ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
「へぇー、キミもクロたんと同じ今年の新入生なんや。」
アルタイルの練習を見に来ていた私に、ブルーエンブレム先輩が構ってくる。
どこか、この先輩の元の世界の騎手の様に気さくな感じがする。怪しい関西弁だし。
ふと、この人の血統背景を思い出して疑問が生まれる。
「そう言えば先輩ってお姉さんが居ませんか?それも凄い有名な。」
「おっ、キミ詳しいなぁ。確かに2人ほど居るでな。」
この人の原作での母馬はパシフィカスで、父馬はシャルード。
現実のビワハヤヒデをモデルにした血統であり、当然ナリタブライアンとも同じ母馬である。
しかし、原作の同年代ライバルがサンデーサイレンス産駒のアルさんと言う事は、少なくともブライアン先輩より後に生まれた事になる。
つまり、この人はあのビワハヤヒデとナリタブライアンの妹と言うわけだ。
「それならお姉さんと同じ、リギルとかに入ろうとか思わなかったんですか?」
スピカの勢いに押されつつも、学園最強と名高いリギル。
この人なら望めばそこにだって入れたのではないかと思い、聞いてみた。
「んー、まぁお姉はお姉。私は私やからな。ウチはあぁ言う堅苦しいチームは合わんしな。まぁお姉たちを尊敬してるんは確かやで。」
そう言って笑うエンブレム先輩。
人懐こい笑みに、私も思わず笑顔がこぼれる。
「ところで、キミは入るチームは決めたんかいな?」
ふと、エンブレム先輩がそんな事を聞いてくる。
「はい、チームデネブのお世話になっています。」
「なに?」
私の言葉に反応したのはエンブレム先輩じゃなく、近くで休んでいた別のウマ娘。
「君は、シルフィードさんと同じチームなのか?」
マキシマム先輩であった。
「はい、そうですけど…シルさんと仲が良いんですか?」
「いや、そう言うわけじゃないがな…彼女は私が勝った朝日杯で3着だったからな。良く憶えてるよ」
仲が良いのかと言われて少々困った様な顔をするマキシマム先輩。
自分の事を気遣って言葉を選んでくれたんだろうし、本質的には良い人なのだろう。
「つまり、お2人はライバルって言う事ですかね?」
「ライバルね…まぁ世間的にはそう呼ばれることが多いね。」
続けて言った私の言葉に、口調は穏やかだがやや不服そうにも見える様子。
それは、この人をこの人たらしめている自信からくる物だろう。
「だけどレースと言うのは相手がどれだけ速かろうと、相手がどれだけ強かろうと、結局自分がそれ以上なら勝つだけさ。最後は自分との闘いだよ。」
その絶対的な自信は元の物語の彼女の騎手や馬主を髣髴とさせるが、彼女の表情は決して油断している訳ではなく闘争本能に溢れている。
…そしてその闘争本能が、あのレースでの悲劇を生む。
その事を、いま私だけが知っている。
…
アルタイルの見学を終えた私は、デネブの練習に合流する。
「へー、イッキちゃんはアルタイルの練習見てきたんだ」
少し練習に遅れた私は、トレーナーのひかりさんに正直に遅れた理由を言うが、怒られるそぶりは無かった。
良いのか
「うん、他のウマ娘を見るのも大切だからね。練習にも忘れずに来てるから大丈夫だよ」
そう言ったひかりさんの笑顔に、私は癒される。
そんな私の元へ、話を聞いていた一人のウマ娘が話しかけてくる。
「ところで、アルタイルって事はマキシマムさんには会ったの?」
マキシマム先輩を気にするのは、同年代であるシルさんだ。
「えぇそう言えば…」
私はマキシマム先輩が言っていたことを、シルさんに伝える。
そして、それを聞いていたシルさんの顔は険しくなっていった。
「そう、あの人はそんな事を言ってたの…」
俯いて静かに語るが、今にも爆発しそうな様子。
そして、予想通り爆発はすぐに来る。
「あの人は何時もそう。結局のところ相手の事なんて何も見ていない!」
大声で叫ぶシルさんの姿に、思わず身体がビクッとする。
「だから見せてやるんだ!私があの人に勝つことで!」
普段の姿からは想像できない様な、気迫に溢れた姿。
「…んあー、シルさんやる気満々なのね。」
「そうですね、レースも近いですからね…」
その気迫に、チームの他の娘達も思わず冷や汗を流す。
私は入学したばかりだが、トゥインクルシリーズの日程は常に進んでいる。
だから…もうすぐシルさんの皐月賞が来る。
…
練習が終わって寮に戻った私。
同室の娘はすでに寝ている。
私は、私の転生した意味を考えていた。
『与えられた宿命に従いひたむきに生きよ。さすれば次の生では望む生き方を望めよう』
私に与えられた宿命とは何なのか?
単純に考えれば、レースに勝つことだろう。
しかし、それだと一体何を目標にすれば良いのか?
G1ウマ娘?
三冠ウマ娘?
それとも凱旋門賞に勝てと?
まぁウマ娘である以上、勝つことを目指すのは当然なので、一つ一つのレースを真剣に走ろうとは思う。
だけど、果たしてそれだけなのか?
私は同じチームの彼女達、そしてそのライバル達の運命を知っている。
そして、その運命の中に悲劇が多く含まれている事も…。
ならば…
「ならば、私の宿命は悲劇を防ぐこと!」
そう私は、密かに決意をしたのだった。
「うるさいよ!イッキ!」
だが思わず声が出ていたため、寝ていた同室の先輩に怒られるのだった。
ウマ娘名鑑その3
「マキシマム」(風のシルフィード)
セリ市で馬を見る天才「岡恭一郎」が3億円(連載が1989年の事のため、現在のレートだとそれ以上と思われる)で落札した馬。
『闘神』の異名をとるほどに闘争心に溢れた馬で、最終的なシルフィードとの戦績も大きく勝ち越している。
・容姿(ウマ娘)
前髪の中心が白い茶髪のショートボブで、右耳に黒色のリングが着けられている。
切れ長で鋭い眼の顔立ちに、シルフィードと体格は変わらないが、体つきはスレンダー。
普段着はブラウスに黒いパンツ姿が多い。
勝負服は赤い軍服様の上着に、黒いスカート。