ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
「イッちゃん、一緒に頑張るのね!」
「はい、マキちゃん頑張りましょう」
ついに私の出番がやって来てしまった。
マキちゃんは非常にやる気満々だが、正直言って私が勝てるとは思えない。
私は出走メンバーを見廻す。
「いや~キッツいわなぁハイネス。うちらは距離が長ければ長いほどえぇんやけどなぁ」
「そうですねー、1400mは流石に短すぎですねー」
アルタイルの2人は確かに長距離が得意ですが、2000mのG1でも勝っている二人だけに、スピードが無いわけじゃない。
「先輩、勝ってきて良いですよね~」
「おぅ、やれるもんならやって来やがれ!」
ヘルメスさん、それにうちのマキちゃんは本質的には1600m前後が得意なマイラーだと思っている。
もちろんスピードは一級品だ。
さっきも考えてましたが、やはり勝ち目は無さそうです。
皆に呆れられない程度に頑張るとしましょう。
「イッキ!」
「どうしましたか?ひかりさん」
レース直前、ひかりさんが私に声をかけてきた。
何か指示があるのだろうかと思っていたが、言われた言葉は私の予想を超えていた。
「私からあなたに言う事は一つだけ。勝つ気で走りなさい」
「!?はい、わかりました」
私の心を見透かしたかの様なひかりさんの言葉に、少しドキドキしながらスタート位置に向かった。
…
最終レース(シンガリイッキ、ミドリマキバオー、ブルーエンブレム、ヤシロハイネス、ヘルメス)
スタートから飛ばしたのはヤシロハイネス。
元々ロングスパートの得意な馬だけに、この短距離では最初から飛ばしても問題ないと判断していた。
後ろに続くのはブルーエンブレム、ヤシロハイネスと同じ考えであるが、スパート位置を見極めている。
ミドリマキバオーとヘルメスは更に後ろ。
両者ともに切れ味ある末脚があるため、今は足を溜めている。
そして、最後方から追っていくのがシンガリイッキだった。
「(やっぱりみんな速いですね。でも思ったより離されてない?)」
イッキは思っていた。
練習には着いて行けているが、実際のレースになれば本気を出した彼女達には着いて行けない。
それが公式じゃないとは言え、レースの中で流れに着いて行けていた。
「(…うん、前は早いけど私もそこまで無理をしていない。…スパート出来る!)」
先頭までは4バ身から5バ身。
覚悟を決めたイッキが、スパートを始める。
…
一方、レースを離れた位置から見ているトレーナー達。
楽しそうに応援する2人に対して、1人悩ましい顔をしていた。
デネブのトレーナー駿川ひかりは、ずっと考えていた。
今レースを走る彼女がチームに入ってからずっとだ。
「(イッキ、あなたが何か考えているのか、私には解らない。でも解っている事も一つあるのよ)」
それはトレーナーとして毎日担当のウマ娘を見ている為に気づいたこと。
チームメンバー達も気づいていない、彼女の本質。
もちろんイッキが転生し、他のチームメンバーの辿る道を知っている事などは解らない。
「(それはあなたの自己評価の低さ。何故かは知らないけど、最初からチームの皆に勝てないと思っている)」
解っているのは、彼女の中にあった自分をモブウマ娘と思う事から来る諦め。
トレーナーとしてそれなりの期間を過ごしたひかりに、デビュー前から自分の才能の限界を決めつけるウマ娘等見たことが無い。
デビュー前のウマ娘と言うのは、多かれ少なかれ大きな夢を見るものだ。
ある者は日本一のウマ娘。
ある者は無敗の三冠ウマ娘。
ある者は天皇賞ウマ娘。
その夢に向かって努力をするからこそ、結果がついてくるのだ。
なのに彼女は最初から諦めている。
そんなウマ娘を、ひかりは変えたいとずっと考えていた。
「走るのよイッキ!あなたは私がチームに望んだウマ娘なの!!」
…
レース終盤、ヤシロハイネスは速度を落とさずに走っていたが、後ろからブルーエンブレムがかわして行く。
「悪いなぁハイネス、勝たせてもらうで!」
「うぅー、簡単には負けませんよー!」
ヤシロハイネスも抜かれた後に必死で食らいついていく。
それは、更に後ろを走る2人に追いつかれてからもである。
「(ずっと先頭を走っていたのに速度が落ちないなんて、なんてスタミナです!?それに、もう一人前に居る!!)」
前を抜きあぐねるヘルメスとミドリマキバオーだが…
「んあ~、負けたくないのね!」
そうマキバオーが叫んだ瞬間、マキバオーの手と足が同期する。
砂浜が爆発したかの様に強く踏み込み、一気に前進する。
「うわっ!マジかいなぁぁ!!」
それは先頭のブルーエンブレムの予想を超え…
マキバオーが差し切った所がゴールであった。
続いてブルーエンブレム、ヘルメス、ヤシロハイネスが一段となってゴールし…
僅かに遅れてシンガリイッキもゴールした。
結果だけを見れば最初から最後まで一番後ろで走っただけであるイッキ。
だが最後の数100m、誰よりも早く走っていたのもイッキであったのは、縮まったその距離が教えてくれていた。
~レース結果~
1着 ミドリマキバオー
2着 ブルーエンブレム クビ
3着 ヘルメス アタマ
4着 ヤシロハイネス ハナ
5着 シンガリイッキ 1バ身
…
「んあ~!やったのね!」
マキちゃんがぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
そして嬉しそうにひかりさんの方に駆けて行く。
「負けた…」
一方の私は最下位と言う結果に、思わず言葉が出ていた。
「お疲れちゃん。イったんも早かったで」
そんな私を見かねたのか、ブルーエンブレム先輩が私の肩を叩き励ましてくれた。
そしてレースに出たメンバーは、それぞれのチームの元に戻っていく。
だけど私は、中々その場を動くことが出来なかった。
「(相手はみんな先輩、そして原作で言えばG1を勝つウマ娘。負けて当然…でも…)」
私の足を止めるのは、胸の奥から湧き出てくる気持ち。
その気持ちの名前を、私は知っている。
「なんでこんなに悔しいんでしょう…」
相手の強さを解っているから最初から諦め半分、
でも後の半分はレースに勝ちたいというウマ娘の本能。