ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
某社長と逃げの名人様は否定できないほど悪いですけど。
そして、今回も捏造設定全開です。
大雨が降る中、長く灯った審議のランプが消えて着順が確定する。
電光掲示板にウマ番が表示され、皐月賞の着順が決まった。
1着はマキシマム先輩、2着はカザマゴールド先輩。
どよめく場内に見せつけるかのように、ターフビジョンにゴールの瞬間のリプレイが表示される。
そこには、ゴール直前に空へと舞っていくシルさんの服がはっきりと映っていた。
…シルさんは落服で失格。
その結果を見た瞬間、シルさんの身体が膝から崩れ落ちる。
大雨の中で項垂れるシルさんを、マキシマム先輩が少し遠くから眺めている。
その表情は無表情に見えるが、私には少し寂しげな感じに見えた。
「こんな事って…」
解っていたのに防げなかった。
そう実感した自分の眼には、大雨に負けないほどの涙が溢れていた。
チームの他の娘達も今にも泣きそうになっている中、ただ一人表情を崩さないひかりさんが、声を出した。
「泣くんじゃないよイッキ、これもレースよ。それに…本当に悲しいのは誰だと思う?」
その言葉にシルさんの事を思い、思わずひかりさんに抱き着いて泣いてしまう。
そんな私の頭を、ひかりさんが撫でてくれた。
「(にしても…本当にマズいのはこれからね…)」
ひかりさんの胸に顔を埋めていた私には気づけなかったが、この時のひかりさんの表情は誰よりも硬かったらしい。
…
各ウマ娘が控室に戻って、ウイニングライブの準備を始める。
失格となったウマ娘は着順無し。
つまりは、レースに出ていなかったのと同様の扱いをされる。
だから、シルさんはウイニングライブに出ることができない。
シルさんの控室にチーム全員で向かうと、中から別のウマ娘の声が聞こえる。
ハッと顔を皆が顔を見合わせるが、ドアを開けると…
「シルフィードさん!!ごめんなさい!!!」
そこではカザマゴールド先輩が土下座をしていた。
シルさんは困った顔をしながらも、私たちが入ってきたことに気づく。
ゴールド先輩も遅れて気が付くが、すぐにシルさんを向き直して言葉を続ける。
「この判定は納得いかないわ。何なら私が故意にやった事にすれば!!」
ゴールド先輩が悲痛な顔でそう提案する。
他馬の妨害による物ならば、あるいはシルさんの失格が翻る可能性もあるだろう。
だが故意に他のウマ娘の妨害をするのは最低の行為とされており、最悪以降のトゥインクルシリーズに出場出来なくなるかも知れない。
だから、シルさんは静かに首を横に振る。
「良いの、それじゃゴールドさんが悪者になっちゃうもの。アレはただの不幸な事故の結果。それで良いじゃない。」
笑顔でゴールド先輩に語り掛けるシルさんに対し、ゴールド先輩の顔は涙でぐしゃぐしゃになっている。
「うぅ…本当にごめんなさい、シルフィードさん。」
「それより、ゴールドさんウイニングライブの準備しないと。2着なんだから、ちゃんと出なきゃね!」
改めて謝るゴールド先輩の背中を、シルさんが押す。
泣きながらも、このままここに居てはマズい事に気づいたのか、ゴールド先輩は控室から出て行こうとする。
笑顔でゴールド先輩を送り出すシルさん。
だけど、扉からゴールド先輩が出ていった瞬間から、シルさんは顔を下に向けてしまう。
「ごめんねみんな、せっかく来てもらったのに悪いんだけど、ちょっと1人にしてくれるかな?」
俯いたまま、シルさんが私たちに声をかける。
その声はかすれる様に小さい。
「はい、わかりました。先にウイニングライブの会場に行ってますね」
アルさんの言葉を機に、皆がシルさんの控室から出ていく。
バタン
と、ドアが閉まった瞬間。
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!』
控室の外まで、シルさんの嘆きの声が聞こえてきた。
私たちの眼にも自然と涙が溢れる…
しばらくして、会場にはマキシマム先輩をセンターに、『winning the soul』が流れる。
でもこの場にウイニングライブを見に行こうとする娘は、誰も居なかった。
…
皐月賞からしばらくたったある日。
“デネブ”のトレーナーである駿川ひかりは、ある場所を訪れていた。
悲壮に見える顔で訪れた場所には、URAの役員が待っていた。
ひかりは、着くやいなや頭を大きく下げる。
「お願いします!アレは不幸な事故です!何とか処分の軽減を!!」
ひかりは知っていた。
トゥインクルシリーズ黎明期。
ただ目立ちたいがためや、他のウマ娘をさりげなく妨害するために、過度な装飾品を付けた勝負服が横行した時代。
そんな時代に出来た落服の処分は、現在では考えられない程に重い。
その姿を見て苦い顔をするURAの役員達。彼らとしても、その規則は本意では無いのかも知れない。
だが、その口からは無情にも通告が下される。
「…URA側として、規則を破る訳には行きません。落服が起こった場合は該当のウマ娘は、2カ月間の出走停止。昔から決まっている事なのです。」
その規則がシルフィードに重くのしかかる。