ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。   作:湯川彼方

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靴の改革が、広がり過ぎる

 

 その日、私は練習を早めに切り上げて寮へ帰ろうとしていた。

 

 

 ですが、入口へ向かって歩いていく途中で、不意に私の前に立ちふさがる影に気づきます。

 

 そして、顔をあげるとサングラスとマスクを装着した妖しいウマ娘が5人。

 

 …あれ?どこかで見たことある光景だな~。

 

「ウオッカ、スカーレット、スペ、テイオー、やっておしまい!」

「えぇ!?なんでわたし~~~~」

 

 あっという間に袋を被され、担がれてしまった。

 

 

 

 

「いや~、すまね~な。じっくり話をするのに、うちの部屋まで来て貰おうと思ってさぁ」

「いや、言ってくれればいくらでも着いて来ましたけど…」

 

 私はスピカさんの部室へ連れて来られました。

 逃げないと解ったためか、特に拘束などもされていません。

 

「それで、何の要件でしょうか?」

「あぁ、まぁ頼みたいことがあってな…」

 

 ゴールドシップさんが代表して話をしてきます。

 頼みと聞いて、一瞬芦毛の会の事を思い浮かべますが、それならここじゃ無くて会の方に連れて行くでしょう。

 

「まぁ単刀直入に言うと、靴の話だ」

「靴って言うと…あぁ~」

 

 私への話で靴と言えば、UMIKEの厚底勝負靴の事でしょう。

 今の所あの靴を履いているのは、うちのチームのメンバーとマキシマム先輩だけ。

 

 この前、入試の手伝いの時にスピカと一緒だったこともあり、誰かから靴について聞いたのでしょう。

 

「マキシマムが有馬記念で急に靴を変えたけど、確かあいつは脚を怪我してたはずだ」

「…よくご存じですね?」

 

 ゴールドシップさんは、どこから情報を仕入れてくるのか凄い情報通だ。

 まぁ、マキシマム先輩の怪我が良くなった一番の原因は安心沢のおかげですけど。

 

「妙に厚っこい靴底が気になったけど、アレは脚への反動を抑えるためだろ?」

「凄いですね、見ただけで解るなんて」

「まぁゴルシちゃんにかかれば、それくらい解るさ」

 

 それにしても鋭すぎる。

 この人は私の転生前の世界とか未来から来ていると言われても信じちゃうくらいに。

 

「それでだ、一つ頼みがあるんだ。あの靴をうちのチームでも使わせてほしい」

 

 そして、この靴を一番求めている人がここに居るのは知っていた。

 

「それは、テイオーさんの為ですよね?」

「…お前も中々鋭いよな。(例の会での考察も的を射てたし)」

 

 トウカイテイオーさん。

 

 柔らかい足首で、天才的な大跳び走法をするウマ娘。

 ですが、その走法のせいで体に負担が掛かり怪我をし易いと言う、まさに諸刃の剣。

 

 三度の骨折を乗り越え、1年ぶりのレースとなる有馬記念を制したのは感動しましたが、そもそも怪我さえなければ父シンボリルドルフをも超えられたかも知れない馬…もといウマ娘です。

 

 …アニメの最終回は有馬記念で終わりでしたが、現実ではその後もレースに出る予定が合ったのに、再度故障をして結局そのまま引退したと言う話もあります。

 

 つまり、ドリームトロフィーシリーズに参戦予定の彼女が、未だに休養中である事からも脚が万全でない事は見て取れます。

 

「頼む!テイオーの為だと思って一つ!」

 

 ゴールドシップさんは、頭を下げて頼んでくる。

 それに続いて、テイオーさんを始めに他のスピカの娘達も頭を下げる。

 

 そんな事しないでも、私の答えは一つです。

 

「良いですよ」

「何なら…って良いのか?」

 

 私があまりにもあっさりOKを出すことで、ゴールドシップさんは拍子抜けした顔をしている。

 

「あの靴は秘密兵器的な奴じゃないのか?」

「いえ、元々ウマ娘の故障を予防するのに広めようと思ってましたし、まだ試作段階だから身内に試して貰ってるだけで、履いてフィードバックしてくれるなら歓迎です」

 

 そうです。

 元々はシルさんの重心の調整に加えて、アルさんの故障予防の意味で開発を進めましたが、マキシマム先輩に紹介したように別にうちで独占したい訳じゃ無い。

 むしろ、他のウマ娘の故障予防になるのなら、どんどん広めて行きたいところだ。

 

 …現実の競馬も、どれだけ練習方法や医療が発展しても故障は無くなってませんから。

 

「それにあくまで私は案を出しただけで、開発しているのはUMIKEの方々ですから、私が独占する事は出来ないですよ」

「…お前、良い奴だな。よし、私の事はゴルシと呼べ!」

 

 何か、ゴルシさんに妙に気に入られてしまいました。

 

 

 

 

 数日後、私は靴のサンプルを持ってスピカが練習している場所にお邪魔しています。

 

 とりあえず、さっそくテイオーさんに靴を履いてもらっています。

 

「うーん、何かこれ少し歩きづらく無い?」

「まぁ底が厚い分、慣れるまでは少し浮いている感じがするかもしれませんね」

 

 つま先も少し浮いてますし、今まで地面の感触を大事にする薄底の靴を履いていた人ほど違和感はあるでしょう。

 

「その靴の正しい走り方は、なるべく歩幅を開ける様に大きく走る事。実はテイオーさんに一番合ってる靴だと思ってます」

 

 反動を抑えつつ、その反動を走る速度に変えるためには、なるべく身体全体を使った大きな走法が望ましいです。

 それは、まさにテイオーさんの走り方だったりします。

 あとはチームが違いますがシャオツァンロンさん何かも、走法的に効果が実感しやすいかも知れませんね。

 

 他に注意するのは…

 

「それと、つま先から地面に着地する事です。そうする事で足全体に負荷が分散して、特に踵から着地していると負荷が大きい足首の故障が減ると思います」

「ふむふむ、まぁ一回走って来る!」

 

 そう言って、テイオーさんはコースをダッシュしていきます。

 

『あぁ~、脚が痛くないぞ~!』

 

 遠くから聞こえてくるテイオーさんの声に、どうやら靴が合っていたのかすぐに効果を実感している様子です。

 …本来そんなすぐに効果が出るような物でも無いのですが、まぁ気分的な効果もあってだと思います。

 

「…あれだけやる気があるテイオーさんは、久しぶりかも知れませんね」

 

 走っているテイオーさんを見て、マックイーンさんが嬉しそうに微笑んでいます。

 早く見たいですね、またこの二人が競い合う所を。

 

「ところでイッキさん、その靴はわたくしの分もあるかしら?」

「あ、ゴルシちゃんも欲しいぞ~」

「もちろんです。と言うか、折角だからスピカ全員の分持ってきましたよ!」

 

 私は持ってきた段ボールを開いて、マックイーンさんとゴルシさんのサイズの靴を渡す。

 

 受け取った二人は、何やら顔を見合わせて頷きます。

 

「「(この娘、やはり芦毛の会に必要な娘かしら(かな))」」

 

 何となくですが、またどこかでフラグが立った気がします。




 スピカの練習場から寮へ帰ろうとする帰り道、イッキの前に立ちはだかる4つの影。

「マチタン!シャオ!ロン!連れて行くのだ!」
「今度はカノープスぅ~~~~」

 こうして、靴の流行が広がっていく。
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