ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。   作:湯川彼方

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Intermission~暗躍する大人たち

~11月ジャパンカップ直後~

 

 私はさっき見た光景が忘れられない。

 

 ジェシカ・カルバン。

 私と因縁のある女だが、何年たってもその性根は腐っているようだ。

 

 …恐らく、今後海外遠征を視野に入れるとしたら、関わらないと言う事は無いだろう。

 こちらから関りを避けても、向こうから嫌がらせに来る。

 あいつはそう言う女だ。

 

 

 ふと…ラビアンローズの事を思い出す。

 

 彼女の様なウマ娘を生み出さない為にどうすれば良いか?

 

『私もあぁ言う女は嫌いよ~、何かあったら協力するから言ってね!』

 

 …ウマ娘達の未来のため、私は鬼にでも悪魔にでもなろう。

 

 

~1月某日 トレーナー達の集まり~

 

 はるかに手を貸して欲しい事を伝えると、二つ返事で了承された。

 そして、結果的にひかりも巻き込むことになった。

 

 その切っ掛けは、ひかりも海外遠征を考えているから。

 私との縁があると言うだけで…いや、奴なら日本のウマ娘と言うだけで妨害しかねないからな。

 ただでさえ遠い異国の地で、妨害等されたらたまった物では無いと言うのはまぁ当たり前の話だ。

 

 巻き込むにあたり、私の昔話を二人にもする事になったが、ひかりは号泣して、はるかはニコニコしているがこめかみに血管が浮いていた。

 

『わだじにでぎるごとは、なんでもいっで』

 と、号泣しながら言うひかりにちょっぴり引きながらも、彼女にはアメリカの知り合い…と言うかひかりの父親にコンタクトを取って欲しい事を頼んだ。

 

 ひかりの父親は、ひかりの母が亡くなった際に傷心のままアメリカに渡り、現地の組織が腐って居る事に腹を立てて改革した傑物だ。(最初に聞いた時は、何故そうなったか訳が解らなかった)

 今はアメリカで再婚し、NURA(全米ウマ娘協会)の幹部になっている。

 

 その人の力を借りたい理由としては、ジェシカがこれだけやっても未だにトレーナーとしてやっていけてる理由。

 金さえ払えば違反を見逃す奴が、協会内部に少なからず居るだろうからだ。

 思えば私がアメリカに修行に行ってた時、あいつが好き勝手やれた理由も、それが理由だ。

 

 

 ならば…最初にそこを何とかしなければならない。

 

 

 その事を話すと、ひかりは快い返事をしてくれた。

 そしてそれと同時に、はるかから分厚い封筒を渡された。

 

 何だろうと思い中を見ると、アメリカの協会幹部達の汚職の証拠や、不倫などのスキャンダルのネタであった。

 

『必要になると思って、集めといたわ~』

 

 …やはり私は、はるかが一番怖い。

 

 

~2月マキシマム壮行パーティー前~

 

 アメリカ側とは話がつき、協会の腐った幹部を一斉に検挙する手はずになった。

 

 ただ、現状だとジェシカの方を何とかするには証拠が少ない。

 ウマ娘に対する暴力等も、「指導が行き過ぎた」とか惚けられれば手を出しにくいのが現状だ。

 

 そこで考えられたのは、囮作戦である。

 

 奴の担当ウマ娘の中に芝レースで有力な娘がいる。

 アメリカ協会側から近々行われる海外のレース、つまりはドバイシーマクラシックへの遠征費を援助すると言う名目でドバイへ向かわせ、その間にアメリカで証拠を固めると言う事だ。

 

 だが、いくら奴でも自分のウマ娘だけがその様な待遇をされると勘づく可能性がある。

 そこで、ひかりの妹のエリィ(駿川エリザベス)の担当ウマ娘であるパレスシガーも同様の援助をして、目くらましにすると言う事になった。

 

 エリィにまで迷惑をかける事になり、申し訳ない気持ちで一杯だが、

『いやいや、アメリカの恥をこれ以上さらす訳にはあらへんから、この話は渡りに船でんがな』

 …エリィの日本語は相変わらずおかしいが、援助には嬉しく思う。

 

 更に、フランスでトレーナーをしているひかりのもう一人の妹シャロン(駿川シャルロット)も、フランスダービーウマ娘のフェアリーエリシオをドバイシーマクラシックに出してくれるらしい。

『元々この時期は大きなレースも無いし、出走を検討していましたから、ひびきお姉様のためじゃ無いです!』

 との事だが、有力馬を増やす事で妨害を分散させたり、私たちの動きに目を向けさせない為だろう。

 

 これが終わったら、2人に改めてお礼をしよう。

 

 

~2月マキシマム ドバイ到着後~

 

 マキシマムは無事にドバイへ着いたかしら?

 今回はドバイを舞台にすると言う事で、ドバイのレースを仕切っているサラにも声を掛けない訳にもいかず、ここまでの経緯を手紙で送った。

 事が事なので、なるべく盗聴やデータ流出を避けるためにあえてアナログな手を使った。

 

 

 のだが…

 

 

「はーい、ヒビキ。久しぶりね」

 

 まさか、サラが日本に直接乗り込んでくるとは思わなかった…

 まぁ彼女には自家用ジェットもあるし、燃料には困らないからレースの時期には世界中飛び回ってたりするが。

 

「サラ、ドバイを空けて良いのか?」

「うちの娘達は優秀だから大丈夫だね。コーチも優秀な人やウマ娘を雇ってるからね」

 

 いやいや、ウマ娘の事もだけど…

 

「いや、ドバイミーティングの準備とかはどうするんだ?」

「そっちこそ大丈夫だよ。私の名前と金でやってるけど、実質はドバイのウマ娘大好き人間の集まりがやってるから、あまり口を出すとかえって煙たがれるんだよ」

 

 そう言ってハハハと笑うサラ。

 頭痛を感じて頭を押さえるが、私の肩を叩きながら言葉を続ける。

 

「まぁ、それでもあまり空けていると怪しむ奴も居るかも知れんしね、単刀直入に言うと私にもこの件をかませてくれるわね?」

「…あなたならそう言うと思ったわ。でも、これは私やアメリカの問題よ」

 

 私の言葉に、それまで笑っていたサラは急に表情が険しくなる。

 

「ヒビキ、君は一つ勘違いをしている。腐ったミカンを放置すれば周りも腐らせるように、腐った人間を放っておくだけでウマ娘達が腐る可能性がある。コレはすぐにでも対処すべき問題だ。むしろ今まで放置していたアメリカ何かに任せてられないね」

 

 …本当にこの人はウマ娘の事を愛していると思う。

 これはもう私が止めても勝手に何かやるだろうから、仲間にしてしまった方が良いだろう。

 

「はぁ…とりあえず計画の事を話すわ…」

「あぁ頼むよ。私の金やコネが役に立つなら、好きに使ってくれ」

 

 サラはお金に執着しない。

 それは、黙っていても大金が入る立場にいるからと言うのもあるが、お金よりも大切な物が多いからと言うのもあるだろう。

 

 話に入る前に、私はサラに言っておくことが有ったのを思い出す。

 

「あと先に言っておくわ。私が行くまでマキシマムの事をお願いね」

「…あぁ。引き受けたからには、万全な状態でレースに出す事を約束するさ」

 

 その後、ひかりやはるかも呼んで一晩中話をする私達。

 そしてサラは、話が終わるとすぐに自家用ジェットでドバイへ帰って行った。

 

 

~3月 練習レース直前~

 

「ヒビキ、良い知らせだ。奴のチームの娘とコンタクトが取れたが、ほとんどの娘が何らかの事情で奴のチームに縛られている事に不満を持っていて、残りの娘も暴力や嫌がらせを受けたく無くて奴のチームに居るらしい」

「まぁ、あいつらしいわね。そこまでは想像できたわ」

 

 私は予想通りのクズっぷりに、改めてあいつを排除する理由が出来たと思った。

 

「コンタクトが取れたのはリュミエールという娘だが、彼女は借金のかたで連れて来られ、その後も元の家族と言うべき人達に経済的援助をしていると思って嫌々従っていたらしい…だが、どうも援助など一切していないようだと言う事を伝えたら、喜んでこっちに付いてくれるそうだ」

 

 私はリュミエールと言う名前を聞き、どこかで聞いたおぼえがした。

 リュミエールと言うアメリカのウマ娘に合わないフランス語の名前…フランス?

 

「リュミエール…あぁ!マダム・シモーヌの所の娘か!!」

「知っているのかい?」

 

 私は、記憶から少し奇抜だが人の良い老婦人の姿を思い出す。

 

「あぁ…フランスのトレーナーで、今はほぼ引退状態の人だ。元々死んだ友人に託されたウマ娘を娘同然に育てて、その娘が立派に育ったらトレーナーを引退する気でいたんだが、詳細は聞けなかったが娘が出て行ったと聞いた…その娘の名前がリュミエールだった筈だ」

 

 フランスに行った時にお世話になった、年齢差はあるが友人と言える人の家族。

 私自身も何度かあった筈なのに、今日まで忘れていた事に自分への怒りが沸いてくる。

 

「それはますます許せないね。まぁその娘のおかげで、一気に話が進みそうだ。しかもチームのウマ娘達を説得して回ってくれるそうだ」

「あぁ、ありがたい話だ。…だが、そうなるとますますザンジヴァルとの練習レースをやる意味が無い」

 

 私の言葉に、サラは苦い顔をして話す。

 

「厳しい事を言うが、一度決めた事を急に止めれば向こうも不審に思うだろう。奴の目を逸らす為にも、断る事は出来ない」

「…私は無能なトレーナーだな」

 

 この後、私は止めなかった事を死ぬほど後悔する。

 …恐らくサラも同じ気持ちだっただろう。

 

 

~3月 ドバイミーティング当日~

 

 レース当日の朝、サラの自家用ジェットを使ってアメリカから奴のチームの娘達がドバイに密かに入国する。

 

 すでにアメリカ側では大きな草刈りが行われている。

 奴のチームのスタッフは、全員拘束して連絡が取れない状態にした。罪の無い者を拘束するのは心苦しいと思ったが、どうやら奴のチームに罪の

無い者は居なかったらしい。

 報道への発表はドバイミーティングの後にする事になっており、奴の元にはまだ情報は入っていない筈だ。

 それに、もちろんドバイ側の報道もサラが抑えて、情報は全く出ていない。

 

 そして私とサラは、密かに1人のウマ娘に会う。

 

「お久しぶりです、ひびきさん」

「あぁ、マダムの所で数回会っただけなのにおぼえているのかい?」

「えぇ、マダムにも私にもとても良くしてくれましたから」

 

 そうやって微笑むリュミエールの姿に、私は彼女を早く助け出してやれなかった罪悪感を感じる。

 だが、今は後悔よりも奴をどうにかする事が先決。

 

「サラさん、NURAの方からこれを預かって来ましたわ」

 

 リュミエールは、サラに一つの封筒を手渡す。

 

「ほうほう…どうやら間に合ったらしい。こいつはジェシカのトレーナー資格を取り消すと言う通知書だ」

「やりましたわね!早速あいつに突き付けてやりましょう!!」

 

 リュミエールは少しでも早く奴の元から離れたいのだろうが…

 

「いや、サラ。悪いけどそれを通知するのはシーマクラシックの後まで待ってくれないか?」

「何でだ?ザンジヴァルが何かをやる前に止めた方が良いんじゃ無いか?」

 

 確かにそれはあるが、そうすれば彼女のプライドに傷がつくかも知れない。

 

「マキシマムはやられっ放しで引くような娘じゃない。必ずレースでやり返してくれると信じてるからかな」

 

 マキシマムにザンジヴァルへの雪辱の機会を与える。

 その為だけに、もう少しだけ奴への仕置きを待って欲しい。

 

 マキシマムが負ける事など考えていない私は、そう二人に頼んだ。

 

「…信頼だな」

「えぇ。私も早くマダムの元に帰りたくなりましたわ」

 

 さて、準備は整った。

 もうお前が逃げる事は絶対にできない。

 

 マキシマムに怪我をさせた事、その身で贖え。




長くなりましたが、ジェシカ編の裏話と言う事で。
次回、もう1話閑話を挟んで中等部2年編になります。
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