ことの発端は、ハワイ戦後の欧州派遣戦だった。
この戦いにおいて、海防艦「
…
多少の質疑応答の後、身元が判明する。何の事はない、深海棲艦犠牲者(行方不明者)名簿に記録があっただけだ。
問題だったのはその年齢だった。襲われたのは2年前で、当時11歳。書類上でも現在13歳ということになる。
大本営司令部は本気で頭をかかえたと聞く。さすがにこんな児童を戦場に出すのかと。
だが本人はやる気であり、他に御倉の適合者はいない。
艦娘の傾向として、「元艦」の船体規模と、
確かに甲型海防艦は戦時建造艦で、船体規模としては駆逐艦より小さい。
しかしまさか、10台前半の児童が適合者だとは誰も思わなかった。
まさかということで、10~15歳までの適合者検査が行われた。名目上は予防接種と平行として。
…そして、現在発見されている全ての海防艦の適合者が見つかってしまったのだ。
大本営司令部はまたしても頭を抱えることとなった。
見つかった以上、使わないという選択肢はまずあり得ない。現在でも手が足りてるとは言い難いからだ。
とはいえ、児童を戦場に送るというのも問題だ。現在でさえ、駆逐艦級の主力は10台後半が多く、20台はほんの数名。
この状況でも、人権保護団体()に何度も凸されている状況なのだ。
この上、10台前半の女子児童を戦場へ送り出すなどと発表すれば、どうなるかは火を見るより明らかというやつだ。
せめて15歳を過ぎるまで待つ、という意見もあったが、戦況がそれを許してくれるとは思えなかった。
結局、やむをえず大本営はそのまま発表。大ブーイングの中、志願者のみ、本人および保護者の許可を得た者のみ、という条件付きでの徴用となった。
前置きがえらく長くなったが、そういう訳で、
同行している自衛隊広報官の青年がドアをノックする。基本的には私は付き添いであり、口を出すことはない、はすだ。
ちなみにここは八丈島避難民仮設住宅である…
着いたとき、思わず天を仰いだのはバレてないと思う。
「…そう…ですか…」
一組の男女。彼らが「八丈の適合者」の両親だ。
読んでいた書類をテーブルに置く。
「お辛いかもしれませんが、なにとぞご検討を、」
「いつになりますか?さすがに今日ということはないでしょうけど」
「は?」「え?」
…母親のほうが、ノータイムで答えやがった…!
父親のほうを見ると、こちらもなにか醒めた眼で書類を見ている。止めないの?!
「あんな娘、早く連れていっていただいたほうが、」
「ちょ、ちょっとまってください。いったい何が」
広報官の青年がなだめる。
…自分で腹を痛めて産んだ娘だろ?!なんだこの反応…って、ん?
服の袖をくいくいと引っ張られる感覚。
見ると、妖精さんが私の服の袖を引っ張っていた。
「…(なに?どうしたの?)」
不審がられないように小声で妖精さんに話しかける。声に出さずとも通じる場合があるが、声にしたほうが意思が伝わりやすい。
『我々のせいらしい、です』
ナニソレ。
「おかしいんですよあの娘は。なにもない空に向かって話しかけたり、へんに力が強くなって近くの子供に怪我させたり」
ああ…なるほど。だいたいわかった。
「おかあさま」
私は母親の女性に向き直り、声をかける。
「…はい?」
反応はあった。話を聞く気はあるらしい。
「ちょっとお聞きしますが…艦娘とはどういうモノだとお考えでしょう?」
「えっ、」
ちょっと面食らった反応をして、それから彼女は言った。
「それは…国を守るために造り出されたモノ…じゃないんですか?」
…やっぱそうきたか。
「すこし違います。お手元の資料にもありますが、艦娘は基本的にはただの人間です。違うとすれば」
目線を下ろし、手元にいる妖精さんを見る。
「妖精と呼ばれる存在を知覚し、かつての船の魂をその身に降ろすことでやっと戦うことができるのです」
「…妖精?」
「ええ。ちょうどここにひとりいますけど」
と、私の右袖を掴んでいる妖精さんを左手で指し示す。
「…?」
眼をこらすが、見えるわけがない。
「妖精さんは普通の人間では見えません。声も普通の人間では聞こえません。それは妖精さんや深海棲艦が、この世のモノではないからです。
ですが、艦娘の素養がある人間は、妖精さんを認識し、その助力を得ることで、やっと深海棲艦に対抗できます。
ですが、それ以外では基本的にはただの人間です」
例外が出る場合もあるけどね言わないけど。
口調とか髪の色とか眼の色とかな!
でも人間であることには変わりはない。
「それまでの人生が無くなったわけでは決してないのです」
…転生者の私が言うのも何だけどな。
「娘さんは、人間をやめたわけでも、人間でないモノになったわけでもありません。
ましてや、あなたがたの娘であることをやめたわけでもないのです」
「……」
二人は二の句がでないらしい。
「虚空に向かって話したように見えたのは、おそらく妖精さんと話していたのでしょう。
力が強くなったのは…恐らくですが、無意識に
艤装がない場合はごく短時間なら、という条件つきですけれど。私だってできますし」
「あ、そういえば、あなた…」
「自己紹介が遅れましたね。戦艦『霧島』を預かっている者です。本名はご容赦を」
「…!」
艦娘の『現物』を目の前にしていたことに気づいたのか息をのむ二人。
「ところで、彼女はどこに?」
「…すみませんでした、霧島さん」
広報官が私に謝るが、
「気にしなくていいわ。てか、こういう場合に備えて艦娘が付き添うんでしょうから」
すでに家を辞し、八丈がいるはずの公園に着いたところだ。
「…さて、どこにいるんてすかね」
と広報官は見回すが、
「…いたよ」
私の眼はすぐに見つけた。
…公園の一角に、妖精さんたちが山盛りに集まっている。そしてその中心にいるのは、間違いなく彼女…八丈だった。
私はそこに近づく。
「こんにちわ」
その声に彼女は振り向く。
「…お姉さん、だれ?」
「霧島、っていうの。こんにちわ、みんな」
と、私はしゃがんで彼女に目をあわせつつ、妖精さんたちに対しても手をのばす。
『わ~~』
伸ばした手に、妖精さんたちが群がる。
「……!」
その光景に、彼女は驚く。
「…お姉さん、この子たちが見えるの?!」
「もちろん。だってこの子たちの仲間とお仕事してるんだもの」
「ええっ!?」
目を丸くする彼女に、妖精さんたちは次々飛び乗っていく。
それを見ていると、思わず笑みが出てくる。
「ところでお名前は?」
「
…本名に艦名の一部が入っているタイプか。出身地が八丈島といい、かなりシンクロ高いな…
「じゃあ、ハチ、って呼んでいい?
…実は仕事仲間に『はっちゃん』て呼ばれてる人がいるから、間違えそう」
伊8ですね。
「別に構わないけどー」
と言いつつ顔を赤くしている。かわいいな、おい!
「ところで、お姉さんって、自衛隊の人?それ、自衛隊の制服だよね」
…察しもいいな。
「まぁ、ね」
『霧島さんは戦艦なんですよー!とってもつよいんですよー!』
と妖精さんがハチに話す。ちょ、こら!
「戦艦、って、でっかいお舟でしょ?なんでお姉さんが戦艦なの?」
あ、この子、艦娘の概念を知らない?
…いや、そういえば情報統制であまり公にはしてないんだっけ。少し調べれはかんたんに出てくるレベルだけど。(ネット上ではかなり有名)
ニュースなんかでは単に「戦闘艦艇」として報道されることになっている。また、法的には特殊小型船舶、つまり水上バイクの同類の扱いで、じつは船舶免許がいる。
「うん、まぁ、戦艦とおんなじチカラをもった武器が使えるの」
こんなとこにしとこう。
「そうなんだ。ふぅーん」
とりあえず納得してくれたらしい。
「で、その戦艦のお姉さんがなんでここにいるの?」
まぁそうきますよね。
「あ、もしかして、わたしをスカウト?!」
「!!」
…そこまで察する、か。
「…海にバケモノがいるの、しってる?」
「……うん。おとうさん、お魚とるりょうしなんだけど、あぶないからってこっちに引っ越してきたから」
深海棲艦のことまで知ってるか。なら説明は省ける。
「それでね、そんな怪物たちを退治するために、この子たちのチカラを借りてるの」
私は妖精さんたちを見る。妖精さんたちも私たちを見上げている。
そして彼女は妖精さんの一人を手に乗せると、
「そっか。……ねぇ、私にもできるかな?」
数日後。
「すっげー…」
わいわいと甲高い歓声が響く。
「あぶないからなー!さわるなよー!」
「「はーい!天龍せんせー!」」
「先生じゃねェッ!何度いったらわかるんだ!」
「……」
私は苦笑するしかない。
今回、スカウト…というか徴用…された、
今回の対象は占守、石垣、八丈の3人。
引率&警備として、天龍、龍田、そして私、護衛艦きりしまが付き添っていた。
「すまねェな霧島さん、本来戦艦のあんたにこんなことさせて」
「気にしないで天龍さん。それに、今の私は『護衛艦』だから」
私の制服は護衛艦仕様のセーラー服てある。
「霧島さんも大変ですねぇ、悠々自適な戦艦としてのお仕事だけじゃなくて、こんなことまでするなんて」
龍田さんがそう言ってくる。
実際、戦艦の火力と護衛艦の多用性を使い分けられるようになった私はあっちこっちに駆り出されている。
「気にしないでって言ってるでしょう。最近はわりと手が空いてたし、ちょうどいいのよ」
…前世で社畜だったせいか、
「はいみんなー!こっちきてー!」
っと、明石さんが呼んでいる。
「はい。これがあなたたちの艤装よ!」
と明石さんが示したのは、台にのった占守型の艤装3つ。
3人はそれぞれ自分の艤装に行き、艤装を台に載せたまま背負う。
「んーーー!」
台から立とうとするが…立てない。艤装は素では重いからね。
「無理に立たなくていいわ」
明石さんのその声に、うなだれながら従う3人。
「なんか懐かしいな」
「そうね天龍ちゃん」
その姿にどうしても苦笑してしまう私たち。
「目をつぶって、艤装の中を聞いて」
「………」
その明石さんの言葉に素直に従う占守たち3人。
「あっ」
ぽつりと八丈が声を上げる。なにを『みた』のやら。
「そろそろいいかしら…じゃあ、妖精さんたちにお願いして。エンジン始動、って」
「「「エンジン始動!」」」
わずかに重低音が聞こえ、煙突から煙があがる。
「「「…………」」」
3人とも目を開けた。
「いいわ、立って」
その明石さんの言葉に素直に従って、すっ、と立つ3人。
「あ、あれ?」
「立てた?」
「あんなに重…くない?!」
驚く3人。
「戸惑ってる戸惑ってる」
「私たちもああでしたねえ」
「不自然なほど違和感が無くなるからなぁ」
艤装を『装備』すると、それは体の一部という認識になり、重さなどをまったく感じなくなる。自分の腕の重さを感じないように。
わいわいと騒ぐ占守たち3人を横目に、私たちも自分の艤装を装備しにいった。