どさりと段ボール箱を積み上げる。
「秋雲先生、こっち、終わったわよ」
「あーい。そんじゃ……これが最後かな?」
最後のダンボールを床に置くと、私は伸びをした。
ばさりと長い袖が腕にまとわりつく。
いまの私の服装は、『戦艦』の巫女服…のニセモノである。
そう、ここは東京有明の展示場。年末のもうひとつの期間限定戦場、コミケ会場である。
「やー…今年も来れたねぇ」
と、感慨ぶかい声をだすのは秋雲先生である。
「いやいや、秋雲先生には今回もお世話になりまして」
拝んどこ。
サークルチケットなんてプラチナチケットをまわしてくれる秋雲先生は神様やけん。
…え?深海棲艦との戦争中のはずなのにコミケなんてするのかって?
……いちおう、東京湾内への侵入は阻止できてるので、なんとか。
浦賀水道には24時間体制で艦娘艦隊が張り付いて、常時警戒体制が敷かれています。実際、私や秋雲先生もコミケ後は浦賀水道の警備任務の予定だったりするし。
ちなみに、秋雲先生はきちんとサークル申し込みして参加してます。その辺は一般人と同じ扱い。艦娘としての仕事は休暇扱いです。
ちなみに、今回のメンバーは、サークル主の秋雲先生、風雲、巻雲、青葉さん、売り子として
秋雲先生の新刊は二冊でひとつは日記まとめ本。艦娘としての視点で、鎮守府のあれやこれやを機密に触れない範囲で漫画として描いている。数日おきに描いてネットで公開しているものをまとめたものだ。
ついでに青葉さんも寄稿している。
現役艦娘による内情暴露本なので、サークルとしてはかなりの大手だ。
当然のようにシャッター前サークルである。
なお、私と鳥海さんは単なる売り子。サークルチケットありがたや。
「開場まであと1時間とちょい、なんとか準備、間に合いましたねえ」
椅子に座って休んでいる鳥海さんがそうこぼす。
ちなみに鳥海さんも改二の制服(ニセモノ)だ。さすがにプライベートで艦娘制服は持ち出せない。あれは兵装扱いだからだ。なのでコスプレである。
「そろそろ先頭列はガレリアに入るころかな?」
時計を見ながら私が言う。
「…今日はどれくらい出てくれますかね…」
そう秋雲先生がぽつりといいながら見つめるのはもう一冊の新刊だ。
…秋雲先生の創作本である。
こちらは、日記本とはわざと離して置いてある。こっちが秋雲先生の『本命』だ。
秋雲先生はNLもBLも百合もアニパロもなんでもござれの雑食系絵師だが、やはり創作系となるとやや売り上げは落ちるという。
それでも『描きたいものを描く』という欲求には素直に従って形にするのは流石だと思う。
……実は私も、今世では無理だったが前世ではコミケにサークル参加していたこともあったのでよくわかる。
そして、チャイムの音が会場に鳴り響く。
『ただいまより、開場いたします!』
どっと会場内が拍手につつまれる。
「いらはいいらはい~!秋雲亭はこちらでーす!」
秋雲先生の声とともに、ぞろぞろと人が入ってくる。
「すみません、4列でお願いしまーす!」
巻雲の舌足らずの声が列整理を促す。
「はい、新刊1部ですね。ありがとうございます」
風雲と青葉さん、鳥海さんと私の4人で客対応する。
「新刊1部で」
「はい、ありがとうございます」
「……」
その人はお金をだそうとしたときに、ふと机の隅を見て、もう一冊の新刊を手に取った。
「…………」
ぱらぱらと内容を見て、
「すみません、これも」
「はい。ありがとうございます!」
「ありがとうございました~!」
全員でお辞儀する。
「新刊日記本完売でーす!今夜0時に電子版がリリースされるのでそちらをおまちくださーい!」
秋雲先生が声をあげる。
お昼過ぎ、日記本が完売した。これでひと段落だ。
わらわらと列がバラけていく。
「…………」
秋雲先生はしばらくそれを見ていたが、
「じゃあ、挨拶まわりと会場ひとまわりしてくるわ」
といって、荷物をまとめはじめた。
「了解。留守番してるわ」
風雲がそう答える。
秋雲先生は、艦娘になる前からのコミケ参加者だったそうだ。なので、他のサークルの人たちとも顔見知りはいる。
「いってきまーす」
と、手を振る秋雲先生を見送る。
「さて、じゃあ私も会場ひとまわりしてきます」
と、私もバッグをかついでサークルスペースを後にする。
「え~っと、どの辺だ……?」
まず向かうのは艦娘系サークル……前世でいえば艦これ系サークルである。
お目当ては霧島本です。エゴサみたいだけど、見たいじゃん?
実際、艦娘の存在は公開されており、ときおりイベントなどもある。
なにしろ艦娘は例外なく、見目麗しい美女ぞろい。世間を鼓舞する意味でも、アイドル的に扱われている。
実際、コミケ後にエゴサすると、「霧島さんが霧島本買いに来たwww」と、わりと有名だったりするようだwww
そんなこんなで、私はあちこちのサークルを回る。
「あの、すいません」
「はい……って、霧島?!」
「この艦娘本ってまだありますか?」
「あ、ああ、それなら」
「あの、こっちのこれって再販とか」
「申し訳ないですけど……」
「そうですか……」
無念。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃいませ……っ!」
「この本ってもう売り切れました?」
「いえ、少しだけ残ってますよ」
「じゃあ、一冊ください」
「はい。ありがとうございます」
「いやぁ……買ったぜ」
ひととおり会場をまわって大漁大漁。秋雲先生のサークルスペースまでもどる。
「ただいま」
「「おかえり~」」
……あれ?
「秋雲先生は?」
そう私が聞くと、
「2回ぐらい戻ってきてまた行ったわよ」
風雲がそう答えた。
……同人歴長いだけあるわ。知り合い多いんですね。
「たっだいま~」
「「「おかえり~」」」
秋雲先生が戻って来られた。紙袋を両手に下げて。
「収穫はどんなもんで?」
と私か聞くと、
「まぁそれなりにね」
どさりと紙袋を下ろす。中身を見ると、
「おぉう……。結構ありますねぇ」
「まぁね。
そう言いながら時計を見る。
「……まだちょい早いね」
「ですね」
時刻は13時過ぎ。撤収するにはもったいない。
「そいえば、お昼は?」
そう私が聞くと、
「サンドイッチ買ってあったから」
「うん」
風雲と巻雲はそれで済ませたらしい。
青葉さんと鳥海さんはまだ出ているらしい。
「先生は?」
と秋雲先生に聞くと、
「まだ。回ってたからねぇ」
「私もまだだし、いっしょにどうです?」
「おk。風雲、悪いけどもうしばらくよろしく」
「はいはい」
というわけで、私と秋雲先生はガレリアを上がってごはんにする。
「んまい!」
「やっぱカレーは外れないですね」
ガレリアのカレー屋でお昼ごはん。
「お、艦娘さんだ」
そんな声が聞こえた。
横目でちらりと見ると、男二人連れがこちらを見つつ席に座るところだった。
「出来いいなぁ。あの巫女服は戦艦かな?」
「眼鏡してるし霧島かな?もう一人は、あのえんじ色のスカートは夕雲型?」
「ってことはあのポニテ、秋雲か?
そういえば、秋雲ってコミケで本出してるって噂、あったな」
「まさか本人だったりしてなぁw」
「んなわけねーだろw」
そのまさかなんだよなぁwww
秋雲先生と二人して密かに大ウケでしたわww
「ってなことがあったのよwww」
サークルスペースまで戻り、風雲、巻雲と、同じく戻ってきた青葉、鳥海さんにさっきの出来事を話す私と秋雲先生。
「まぁ、まさか『本人』がいるとは思わないわよねぇw」
笑う鳥海さん。
「
私もそう言って笑う。
「コスエリア行ったんですけど、結構出来いい人いましたよ~」
と、デジカメを出す青葉さん。
「へぇー、そうなんだ」
「ほらこれ。この子なんか凄いですよ」
「どれどれ?」
見せてもらった写真には、確かに見覚えのある人。
「あら、金剛お姉さま」
なかなか出来がよろしい。あの特徴的なお団子ヘアを上手く再現している。
……毎朝アレを結っているお姉さまはホント尊敬するですよ。
「あとまぁ、コレとか」
と青葉さんが出した画像は、
「うわ~……」
思わず声が出た。
……写っていたのは武蔵さんである。
この真冬に、上半身丸出しはキツそうだ。
……ちなみに、本物の武蔵さん本人は冬季は南方に出ていて本土に帰って来ようとしてなかったりする。
「そろそろ撤収準備しますかね」
秋雲先生が時計を見てそう言った。
ふと気付けぼ14時半、もうそんな時間か。
「そうね。片づけ始めましょう」
風雲が答えて、私たちは荷物をまとめ始める。……さぁ、今日はここまでだ!
というわけで、撤収完了。時刻は15時を過ぎたころ。
青葉さんをスペースに番として残し、他全員で宅配便の受付へ。
着替えと貴重品意外の全ての荷物を発送する。
……この後は仕事やけんねぇ……(遠い目)。
スペースにもどり、青葉さんと再合流、椅子と机を片付けて、
「お疲れ様でしたー」
両隣のサークルさんへ挨拶して、着替えのため更衣室へ。全員私服に着替える。
「秋雲、申し送り何時だっけ」
「
移動時間を考えるとちと微妙ではあるが、
「打ち上げってことで出しますよー」
と秋雲先生がおっしゃって下さった。
「秋雲先生!神!」
「そこにシビレル憧れるゥ!」
「まーっかせなさい!」
ってなことをいいながら、会場を後にしたのだった。
というわけで。
…じつは裏テーマは「とくになにも起こらないコミケ一般サークル参加者の一日」だったりします。
実際、自分も一時期サークル参加していたので。(超弱小小説サークルでしたが)
もう一つは、まぁお察しでしょうが、秋雲先生が描きたかったのですよ。
…ところが、自分の中の秋雲先生が全然動いてくれませんでしたわ…orz