ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
合同合宿と言っても、基本はチームごとの練習になる。
デネブの面々は集団で砂浜を走り。
アルタイルの面々は海を泳ぎ。
そしてベガの面々は…
「問題1~。去年のダービーウマ娘は?」
「う~ん、誰でしたっけ?」
「ちょっと妹に聞いて見る」
「正解は~、レッドショルダーで~す」
クイズ大会をやっている。
…うん、あれはきっと賢さのトレーニングだ。さぼっているのではない。
ふと、うちの練習を見ていたホクトベガさんが、声を掛けてくる。
「ちょいと、そこの黒いの」
「?私ですか?」
ホクトベガさんが声をかけたのはアルさんだった。
「お前さんの速度は大したもんだが、身体が速度に耐えられるだけ成長していない。そのままじゃ足をやっちまうぜぃ」
私はその言葉に驚いた。
何故なら、原作と同じ道を辿ればそれは近い将来あり得る事だからだ。
「…ご忠告はありがたいですが、私にはこの走り方しかできませんので」
「まぁ、お節介だが少し話を聞きねぇ」
実績ある先輩の言葉に、アルさんだけでなくデネブ・アルタイルのメンバーが一時練習を止める。
「うちの奴にも言い聞かせているが、怪我をしては何も得られないんでぃ。そんなんで競い合って怪我でもしたら、競い合った相手の方がへこんじまう」
その言葉に対して、実際に競い合ってきたシルさんとマキシマム先輩が反応する。
「でも、手を抜くのは相手に対して失礼なのでは?」
「必ず勝ちたいと思う相手に、全力を出す事ってダメなのかなぁ?」
ホクトベガさんは、笑い飛ばしながら言葉を続ける。
「別に手を抜けとか言ってるわけじゃないんでぃ。自分の身体を理解し、限界を見極める必要があるってことでぃ。」
私は、思わず悲劇を減らしたいという初志を思い返した。
限界を見極めるか…
限界を超えたレースは確かに感動するが、その結果が取り返しのつかない大怪我とあっては、元も子も無いですね。
第一、私はそうなる可能性が高い人達がこの場に居るのを知っている。
「もっとも、おいらもそれが出来ていたら怪我なんてしなかったんだがなぁ」
…ホクトベガさんが現実と同じ道を辿っていたなら、毎年平均10レース程度を何年も走って怪我などしてなかったウマ娘だ。
当然自分の限界など解っていたのだろうが、周囲が過剰な期待をかけた結果がドバイでの悲劇だ。
海の先を見つめるホクトベガさんの瞳には、後悔は感じられない。
けして人の所為にせず、自分の所為と言うホクトベガさんの言葉は、アルさんだけでなく私やデネブのメンバー、アルタイルのメンバーにも響いていた。
「あー、先輩。冷たいものが飲みたいです」
「クイズなら別にここでやる必要もないし、エアコンの効いた部屋に行って良いですか?」
「…(無言で携帯をいじっている)」
「お前等は少しやる気だせやぃ!やる気が無いのと無理をしないのは別でぃ!!」
ですが、ベガのメンバーにはまったく響いていない様です。
…まぁ他のチームの事は、他のチームに任せておこう。
「(まったく。1番やる気なかったのがやる気出したってぇのに)」
…
合宿が行われている一方。
初夏の函館レース場では、GⅢ函館記念が行われていた。
1番人気は去年のダービーウマ娘レッドショルダー。
本来は逃げ脚質のウマ娘だが、最終コーナーに差し掛かるまで、前を走る馬をかわせずにいた。
「(嘘よ!なんでかわせないの!?私はダービーウマ娘よ!?」
どれだけスピードをあげても、その前を行く白いウマ娘もまた差をひらく。
そのまま最終直線に入り、後ろから猛烈に追い上げてくる影。
「はっはっはー!シャオの登場だ~!!」
シャオツァンロンが一気にレッドショルダーをかわす。
そのまま一気に先頭のウマ娘もかわそうとするが…
「何でかわせないのよ~!!」
先頭を走るウマ娘は、そこから速度を上げて1バ身のリードを保つ。
シャオツァンロンは力を振り絞って何度も差を詰めるが、その度にリードが1バ身まで戻る。
結局、ゴールするまでその差が縮まることは無かった。