ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
私は呆然としていた。
菊花賞でマキシマム先輩がアクシデントを起こすなんて、思っても居なかったから。
本来、マキシマム先輩にアクシデントが降りかかるのは有馬記念。
シルさんとヒヌマボークさんとの三強決戦の際だと思っていた。
言い訳をする訳じゃ無いですが、そのせいもあってアルタイルのメンバーの様に咄嗟に助けに行く事も出来なかった。
今、レース場ではシルさんが抱き止めたマキシマム先輩を、エンブレム先輩とハイネス先輩が肩を貸して退場していく。
果たして怪我の具合はどうなんだろう?
軽いものなのか?
骨折しているのか?
それともさいきふのうなのか?
その様子を眼で追いかける事しかできない自分。
それが妙にやるせない気持ちになった。
「イッキ、マキシマムの事が心配か?」
私の様子を察したのか、ひかりさんが声を掛けて来た。
「ひかりさん…私は…」
私は知っていた。
マキシマム先輩がいずれ故障をする事を。
知っていたのに何もしていなかった。
シルさんがマキシマム先輩に勝って、シルさんとマキシマム先輩が仲良くなっているのを見て、漠然と良い方向に向かうのじゃないかと思っていた。
誰もそんな事を保証してないのに。
「確かにマキシマムの事を思えば、シルフィードの勝ちを心から祝えないのは解る。だけど、あえて言う。これもレースだ」
ひかりさんの言葉には、皐月賞でシルさんがアクシデントに巻き込まれた件も含まれるだろう。
誰かがアクシデントに巻き込まれるのなら、自分がアクシデントにあわないと言う保証は無い。
他のチームを含め、レースに出る全てのウマ娘のアクシデントを防ぐ事など、神様でも出来ないかも知れない。
だから私に出来る事なんて、大して無いのかもしれない。
そう言って自分を納得させようとする自分を、許せない自分が居た。
…
救護室に運ばれたマキシマム先輩の様子が伝えられた。
どうやら捻挫のようで、大事には至らなかったようだ。
京都レース場の観客たちにも安堵のどよめきが起こっていた。
だけど、捻挫と言うのは靭帯の損傷。
無理をしていれば靭帯断裂等の重症化した可能性もあるし、ゴール後に踏ん張りが効かず速度を落とせずに転倒した可能性もある。
それを考えれば、本当に良かった…
そして気が付けばウイニングライブの時間になる。
『みんな~、今日はマックスがライブに出られなくてゴメンね!』
当然マキシマム先輩は参加できないため、会場に現れたシルさんは、開口一番にそう言った。
『マックスの分もボクが頑張るから、ライブ楽しんでってね~!!』
シルさんとマキシマム先輩のライバル関係は会場の皆が知っている。
マキシマム先輩のアクシデントにシルさんが悲しんで居ながらも、ウイニングライブを盛り上げようとしているのも理解している。
だから会場の皆も、シルさんの思いを受けて必死に盛り上げる。
私もシルさんの優勝自体は嬉しいので、今はライブのために声を出した。
…
宿泊場所のホテルへ帰る私たち。
そこでシルさんからマキシマム先輩の話を聞いた。
アルタイルのメンバーに支えられて去っていくマキシマム先輩は、シルさんにこう言ったらしい。
『これで一勝一敗一分け。すまないが決着は年末だな』
それは有馬記念へ出走すると言う意思表明。
足を怪我した直後だと言うのに、気丈にもそう言ったらしい。
「ひかりさん、私の次走は有馬記念で良いよね?」
「あぁ、万全に調整しよう」
そこまで話をして、ようやくシルさんは自分の優勝を喜べていた様な気がする。
シルさんも疲れているだろうと言う事で、そのまま各自部屋に戻っていく。
同室のマキちゃんもマキシマム先輩を心配していた事もあり、疲れたのかすぐに寝てしまった。
ふと、一人の時間が出来た瞬間。色々と私の頭を過ぎる。
本当に、神様は何を思って私をウマ娘に転生させたのでしょうか?
私はアルタイルのメンバーの末路を思い浮かべる。
マキシマム先輩は本来は有馬記念で故障をし、そこで今回と比べ物にならない大怪我をして引退となる。
エンブレム先輩は瞳の中に残るアルさんの影を追いかけ、無理な走りをした結果故障する。
ハイネス先輩は目標レース直前に怪我をしたり、アニメのマックイーンさんと同じ故障をして引退する。
カスケード先輩は海外遠征の際に不幸にも珍しい感染症にかかる。最後はレースで全力を出せなくなり引退する。
私の知る限りフェアちゃん以外の全員が何かしらの悲劇に遭います。
それを、私は果たして他のチームの娘だからと見捨てるべきでしょうか?
自分のチームだけを考えればそうかも知れませんが、私にはこれまで少なからず関わってきた娘達を見捨てる事なんて出来ません。
それに、きっと誰かに不幸が起きれば誰かが悲しむ。
仮にマキシマム先輩がこのまま引退となれば、アルタイルのメンバーのみならず、シルさんだってきっと悲しむだろう。
今更ながら、合宿の時にホクトベガさんが言ってた言葉を本当の意味で理解できたかも知れません。
私は今まで過ごした時間を振り返り、自分の中の目標を整理する。
ウマ娘としてレースに勝つ。
そして転生者として可能な限り悲劇を防ぐ。
たった二つ。でも凄い大変な目標。
…転生するならウマ娘になりたい。そう思っていた時期が私にもありました。
私が自分の事だけを考えて生きていける性分なら、それで良かったのかも知れません。
でも、他人を見捨てられないなら悲劇を含んだ原作知識と言うのは、重荷にもなるのだ。
「転生するって大変だなぁ…」
マキちゃんの寝顔を見ながら、私は思わず愚痴が漏れた。
菊花賞編は批判を承知で書いてました。
原作からの変化を書きたかったとは言え、マキシマムにアクシデントを起こすのは安易なのでは無いかと。
ただ、主人公が今後大きな悲劇を防ぐために、小さな悲劇を入れる必要があるかなと思ったのでご容赦ください。