「ぜやぁッ!! たああッ!!」
「ギィィーーー!!」
俺の振るった戦斧に頭をかち割られて領域の主の大鬼蜘蛛が断末魔をあげて倒れる。大鬼蜘蛛はBランクの魔物だ。A-ランク冒険者である俺からしたらたいしたことのない敵だが、普通の冒険者パーティーなら全滅もあり得ただろう。どうやら金の宝箱と数字の書かれた赤いタグをドロップしたようだ。
金箱ということは罠の可能性はゼロだろう。
……チッ、外れだ。中に入っていたのは完全回復薬だ。確かにフルポーションは極めて優れた回復薬だ。古傷や部位欠損を治療することができる回復薬はこれのみだ。普段なら大当たりで喜ぶだろう。しかし、今の俺の狙いは鬼王の兜一択だ。
……しかし迷宮に潜って三日が経った。持ってきた食料や薬も限界だ。勝負をかける必要が出て来た。
そう、大鬼の狂王の討伐だ。
△▼△
大鬼の狂王は単体でB+ランクの魔物だ。おまけにお供としてBランクのオーガを五匹連れている。知性は低いが連携をとって襲ってくるため、いくら俺の方がランクが高いとはいえ、勝利する可能性は低いだろう。
そしておまけに先程運営からの連絡にこうあった。今日は日曜日だ、と。
数年前のことだ。突如迷宮の階層守護者や領域の主が強くなった。
例えば、三十階層の階層守護者の大鬼の狂王は知性と魔素量が向上した。それに伴って低級の魔法や能力を使うようになった。脅威度は大鬼の狂王単体でA-ランクほどだ。ここにお供で五体のオーガがいるのだから、下手をしたらAランクの奴らでも勝てないだろう。
領域の主ではA-ランクの魔物が低階層にも出現するようになった。
はっきり言って、その時のダンジョンの難易度は異常だった。Aランクのパーティーでもロクに攻略できないなんていうことも普通にあった。金箱狙いで見つけ次第狩られていた領域の主も誰も見向きもしなくなった。運営もこのことを受け止め、階層守護者は能力の制限を行い、元々と同じところにまで落とした。領域の主の方は駆除やダンジョンの深部にまで追いやれていった。しかし、この対処に少なくない苦情が入ったらしい。主に武者修行に来た者だったり、この国で名前をあげようとした者達からだった。ダンジョンで飯を食っている奴らからしたらとんでもない言い分だ。しかし、運営はこの苦情も受け入れた。
そして、階層守護者は日曜日や何かイベントが起きたときのみ能力の制限が解除されることになった。領域の主も駆除されたり、深部にまで追いやるということも少なくなった。
もちろん変更はこれだけではない。なんと、一部の領域の主に懸賞金がかけられたのだ。中には金だけでなく、武具やポーションがついているものもあった。さらに、能力の制限が解除されたときの階層守護者を倒したとき、追加で報奨金が出るようになった。
大半の冒険者がダンジョンに潜るのは日銭を稼ぐためだ。今回の異変により難易度は上がったが、それ以上に金が入るようになったため、文句はどこからも出ることはなかった。
△▼△
さて、ギリギリだが三十階層に到着した。
仲間誰もおらず一人だ。相手は推定でAランクはあるだろう。A-ランクでしかない俺だけでは勝てる可能性は低い。
……それでも、俺は挑む。
死なないというのも理由の一つだが、それだけではない。
かつて俺が初めてこの国に来たとき、オーガシリーズの防具をみた。形、性能――その全てに魅入られた。それから数年、俺はずっとオーガシリーズを揃えるためにダンジョンで戦い続けている。
今回は諦めて次に全力を尽くすのも手の一つだろう。正直、かなり諦めている部分がある。
このままいけば妥協してしまう。
けどそれはしたくない。せっかく生まれた自分の目標に妥協だけは絶対にしたくないのだ。
決意を新たに階層守護者が待つ部屋のドアに手をかけ、開ける。
制限が排除された状態で全く戦ったことがなかったのだろう。大鬼の狂王が獰猛に笑った。それは全力を振るうことに喜びを感じていることへの何よりの証拠だった。