ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
ヒヌマボークさんとの併走トレーニングをしたあの日から、私は本当にシルさんが天皇賞(春)に勝てるのか不安になりました。
距離適性はシルさんが勝っているのは間違いないです。
でも、ヒヌマボークさんのあの気迫と言うか…絶対に前に出さないと言う意識は恐ろしいものが有ります。
私の知り合いの中で、体感した感じから競り合いの強さを上からランク付けすると…
1位 ヒヌマボークさん
2位 マキシマム先輩
3位 ヤシロハイネスさん、フェアちゃん
と言った感じでしょうか。
ちなみに一緒に走った事のある人に限定するので、ボムクレイジーさんやバトルハートさん等は対象外としています。
…よくよく考えると、フェアちゃんの競り合いの強さが異常な気がしますが、授業とかで競り合いになると一回も勝った事無いんですよね。
錚々たるメンバーを差し置いても3位になるって、自慢の親友です。(私が勝手にランク付けしてるだけですけど)
さて、この競り合いの強さから何が言いたいかと言えば、天皇賞(春)でシルさんが取る戦術はどうすべきかと言う事です。
原作の天皇賞(春)でシルさんの妨害役となったカザマゴールドさんや、前半を死んだふりでスタミナを溜めてあわや後半だけのレースで勝ちそうになったメタルガンさんは、普通にマイル路線を走っています。
当時と比べて(その上で牡牝の概念が無い)ヴィクトリアマイル等も増えているマイル路線から、無理に超長距離のレースに出る意味はありませんからね。
ナリタブライアンの高松宮杯?
3200mのG1レースで2着の後に1200mのG1レースに出て入着するって、普通に考えて頭がおかしいですし。しかも先着してる馬は全頭G1級のスプリンターですし。
あの方の怪物振りを示すエピソードでしかありません。
…まぁこの世界だとごく最近の出来事(しかも現在の高松宮記念と天皇賞の順番逆ですけど)に感じますけど、現実世界だと大分昔ですからね。
また話がずれましたが、要は天皇賞(春)はほぼシルさんとヒヌマボークさんのマッチレースになるだろうって事です。
私は今回のレースは、シルさんの得意な追い込みの形で行くべきかと思っていました。
無理に逃げの形でヒヌマボークさんと競り合ってスタミナを消費するより、スタミナを温存して最後の切れ味で差し切るべきだと言う考えからそう思いました。
でも、ヒヌマボークさんと実際に走らせて貰った結果と、アルさんの皐月賞の事を思えばそれは間違いの様に思います。
理由としてはまず第一にヒヌマボークさんを自由に逃がす事は、非常に不味いと言う事。
皐月賞のアルさんをヒヌマボークさん、ブルーエンブレムさんをシルさんに置き換えてみると良く解ります。
気分よく逃げるヒヌマボークさんと、仕掛け所を見極めるのに神経を集中させるシルさん。
実力伯仲の相手であるからこそ、そう言った僅かな精神的な疲労すらも勝負に影響すると言う事をこの前学ばせて頂きました。
それに…何かこう言葉にし難いのですが、あの1バ身の聖域を長く侵さない事がとても不味いような気がします。
この前の併走トレーニングでも、何度も並びかけようとして失敗している内に普段以上に体力を消費している様な感じがしました。
そしてもう一つ。それはシルさんの方に理由があります。
レースプランを考える際に原作のレースを思い返してみると…
『あれ、シルさんのスタミナってヒヌマボークさんを大きく上回っていない?』
って事です。
何を言っているのかと思いますが、よくよく考えると原作のシルさんは妨害によって最初の1600mを1600mのレース同様のペースで走っていたんですよね。
それも普通のペースじゃなくて1流マイラーのカザマゴールドさんのペースで。
人間に置き換えて貰った方が解りやすいかも知れませんが、仮に200mを
全力で走った後に、休憩も入れずにあと200m走って最初から400mのつもりで走ってる選手に勝てって言ってるような物です。
果たして1600mを走り切った時点での原作シルさんのスタミナの残りはどれくらいだったでしょうか?
私はその後で若干回復していたとして、最後の競り合い時に30%もあれば良かったのじゃ無いかと思います。
理想的なレースをしていたヒヌマボークさんを仮に50%のスタミナが残っていたとして、20%の差があると言えます。
しかし、それは本人達のスタミナの比率で言った話です。
現に最後の競り合いで全く同じタイミングで2人のスタミナは底をついています。
解りやすくゲーム版ウマ娘のスタミナの値で言えば、シルさんがスタミナ1200の30%で残400、ヒヌマボークさんはスタミナ800の50%で残400で同数。
そう考えれば辻褄が合うのです。
だから『…あれ、実はスタミナに凄い差が無い?』って結論になる訳です。
しかもアルさんとエンブレムさんの件で例に出した皐月賞の2000mと違って、天皇賞(春)は3200m。
スタミナがある方が圧倒的に有利なのは間違いありません。
その結果から導き出される結果は、最初から最後まで競り合ってけば良いんじゃない?って事なのです。
…
「う~ん。イッちゃんの言う事も解るんだけど、たぶん思い通りにはいかないと思うよ」
私は天皇賞(春)のレースプランをシルさんに話してみましたが、シルさんは最後まで聞いたうえで否定しました。
少し考える素振りをする私に、シルさんは優しく教えてくれます。
「まず一つにボクとヒヌマボークさんのスタミナの差が想定通りじゃない可能性だね。ボクはヒヌマボークさんの方がスタミナが上回っている可能性だってあると思うよ」
あぁ~。
まぁ確かにこれは私の希望的観測も入っているかも知れませんし、原作よりもヒヌマボークさんがスタミナをより鍛えている可能性も十分にあります。
私の原作知識だけで判断すると言うのは危険ですね。
「それともう一つ。ヒヌマボークさんが自分の方がスタミナが無いと思えば控える可能性だってあると思う事だね。いくらヒヌマボークさんが前を走られるのが嫌だからって、最終的に負けるのはもっと嫌だろうからね」
なるほど。
確かにいくらこっちが理想的なレースに持っていこうとしても、相手は相手で理想的なレースにしようとするわけですからね。
原作のヒヌマボークさんも、天皇賞(春)でシルさん(とカザマゴールドさん)が暴走していた時は控えていましたし。
「レースは奥が深いです」
「そうだね!だからこそ勝てた時は嬉しいんだよ!」
そうやって笑うシルさんの顔を見て、少しだけ早くデビューしたい気持ちが湧いてきました。