ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
ドバイシーマクラシックは、見事にマキシマム先輩が勝ちました!
シルさんが祝福の拍手をすると、私やデネブ・アルタイルのメンバーを始め、会場中にそれが広がっていきます。
…ですが、それに納得がいかない人もいる様です。
「ガッデム!!」
レース場に乱入して行く人影。
それはジェシカ・カルバンでした。
「ザンジヴァル!何を躊躇していたのよ!私に恥をかかせて恥ずかしいと思うなら、今からでもマキシマムを潰しなさい!!」
この衆人環視の元で堂々と暴行を教唆するジェシカ。
アホですか?とも思いましたが、この人は原作でもこんな感じでしたね。
ですが、レース後に座り込んでいたザンジヴァルさんは、首を横に振って抗議します。
「い…いや…もう誰も傷つけたくない…」
初めて聞いたザンジヴァルさんの声は、とてもか細い、消えいる様な声でした。
そんなザンジヴァルさんが取った行動に、同じレースを走った人達も声を上げます。
「やめて下さい。彼女の本質はとても臆病なウマ娘です。それを無理矢理あんな事をやらせるから、彼女は感情を失ったのだろう」
「マキシマム、その女に何を言ってもダメヨ。アメリカの面汚しだからネ」
「トレーナーとの間に信頼関係があるから、私達は頑張れるのよ。あなたはトレーナー失格です」
マキシマム先輩達の声を聞き、ジェシカは震えています。
ですが、次の瞬間…怒り狂って声を荒げます。
「うるさいうるさいうるさい!私のチームにはどうせ他にもウマ娘は居るのよ!ザンジヴァル、あんたは引退よ!」
滅茶苦茶なことを言うジェシカの姿に、マキシマム先輩達も驚いています。
私はこの人なら言いかねないと思いましたが…
そしてジェシカの次に取る行動を思い、動こうとしますが私より先にスッと近づいて行く影が見えます。
「なっ…横暴過ぎるぞ!」
「ジェシカ・カルバン!コレ以上恥を晒すんじゃないデス!」
マキシマム先輩達の抗議の声を無視して、ザンジヴァルさんの方に近寄って行くジェシカ。
「ホッホッホッ、何とでも言いなさい。私のチームの事は私が決めるのよ!部外者は黙っていなさい!!」
ザンジヴァルさんの髪を掴み強引に立ち上がらせ、その反対の手にはいつの間にか鞭が握られています。
「この言われた事も満足に出来ないクズウマ娘め、これでもくらいなさい!」
次の瞬間、ザンジバルさんに向けてジェシカが鞭を振るおうとします。
…ですが。
ガシッ
「クズはあなたよ」
「えっ」
パァン
乾いた音が周囲に響き渡ります。
鞭を振るおうとしたジェシカの手を掴んだひびきさんが、反対の手でジェシカにビンタをしました。
あまりの勢いに、ジェシカはその場で尻餅をついて倒れます。
「ははは、ヒビキからのプレゼントを受け取ってくれたかい?それじゃあ私からもプレゼントがあるよ」
いつの間にか近づいていたサラさんが、ジェシカの顔にかかる様に一枚の紙を落とします。
「なっ、なによこの紙は?」
体を起こしながら紙を手に取るジェシカ。
その様子を見て、サラさんが言葉を続けます。
「ミス・カルバンは、全ての担当ウマ娘に虐待をしていたと言うことで、調査の結果トレーナーに相応しく無い人物として資格を取り上げるそうよ」
「ば…馬鹿を言わないで!何を証拠にそんな事…」
『あんなジャップやオセアニアの田舎者に負けるなんて、あなたは私に恥をかかせる気?』
『す…すみません、ですが』
『口答えするな!』
「なっ!?」
ターフビジョンに映った衝撃的な光景。
ウマ娘の顔と声は加工されてますが、それは私も見覚えのある光景。
ジャパンカップの日にジェシカがウマ娘に鞭を振るった瞬間を写した動画でした。
ハッと私がひびきさんの方を見ると、気がついたひびきさんがウインクを返してくれました。
しかしすぐに厳しい顔に戻ると、ジェシカの糾弾を再開します。
「これはつい今朝方に動画投稿サイトに上がった動画よ。他にも動画が上がってるけど、いま世界中にもの凄い勢いで拡散されてるわね。」
「ははは、君は大層な有名人になってるぞ。ウマッターのトレンド世界一を取れるんじゃないかい?」
わざわざターフビジョンに映すのは、ここの競馬場を仕切っているサラさんだからこそ出来る行為ですが、この映像を初めて見る周りの人達も皆ジェシカを冷たい目で見ています。
恐らく、今ここにいる人やウマ娘もこの映像の拡散をしてくれる事でしょう。
そう、風のシルフィードの原作の舞台は約30年前。
その当時なら隠し通せた悪事も、今のご時世ではあっという間に拡散される。
「それだけじゃ無いわよ。あなたの担当のウマ娘達も、心良く証言してくれたわよ。」
そうだ。馬が相手なら証言なんて出来ないかも知らないが、ジェシカが虐待していたのはウマ娘だ。
意思疎通が出来るし、人権(ウマ娘権?)もある。
ひびきさんの声に応えて、2人のウマ娘を先頭に多くのウマ娘がジェシカの前に現れる。
先頭の2人の内、1人はジャパンカップで見たウマ娘で、もう1人は見た事が無いウマ娘です。
ですが、恐らく彼女は…
「あなた達…裏切るのね!!」
ジェシカの怒声に、ジャパンカップに来ていた娘が怯える素振りを見せるが、もう1人が庇う様に前に出て言葉を発する。
「裏切るなんてとんでも無いですわ。私はマダムの元にずっと帰りたかった。あなたにアメリカに連れて来られた日からずっとね!」
「リュ…リュミエールぅ!!」
やはりリュミエールだ!
良かった…これで彼女が無事にフランスに帰る事ができます。
私がやりたかった事を、ひびきさんやサラさんがやってくれました。
「この娘達だけじゃ無いわ。ラビアンローズを初めとした、君が関わったウマ娘のことごとくが証言をしたわよ」
「君も色々やらかしてるねぇ。暴行に脅迫に人身売買まがいの事、連邦司法局も動いてるらしいから、精々逮捕されない様にね」
「ひっ、ひぃ…」
逃げ出す様に去っていくジェシカの背中を見て、私は彼女に二度と会う事がない事を祈りました。
これでジェシカ・カルバンは退場となりました。
でもそれは本来10月の凱旋門賞で起こるべき事が、半年も前倒しされたと言う事。
時計の針は進んで、戻る事はありません。
果たして、その結果がどの様な影響を及ぼすのか。
もうこれから先の展開は、私には予想がつかないです。
次回でジェシカ編の裏で動いていた人達の話をして、長かったジェシカ編も終わりです。
そして、やっと中等部一年編も終わります。
正直、ここまで長くなるとは思ってませんでした。