ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。   作:湯川彼方

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Intermission~再開と出会い

 ジェシカのチームのウマ娘達は、一旦サラが全部引き取る形になった。

 だが彼女たちの意思を尊重して、希望する者は好きなチームへの移籍を、また希望する者にはレースからの引退を許可した。

 

 そんな中、真っ先に移籍を希望したのはリュミエールだった。

 

 彼女は、フランスのチームへの移籍を希望する。

 そのチームは一人のウマ娘も所属していない、今は実質休業状態のチーム。

 

 元々リュミエールが所属していた、マダム・シモーヌのチームだ。

 

 サラがマダムに打診をすると二つ返事でOKを貰い、リュミエールはフランスの地に帰って行く事になる。

 

 

 

 フランスの地に帰ったリュミエールが一直線に訪れたのは、よく言えば趣がある、素直に言えばボロイ家。

 だが懐かしく、何度も何度も帰りたいと思っていた家だ。

 

 

 辿り着いたのは良いが、中々入る決心が出来ずに周囲をうろうろとしてるリュミエールであったが、不意に後ろから声を掛けられる。

 

「何をやっているんだい?バカ娘が」

「ひゃっ!」

 

 その声に驚き飛び上がるリュミエール。

 だが驚きもほどほどに、声があった方向に背を向けて顔を手で隠してしまう。

 

「いつまで後ろを向いてるんだい?こっちを向いて顔を向けな」

「マダム…私はあなたに顔向けできませんわ…あの女の指示で汚い事もたくさんしましたもの…」

 

 その言葉を聞いた女性は、リュミエールの肩を叩く。

 

「あぁそうだな、私は娘を叱らなきゃならん」

 

 その言葉に、リュミエールは思わず身体を縮こませる。

 

 だが、リュミエールが来ると思った衝撃は何時までも来ず…

 

 ただ背中から優しく抱きしめられた。

 

「…良く帰って来たな、リュミエール」

 

 リュミエールはようやく振り返って女性の顔を見る。

 その顔は笑顔であるが、涙で濡れていた。

 

 そしてリュミエールの目にもまた、涙が溢れていた。

 

「…ただいま帰りましたわ。母さん」

 

 2人はお互いを抱きしめて、しばらくの間泣いていた。

 そしてリュミエールは、一つの決心をする。

 

「(母さんに恩返しする為…私は凱旋門賞にでも勝って見せますわ)」

 

 

 

 

 他の娘達の新たな所属先が次々と決まっていく。また引退を希望するウマ娘も多くいる。

 だが、ザンジヴァルの進路は中々決まらないでいた。

 

 それは彼女が今回のスキャンダルの中心近くに居た事で、引き取る事を躊躇するトレーナーが多い事。

 そして彼女が、もうレースに出たくないと言っているためだ。

 

 別にサラのチームで走らせても構わない。本人が希望しているんだから、引退させるのも構わない。

 だが、サラは彼女にも幸福になって貰いたいと考え、自分の金とコネを存分に使い、とっておきのトレーナーへ紹介する事にする。

 

 

 サラの招聘に応じ、イギリスからドバイの地にやって来た老婦人。

 その人をサラは頭を下げて出迎える。

 

「レディ。今回は無理を言ってしまって申し訳ないです」

「話は聞いてますし、私で力になれるなら構いませんよ」

 

 サラは老婦人に恐縮していた。

 この人は全世界のトレーナーが尊敬していると言っても過言ではない名トレーナー。

 ザンジヴァルを救うための最終手段と言っても良い人なのだ。

 

「まずは、その娘に会わせて貰って良いかしら?」

「えぇ、勿論」

 

 サラは、老婦人を一つの部屋へ案内する。

 

 その部屋で、ザンジヴァルは全てを拒絶して俯いていた。

 

「こんにちは、お嬢さん。少し話して良いかしら」

「…私は…もうレースには…出ません」

 

 ザンジヴァルは他のトレーナーに対してもこの様に拒否を続けていた。

 

 だが、老婦人は他の誰もが言わなかった言葉をザンジヴァルにかける。

 

「良いのよ、レースなんて出たく無ければ出ないでも」

 

 その言葉に、ザンジヴァルの身体がピクリと震える。

 老婦人はザンジヴァルに寄り添い、その肩を抱きながら言葉を続ける。

 

「でも、あなたはとても実力があるウマ娘と聞いているわよ。それなのにどうしたの?」

「わ…私の実力なんて…ずるして勝って来たようなものだから…だから…」

 

 ザンジヴァルはずっと後悔していた。

 ジェシカの言うがままに相手のウマ娘を怪我させ続けて来たことを。

 

 しかし、その言葉すらも老婦人は受け入れて優しく語り掛ける。

 

「卑怯な手だけで三冠やBCターフは勝てないわよ。大丈夫よ、あなたはとっても強い娘なのよ…」

 

 そう言って、ザンジヴァルを老婦人が抱きしめる。

 

 その温かさを前に、必死で隠してきた感情が溢れた。

 

「う…うわぁ~~~ん」

 

 泣き出したザンジヴァルを、老婦人はただ静かに抱きしめ、頭を撫でていた。

 

 

 

 数十分後、泣き疲れて寝てしまったザンジヴァルに膝枕をしつつ、老婦人は静かに語った。

 

「まったく、こんな素直な良い娘に酷い真似をさせるなんて、信じられませんわね」

 

 老婦人から見たザンジヴァルは、長くトレーナーと言う職業をした中でも特別に優しいウマ娘に見えた。

 そんな娘を恐怖で縛って使いつぶそうとした元トレーナーに対して、憤りを感じて苦い顔をする。

 

 だがザンジヴァルの寝顔を見ると、すぐに苦い顔を微笑みに戻す。

 

「安心しなさい。私があなたを世界一のウマ娘にしてあげるわよ」

 

 “淑女(レディ)”レイラ・アボット。

 

 英国王室のチームを預かるトレーナーである彼女が、ザンジヴァルを真の強豪ウマ娘へ生まれ変わらせる。




ただこの二人を救済したくてジェシカを早く排除したのは秘密。
そして、凱旋門賞制覇の難易度が知らない内に上がっています。
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