ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
後ろの娘達は大丈夫か?まだ距離があるぞ!
先頭が坂に差し掛かるが、一頭もの凄い足で来たぞ!
ヘルメスが来た!ヘルメスが先頭に並びかける!
坂を登り切り、一気に突き放す!
今ヘルメスが一着でゴールイン!
朝日杯フューチュリティステークスは、ヘルメスが制しました!
そして2着にはユキノテイオーが入りました!
アルさんが全日本ジュニア優駿に勝った後、すぐに週末の朝日杯も終わりました。
結果はヘルメスさんの差し切り勝ち。
トップスピードに乗った時は、流石に速かったですね。
そして、世間は有馬記念一色になっています。
ただでさえファン投票で選ばれた人気のウマ娘達が集まるレース。
それに加えてヒヌマボークさんの秋シニア三冠がかかり、二冠ずつ分けあったシルさんとマキシマム先輩の決着のレースでもあります。
…あまりにも有馬記念が盛り上がり過ぎて、エンブレムさんが出るホープフルSの影が薄い感じになってるのはかわいそうですけど。
「マキシマム先輩、頑張ってくださいー。ついでにエンブレム先輩も頑張ってー」
「シルフィード先輩との決着、楽しみにしてます。エンブレム先輩はまぁ勝ってきてください」
「ヒヌマボークさんも強いですけど、先輩が勝ちますよ!あとエンブレム先輩も」
「なんでやぁ!うちもG1に出るんやで!!」
アルタイルも、とても仲良しです。
…
有馬記念に向けて、うちのチームもミーティングをしていますが、現在は展開の予想が行われています。
ひかりさんが話す一番あり得る予想は、原作で予想されていたのと同じです。
ヒヌマボークさんとマキシマム先輩が競り合ってレースを引っ張り、最後の直線でシルさんが並びかけてそのままゴール。
でも私は原作知識から、それでは勝てないと何となく実感している。
じゃあどうすれば良いのか?
白い稲妻と言われる末脚は、母から受け継がれた出遅れ体質の所為でそれしか方法が無かったために生まれたもので、実は強みではない。
まぁ鍛え上げられた末脚は武器の一つではあるのですが。
原作を思い返せばシルさんの真の強みはどれだけ距離が伸びても、どれだけばてていても、どれだけ不利を受けても、最後に根性を出して差し切ろうとする精神力の強さだ。
ならば、こうすればどうだろう?
そう思って発言した私の言葉は、ひかりさんや他のチームメンバーにも受け入れられた。
…
「はぁ~い、今日もブスっと大成功。シルちゃんは疲労無く有馬記念に臨めるわよぉ~」
「安心沢さん、ありがとうございます!」
うちの部室の隣のテントで、シルさんが有馬記念に向けて疲労を回復する秘孔を打って貰っていた。
最初は怪しんでいたデネブのメンバー(あとマキシマム先輩)も、私が足繫く通う様子と、実際に安心沢さんと関わって人柄を理解する事で、今では気軽に利用している。
ちなみに秘孔のメニュー表と言うのがあり、選択肢は多岐にわたっていますが、『疲労を回復する』と『調子を上げる』以外選ばせない様に皆に周知しています。
難しい秘孔は高確率で失敗する事を知っていますからね。
「シルさん、あと数日で有馬記念ですね」
「そうだね~、菊花賞からあっという間に年末になった気がするね」
毎日の練習に加え、毎週行われるG1レースを見たり応援したりしていると、あっという間に時は過ぎていきます。
有馬記念が終わればその流れも一段落しますが、それからすぐに新しい年が来ることになります。
「来年は今年より大変になりそうな気はするね。アルちゃんのクラシックもそうだし、ストちゃんの世代は何となくもっと厳しくなる気もしてるし」
シルさんの予感に頷く私。
私は知っています、以前アルさんの口から漏れた妹の存在を。
それはつまり、高確率で来年ジュニアとなる世代にあのウマ娘達が参戦すると言う事。
まぁまだ影も形も見えていないですが、私の予想では来年ジュニアとなる世代は六強~八強と呼ばれても可笑しくないウマ娘の集まりになるでしょう。
それでも、素質で言えばストさんはトップクラスな気がしますけどね。
ふと、シルさんが難しい顔をする。
「アルちゃんはクラシックに行くし、ストちゃんはジュニア世代はそもそも選択肢が少ない。でも私は来年どうすべきかな~」
「急にどうしたんですか?」
シルさんの問いかけに、私はあり得た未来を思い浮かべる。
「マックスとも話すんだけど、海外遠征のプランを聞くんだ。」
それは私もマキシマム先輩の口から直接聞いている。
そして原作で故障していなければ、マキシマム先輩が通った道でもあるでしょう。
「シニアの王道を進む、それが当然の様に思っていたけど、そこにマックスは居ないかもしれない」
マキシマム先輩が海外遠征をすると言う事は、当然国内のレースにマキシマム先輩は出ません。
「マックスと競い合えなくなったとき、ボクはモチベーションを保てるかなって」
その言葉に、私が答えられる事は無かった。
有馬記念の数日前、三強と呼ばれるウマ娘達のトレーナーが集まって乾杯をしていた。
お互い良き友人である三人は、もちろんそれぞれのレースプランなどは話しはしないが有馬記念へ向けて盛り上がっていた。
そして自然に話題は有馬記念の後の事になる。
「有馬記念に勝ったら、ヒーちゃんは海外遠征するわよ~。国内に相手が居なければ外に眼を向けるでしょうからね~」
「うちのマキシマムも、勝てば次は海外だな。あの娘ならアメリカでも活躍できると、私は信じている」
2人のトレーナーから、海外遠征のプランが出てくる。
偶然にも2人の目標は重なっている。マキシマムとヒヌマボークはスピードと闘争心に優れるため、スピードを活かせるアメリカのレース場でアーリントンミリオンとBCターフを目指すプラン。
盛り上がる2人の話を聞きつつ、ふと言葉を漏らす残りの1人。
「…海外遠征か」
ひかりもまた考えていた。パワーとスタミナに優れるシルフィードに、最も適した舞台の事を。