ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
良く晴れた東京レース場。私はシルさんとマキシマム先輩と共にベンチに座っていた。
「いや~、ヒヌマボークさん強かったね」
「あぁ、前半中盤終盤と隙が無かったな」
私たちは、レース後の興奮が冷めず。
三人で話をしていた。
「スタートのシーンだけど、外から内に入り込んでくるイギリスの娘を弾き飛ばしてインをキープする所が凄いな。ヨーロッパのウマ娘はパワフルな娘が多いのに」
「それよりもボクとしては、あんなに綺麗にスタートできるんだなって」
「シルさんはスタートが下手ですからね」
ヒヌマボークさんのスタートは抜群にうまいです。
多分ですけど原作でブリンカー(気性を落ち着ける為に、視界を遮る器具)をつけてる時もスタート上手かった辺りから、ゲートが開く感覚が解るのかも知れませんね。
一方、うちのシルさんはまともにスタートしたの、菊花賞の一回くらいですからね。
「もうイッちゃん!そういう意味なら中盤に息も居れずに先頭をキープしてる所なんて、後方一気戦法のイッちゃんには出来ないよね」
「…シル、それは自分の首も絞めていないか?」
菊花賞ではそうで無かったですが、元々後方一気はシルさんの代名詞だ。
「1000mの通過タイムは58秒でしたっけ?早かったですよね」
「あぁ、そんなペースで逃げるのはサイレンススズカさんぐらいだと思って居たよ」
「うちのアルちゃんもやりそうだけどね」
この距離のレースなら、普通は1000m60秒くらいが平均ペースなので、かなり早いペースでした。
「まぁそれよりも誰が仕掛けてきても、先頭を1バ身差で守り続けている所が脅威ですよ」
「うん、中盤の攻防は本当に見ごたえがあったよね。天皇賞で負けたランバージャックさんが、一瞬でも前に出ようってロングスパートをかけた時も…」
「あぁ、あれは見ごたえがあったな。まるで後ろに眼が付いているようだ」
ランバージャックさんも、けして弱いウマ娘じゃないんですけどね。
時代が別ならG1の一つや二つ勝てたかも知れません。
「そう言えば、ゴール前で一番迫った娘はどこの国の娘だっけ?」
「あー、たしかニュージーランドの娘でしたね。ホーリックスさんも期待している娘だって新聞でみました」
「あのオグリキャップさんが負けたホーリックスさんがか。強かったのも納得できるな」
ホーリックスさんは、この世界ではまだ2400mの世界レコード保持者だ。
今は引退して肝っ玉母さんみたいになってるとの話ですけど。
「でもヒヌマボークさん、まだ余裕ありそうな感じだったよね…強過ぎるよね」
「結局ホーリックスさんのレコードは破れませんでしたけどね」
残念ながら(と言うには敷居が高いですが)、このレースでレコードタイムは出なかった。
ホーリックスさんのレコードは、サクラシンゲキさんが恐ろしいハイペースで逃げて、ペースが早くなった所をオグリキャップさんと競り合って生まれたタイムですからね。
ただ速いペースで逃げれば破れると言う物でも無いです。
少なくともホーリックスペースとか言って単純にタイムを距離で割ったペースで逃げれば、絶対に潰れるか悲劇が起きます。
「あと、勝利ウマ娘インタビューで『戦ってみたいウマ娘が2人居ます。当然有馬記念に出てくると思うので、シニア級の代表として待ちたいと思います』って言ってましたけど、アレは完全にシルさんとマキシマム先輩の事を言ってますよね」
「あぁ。シルには悪いけど、有馬記念で戦えると思うとワクワクしてるよ」
「ボクも同じ気持ちだよ、マックス」
二人とも有馬記念のファン投票では間違いなく上位になるでしょうし、それはヒヌマボークさんも同様でしょう。
私はレースを楽しみにしつつも、マキシマム先輩の故障を防ぐため、提案をする事にした。
…
ウイニングライブまでの準備の間に、私たちはレース場に来ていたホクトベガさんに会いました。
ホクトベガさんの勧めもあり、皆でヒヌマボークさんに挨拶に行く事になりましたが、シルさんとマキシマム先輩は差し入れを買うと言って別行動をとります。
私もついて行こうとしたのですが、『デビュー前の娘が気を遣うもんじゃねぇ』とホクトベガさんが言うので、先にヒヌマボークさんの控室に向かう事になりました。
ちなみにホクトベガさんもヒヌマボークさんの好みを教えるって言って、二人に着いていきました。
いや、せめてあなたは私の方に着いてきてくださいよ…
ヒヌマボークさんの控室へ向かい廊下を歩く私。
ですが、その途中で不意に他のウマ娘の控室から、英語で喋る大声が聞こえました。
ふと見ると、扉が少しだけ空いており、悪いとは思いましたが中の様子が気になって覗いてしまいます。
そこに居たのはジャパンカップに出走していたアメリカのウマ娘と、トレーナーと思われる女性。
そして私は、信じられない物を眼にします
『あんなジャップやオセアニアの田舎者に負けるなんて、あなたは私に恥をかかせる気?』
『す…すみません、ですが』
『口答えするな!』
ビシッ!
その瞬間、トレーナーと思われる金髪の女性が、鞭でウマ娘の顔を殴りつけていた。
予告詐欺かと思わせといて、内容は大体合ってる罠。