ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。   作:湯川彼方

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ドバイシーマクラシック(中等部1年)~闘神

 スタートゲートに入るが、左目が見えないと言うのはとても心細い。

 すぐ右側にはフェアリーエリシオの姿が見える。

 

 彼女とパレスシガーは、私の左目の包帯を見て悲しそうな顔をした。

 

 心配してくれるのは嬉しいが、レースで手を抜いたら私があっさりと勝ってしまうぞ?

 

 

 そして、スタート前のザンジヴァルの姿を思いだす。

 

 相変わらずの無表情だが、私の姿を見て一瞬震えている様にも見えた。

 

 君は何故…いや、もうレースだ。

 もはや何も言うまい。

 

 

…

 

 

 レースがスタートして私はいつも通り先頭を走るけど、すぐ後ろに気配を感じる。

 

 私のペースに着いてくるウマ娘は、ヨーロッパには居ない。

 …恐らくニホンのマキシマムね。

 

 私のトレーナーのお姉さんが、ニホンでトレーナーをしていると言う事で、ニホンの強いウマ娘に興味はあった。

 

 ヤンキーに怪我をさせられたと聞いた時は残念だったけど、実際に見たらそんな思いは吹っ飛んだ。

 

 

 “同情して手を抜けば負ける。”

 

 

 そう感じるから、私は必死で逃げるわよ。

 

 

…

 

 

 練習通り、マキシマム先輩はフェアリーエリシオさんの後ろに付けています。

 

 練習で柵との距離感を身体におぼえていましたが、常に神経を集中していたらそれだけ精神的に疲労してしまいます。

 

 だったら他の娘の走る道をそのまま辿って行けば良いとなりましたが、その為には誰かペースメーカーとなるウマ娘が必要でした。

 

 今回のレースを見た時、候補は二人。

 逃げのフェアリーエリシオさんと、追い込みのパレスシガーさんでした。

 

 この二人をマークするのならバ群に包まれることも無く、左側を気にせずに走る事が出来ると思われたからです。

 

 

 そして、似たタイプのアルさんが練習に協力することで、マークするウマ娘はフェアリーエリシオさんになりました。

 

 

「他の娘は着いて来ないわね」

「まぁフェアリーエリシオさんは、大逃げで有名ですからね」

 

 想定通り、フェアリーエリシオさんとマキシマム先輩の二人旅になりました。

 これなら目の前だけに集中して走れるでしょうし、体力の消費はともかく精神的な疲労は軽減できるでしょう。

 

「パレスシガーもフェアリーエリシオも、真っ向勝負を挑んでくれるみたいだな」

「そうですね。流石は海外の強豪と言った所でしょうか」

 

 フェアリーエリシオさんなら、マキシマム先輩の様子を見て嫌がらせにブロックしてくる事も出来ます。

 パレスシガーさんなら、2人に着いて行ってマキシマム先輩を疲弊させることも出来るでしょう。

 

 でも、2人とも自分のレースをする事を選んでいる辺り、自信があるんでしょうね。

 

「だが、あいつはむしろ弱点を嬉々として狙ってくるだろうな」

 

 そう言ったひびきさんの視線の先には…

 ザンジヴァルさんの姿が見えます。

 

 もっとも、ザンジヴァルさんの姿の先にジェシカ・カルバンの姿を見てるのかも知れませんが。

 

 それにしても、ザンジヴァルさんなら原作の凱旋門賞の様に最初から強引に突っかかってくる可能性も考えましたが、不気味にも第2集団の先頭に控えています。

 凱旋門賞は世界一の騎手が乗っていた故の判断だった為、これが彼女の本来のペースだと思えばおかしくはないですが。

 

 まぁ、何をやってくるにせよ…

 

「…大丈夫です。マキシマム先輩も解っていますから」

 

 レースの展開は色々と想定しました。

 そして、当然ザンジヴァルさんが行う可能性があるラフプレーも想定してきました。

 

 だから、必ず勝ってください。マキシマム先輩。

 

 

…

 

 

 フェアリーエリシオとマキシマムの二人が大きく前にいマス。

 

 そして、すぐ前のバ群の先頭にいるザンジヴァル。

 少しずつ上がって行きマスが、何かを狙っている様子がプンプンしますネ。

 

 この娘も大変ネ。

 アメリカの面汚しの言う事を聞かなきゃならないんだからネ。

 

 

 おっと、周りもそろそろ動きマスか?

 なら、他の娘の事を考えるのもココまでネ。

 

 It's a SHOW TIMEヨ!!

 

 

…

 

 

 レースは第3コーナーに入る。

 

 前にはまだフェアリーエリシオがいる。

 外にはパレスシガーが上がってきている。

 

 そして私の左耳は、内側に何かが近付いている気配を感じとる。

 恐らく…ザンジヴァルだろう。

 

 

 …見えない事による恐怖感はある。

 それでも、練習を付き合ってくれた皆のおかげで、耐えられない程じゃない。

 

 

 最終コーナー。

 練習レースと同じく、インを狙っているのだと思う。

 

 だが、何かやって来る事が解れば備える事が出来る。

 

 なのに、なぜ君はそんなワンパターンな事しかしないんだ?

 

 一度成功したから?

 左目が見えないから?

 それとも…トレーナーの言う事に黙々と従っているから?

 

 

 それで、私が怯むと思うのか?

 

 

 肩にぶつかってきた衝撃を感じる。

 私は予想していたそれを受け止めて…

 

 

 柵に押し付ける様に弾き返す。

 

 

「舐めるなぁ!!」

「ヒッ…」

 

 怯えた様な声が聞こえたかと思ったが、その後は気配が凄い勢いで遠ざかっていく様子を感じた。

 

 右目に写るパレスシガーやフェアリーエリシオとの差を考えれば、走る気を無くしたか…

 

 

 まぁ良い。脱落した者の事を考えるよりも、レースに勝つことだ。

 

 

 私の左目にはゴール板は見えていない。

 

 

 だけど、右目にはしっかりとシルの姿が見えている。

 あの位置がゴールだ。

 

 

…

 

 

さぁ、先頭はマキシマムだ!

マキシマムが抜け出した!

パレスシガーもフェアリーエリシオも着いて行けない!

 

日本のマキシマムが、ドバイの地で今一着でゴールイン!

 

2着争いはパレスシガーとフェアリーエリシオ!

人気のザンジヴァルはバ群に沈んで行きました!

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