ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。   作:湯川彼方

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有馬記念(中等部1年)前編~競り合い

 レース前、ボクはマックスとヒヌマボークさんと顔を合わせる。

 

「あぁ、ようやくあなた達と走れます。あの日…ダービーであなた達を見た日から、あなた達相手なら私も本気を出せると…出しても良いと思いました」

 

 そう言ったヒヌマボークさんは、長く伸びた前髪をかき上げてヘアピンで止める。

 今はじめてハッキリと見るヒヌマボークさんの瞳は、紅く光って見える。

 

「だから、ちゃんと着いてきて下さいね。手加減は一切出来ませんよ」

 

 その言葉に、まずマックスが答える。

 

「ヒヌマボーク先輩、あなたの秋シニア三冠は私が止めます。それにシル。菊花賞では情けない姿を見せたが、今日は私が必ず勝つ」

 

 二人の身体からオーラが噴き出てるのを感じる。

 

 この二人の凄さは良く知っている。

 そんな二人と真剣勝負ができる。

 ボクに勝とうと本気を出そうとしてくれている。

 

 ならばボクの答えは…

 

「うぅん、勝つのはボクだよ。ボクが必ず2人に勝って見せるよ!」

 

 二人に…勝ちたい!

 

 そう思うと、自然と笑顔が出て来た。

 

 

 

 

「ひかり。今日のレースプランはどうなの?」

「あっ、それは私も聞きたいわ~」

 

 発走直前、並んで応援している私たちとアルタイルのメンバーですが、ベガのトレーナーのはるかさんも来て、トレーナー三人で話をしています。

 

「そう言うあなた達はどうなのよ」

「ヒーちゃんはいつも変わらないわよ~。あの娘は自分より前に行かれるのが大嫌いだから~」

「マキシマムも変わらないな。自分のペースで進み、そして押し切る。それがあの娘のレースね」

 

 どうやらシルさん以外の二人は、いつも通りのレースをする様です。

 

 まぁ全力を出し切るためには、それが一番良いのかも知れませんよね。

 一番練習してきた事が、本番で一番楽に出せるでしょうから。

 

「「それで、シルフィードは?」」

 

 恐らく、この二人は解っているから聞いているんでしょう。

 

 最初に原作で見たシルさん…シルフィードは、追い込み一辺倒の不器用な馬だった。

 でも成長していく中でスタートが改善し、他の馬よりスピードとスタミナがある事で、自然とポジションを上げた競馬をする様になる。

 そして理由もあっての事ですが、最終的には逃げでヒヌマボークに勝ち、世界も逃げで制する。

 

 だから、実はシルさんはレースに関しては凄い器用なウマ娘なのだ。

 

「今日のシルフィードは…逃げるわよ」

 

 

 

 

さぁ、ファン投票で選ばれたウマ娘達が一堂に集う有馬記念。

ゲートインが完了しまして…スタートしました!

 

先頭は…なんとシルフィードが行きました!

続いてヒヌマボークとマキシマムが続く!

 

他のウマ娘は控えています。

 

 

 

 

 ひかりさんが言っていた。

 

 ボクが二人に勝っているのはスタミナと加速力。

 だったら、ボクが勝つために一番良いのは逃げる事。

 

 そうすれば自然とマックスもヒヌマボークさんも着いてくるから、そこをスタミナ勝負で競り勝つ。

 

 それがボクのレースプランだ。

 

 

 

 

 驚いた。

 

 はるかさんにその可能性があるとは聞いていたけど、まさかシルフィードさんの方が逃げるなんて。

 

 私に競り合ってくるのは、マキシマムさんの方だと思ったんだけど、競り合うどころか先に行かれるなんてね。

 

 そんな楽しい事をしてくれるなら、私も応えてあげなきゃいけないじゃない。

 

 さぁマキシマムさん、着いてこれないなら置いて行きますよ?

 

 

 

 

 私の前で二人が競り合って速度を上げていく。

 

 シルが逃げる可能性は私も考えた。

 菊花賞のラスト、正直言って脚が万全でもシルに勝てたかは解らない。

 

 スタミナなら、私はシルに負けているだろう。

 だから、スタミナ勝負に持ち込む可能性の一つとして、逃げはあり得ると思った。

 

 そして、ヒヌマボークさんもそれに応えて競り合っている。

 

 

 このまま自分のペースを守れば、二人は競り合いでスタミナを使って速度を落としてくれる可能性が高いだろう。

 

 

 それで良いのか?

 

 

 それで勝って、胸を張って海外遠征に何て行けるのか?

 

 

 私は…そんな勝ちはいらない!

 

 

 

 

なっ…なんと、先頭のシルフィードにヒヌマボークとマキシマムが競り合って、そのまま後続を引き離していきます!

 

後ろの娘達は着いていかない!

いや、着いて行けないのか!?

 

どんどん引き離し、先頭と後続の差は10バ身から15バ身…いや、もっと離れていく!!

 

 

 

 レース前のプラン通り、シルさんが逃げてマキシマム先輩もヒヌマボークさんがそれに競り合ってくる。

 

 ひかりさんの予想通りの展開だ。

 

 でも…

 

「あらあら~、ひかりの思い通りのレースになったわね~」

「そうだな、スタミナならシルフィードが抜けているだろうからな」

「…何を言ってるのよ、少しも慌てていないくせに」

 

 そうだ、この二人のトレーナーは、少しも慌てていない。

 

「ひかりは見誤って無いかしら?ヒーちゃんは負けず嫌いだから、どんな勝負になっても最後は必ず勝つわよ~」

「マキシマムの闘争心もだね。皐月賞やダービーを忘れたのかい?」

 

 ふと、後ろを向いてトレーナー達の姿を見る。

 ひかりさんは拳を握って応援するが、その拳は痛いほどに力が入っている。

 ひびきさんは腕を組んで動じてない様にも見えるが、よく見れば手が震えている。

 はるかさんは笑顔でレースを見ているが、その額には汗が滲んでいる。

 

 三人とも、自分のウマ娘を信じているのは確かだろう。

 だけど、それと同じくらい他のウマ娘の強さも理解している。

 

 だから慌てはしないが、それでも不安があるのは確かなのだろう。

 

 

『ワァーーー』

 

 

 中山レース場に歓声が巻き起こる。

 先頭の三人が第3コーナーから第4コーナーに差し掛かって来る。

 

 後ろとの差は20バ身以上。しかもまだジリジリと差が開いている様にも見えます。

 直線の短い中山でこの差は、もう勝つのは前の三人に絞られたと言って良いでしょう。

 

 最後の直線勝負、誰が勝つのかよそ見出来ません!

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