ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
「やったで!G1勝ったで!」
「それじゃー、有馬記念の為に移動ですねー」
「エンブレム先輩はウイニングライブがあるから、私たちは先に寮に戻ってます」
「ぷひーっ。すみません、電車に遅れちゃうんで…」
「なんでや!?」
ホープフルSはブルーエンブレムさんが勝ったようですが、1日後の有馬記念の準備のためにチームベガのメンバーは移動が大変そうでした。
ウイニングライブまで行ったエンブレムさんは、慌ただしくも電車に乗って帰ってきたようです。
そして有馬記念の行われる中山レース場。
私たちデネブのメンバーもまた朝から場所取り争いですが、周りを見ると何時もと雰囲気が違います。
三強と呼ばれるウマ娘が所属するアルタイルとベガのメンバーは元より、有馬記念には出ないカザマゴールドさんやシャオツァンロンさん(+カノープス)、それに…
「リギルとかスピカも来てますね」
「まぁシルさん達はドリームトロフィーでも強敵になるだろうし、お手並み拝見って事じゃ無いんか?」
シニアシリーズを卒業したウマ娘達が集まる、ドリームトロフィーシリーズ。
過去の名ウマ娘達がてんこ盛りのそちらのレースは、三冠馬だろうと簡単に勝てないだけの錚々たるメンバーが揃っています。
言うなれば、毎レースが有馬記念ないし宝塚記念と言う感じでしょうか?
さて、これだけのメンバーが揃った場所取り争いは、もはや第二のグランプリ『場所取り障害特別』とでも言うべきでしょうか。
もしくはお正月のある神社の福男を決めるアレを想像してしまいます。
さてもうすぐゲートが開きますが、うちのチームは代表してマキちゃんが場所取りに行くようです。
入口の前の方をチームで占拠してしまうのは他のチームに対して迷惑ですし、一般のお客さんにも悪い印象を与えかねないので、特にお客さんが集まるダービーや有馬記念では学園の暗黙の了解として決められています。
なので代表で一人が前に行くのですが、アルさんはレース後の日も短く疲労も残ってるだろうし、ストさんは元々面倒くさがりなのでこうなりました。
私?
私はこんな豪華なレース?は、当事者じゃなくて一歩引いたところから見たいですから。
前の方を見ると、アルタイルはカスケードさん、ベガは見たことが無い芦毛の娘、カノープスはシャオツァンロンさん…じゃなくてツインターボさんがいる。
他にもカザマゴールドさんやらスペシャルウィークさんやらエルコンドルパサーさんやら…あっ、エルコンドルパサーさんはトレーナーに引っ張られて下がっていきました。
どうやらエルコンドルパサーさんがスペシャルウィークさんと走りたかっただけで、リギルは特に場所を気にしてない様子です。(まぁチーム内で有馬記念に出ているウマ娘も居ませんし)
「開場しまーす」
さぁ、ゲートが開きました。
まず飛ばしたのはカザマゴールドさん。流石の快速逃げ馬ですが、ツインターボさんがそれを追い越して大きくリードをとろうとします。
…いや、距離がいつものレースより短いって言っても、無理なペース過ぎません?
カザマゴールドさんの後ろに着けたのはカスケードさんとベガの娘。
更にその後ろからマキちゃんとスペシャルウィークさんが着いていく展開ですね。
他のウマ娘や一般のお客さんは、着いて行けていない様子です。
「あの馬鹿…」
ゆっくりめに進む私の隣でナイスネイチャさんが呟きますが、先頭だったツインターボさんは早くもばててます。
あっという間に二番手集団どころか、一般のお客さんにも抜かれる始末です。
まぁツインターボさんは、持久走大会でスタート直後にラストスパートする様な生き様(走り様)ですからね。
さて一歩引いて観られたのはここまでで、先頭集団は人混みもあってもう眼には見えません。
後は結果を現地(スタンド)で確認しましょう。
…
ゴール前の一等地を確保したのはスペシャルウィークさんでした。
後からトウカイテイオーさんとメジロマックイーンさんが小さい娘の手を引いて来たので、キタちゃんサトちゃんに良い場所で見せたくて頑張ったのでしょう。
ゴールより少し手前の中山名物の坂の辺りに、ベガの娘が居ます。
勝負所での応援を優先しての場所取りでしょうか。
カザマゴールドさんは同期の娘と椅子の席を確保していますね。
クラスの代表となるシルさんとマキシマム先輩を応援する感じでしょうが、最前列は譲ってくれた感じでしょうか。
香港シリーズの疲労もあるでしょうし、座れる席が良かったってのもあるかも知れません。
そして、マキちゃんとカスケードさんは、ゴール前のターフビジョンが良く見える位置に居ます。
レースを見るのに絶好の位置が無事取れましたね。
ちなみにリギルの方々は近くに居ません。恐らく指定席とかの方に行ったのでしょう。
それはエルコンドルパサーさんが止められるわけですね。
…
「「「「シルさーん!頑張って!!」」」」
「「「「マキシマム先輩!勝ってください!!」」」」
「ボーク先輩!ファイトです!!」「「「ボーク先輩無理せずに~」」」「有馬記念なんだから、お前たちはもう少し気合入れるんでぃ!」
各チームごとに応援が飛んでいるが、すでに本馬場入場が始まっています。
シルさん・マキシマム先輩・ヒヌマボークさんの3人が足を止めて顔を見合わせていますが、それぞれが笑顔で去っていきます。
レース前の緊張も無くて、全力が出せそうな雰囲気です。
ふと、出走している他のウマ娘を見廻すとそちらも錚々たるメンバー。
去年のダービー馬レッドドラゴンや、シニアの実力者イダテンアローやランバージャック。今年の天皇賞(春)やオークスを制したウマ娘もいる。
出てくるウマ娘全てがG1級の実力者なのは、まさにグランプリの名に相応しいと言えるでしょう。
いくらあの3人の実力が抜けていても、展開次第ではまさかがあるのが競馬…そしてウマ娘のレースだ。
ゲームで育てていた娘が、実力的に抜けているのに掛かったり前が壁になったりで負ける光景も何度も見た。
それでもあの三人の誰かが勝つとは思いますが、ここから先は誰にも解りません。
そして、このレースの結果次第では…
考えに浸りそうになったその時、発走前のファンファーレが鳴ります。
皆の夢を乗せて、有馬記念が始まる。