼は硬い。この海賊団は強い、そう思わせる絆がある。

 ならば私は、その強さをくじく力を見せよう。いつか、万全の体制でこの一味とやりあうために。

「血雨の掌」

 引き絞る左腕には武装色の覇気。私がイメージする破壊とは血と雨、故にその色は赤く染まる。ぼたぼたと零れ落ちる覇気は雨、触れた地を侵食し固くする。

「ゴムゴムの――」

「三刀流――」

「悪魔風」

「コーラ全開!」

 

羊肉巨人六百煩悩(ムートンギガントろっぴゃくポンド)功城風来砲(クー・ドキャノン)!」

覇気千穿(はきせんせん)

 

 

 

 総計五人の大技が船を襲撃、大破させる。船員がばらばらと海に散っていくさまはまるで花火のよう。汚ぇ花火だ。みかんさんとトナカイ君が抱き合う中、サウザンドサニー号は船の残骸を突破する。

 そして――

「あ、いけない」

 そういえば高波が来ていたことを忘れていた。

「心配ねぇ」

 麦わらは小さくなって腕組している。どんなからくりなのだろうか。

 しかしそんな彼の言葉通り、押し寄せてきていたはずの波は船とともに割られている。まるで伝説上の海割りのようで、しかし普通にこの海ではそれができる人物が結構いるという事実。海軍としては頭が痛い。

「ってほんとに痛い!?」

 精神的な幻痛ではなく物理的な鈍痛である。何かがぶつかったようで、それは先ほど壊した船の欠片。それが大量に降ってきていた。当たり前である。

「うほー! お宝だぁ!」

 麦わらが大口を開けて喜んでいる。木片なんかには目もくれず、そこかしこに落ちてくる金銀財宝をこそ見つめていた。流石は海賊、そしてこれらは海軍として須らく回収するべきである。

「だって一般市民から奪ったものだしねー」

「ちょっと待って! これは私たちの成功報酬よ、どうして海軍に引き渡さなきゃいけないわけ!?」

 みかんさんが目をベリーに変えて猛抗議、彼女は守銭奴のようだ。

「だって不当に得られたものだし、奪われた人たちに返さないと」

「もしかしたらどこかで見つけたものかもしれないじゃない! というかあなた今海賊船に乗っているってことわかってるの!?」

 むぅ、しょば代を主張する気か。確かに私が似合わず寛いでいたことは事実。そしてここが敵地であることも事実。ここは引いて、しかる後に回収するのが吉か。

「わかったよ、納得する」

 今はね。

「ちょっとアンタらっ、早くかき集めなさいよ!」

 というかもう聞いていなかった。鬼のような形相で洩れなくかき集める気である。ここらへんは流石は海賊と見ていいだろう。最近本気で彼らが海賊か怪しんでいたが、まぁ目の色を変えるものである。

 

「うあー、力が抜ける……」

 皆がこき使われ奔走する中トナカイ君がへばっていた。彼が持っているのは何の変哲もない銀の手錠。しかし私には見覚えのあるものだ。

「海楼石の手錠、なんで海賊なんかが……」

 海楼石は貴重だ、その実半無敵な自然系能力者にも覇気なしでダメージを与えられるようになる一発逆転の道具。その硬度は容易く破壊できるものではなく、事実多くの有名海賊がその拘束を突破できずに終わりを迎えている。

「どっかで紛れ込んだのかしら。でも貴重品ねっ」

「ウソップ助けてくれぇ……」

「海に飛び込んだり海楼石持ったり大概だな、チョッパー」

 長鼻君の救済で生き返るトナカイ君。まぁ能力者の天敵であるので、この子の気持ちはすごくわかる。むしろその反応は私にしてみれば軽いもんだ、私失神するし。

「と、それは海軍のものなので回収っと」

 長鼻君の手から取り上げる。希少なんだ、海賊の手に回したくはない――

「あ、まず……」

 直前に思ったのに馬鹿か私は。私も能力者だからなぁ、これ持てないんだよね。意識が遠くなるんだよねぇ……

 一気に視界が暗転する。その不思議な感覚は、まるで時を遡行するかのようだった。自分が倒れこむ音すら、体の感覚すら消去して、私はあっけなく消え去った。

 

 

 

 

 

 

 手錠を掴んだまま倒れたカタに注目が集まる。彼女の様子から、彼らは彼女が能力者であったことを知った。

「でもそんな素振り全くなかったわよね、あまり変化のない実だったのかしら」

「まぁこの海軍の嬢ちゃんにも弱点があるってわかったんだ。心配が減るじゃねぇか」

 フランキーがぼやくが、ウソップは何かを思い出し当たりをつける。

「前に意識が遠くなったことがあったな、あれじゃないか?」

「ああ、三人ぶっ倒れたやつな。あれは凄かった。なんだったんだ、あれ?」

 ルフィが帽子を抑えて呟くも答えは出ない、博識であるロビンもその答えを知らなかった。

「大変だ、早く看護しなくてはっ」

 サンジが好機とばかりに突進し、ハートの瞳のまま鼻息荒くカタに近づいた。しかしその表情は一瞬で凍り付いてしまう。その異常に全員が首をかしげた。

「どうしたんだサンジ?」

「チョッパーすぐ見てくれ!」

「え」

 

 

 

「息がねぇ、死んじまってる――ッ!」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 持ってきてもらった分厚い本、ぱらぱらと捲っていくと様々な実が載っていた。写真こそ少ないが、名称及び分類、その能力が書かれている。

 自然系よりも動物系のほうが希少だったりするのが面白い。幻獣種だったり飛行可能だったり、やはり動物というものは人間よりも多様性に優れているようだ。

 一番多いのが超人系というのは、自然と動物に合わなければ超人だというその他的な分類によるものである。正直いい加減な気もする。

「お、あった、ハキハキの実」

 潜在エネルギーである覇気を自在に操れるようになる。特に選ばれた者でなくとも覇王色の覇気が使えるというものにこそ意味があるようだ。しかし能力者の覇気の力は悪魔の実のものと同一になってしまうので、仮に能力を封じられた場合、能力者本来の覇気を使うことはできない。

「最悪だ、中佐もなんでこんな実を……」

 そういえば中佐の食べた経緯を聞いていなかった。あの人はどうして悪魔の実なんか食べたんだろう。曹長は知っているのか、怖いくらいの無表情でこっちを見つめている。

 って――

「あれ、でもこの図鑑間違ってますよ」

「どこが?」

「だってほら、中佐の食べたハキハキの実。あれって超人系ですよね」

「…………それが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、ここに“動物系(・・・)”って書いてますよ」

 

 

 

 

 

 

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