ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。   作:湯川彼方

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距離を詰めるのは、大変過ぎる。

「シルー、一緒にご飯食べようよ」

「うん、良いよゴル」

 

 あの一件から、シルさんとクラスメイトの距離は大きく縮まった。

 シルさんは元々明るく頑張り屋でクラスの人気者だったらしいが、マキシマム先輩に執着する様子もあって、今一つ近寄りがたい部分もあったらしい。

 

 でもあの日からシルさんのクラスは、まるで皆がチームメイトの様に仲良くなったらしい。

 

 だが、その一方でシルさんが今一つ距離を詰めかねている娘も居る。

 それは勿論マキシマム先輩だ。

 

『ボクは誤解していたのかな…マキシマムさんはいつも表情が変わらないし、私なんて眼中に無いと思ってたんだけど…』

 

 マキシマム先輩が理事長へ嘆願する姿を見て、シルさんの事を見ていない何て事は無いと知ったが、それでも長い間誤解していた事もあって、距離を詰めかねている様だ。

 

 まぁダービーでの一番のライバルだし、今は馴れ合わなくて良いと思いますけど。

 

 あと、私たちチームメイトの仲も、更に深まった気はする。

 特にシルさんとマキちゃんは姉妹の様にすら見える。

 

 さらに言えば、マキちゃんは私を妹にしたいらしく、お姉さんぶる様子も見られる。(大抵は私の方がお菓子を挙げて甘やかしてますけど。)

 まぁ、一つ上のマキちゃんからすれば、私は初めてのチームの後輩だからってのもあるだろうし、シルさんと私との三姉妹に憧れているのだろう。

 

 ウマ娘達にとって、3と言うのは三冠や三女神様を彷彿とさせる神聖な数字なのだ。

 

 

 

 

「デネブ~、ファイト~」「「「「おー!!」」」」

 

「「「「「ダービー!ダービー!」」」」

 

 ダービーの掛け声を挙げるとともに、ダービーについて考える私。

 

 

 原作でのダービーの決着はわずかに1cm差でマキシマム先輩の勝ち。

 同着でも良い様な差だが、権威あるダービー馬を2頭出しては行けないという裁定だ。

 

 

 …何かアニメのスペシャルウィークとエルコンドルパサーや、マキちゃんとカスケード先輩の事を考えると理不尽に厳しい気もしますが、現実の競馬でも第30回スプリンターズステークスで、同様の事が起こっている。

 

 

 いま私はどうすればその1cmの差を詰められるかを悩んでいる。

 そして、それを考慮するのには皐月賞の結果も考えなければならない。

 

 失格にはなってしまったが、皐月賞での着差は私の記憶が確かならば、むしろ原作より広がった。

 より万全に準備をしたと思った、にも関わらずだ。

 

 それはアクシデントにより、シルさんのスパートが遅れたせいか?

 それとも原作よりも近い位置で競り合ったために、マキシマム先輩の闘志を刺激したからか?

 

 アクシデントはまぁ考慮しないで良いかも知れないが、競り合いに関してはどうすべきか?

 

 マキシマム先輩に近づかないように大外を廻るのはどうだろうとも思ったが、そこで重要になるのが2点。

 

 シルさんの出遅れ癖と、枠番だ。

 

 出遅れ癖に関しては、生まれつきの体格から重心が後ろに寄っているせいである事を知っているが、それを何とかするのは時間が足らな過ぎる。

 

 そして枠番に関しては…

 自分は必ず運命の強制力が働くと信じている。

 

 だからマキシマム先輩は必ず内枠になるだろうし、

 シルさんは必ず大外枠になる。

 

 まぁ、正直言ってコレは運による物なので如何しようも無いし、外れればラッキーくらいに思うしかない。

 

 大外を廻すのは、これらを考慮すると只でさえマキシマム先輩と距離のアドバンテージあるだけに、無謀過ぎるだろう。

 

 

 ならばどうするか…

 

 

 考えた末に、私はひかりさんに提案をする為に、一度練習の輪から抜けた。

 

 

 

 

 

「…そうね、イッキの言う事も一理あるわね。本番まで短いけど、やってみる価値はあるわね」

 

 ひかりさんは、私の提案を聞いて考えてくれる。

 皐月賞の時もそうだったが、私みたいなチームは入りたての娘の意見もちゃんと聞いてくれるのは嬉しい。

 

 スピカのトレーナーもそうだが、ウマ娘の自主性を尊重する所は『ウマ娘優先主義』とでも言えるだろうか。

 

 逆にリギルのトレーナーや、ミホノブルボンのトレーナー等は徹底的にウマ娘を管理する方針だけど、それはそれで結果を残しているんだから私は悪いとは思わない。

 トレーナーとウマ娘の信頼関係が無ければ、レースで結果を残すことは出来ないからだ。

 

 ただ、結果を残している為にその形だけを真似て、ウマ娘に厳しくするだけでフォローをしないチームもあると言うから、そんなチームに入らなくて良かったとは思う。

 

「それじゃ、私は練習に戻ります」

「待ちなさい、イッキ!」

 

 練習に戻ろうとする私を、ひかりさんが呼び止める。

 その顔は今まで見たこと無いくらいに真剣で、思わず私の身も竦んだ。

 

「あなたがチームの他の娘のために考えているのは解るわ。でも、あなた自身の練習を疎かにする様なら、あなたの言う事は聞けないわよ」

「はいっ!トラック走、行ってきます!」

 

 ひかりさんのその言葉に、私は練習を再開する。

 背筋に冷たいものを感じた私は、全力で走ってあっという間に集団で走っている皆に追いつく。

 

 チラッと、後ろを振り返ってみると、ひかりさんは私達の走る姿を熱心に眺めていた。

 

 

「(好きでそう言う参謀的な事をするウマ娘が居るチームもあるみたいだけどね、イクノディクタスやビワハヤヒデみたいに)」

 

 

 向こう正面、『ダービー!』の掛け声を挙げつつ皆と走る。

 シルさんにダービーを勝たせてあげたい。それはチーム皆の思いだ。

 

 

「(でも、あなたのは違う。何か…別の何かに追われて必死になっている様に思えるわ。でも、それが何なのかが解らないの)」

 

 

 

 トラックを1周廻ると、立ち尽くしていたひかりさんは、空を見上げていた。

 

 

 

「…情けないなぁ。トレーナーだって言うのに、チームの娘との距離も縮められないなんて。」

 

 

 

 ひかりさんが何かを話している様に見えたが、その言葉は声を出して走っている私達には届かなかった。

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