ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
デネブの部屋の横に、安心沢さんのテントが建ちました。
『イッキちゃんやチームの人に利用しやすい様に』
と言う事でした。
ちなみにひかりさんへの報告を後回しにしていたんで、凄い怒られました。
少なくともテントに関しては私は悪くない!
…
安心沢さんの件で私の目標が一歩進みましたが、目標である『私の知る限りの全てのウマ娘を幸せに』を達成するためには、避けては通れない件があります。
それは海の向こうで起こっているかも知れない件で、私が手を出せる事かは解りませんが、まずは情報を集めてみようと思いました。
スマフォもあるこのウマ娘の世界、wikiペディア的な物も当然あります。
そこで調べたのは、BCクラシックの勝ちウマ娘について。
このカオスな世界の時間軸は、『風のシルフィード』『優駿の門』『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』『みどりのマキバオー』の順に並んでいます。(その後ろに『蒼き神話マルス』も続いてますし、『たいようのマキバオー』や『優駿の門ピエタ』等の他の作品が出ないとは限りませんが)
ならば、『風のシルフィード』の過去に当たる部分はもう始まって居たのではないか?
ビンゴです。
そのウマ娘の名は“ラビアンローズ”。
個人的には『風のシルフィード』で1・2を争うほど悲惨な目に遭う馬ですが、ウマ娘の世界でも存在が確認できました。
そしてwikiペディア的な物で確認できた“ラビアンローズ”の戦績は…ただただ酷いです。
それは着順的な意味ではなく、疲労等を考慮せずに酷使されていると思われるローテーション。
そしてBCクラシック勝利直後の不自然な引退。
…これは間違いなく私があの物語で、一番嫌いな奴が存在していると言う事。
そう認識し、すぐにwikiペディア的な物の情報を見直す。
この世界では馬主や牧場主と言う概念が無い以上、居るとしたら…トレーナーか。
“ラビアンローズ”のトレーナーは…
“ジェシカ・カルバン”
この世界に合わされてか女性になって居ますが、恐らく間違いないでしょう。
…
さて、情報を得る事は出来ましたが、海外にコネなどまったく無いですし、どうしようもない自分が歯がゆい所です。
もちろん、その女性が私の思っている様な人間じゃないかも知れません。
それでもこのままでは、私の知っている悲劇が繰り返される可能性が高いと思っています。
昨日までの私はその可能性を考えていても、目を逸らして過ごしていました。
今日からの私はせめて認識して、前に進もうと思います。
…
「イッキ~、気を抜くんじゃないぞ~」
「ストさんには言われたくないですよ」
と言っても、日常的には練習をする事が第一です。
今日の練習は集団走。
あまりペースを上げないから楽と思うかも知れませんが、ウマ娘の習性で集団が嫌いな人も居ますし、慣れておくのも重要なのです。
もっとも、逆に集団が好きすぎてレース中に集団から抜け出せないせいで勝てないウマ娘も居ますけど。
まぁうちのチームには今のところ特に問題があるウマ娘は居ないので、雑談交じりに走っています。
「そう言えばホクトベガさんが、ボクとマックスにジャパンカップを見に来てって言ってたね」
走りながらそんな事をシルさんが言う。
ホクトベガさん自身がヒヌマボークさんの情報をくれるのかと言えば、まずは自分のチームの勝利が優先でしょうから、メリットがありません。
きっとこれはヒヌマボークさんからの…
「それはシルさん達への挑戦状ですね」
そう言うとシルさんも頷くけど、あまり乗り気じゃない感じだ。
「正直言ってボクはマックス以上に強い馬を知らないからなぁ。これからシニア世代とも走る、って言ってもピンと来ないんだよね」
まぁ、お互いが居なければ無敗の三冠も狙える二人ですから、マキシマム先輩が一番のライバルなのは解ります。
でも…
「ベガから天皇賞ウマ娘のヒヌマボークさんが出ると思いますけど…あの人は相当強いですよ」
「イッちゃん、良く知ってるのね!」
「菊花賞の時に、たまたま会ったんですよ」
そう、たまたま私だけがヒヌマボークさんと面識がある。
でもそんなレベルの話じゃなくて、彼女の強さを私は知っている。
それに…
「それに、ジャパンカップは海の向こうの強いウマ娘も来ますからね。見に言って損は無いかと思いますよ」
現実のジャパンカップは、世界最高賞金と言う看板を失ってから、海外馬の質は落ちて行きましたが、この時代(シルフィード世界)ではそんな事も無いでしょう。
もっとも、元世界の馬主があまり賞金に興味無さそうだった、あのウマ娘は来ないと思いますけど。
て言うか、今年のイギリスダービーウマ娘が来るとなれば、この時点でもっと騒がれてると思いますし。
「そうだね、他の娘のレースを見るのも大切だしね。行きたい人みんなで行く?」
「シルさんと観戦するの、楽しみなのね~」
そんな感じでジャパンカップを見に行く話をしているが、不意にアルさんから話しかけてくる。
「シルさん。私のレースにも応援に来てくださいよね」
忘れてはいないが、デビューしたのはアルさんも一緒。
年末の目標レースに向けて調整を続けている。
「うん、もちろんちゃんと皆で応援に行くよ!次は川崎だっけ?」
「いえ、全日本ジュニア優駿の前に兵庫ジュニアグランプリに出る予定です。優先出走権をいただきに行きます。」
ちなみに全日本ジュニア優駿の優先出走権は1着しか貰えないため、実質優勝宣言だ。
「そう言えば地方のウマ娘に関しては、ほとんど情報入らないですね。」
トゥインクルシリーズの情報は新聞やwebで簡単に見れるが、地方シリーズのしかも重賞以外となると、まったく解らない。
そんな私の呟きに、シルさんが答えてくれた。
「一応、ボクが聞いた限りだとアルちゃんと同年代には今の所目立った娘はいないよ。ボクの同年代のリップさんとか、ストちゃんと同年代のヤマビコオーちゃんとか、マキちゃんと同年代のサトミアマゾンちゃんは、トゥインクルシリーズでもやれる、って言われてるみたいだけどね。」
意外にも、シルさんからかなり詳しい情報が聞けた。
自分と同世代にしかあまり興味を示していないだけに、少し驚いた。
「シルさん、随分詳しいですね」
「ボクって言うよりホクトベガさんが地方に詳しくて、たまたま聞いただけだよ」
あぁ~、なるほど。
さすがは“砂の女王”、現役時代のコネがあるのでしょう。
それにしても、やっぱり居るのですね。
ヤマビコオーって馬は聞いた事無いですけど、他は年代通りって事でしょうか。
「お前ら、気が抜けてるぞ!一周全力で走ってこい」
おっと、雑談が過ぎたようでひかりさんから注意を受けてしまいました。
「「「「「はい!ひかりさん!」」」」」
海の向こうの事も気になるけど、まずは目の前の大切な人たちの事を優先だ。
二人の役に立つために、今日もたっぷり練習に励んだ。