ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。   作:湯川彼方

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それでも未来は、輝き過ぎる。

『ヒヌマボークさん、有馬記念1着おめでとうございます!』

『ありがとうございます。強い娘達と競えて一着をとれて嬉しいです』

 

 わぁぁぁ!!

 おめでとー!

 せんぱーい!

 勝ったんだから、しばらく休みましょー!!

 

『見事に秋のシニア三冠を達成されましたが、来年の目標はいかがでしょうか?』

『来年は春のシニア三冠を取って、王道完全制覇を目指します。その為にも、またすぐにでもトレーニングしていきます』

 

 おぉぉぉ!!

 また練習に付き合わされるー!!

 おにー!しにがみー!せんぱいー!!

 お前たち、静かに聞きやがれぃ!!

 

『あのテイエムオペラオーさんしか達成していない、シニア王道完全制覇ですか!?勝つ自信はおありですか?』

『えぇ、いつも勝つつもりで走っていますから。でも今日一緒に走った二人みたいに、阻止しようとしてくれる娘はいつでも募集しています』

 

 

 

 

 ウイニングサークルで、ヒヌマボークさんの勝利者インタビューが行われている。

 私達は、モニターを通してその光景を見ています。

 

 チーム全員でシルさんの控室に来ましたが、私たちが入った瞬間に、シルさんはひかりさんに抱き着いて泣いています。

 

「ひかりさぁぁぁん、ボクは間違ってたんですかぁぁぁ?」

 

 ひかりさんは、シルさんの頭を優しく撫でながら諭す様に語り掛けます。

 

「シルフィード、お前は間違ってないよ。ただ、友情と勝負は別だろう?お前も解っていた筈だ」

 

 そう、仲の良いクラスメイトでもレースになれば競い合うライバル。

 それはウマ娘としての宿命であり、私もフェアちゃんとはそう言う関係だと思っている。

 

 ただ、シルさんはマキシマム先輩に依存していた。

 依存し過ぎていたんだ。

 

 思えば、皐月賞の頃。

 まだマキシマム先輩を誤解していた時から、シルさんのレースはマキシマム先輩に勝つことが第一でした。

 

 そしてそれは、有馬記念でヒヌマボークさんと言う強敵が現れても変わりませんでした。

 

 その結果、ヒヌマボークさんのスパートに一瞬着いて行けなかったのが今回の敗因と言えるでしょう。

 

“マックスと競い合えなくなったとき、ボクはモチベーションを保てるかなって”

 

 私は、その兆候を見ていた筈なのに何もできませんでした。

 

 あの時、何て言えばシルさんが納得したのか。

 私には未だに解りません。

 

「解ってるのにぃ、こんなんじゃぁ、マックスに嫌われちゃうぅぅ…」

 

 今まさにシルさんの弱い部分が出ていますが…

 勝利者インタビューの様子を写すモニターには、今度はそのマキシマム先輩の姿が見えます。

 

『マキシマムさん、有馬記念1着おめでとうございます!』

『ありがとうございます。出来ればヒヌマボークさんにも勝ちたかった所ですけど、流石に強かったです』

 

 シルさんは、モニターから流れるマキシマム先輩の声に反応しますが、ひかりさんに抱き着いたまま顔を埋めており、モニターを見ようとはしません。

 

 モニター越しのマキシマム先輩の様子は、いつも通りに威風堂々と言った感じです。

 インタビュアーは、ヒヌマボークさんにも聞いていましたが、来年の予定について質問しました。

 

『来年は海外遠征を予定しているとか?』

『えぇ、ひびきさんとも相談していますが、休養をはさんでまずはドバイに行く予定です』

 

 マキシマム先輩の海外遠征の話を聞き、シルさんが震えています。

 

 

 ですが…

 

 

『では、来年の目標は海外G1制覇と言う事でしょうか?』

『…いや、私の目標は次もシルに勝つことです』

 

 次の言葉を聞いたシルさんの身体から、震えが止まりました。

 そして、ゆっくり顔を上げてマキシマム先輩の写るモニターを見ます。

 

『えっ、でもシルフィードさんは海外遠征の話は聞いてませんが…』

『何処で闘っても、私は彼女と競っているつもりです。私がドバイで…海外で勝つのなら、きっと彼女も大きなレースに勝ってくれるでしょう。そして、またどこかで一緒に走れれば嬉しいです』

 

 何処で走っていても心は一緒だと。

 

 私には、マキシマム先輩がそう言ったように聞こえました。

 

「マックス…」

 

 マキシマム先輩の言葉に、シルさんの眼にまた涙が溜まる。

 だけど、この涙は悔し涙じゃない。

 

「シルフィード、マキシマムにここまで言われて…いや、ここまで言わせてそれでもまだ泣くか?」

 

 シルさんはひかりさんの言葉を聞き、抱き着いたまま腕で涙を拭う。

 

「うぅん。ごめんなさいひかりさん。それに皆もごめんなさい」

 

 その顔は、ようやく晴れやかな物になっています。

 

「ボクは、これから先もマックスと競っていく。でもそれはどこで走っていても気持ちは一緒ってこと。だったら、ボクもマックスに負けないくらい大きなことをやりたい!!」

「…あぁ、そうだな。私もシルフィードに合った道を考える。だから一緒に未来へ進んでいこう!」

 

 そう言ってひかりさんは、より強くシルさんを抱きしめる。

 

 

 二人の世界に入りかけている様子を見て、ストさんが茶々を入れる。

 

「おいおい、私も来年デビューなんですよ。シルさんばっかりにかまけ無いでくださいよ~」

「ストさん、心にも無い事を言うんじゃないのね」

「「「あははは」」」

 

 これはストさんなりに空気を軽くしようと言う気づかいだろう。

 それを解っているから、みんな笑っている。

 

 そして…

 

「シルさん、私も居るんですよ」

「…アルちゃん」

 

 それまで黙っていたアルさんが、シルさんに声を掛ける。

 

「私は来年、大きなレースを勝って有馬記念に出ます。そこで、私とも競い合ってくれますか?」

 

 チームで一番歳が近く、そして恐らく一番一緒に練習してきたアルさん。

 ある意味マキシマム先輩以上にシルさんと親しいと言える娘の言葉に、シルさんは笑顔で応える。

 

「うん!もちろんだよ!!」

 

 もう、シルさんは前(未来)しか見ていない。




負けたからこそ、学べることもある。
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