ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。   作:湯川彼方

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Intermission~勝負靴革命

 時は少しさかのぼり、春の頃の話。

 

 シンガリイッキはトレセン学園を離れ、一人ある場所を訪れていた。

 その目的はある人物に会うためである。

 

 自身のトレーナーであるひかりに相談し、紹介されたその人物は足を故障して引退したウマ娘であった。

 

 

 一般的にウマ娘は引退後はウマ娘やレース関連の職業に就く者が多い。

 トレセン学園の職員やコーチをするウマ娘が居る一方で、別の企業に着く者も居る。

 

 そのウマ娘が就職したのはUMIKE(ウマイキ)と言う、主にウマ娘のトレーニング関連の機器や服。そして靴を作る企業である。

 

 

「わざわざ時間を作ってくれてありがとうございます」

「まぁひかりちゃんの頼みなら構わないよ」

 

 そのウマ娘はかつてデネブに所属していたウマ娘であり、イッキにとってみれば大先輩に当たった。

 

「そんで、あーしに何をしてくれって言うのかい?可愛い後輩でも仕事となると何でも聞ける訳じゃ無いよ」

 

 そうは言うが、わざわざ仕事の合間を縫って時間を作ってくれていた。

 その事に感謝をしつつも、イッキは自分の目的について話をする。

 

「ウマ娘の故障を減らす靴のアイデアがあります。一緒に開発してくれませんか?」

「…そんなうまい話がある訳ないだろ?」

 

 自身も脚の故障をして引退したウマ娘。

 走る事を生き甲斐にするウマ娘にとって、それは非常に苦しく悔しい事だ。

 それを軽減できるなんて夢の様な話を、簡単に信じる事は出来なかった。

 

 予想通りの反応を前に、イッキは自分の考えを伝えていく。

 

「今のウマ娘の靴は脚の感覚を大事にする為になるべく軽く・薄く作られる事を優先されています。でもそれは衝撃がそのまま返って来る靴と言う事でもあります」

 

 時速60kmで走るウマ娘の脚。

 その衝撃がダイレクトに返って来るため、ウマ娘にとって故障が付き物なのだ。

 

 そしてレースに勝つために、ウマ娘の靴はより重さを軽く・より靴底を薄く進化していったのだ。

 

 

 そしてイッキが提案する靴は、その進化の真逆を行く革新である。

 

 

「私の提案するのは、中敷きに高反発の素材を内蔵して靴底を厚くする事で衝撃を吸収しつつ反発力で速度をあげる靴です」

「詳しく話を聞くよ」

 

 

 

 

 

 イッキがチームメンバーを見て思ったのは、一人を除いて脚の故障をする。

 残り一人も脚に致命的な欠陥があり削蹄と言う方法でそれを改善させる。

 

 それらの問題を靴で解決できないか?

 そう思ったのだ。

 

 シンガリイッキの前世は別に靴について詳しい訳じゃ無かったが、長距離ランナーを中心に流行ったその靴の事を覚えていた。

 

 ダメで元々。成功すればラッキー。

 そう思って持ち込んだ靴のアイデアは、会社の開発部で予想以上に反響があったようで、凄い勢いで試作品が出来たと連絡があった。

 

 本来は企画を立て、承認を受け、プロジェクトが始まるため、実際の開発が始まるまでには時間がかかる物だ。

 

 だがこの会社には他にも故障して引退したウマ娘も多く、イッキの提案に食いついた者が多く、先に試作品を有志が作りそれを持ち込んで企画を通そうとしたようだ。

 

 そしてその結果、無事にこの靴の開発は継続される。

 

 

 

 

 秋になり、イッキは再びUMIKEを訪れる。

 試作品を試して欲しいと言われたからで、今イッキの眼の前には段ボールに山積みになった靴がある。

 

 その靴について、イッキは説明を受ける。

 

「あーしも履いて見たけど、走った時の脚の痛みが軽減してる様な気がする。まぁ今はまだ“気がする”程度の効果しか無いってこった」

 

 ただしあくまで即興で作った試作品。

 イッキの相談から何カ月も空いているが、一つの物を作ると言うのにはそれだけ莫大な時間が掛かるのだ。

 

 そのため、衝撃吸収と言う意味ではその靴の効果はまだ十分に発揮できていない。

 もっともモデルにした靴も長距離を走る事でやっと実感できる程度の効果で、明確に脚の痛みが減るような事は無いが、時速60kmで走るウマ娘にとってはその分伝わる衝撃が強いために実感しやすいのだろう。

 

「それに言ってた通り、靴底が厚いって事は底の厚みを調整することで体の重心の調整も可能だわ。もっとも、本格的にやるなら蹄鉄の厚さも調整するべきだけどね」

 

 もう一つの効果の方は調整次第ですぐにでも発揮できるようだ。

 

 これが上手く行けば、重心が後ろに寄っているあのウマ娘の出遅れ癖が軽減するかも知れないと喜ぶ。

 それは秋から冬に待つ厳しい勝負を思えば、幸運なことである。

 

「試作品は出来たが、まだこいつは研究が必要だ。練習ででも履きつぶして、その情報を返してくれや」

 

 イッキとしてもこの靴が普通の靴とは違うため、性能を発揮するためには走り方にもコツが必要なのは認識している。

 なので練習で履きつぶすのは願ったりである。

 

「まぁ希望があれば勝負靴用も作ってやっから、使う本人を連れて来てくれや」

 

 その言葉にイッキは恐縮する。

 自分の希望する商品を代わりに作って貰うと言う迷惑をかけているのに、オーダーメイドで勝負靴まで作ってくれると言うのだから。

 

「ありがとうございます。でもそこまでしてもらわ無くても…」

 

 そのイッキの言葉は笑い飛ばされ、そして言葉が続けられる。

 

「データを返して貰うからそこはギブアンドテイクさ。それにあんたも他の娘も私の可愛い後輩になるわけだからね。そんくらいはしてやんよ」

 

 

 

 

 この後開発は難航し、結局市販するレベルの靴が出来るのはシンガリイッキがデビューする頃までかかる事になる。

 だがその裏で試作品の靴が大きな影響を与える事を、まだイッキしか予想していなかった。

 

 ウーマーフライと後に名付けられるその靴は、同業他社から出た類似品を含めると、ほとんどのウマ娘が履くことになる程の大ヒット商品となる。

 

 そして、実際にこの靴を履いたウマ娘の故障率は減少する。




ウマ娘と馬との違いから、シルフィードの出遅れ癖を治すためにどうすれば良いか考えた結果、ご都合主義な展開になりました。
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