ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
大雨の中、いま全員がゲートに入りました。
スタートしました!
二人がポンと飛び出した…
これは、飛び出したのはマキシマムとシルフィードの二人だ!
他の馬は控えて行きました。
先頭はマキシマムとシルフィードが並んでいる。
2番手集団の先頭はシャオツァンロン。
ですが、先頭との差が徐々に開いている!
先頭の二人はこのペースで持つのか?
…
スタートは上手く行った。新しい靴の効果もあるのかな?
そうだとしたら、イッちゃんが言ってたけど重心って重要なんだね。
ボクの隣にはマックスが着いている。
今回はボクの方が内枠だから、スタミナ的には有利かな?
…本当にそうかな?
内側になるほど雨の影響で荒れている。
ひょっとして外に行った方が、距離は損するけど走りやすい?
いや、マックスを相手に少しでも無駄な力は使えないよ。
600メートルを通過した。まだまだ序盤だけど、ペースはかなり速い。
ふと、夏合宿の時のピーターツーさんを思い出す。
そうだね、ただでさえ雨のレースだから息を入れないと最後まで持たない。
マックスに置いて行かれる訳にはいかないと思っていたけど、今日はクレバーに勝ちを狙いたい。
ボクは、意識してペースを落とした。
夏以降、練習してきた事を全部出してやる。
…
「シルさんはペースを落としましたね」
スタートに成功したシルさんは、マキシマム先輩と競うように逃げていた。
出遅れ癖さえ無ければ、シルさんは実は脚質を選ばないウマ娘なのだ。
とは言っても…今日のレースはそう言うレベルの話じゃない。
「えぇ、けど今日のペースは速過ぎます。もうすぐ1000メートルを通過するけど…」
「タイムは60秒ジャスト…2000mのレースじゃ無いんだぜ?」
アルさんとストさんがタイムを確認しているが、恐ろしいタイムである。
一般的に2000m~2400mぐらいのレースでは、1000m通過タイムを60秒基準に速いか遅いか判断する。
だけど、今日のレースは3000mの超長距離だ。
しかも雨の不良馬場。
悪条件の中でこのまま行けるとは思えないけど…
「シルさんも61秒行くか行かないかって所ですね。このままのペースなら二人とも世界レコードですかね?」
現実世界の3000mの世界レコードは、3分1秒ジャスト。
この世界の現在のレコードは3分2秒5らしい。
つまり、マキシマム先輩のペースなら現実世界のレコードを更新し、シルさんのペースでもこの世界のレコードを更新しそうな勢いだ。
「まさかとは思うけど、二人とも潰れるなんて無いのね?」
マキちゃんが不安そうに話すが、すぐにひかりさんがマキちゃんの頭に手を置いてから話す。
「…信じよう、シルフィードを」
その言葉に、チームの皆が頷いた。
…
ふふふ、シャオは学習したのよ。
シルもマックスも飛ばし過ぎよ。
だから今は力を溜めて、後半勝負よ!
あれ?シルとの差が縮まってる?
少しペースを落とそうかな…
あれれ?今度は差が開いている?
ペースを落としすぎたかな…
あれあれ?
…
ターフビジョンを眺めるウマ娘二人。
チーム“ベガ”の二人だ。
「あの娘、あんま起用なタイプじゃねぇと思ってたけど、ピーターツーのペースチェンジを完全に物にしてやがるねぇ」
その内の一人、ホクトベガはシルフィードの走りに驚いていた。
合同合宿の際に1度一緒に走ったきりのピーターツーの走り方に似ているからだ。
アルフィーが引っ掛かったように、今のシルフィードを基準にペースを合わせようとすると、ペースの変化に振り回されて気が付けばスタミナを消費してしまう。
一方のシルフィードは、自分でペースを作っており、適度に息を入れているので見た目ほど疲れていない。
「自分の感覚に自信が無いから惑わされるんです」
「厳しいねぇ。まぁこれで自分のペースで走れてるのは…」
そう。
シルフィードのペースに惑わされていないのは、前を走っているマキシマムのみ。
マキシマムはシルフィードを気にする事なく、ただ前を向いて進んでいる。
シルフィードはマキシマムに勝つために、スタミナを残す様にペースを変化させ、
マキシマムは必ず後でシルフィードが来ると考え、後ろを気にせずに自分のペースを守る。
ある意味でお互いの強さを信頼しきって居るからこその行動。
その様子を見ていたヒヌマボークは身震いする。
「あぁ、私も走りたくなりました。」
「焦んじゃねぇよ。来週には嫌でも走って貰うぜぃ」
来週は天皇賞(秋)。
重賞を連勝中のヒヌマボークは、当然出走できる。
だが今はそんな事より…
「それに、今はこのレースを楽しもうぜぃ」
そんな事よりも、眼の前のレースが、
シルフィードとマキシマムの二人が、気になっていた。
「えぇ、見に来て本当に良かったですよ。このレースは伝説になります」
レースはすでに第4コーナーに差し掛かっていた。
…
もう最後の直線。
足は軽い。
新しい靴は距離が長くなるほど、疲労が減っている気はする。
だから、まだここからスパートをかけられる。
マックスが植え込みをえぐる様に内へ切り込む。
私はその外側に着けてスパートをかける!
一瞬、マックスがよろけた様に見える。
水たまりで足を取られた?
すぐにマックスは体勢を整える、でも悪いけどその隙に一気に距離を詰める。
このレース私が貰う!!
『馬鹿野郎!!無理すんじゃねぃ!!』
ふと、誰かの声が聞こえた気がする。
一瞬胸がざわつく感じがしたけど、レースに集中しなきゃと思いなおす。
もうすぐ、長かったレースが終わってゴールだ。
このゴール前、渾身の一蹴りで一気に抜け出す。
でも、必ずマックスが差し返して来る。
ボクはそれよりも前に行くんだ!!
…えっ?
…
ゴール前、最後の叩き合い!
さぁ、意地の張り合い。
無敗の三冠馬の誕生か!?
それとも今年は二頭の二冠馬が出るのか!?
抜け出したのはシルフィード!
今、一着でゴールイン!!
そして今…
あーっと!!…