ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
「ヒビキ、勝つ算段は出来ているのかしら?」
「マキシマムが万全なら8割は勝てると思う。…万全ならな」
「なら調子を落としてたら?」
「…状態にもよるが、良くて5割以下になるだろうな。世界のトップクラスを相手にするのだから、一つの不利で簡単に逆転するさ」
「そうね。だから私も万全に送り出せるように協力するわよ。万が一にもあの女を喜ばせたく無いからね」
木曜日、マキシマム先輩の最終調整に入りますが…
正直言って調子が上がって来ません。
左目が塞がれた状態で走るだけでもキツイと言うのに、これでは負けてしまうかも知れません。
それでも、練習に入ろうとするマキシマム先輩でしたが…
「待って!」
ラシューバさんがそれを引き留めます。
そして、その傍らには見慣れたある人の姿がありました。
「は~い、マキシマムちゃん!私が来たから大丈夫よ~」
「あ…安心沢さん!!」
「本当は師匠の方を探していたんだけどね。どうしても見つからなかったから居場所が解っている笹針師を連れて来たわ」
確かに、安心沢さんの師匠なら失敗無しで難しい秘孔を押せるので、今の状況で頼れるのならありがたかったです。
ですが、どうやら見つからなかったらしいですね。
怖いもの見たさで会いたかったですが…まぁしょうがないですね。
そんな事を考えていると、ラシューバさんは私達デネブの方を見て言葉を続けます。
「と言うか、仲が良いなら連れてきて貰いたかったわね。そうすれば私がわざわざ連絡を取る必要も無かったんだから」
確かにそれは考えない訳では無かったですが、安心沢さんの治療にはリスクがあるため、選択肢から外していた。
「う~ん、私の腕だとその目をすぐに治す様な秘孔は難しいわ~。どうしてもと言うならやってみるけど、精々成功率は1割以下よ~」
そう、難しい秘孔になればなるほど、成功率が劇的に下がる事だ。
重い怪我の様ですし、治りかけの捻挫を治すのとはわけが違います。
「私が出来るのは、身体の痛みを取ってあげる事くらいね。我慢してるけど、相当つらいでしょ?」
そうだ。問題の起こった時の状況を聞けば、時速60kmを超える速度で走るウマ娘の頭突きで吹っ飛ばされたのだ。
その時の衝撃で体を痛めていて当然だ。
調子が上がってこない原因でもあるでしょうし、それを改善できれば勝負になるかも知れません。
安心沢さんの言葉に、頷いて答えるマキシマム先輩。
「お願いします。レースで全力を出せる様に」
「おっけ~よ~。出でよ笹針!見つかれ秘孔!」
相変わらず不安を煽る掛け声をしていますが、無事に秘孔は成功しました。
その後に行われた最終調整であるシルさんとの併走トレーニングは、恐ろしいほどの闘争心を感じました。
…
ドバイミーティングの日。
私たちはゴールに近い場所を確保して観戦しています。
サラさんとラシューバさんも、VIP席じゃなくて私たちの近くで観戦しています。
レースが順調に消化していきますが、不意に私たちの元にジェシカが来ました。
『あら、ヒビキ。棄権しなかったのね』
『えぇ、この前の借りはきっちり返して貰うわよ』
ひびきさんの言葉にムッとした表情を見せる。
そして何やら一方的に色々と話しています。
『ふふふ、まぁ結局うちのザンジヴァルが勝つに決まってるんだから、精々2着の賞金を持って日本に帰りなさい』
ジェシカは、高笑いして去っていきました。
わざわざその為だけに私たちの所に来るなんて、暇なのでしょうか?
「…何て言ってるかは解りませんでしたが、嫌な感じですね」
「聞かないで正解よ。嫌味しか言って無いもの」
私の呟きに答えてくれたのは、ひかりさんでした。
「あれ、ひかりさんも英語話せるんですか?」
「あぁ、うちは父親がアメリカ人と再婚してね。妹達も居るから英語で喋る機会が多くてね」
そんな事を話していると、ドバイシーマクラシックの一つ前のレース。
ドバイターフの決着がつきました。
カザマゴールドさんは逃げようとしましたが、それよりもさらに早いウマ娘に先頭を取られ、最後まで差を縮めることが出来ませんでした。
それでも健闘して2着でしたけどね。
「へぇ、カザマゴールドは2着ね。中々やるじゃないの」
「何言ってるのよ。勝ったのはあなたのチームの娘じゃない」
カザマゴールドさんは頑張りましたが、サラさんのチームの“ロバート”と言う名前のウマ娘に負けてしまいました。
と言うか、カザマゴールドさんもかなり早かったんですけど、それにあっさりと言わないまでも強い勝ち方をしたあのウマ娘。
まさか…その正体は近代競馬においての、欧州最強マイラーじゃないでしょうね?
「さて君たちのメインレース、シーマクラシックの番だ」
「あぁ、ここまで来たら後は信じるだけだ」
マキシマム先輩の入場に合わせて、アルタイルのメンバーがマキシマム先輩に駆け寄って、柵越しに声を掛けています。
「先輩!一発かましてください!」
「そうですねー、先輩なら世界でも勝てます!」
「海外G1制覇は日本のウマ娘の悲願です。でも先輩ならやってくれると信じています!」
「ぷひ~!負けないでください!」
チームメイトからの応援に静かに頷くマキシマム先輩。
そして、最後にシルさんが声を掛ける。
「マックス…必ず勝ってね!」
「あぁ、私は勝つよ。皆から思いを貰ったからね」
始まる前からアクシデントがあったドバイシーマクラシック。
初めての海外遠征?相手が強い?左目が見えない?
そんな些細な事は日本が誇る“闘神”の前には無意味だと信じています。
困ったときの安心沢さん。
使い過ぎるとワンパターンで飽きられます。