(めんどいからたぶん書かない)
夜の海。
『海はいいねぇ。夜の海はさらにいい。
穏やかな波、すずしい風、明るい月。
今夜は最高だ!』
……どこぞの夜戦バカの声か通信から響く。
「無線封鎖してるわけじゃないからいいんですけど。もすこし静かにできませんかね」
『なんだよー。いいじゃん。だまーって
「島風ですかアナタは」
『なんだとー』
「はいはい。ちゃんと仕事してください」
『仕事はしてるよ。電探にも目視でも敵影なし』
「綾波、そっちは?」
『こちらも同じです。電探、目視、ともに敵影なし』
「そうですか」
『まー、私らより遥かに高性能な『きりしま』の電探なら、わたしらよりとっくの昔に見つけてるでしょ』
『まぁ、そうかもしれませんね』
そう言って笑う川内さんと綾波。
「……」
……笑えねぇ。
というのも、有効範囲300kmを誇るSPY-1レーダーの探知範囲ギリギリに、ちらちらと反応があったりなかったりしているからだ。
この距離になると、さすがのSPY-1 レーダーでもノイズを疑わざるを得ないし、そもそもとして40ktで突っ走ったとしても2時間以上かかる。
ちょっと沖に出たらこれだもんなぁ。海は広いぜ……
『きりしま?』
「ああ、いえ、なんでもないです」
川内さんの言葉にとりあえずそう答えておく。
さて、私たちが何をしているかというと、物資輸送・資源回収船団の護衛である。いわゆる遠征任務だ。
正確には、船団はこの時間は港に停泊中。さすがに夜間航行は深海棲艦に襲われたらひとたまりもないからだ。
私は港の出口辺りでSPY-1レーダー全開で走査中。
川内さんと綾波は港の外側を哨戒中だ。
面子は第三水雷戦隊を率いる川内さん隷下の第19駆逐隊、磯波、浦波、綾波、敷波の4人に、副旗艦として名取さんを加え、そこに私、きりしまが入る形になっている。
ローテーションは、私と川内さんが夜間哨戒固定。名取さんが昼間の哨戒と道中航行の指揮をとり、19駆は昼夜を3交代でローテーションする。
川内さんが夜間哨戒固定なのはまぁお察しとして、私も夜間担当なのはSPY-1レーダーの索敵能力を使うため、私から提案した。
ほぼ視界ゼロとなる夜こそレーダーの出番と考えた訳である。
……ある意味この選択は当たりで、沿岸から200km以上の沖合いに深海棲艦の反応がいくつかあることがあった。藪をつついたら本末転倒になるので向かって来たもの以外はこれまでも対処していない。
しかし、本来この距離だと
……ということは電波以外のナニカで深海棲艦をとらえているはずだが……まぁ、いいか。
ちらりと時計をみる。日の出まであと2時間と少し。
気合い入れ直すか!
「川内以下3名、哨戒任務を終了。敵影確認できず。交戦もありません」
「名取、了解しました。お疲れさまでした」
日が昇り、港入り口の海上で交代の名取さんたちに申し送りをする。
仕事はちゃんとするんですよ川内さんは。でなけりゃ三水戦を任されるはずがない。
「んぁ~! やれやれ、寝るか~」
伸びをしつつ港へ向かう川内さんと綾波。
私も続こうとすると、
「きりしまさん」
名取さんに呼び止められた。
「……なに?」
「本当に敵影はなかったんですね?」
「……なかったわよ」
こっちに向かってくるのは。
「……そういうことにしときましょう」
「そういうことにしといてください」
……まぁ、半分くらいバレとるねコレ。
名取さんも戦術目標はわかってるはずだからこの程度で流してくれたんだろう。
船団が出港準備を進めているなか、私たちはただ1隻いる護衛艦へ。
この『せんだい』が、川内さん旗下第三水雷戦隊の出先母艦となっている。
さすがの艦娘といえど、眠らずに24時間航行することは不可能だ。
燃料的には数日間ぶっ続けの行動は可能ではあるのだが、艦娘のほうがもたない。
このため、行動が数日間におよぶ遠征任務などの場合は運用母艦が付けられ、休息などを行う。(補給はできない)
『せんだい』は、深海棲艦との緒戦で、例に漏れず被弾、損傷したものの、大破まで至らず修理され、艦娘運用後は川内さんの出先運用母艦として運用されている。
『せんだい』に限らず、旗艦級の艦娘で同名の護衛艦が生き残っている場合、可能であるならば同名の護衛艦を出先運用母艦として優先的にあてることがある。
『せんだい』へ近づいた私たちは、艦尾に追加された梯子を昇って甲板へ。
本来はヘリ甲板である甲板に仮設されたテントへ。
「お疲れさまです」
「お疲れさまです」
歩哨が敬礼したのにあわせて返礼する。
テントに入って中にある台に艤装を置く。
背中にそれなりの大きさがある私や綾波は少しかかるが、腰後ろの魚雷管と手甲の砲だけの川内さんはすぐ終わる。
「じゃ、お先~」
と言う間に出ていった。
「……軽巡系はああいう装備多いよねぇ……」
「……あれで
綾波がひとりごちる。
川内さんに限らず、艦娘の兵装は見かけの大きさと威力が比例しない。
ここからも艦娘とは物理的な存在ではないことがわかる。
「まぁ、それはそれとして。とりあえず寝ましょう」
「……ですね」
艤装を徐装して艦内へ入り、割り当てられた部屋へ。
部屋へ入ると、2段ベッドが2つあるだけの部屋で、うち1つにカーテンが引かれている。
割り当てられたロッカーを開けてぱぱぱっと寝間着に着替え、ベッドへダイブする。
カーテンを引く頃になると汽笛が聞こえ、ゆらりと揺れる。
出港したらしい。
とりまオヤスミナサイ……
「…………」
夜の海。月明かり。外洋であるため結構波はあるが、航行には支障なし。
……物資輸送船団は外洋を航行中だ。
夜間航行は極力避けるべきだが、どうやっても途中に停泊できる港がなく、10時間以上かかる航路はある。
まぁ、そういう場合に備えて私ら艦娘護衛艦隊が随伴するわけだが。
300m以上ある大型貨物船が6隻、200m前後という、至近距離とも言える間隔で航行し、その外側を私ら艦娘護衛艦隊がかためる。
連合艦隊の第三警戒航行序列の配置に近い。
本来は旗艦がつとめる先頭を
『……どう? きりしま』
さすがの川内さんも声に緊張が走る。
「……相変わらず方位074から073、相対距離は82km、ってところでしょうか。進行方向はほぼ方位0です」
『磯波、敷波、そっちは?』
『敷波、水中聴音機には目立った音はありません』
『磯波。こちらも同じく』
『こちら護衛艦『せんだい』、こちらのソナーにも音紋照合なし』
磯波、敷波、そして『せんだい』の
さすがの深海棲艦でも水中では音を出す。これは艦娘用のソナーと通常艦のソナーでも反応の差異が認められなかったため、ソナー関連に関しては解析能力の差で護衛艦が有用であったりする。
……まぁ、前述の通り、
なんとかやりすごす方向で、灯火管制を敷き、本来航行法的に消してはいけない航行灯まで消して、近接レーダーだよりの目くら航法で航行中。
私たちは方位190、南南東に向かって航行中のため、方位0、ほぼ真北に進んでいる深海棲艦とは逆方向になる。
このため、徐々に相対距離は離れていっている。
じりじりと時がすぎ、
「……方位031から030、相対距離は120kmを越えました。
「『『『『『はぁ~~……』』』』』」
全員のため息が聞こえた。
『気は緩めすぎずにいくわよ。警戒態勢は維持。灯火管制も継続ね』
『『『『了解』』』』
川内さんがそう締める。
『しかし何だ、見えすぎるってのもメンドクサイねぇ』
『早期に警戒できるんですから、それはそれでありがたいのでは』
川内さんの言葉に名取さんがかぶせる。
『そうだけどね』
『川内さん的には夜戦の獲物が見えてるのに手が届かないのが残念なんですかね』
『敷波、あんたね、いくら私でも輸送船団抱えてるのに無駄な夜戦はしないわよ?!』
無駄じゃなければするんですね。
『無駄じゃなければするんですね』
……って、敷波、あんた、
『……覚えておくわよ敷波』
『……っっ!』
……おバカ……
敷波のやらかしに頭をかかえたその時、警告音!
「!」
レーダー画面で確認する。
「方位191、相対距離280kmに反応、進行方向はほぼ方位0! 速度約20kt ! 向かって来ます!」
川内さんにそう報告し、更なる情報を得るためロックオン。
距離は遠いが、進行方向からぶつかる可能性が高い。
『せんだい!』
『こちら護衛艦せんだい、最終記録上はこの航路を通る予定は我々だけです!』
『最終更新は?』
『47分前!』
『きりしま!』
「
『迎撃する! 浦波! 敷波! 行くよ! 名取! あと頼んだ! きりしま! ナビ頼む!』
「『『『了解!』』』」
川内さん以下、浦波と敷波の3人が艦隊列を離れて、夜の海の向こう側へ消えてゆく。
「敵艦、川内さんとの相対距離9万メートルを割りました。敵艦の進路、方位、速度、変わらず」
『敵艦の右舷からしかける。210か?』
「……そう、ですね。いいと思います」
『よし。進路、210』
船団を離れて迎撃に向かった川内さんたちを示す、レーダー画面の
『きりしま、せんだい、他にはないわね?』
名取さんから問いがあがるが、
『こちら護衛艦『せんだい』、ソナーには音紋照合なし』
「きりしま。探知圏内に他の反応なし」
今のところ、川内さんたちが対処している以外の反応はない。
とかやっているうちに、
「川内さん、相対距離が5万メートルを割りました。警戒を」
航空機ならひとっ飛びだ。深海棲艦の偵察機は夜間だろうがお構い無しだし。
戦艦なら射程圏内もありうる。
『ッチ、わずかに黄色い光が見える。フラだ』
マジかー……
「っと、川内さん、そろそろ変進を。100です」
『了解。変進、進路100』
川内さんたちは変進し、深海棲艦の方向へ向かう。
『先手は取れそうだ。砲戦用意!』
川内さんの主砲射程は約2万メートル。
「方位101.2から1、距離2万8千」
『ああ、もう見えた』
レーダー画面の川内さんと敵艦の距離が2万6千を割った瞬間、
『
通信ごしに砲声。
『突っ込むぞ! 全速!』
既に全員改二なのでフラ3隻であろうが駆逐艦なら問題ない。レーダー画面上でもはっきりわかる蹂躙が始まった。
「川内さんとの相対距離4千。探知圏内に他の反応ありません」
『探照灯、点けます』
名取さんから探照灯の光が伸びる。
『確認した。探照灯消していいよ』
その川内さんの言葉に探照灯の光が消える。
しばらくすると暗闇の中から川内さんたちが姿をあらわした。
「おつか、れ……」
「お疲れさん。ナビありがとねきりしま」
「いえ、それはいいんです、が……」
川内さんは何か持っていた。
一辺が5、60cmほどの立方体の物体。
「ドロップキューブ、ですか?」
深海棲艦を倒すと、その体が再構築され、立方体状のナニカになることがある。
これはドロップキューブと呼ばれ、普通は一辺30cmほどのそれを、工廠妖精さんに渡すと、艦娘の艤装になったり資源になったりする。
……しかし、こんなデカイのを見たことはない。
「ああ。このサイズだと、中に誰か捕らわれてるな」
「え?!」
ちょっと待って! この世界って陽抜方式じゃないの?! 劇場版D案件なんて聞いたことないよ?!
「ああ、きりしまは知らなかったか。極ごくまれに艦娘適合者が深海棲艦に取り込まれてて、撃破時に回収されることがあるんだ。と言っても私もコレを見たのは5年ぶりだよ」
……D案件アリ、ってことか……
「この件は提督と大本営には報告されるけど、基本極秘案件になる。みんなも他言しないように。漏らした場合、処罰対象になる」
……だから聞いたことなかったのか……
「とりあえず、コレは『せんだい』に安置する。以後は予定通り航行する」
「『『了解』』」
てなわけでドロップしましたが、これが今後に影響するかは決めてません。