ウマ娘の世界な筈だが、うちのチームがカオス過ぎる。 作:湯川彼方
「「「「せーの、シルさん頑張って!!」」」」
日本ダービー当日。
私たちは今日もシルさんの応援のため、最前列に陣取っている。
シルさんの入場は一番最後。やはりと言うか枠番は大外になった。
マキシマム先輩が3番で、シルさんが18番。
ただし、原作の時代とレースの仕組みが変わった事もあり、大外ではあるがより内側にはなっている。
これが吉と出れば良いのですけど…
本場場に入ったシルさんは、私たちの姿を見つけて手を振ってくれる。
その顔は清々しい笑顔だ。
「(今ここに立てているのは私だけの力じゃない。みんな、ありがとう…でも!)」
でも、その笑顔は一瞬で真剣な顔に変わる。
「(今日こそキミに勝つ!マキシマムさん!!)」
シルさんの視線の先には、先に入場したマキシマム先輩の姿がある。
!?
シルさんの視線に気づいたマキシマム先輩の方から、シルさんに近づいていく!?
その様子に場内からもどよめきが上がる。
「マキシマムさん…今日こそはボクが勝つよ」
「シルフィードさん…私は負けないわよ」
向かい合って立つ二人からは、まるで白と赤の闘気が湧き出る様にも見える。
「シルさん変わったのね。気合入ってるのに凄いリラックスしてるのね。」
「う~ん、でもマックスパイセンも負けてないな」
確かに…以前は少し暗い物が混ざっている様にも思えた、シルさんがマキシマム先輩を見る視線。
だけど、今のシルさんには純粋に勝ちたい気持ちしか感じられない。
観客たちにも二人の気持ちが伝わったのか、場内のどよめきはいつの間にか大歓声に変わっていた。
それにしても、今日の歓声は皐月賞よりも凄いように感じる。
皐月賞が大雨だった事を抜いても、その何倍にも歓声が大きく聞こえる。
…そうか、これがダービーの空気なのか。
…
全ウマ娘の入場が終わり、ゲートの前に集まっていった。
勿論シルさんの姿もそこにある。
ふと、ひかりさんの顔を見ると、うっすら涙が浮かんでいた。
「良かった…シルフィードがダービーに出れて、本当に良かった…」
あの皐月賞の後、ひかりさんはシルさんよりも悔やしんでいた様にも見えた。
誰よりも先に、シルさんがダービーに出られるように嘆願に行ったのもひかりさんだ。
そんなひかりさんの様子を私はじっと見ていた。
ひかりさんが涙を拭い、私たちの方を見て…そして驚く。
ふと、周りの皆を見ると
アルさんはひかりさんの言葉にもらい泣きをし、
ストさんはニヤニヤとひかりさんを眺め、
マキちゃんは今にも「んあ~」とか言い出しそうな何とも言えない表情をしている。
少し頬を赤くしたひかりさんは、シルさんの方を向きつつも私たちに言葉をかける。
「みんなシルフィードの走りを良く見ておくのよ。…私は皆にも必ずダービーに出てもらうつもりで…いえ、ダービーに勝ってもらう気で居るからね。」
ひかりさんの言葉に、三者三様の反応を示す先輩たち。
「はい、ひかりさん」
「まぁ一生に一度だから、しんどくない程度に頑張るよ」
「私もダービー馬になりたいのね!」
それぞれ言葉は違うが、ダービーに対しての思いが感じられる。
じゃあ私にとってダービーとは何だろう?
ふと、前世の記憶が思い浮かぶ。
正直、競馬好きとは言ってもあくまでもファンでしか無かった自分には、本当の意味でダービーと言う物を理解出来ていなかった。
現実の競馬で言えばG1がある春のシーズンの中の1レース。
毎週馬券を買っていると、オークスの後で安田記念の前のG1レースと言う感覚になっていた。
ゲームで考えれば自分の馬に三冠馬と言う称号を与えるためのレースの一つで、牡馬三冠で一番賞金が高いレースと言う感覚だ。
だけどいまウマ娘としてこの場を体感したとき、ある言葉が思い浮かぶ。
『無理して出てきたヤセ馬だろうが、そいつがヘトヘトでどれほど辛いレースになろーが、出られりゃ喜んで出るんだよ。それが、「ダービー」ってもんなんだよ』
さっきのひかりさんの姿と、ストさんの騎手でもあったその人の言葉が重なって見えた。
それだけに…今凄く私は実感している。
(多分)モブウマ娘の私には、きっとダービーに出るだけでも大変だろうけど…
「私も…ダービーに出たいです!」
「うん、頑張ろう。イッキ」
ひかりさんは、そう言って頭を撫でてくれる。
ふと、周囲の誰かの会話が耳に入る。
「むぅ~、なんでシャオはダービーに出られないのよ」
「いや、だってあんたデビューして間もないじゃん。実績が足らないのよ」
「うぅ~、菊花賞には絶対出るからね」
「シャオさんは、もう少し勝たないと…」
ほら私たちのすぐ近くでも、ダービーに出たいのに出られなかった娘がいる。
…なんだか、凄くどっかで見たことある人達な気がしますけど!
そんなやり取りをしていると、場内に大歓声が上がる。
「「「「わぁ~~~~~」」」」
スターターが発走台に上がり、ウマ娘達がゲートに入っていく。
全ての人の、ウマ娘の思いを乗せて…
世代の頂点を決めるレース、日本ダービーが発走する。
人によって好きなレースは違うとは思いますが、個人的に言えばダービー、天皇賞、有馬記念は別格だと思ってます。
イッキの原作で言えばJCが一番難しいレースの様に描かれてますが、有力な外国馬がほとんど来なくなった今のJCは、ただの賞金が高いレースになってしまったとも思います。
ルドルフが3歳で勝てなかったJC、凱旋門賞やキングジョージやBCターフの勝ち馬が集まったJCがもう一度見たいです。
ちなみに作者が生(TV)で見た初めてのJCはランドが勝ったレースです