ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
マキシマムは、ドバイの地にカザマゴールドとそのトレーナーと共に辿り着いた。
ドバイ国際空港に降り立った一行を迎えたのは、帽子とサングラスを着けた一人のウマ娘だった。
「あなたがマキシマム?」
「あぁ…まさか君がひびきさんの知り合いの迎えかい?」
そのウマ娘の姿を見て、カザマゴールドとマキシマムは冷や汗を流す。
鍛え上げられた身体と、二人を値踏みするような威圧感にただ者では無い事を直観する。
「そうよ、日本のウマ娘がどんなもんか気になって、わざわざ来たのよ」
帽子をとったそのウマ娘の顔を見て、マキシマムは気づいた。
「去年のイギリスダービーウマ娘が直々にお出迎えとは、痛み入るね」
世界で最も権威があるレースとも言えるイギリスダービー。
そのレースで20バ身差をつけて圧勝した、欧州最強ウマ娘。
その名前は…
「あら、私を知ってたのね。…ラシューバよ、よろしくね」
そう言って右手を差し出すラシューバの手を、マキシマムが握り返す。
「あぁ、マキシマムだ。よろしく」
2人が握手をした時、ラシューバもまたマキシマムの強さを肌で感じていた。
ちなみに、カザマゴールドは二人の雰囲気に圧倒されてあわあわしていた。
…
ラシューバに案内された先は、トレセン学園をそのまま移したかの様な巨大なトレーニング施設。
そこは、ラシューバのトレーナーが自分のチーム専用に作った施設であった。
そしてラシューバは、まずはそのトレーナーへ挨拶するために案内をした。
「ははは、ようこそドバイへ。マキシマムとカザマゴールドだったかな?二人とも有力なウマ娘だと聞いてるよ」
マキシマム達を笑顔で出迎えたラシューバのトレーナー。
その首元には豪華な宝石が付いた首飾りをしており、それだけを見ても彼女が資産家である事が理解できる。
「私はサラ・アルフィン。ラシュのトレーナーで、一応この国の王族なんてやってるわ」
「はじめまして、マキシマムです。」
「こっこんにちは、カザマゴールドです」
サラに挨拶をする二人であるが、カザマゴールドは王族と言う言葉を聞いて緊張していた。
「ははは、そんな緊張しなくていいよ。王族って言ったって、金があるだけでそう大した者じゃないからね」
そう言ってカザマゴールドの肩をバンバンと叩くサラ。
そのサラに対して、マキシマムは日本から持って来た手紙を渡す。
「サラさん、ひびきさんからこれを預かっています」
「ヒビキから?ありがとう、後で見とくわね」
それを受け取ると、サラは二人にこの施設のガイドブックの様な物を渡す。
あまりにも広大な施設のため、本来はチームに入りたての娘が迷わないように作ったものだ。
「ここは私のチームの練習場だけど、ドバイミーティングまでの期間は好きに使ってくれて構わないよ」
広大な土地に最新の設備を揃えた練習場を、惜しげもなく自由に使うように言うサラ。
ちなみにこの施設はオフシーズンの練習を行うための施設であり、レースシーズンにはイギリスのニューマーケットにある、同規模の施設が本拠地となっている。
サラの厚意に対して、マキシマムは更に図太くお願いをする。
「ありがとうございます。…ところで、練習パートナーもお願いして良いですか?」
帯同馬ではあるが、マキシマムとカザマゴールドは出るレースが違う。
練習の内容も変わって来るため、お互いを練習パートナーにするには、やや問題があった。
まぁお互いに走れる距離に幅があるウマ娘であるため、やれない訳では無いのだが。
「うんうん、うちのチームはたくさんの娘が居るから、誰でも好きに選んで良いわよ」
マキシマムのお願いに、快くOKを出すサラ。
そして“誰でも好きに”と聞いたマキシマムは、当然のようにあるウマ娘を指名する。
「じゃあ、そちらのラシューバさんにお願いしたいです」
それを聞いて、今日一番の笑いを見せるサラ。
「ははは、さすがヒビキのチームの娘ね。もちろん良いわよ」
「ちょっとサラさん、勝手に決めないでください」
サラの言葉に、ラシューバはやや不満げな様子を見せる。
しかし、ニヤニヤしたサラは気にせずにラシューバの耳元で言葉をかける。
「そんなこと言って、本当は気になってるんでしょう?マキシマムのこと」
「…まぁそうですけど」
心の内を見透かされてラシューバは、頬を膨らませて抗議する。
だが、マキシマム達が居る事を思い出し、咳払いをして振り返る。
「まぁ良いわ。2人とも施設を紹介してあげるから着いてきて。カザマゴールドにはマイルが得意な娘も紹介するわよ」
そうして、ラシューバは二人を連れて出て行った。
…
マキシマム達がドバイに着いた日の夜。
ラシューバはサラの元を訪れていた。
「ラシュ、マキシマムはどんな感じ?」
ラシューバの顔を見て、ワインを片手に質問をするサラ。
マキシマム達は着いて早々だが軽く練習をしており、ラシューバもそれに付き合っていた。
そしてラシューバは、握手をした時に感じた通りの強さを肌で感じる事になった。
「正直言って、ヨーロッパのウマ娘達よりよっぽど強いわよ。あの娘、本当にジャパンのウマ娘なの?」
ラシューバはけして世辞を言わないウマ娘であり、それを知っているサラは少し驚いた顔をする。
「そう、そんな強い娘なの?それならラシュもシーマクラシックに出せば良かったかしら?」
ラシューバはオフシーズンを休養に当てており、ドバイミーティングに出場する予定は無かったが、強いウマ娘と走らせ…そして勝つ機会が欲しいサラは、少しだけ後悔をした。
「…サラさん、よく知らないで受けたの?」
ひびきの頼みで、ひびきが合流するまでのマキシマムのトレーナーを引き受けていたサラであったが、特に事前にマキシマムのレースを見ていた訳では無かった。
「あの娘は日本で私が唯一認める女が関わっているから、それなりにやるとは思ったわよ」
ただ、サラはひびきの事を信頼していた。
ひびきが選んだウマ娘、その中でも海外遠征をさせようとするだけの娘なら、かなりの素質はあるだろうと思っていた。
だがそんなサラの様子にラシューバは呆れていた。
「それでも、もう少ししっかり情報とっときなさいよ」
そう言って部屋から出て行くラシューバ。
その姿を見送った後、ワインを飲み干しておもむろにひびきからの手紙を取り出すサラ。
「ヒビキからの手紙…ね。今時SNSでもメールでも連絡できるのに、相変わらず古風だわね」
手紙の中を見るサラ。
その表情は、手紙を読み進めるにつれて険しくなっていく。
「…なるほどね~。ネットを介したくない意味も合ったわけね。それなら私も準備しましょうか」
サラは準備する。
「ここは私の庭よ。躾のなってないヤンキーに好き勝手させないわよ」
自分の愛するウマ娘の世界に存在する、害虫を排除するために。
ウマ娘名鑑その10
ラシューバ(風のシルフィード)
シルフィードの欧州遠征編でのライバルとして登場する馬。前年のイギリスダービーを20馬身差と圧倒的な強さで勝った馬で、シルフィードの欧州デビュー戦でも勝っている。
凱旋門賞での走りは、世の中に半ば絶望していた馬主のサラディンを競馬に熱狂させる程の激走だったが、アクシデントの影響もあり3着に終わる。
その後、ジャパンカップではヒヌマボークに負けているが、これは馬場適性の差と故障明けの影響もあったと思われるため、欧州で闘っていればラシューバが勝っていたと作者は考えている。
容姿(ウマ娘)
セミロングで癖っ毛な金髪で、右耳に月の形をした飾りが着いている。
顔立ちは険しい表情をしている事が多いので目も釣り目の様に見えるが、実はそうでもなく表情が柔らかな時は目がパッチリした美人。体格は小柄で筋肉質だが胸は大きい。
普段着は袖がフリルになっているシャツにホットパンツ。
勝負服は赤黒チェックのスカートに、黒いブレザー状の上着。スカートと同じ柄のネクタイをしている。