ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
マキシマム先輩の凶報に対して、私以上に動揺しているのはシルさんだった。
今すぐにでもドバイに行きたい気持ちもあったでしょうが、週末にはシルさんが走る予定の阪神大賞典があった。
怒りを、焦りを、全て心の奥に一度しまい込んだシルさんは、阪神大賞典を鬼気迫る表情でレコード勝ちした。
そして、ウイニングライブに出ないでドバイへ向かおうとする様子もあったが、飛行機の時間は簡単に変えられないとひかりさんに説得され、マキシマム先輩の無事を祈るバラードを歌い上げた。
会場のお客さん達も、マキシマム先輩のニュースを知っている人がほとんどで、中には泣いている人も居た。
…
そして明けた月曜日、私たちのチームはドバイ入りする。
空港から出ると、あらかじめ聞いていた住所に向かってタクシーも使わずに走っていくシルさん。
流石に海外の地で一人で行かせるのは不味いと言う事で、私とアルさんが走って着いていきます。
シルさんに引き離されない様に必死で走る私とアルさんですが、何とか目的地まで着いていくことが出来ました。
着いたのは良いですが、広大な練習場でどこにマキシマム先輩が居るか解りませんでしたが、シルさんが「向こうからマックスの匂いがする」と言って走って行きます。
私たちがそれに着いていくと…
「やぁシル。そんなに急いでどうしたんだ?」
すぐにマキシマム先輩を見つけることが出来ました。
「マックス!心配したよ~!!」
シルさんがマキシマム先輩に抱き着き、それを受け止めたマキシマム先輩はシルさんの頭を撫でています。
「そんな心配しないでも大丈夫だよ。ほら、全然元気さ」
そう言ったマキシマム先輩ですが、左目を覆うように、白い包帯が巻かれています。
果たしてこれはバタフライ効果による影響なのか、それとも原作の強制力からザンジヴァルと闘う相手は左目が見えない状態で走れとでも言うの
か。
…もしそんな強制力があるのなら、これで最後にして欲しいものです。
少なくとも私の大切な先輩が事故に遭うような強制力なら、私は次に神様に会ったら助走してぶん殴る自信があります。
…
その後、無事にチームの皆と合流しましたが、マキシマム先輩の包帯を見て暗い顔をしています。
「マックス、本当に目は大丈夫なの?」
「ふむ、少し腫れてしまっているが…まぁ視力には影響が無いと思う」
それは不幸中の幸いだ。
シルさんは原作で完全に視力を失っていたのを、闘争心だけでカバーした。
それに比べれば、レースまでに左目が見える様になる可能性すらあるだけ、マシだろう。
デネブとアルタイルの全員がマキシマム先輩を囲んで心配しているが、そこにトレーナーの二人が戻って来る。
「みんな聞いて。レースまでの短い期間だけど、デネブはマキシマムをサポートするわ」
「ふざけた真似をしてくれた奴への、一番の仕返しは勝つことだ。妨害した上で負けるなんて、私なら耐えられないからな」
ひかりさんとひびきさんの言葉に、みんなが言葉を返す。
「ボクもそうしたかったよ。さすがひかりさん!」
「私は最初からそのつもりです」
「海外のウマ娘に舐められっぱなしってのもねぇ…少しは気合入れて手伝うよ」
「頑張るのね!」
みんなの気合が入ってる言葉を聞いて、私もまた気合を入れなおす。
「はい!日本のウマ娘の底力を見せましょう!」
その言葉に、ひびきさんは大きく頷く。
「それで、私たちは何をすれば良いですか?」
アルさんの問いかけに、ひびきさんが答える。
「せっかくこれだけのウマ娘が集まっているんだから、本番のレースを想定して練習したいと思う。そこで、みんなには実際の有力ウマ娘を想定した動きをしてもらいたい」
デネブとアルタイルの全員を合わせると10人。
フルゲートの人数には足らないけど、十分にレースになる人数だ。
そしてこれだけのメンバーが集まるのなら、逃げウマ娘も追い込みウマ娘もある程度動きをコピーする事が出来ます。
「レースが終わったばっかりで悪いが、シルフィードにはザンジヴァルを想定した動きをして欲しい」
「ボクは大丈夫だよ。全然疲れてないから!」
シルさんは一番警戒すべき相手であるザンジヴァルさんの役ですね。
まぁこのメンバーの中で最も実績があり、末脚が目立ってますけど逃げ~追い込みまで自由な脚質を持つシルさんなら大丈夫でしょう。
「アルフィーには、フェアリーエリシオを想定してとにかく逃げて欲しい」
「任せてください。それなら得意ですから」
アルさんは、欧州最強逃げウマ娘のフェアリーエリシオさん役ですか。
原作のジャパンカップを思い返せば、フェアリーエリシオさんはとにかく全力で逃げるタイプですし、アルさんに合ってるでしょう。
まぁ、このメンバーの中に他に純粋な逃げウマ娘が居ないのも理由でしょう。
最後に、追い込みウマ娘のパレスシガーさんですが…
「そして、パレスシガー役は…イッキ、君にお願いできないか?」
何故か私が指名されました。
「えっ?なんで私ですか?シルさんはザンジヴァル役をやるから候補から外れるのは解りますけど、末脚の鋭さならカスケードさんやマキちゃんの方が上だと思いますけど」
みんな私より強いウマ娘なので、なぜ私に声がかかったのか理解できません。
そんな私の心情を察してか、ひびきさんが説明を続ける。
「カスケードはここまでのトレーニングに付き合ってきて調子が下がっている。マキバオーは体格が小さすぎて、申し訳ないがパレスシガーを想定するには合わない」
あぁ~、確かに先に現地入りしたアルタイルのメンバーは慣れないドバイの地で疲労が溜まっている様に見えます。
マキシマム先輩は完全に現地に馴染んでいる様子ですが、他のメンバーはまだ馴染むのには時間がかかりそうな感じですかね。
「それに、君はウマ娘に対しての知識が深い。私が指示しなくても、上手く真似てくれると期待している」
「解りました、ならやれるだけやってみます!!」
期待されてる以上、私もやれる事をやりましょう。
私の言葉を聞き、一つ頷いたマキシマム先輩が気合を入れなおす。
「よし、じゃあ本番を想定して練習するぞ!」
「「「「「「「「「「おー!!!」」」」」」」」」
マキシマム先輩は、シーマクラシックに勝つ気でいる。
だったら、私たちは全力でサポートするんだ!
「ラシュ、マキシマムの調整相手は良いのか?」
「日本からまたたくさん来たから、お役御免よ」
「ふむ、だったら少し手伝って貰えるかい?」
「?…何すれば良いの?」
「約束通りマキシマムを万全の状態で送り出したいから、ちょっと人探しをね」