灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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我慢出来ず書いてしまった


魚好きっ子と2人旅
第一話 灰の妖怪


サラサラと砂の落ちる音が聞こえる。

否、それは砂より細かく、軽く、煙っぽかった。

砂、いやその灰の山の上に座っていた男は目を覚ます。

 

薄汚れたような灰色の髪の毛を持った男だが同時にどこか儚げな顔立ちであった。

 

 

 

 

 

 

なんだ!?

いや何処だここ!?

 

ちょっと動くだけで煙が舞う。

というかこれ灰か!?

俺はなんで灰の上になんか座ってんだ!?

拉致か?それとも監禁?

恨まれるほどの交友関係なんてないぞ?

 

おもむろに記憶を探る。

大学行っても変わらずボッチだった俺は学校の帰り道、誰かに遊びに誘われる訳もなく速攻帰宅してお昼寝したはずだ。

 

考えてもさっぱりわからない。

暗い洞窟のような場所に灰の山。

ますますわからん!

 

不安と恐怖で半泣きになりながらも光が差す方へ歩を進める。

というかこのちっさな洞窟ではそこしか行く場所がない。

数分もしないで出口に着く、先日雨でも降っていたのかそこには水溜まりがあった。

 

水溜まりに顔を覗かせ、顔の輪郭をぺたぺたと触る。

灰色の髪に、同じく灰色の瞳。

恐怖と驚きでいっぱいのはずの俺の顔は、しかし特徴のない無表情のまま変化がない。

知らない顔、誰だこいつ。

 

俺これもしかしなくても知らないダレカサンになっちゃった?

知らん人の体を俺の魂が乗っ取った感じ?それとも昼寝をしている時に自分でも気付かずポックリ逝っちゃったから神様の慈悲で転生した感じ?

だったらその説明してくれる神様はどこなんだよ。

 

わからない…。

更に俺に追い討ちをかけるように意味のわからない光景が映り込んでくる

洞窟を出たは良いけどそこは俺の見慣れた高層ビルの建ち並んだ都会ではなくフィルム越しにでも見たことないような木々の生い茂る大自然だった。

 

緑と生命に溢れた大自然、そんな自分にとっては全くの異世界を歩く、歩く、歩き続ける……。

整えられた道などない自然の大地。木の根や大きく盛り上がった地面、ゴツゴツとした岩で都会育ちの俺にとっては思ったよりも歩きづらい。

 

ただそれでも歩き続ける。

訳も分からない場所で目が覚めて、訳も分からない顔になって……少しでも冷静になろうと体を動かし続ける。

道も分からない森の中、ただ無闇に動き続ける無謀さを気に掛ける余裕などなかった。

 

ざっと五時間ほど歩き続け、少し落ち着きを取り戻す。

現状の理解が出来たわけじゃない。

ただそれでもパニックになっていた思考から、どうにか現状を受け止めようとする所までは持ち直した。

 

歩き続けてわかったことがいくつかある。

まず、この体は体力が底なしなのか歩き続けても全く疲れない、息が上がることも無いし、歩こうと思えば無限に歩き続けられる……様な気がする。

五時間歩き、冷静になり、そうしてようやくこのおかしさに気が付いた。

歩きなれてない森の中を、休みなしで歩き続けて疲れの一つも感じないなんておかしいに決まってる。

 

それとこの森が異常なのか、この世界がおかしいのかわからないが化け物どもがいる。

目が4つほどあるデカい狼だったり、腕だけ異常にデカいヤバそうなやつとか……。

ここは地獄か?

俺なんか悪いことしたっけ?あれか、生産性のないやつは世界にはいらないから化け物がいる森に放り込んどけみたいな感じか?

 

おのれ神許さん。

ただのボッチだった俺を1人でこんな人外魔境な場所に送り込むなんて絶対に許さん。

……ただ少し怖いから化け物の類を見つけたらササッと隠れてやり過ごしていくぞ。既にメンタルはボロボロなんだ。

心の中で強がりを叫んでも、誰も聞いちゃくれない。

 

歩く、歩く、歩く……。

お腹も空かないし、喉も乾くわけでもない、疲れもしないから歩くだけ。

別に急ぐ理由もないし、休憩しようとも思わない。

ただとりあえずこの森から出てここがどこなのか知りたかった。

 

しばらくするとそんな非日常にも慣れてくる。慣れると今度は飽きが来る、何せ目が覚めてから歩いてるだけだ、暇すぎて歩きながら手をコネコネさせて遊んでいたころ。

意味もなくぼーっとそれを続けていると、サラサラとした灰が手から出て来て、風に乗ってそのまま飛んだ。

 

初めは最初にいた場所にあった灰が服に付いてたんだろうなぁって眺めていたけれど、しばらく経って、それが自分の手から出ていることに気付いた。

 

体から灰を出せる…なんだそれ?

さっき口からビーム出してる狼を見たから驚かないけど体から灰を出せるってなかなかに凄い!だって無から何かを作り出してるんだからなんか凄いでしょ!

 

そんな思考で最初のうちは喜んで灰出しまくって居たけどよくよく考えたら灰が出せるから何?砂遊びでもするの?

って感じだしちょっとテンション下がった。

 

ただ飛んでいく自分が出した灰を見るとなんとも言えなかった、多分意味なんてないんだろうけれど。

灰を出すのも飽きて、また手をコネコネしながら歩き続けてしばらく経った頃だった。

 

 

突然、俺の第六感とも言える何かが反応した。

何となく俺はその方角へ走り、少しして森を抜ける。

違和感を感じ、上を見上げるとさっき手から出してた灰が再度風に乗って飛んでいくのが見えた。

風に乗った灰など見えるわけもないのに、確信したようにそう思った。

 

前を向く、長い間歩き続けた森を抜けた先には、人が住んでいるだろう集落が広がっていた。

目が4つある訳でもなく、腕がめちゃくちゃデカい訳でも無い、俺の知識に当てはまる二足歩行の人型。

見るとなんとなく予想はしていたが、木造建築ばかりでとても現代とは思えない。

しかしそんなことはどうでもよかった!人だ、そう人なのだ、待ち焦がれた人間だ。

 

「おお!」

 

俺は喜んだ、柄にもなく顔を緩めて声を上げて一直線に人里に向かい、大喜びで人里の門まで走っていく。

陰鬱とした森の中をずっと1人で歩いてきたのだから、初めて人を見て安心してしまうのもしょうがない。

 

しかし大喜びで近づいて行く俺とは反対に、門の前にいる三角帽子を被った男は段々と顔を険しくしていき、ついにはみるみるうちに顔を青くしてこう叫んだ。

 

「な!?妖だと!?こんな堂々とッ!?ぐっ!増援を呼べ!里に入れるな!」

 

「!?」

 

おい!待て何でだよ!

ちょっと待てよと焦っているうちに次から次へと騒動が大きくなっていく。

 

「よ、妖怪だぁ!しかも人型だぞ!油断するな!」

 

ドタドタと複数人の足音が近付いてくる。

そこで俺はやっと冷静になった、なんと初めてのコミユニケーションは刃を交えて行うらしい。

さきほどまで湧いて出ていた喜びが一気に霧散し、向けられた刃によって心の内を不安が埋め尽くす。

 

失敗だった、浅はかな考えだった。

ようやく冷静になって逃げようとするも、考えるも先に流れるように囲まれる。

長く先の尖った槍をこちらに向けて警戒しているのがよく分かる。

 

どうすればいいのか、どうするべきだったのか。

刃物に対抗する手段なんて俺は持ってない。

 

こうなったら、灰でも出して許してくれないかと真剣に考えていた時、視界の端を黒い何かが横切った。

 

人間達もそれに気付いたらしく、遅れて上を見上げる。

瞬間、身体が一気に引っ張られ、視界が引き伸ばされるようにブレる。

ほんとに一瞬、人間達が上を向いたその瞬間に黒い何かが俺を掴んでその場を猛スピードで離れていった。

 

 

 

 

 

 

「あんたバカでしょ!」

 

この時代では珍しい制服姿に黒い羽の生えた少女、姫海棠はたてがそれを見つけたのはたまたまだった。

ほんとにたまたま人里を遠目から見ていて気付いた。

 

「見た限り産まれたばかりの妖怪なんでしょうけど、力もないのに人里に真正面から向かっていくなんて死にたいの?」

 

「妖怪…?」

 

男は少し顔を驚かせて当たり前のことを言った。まるで知らなかったと言わんばかりに。

 

「当たり前でしょ?妖怪のあんたが人里へ行ったら退治されるなんて当たり前のことよ」

 

男がそれを聞いてまた無言になるが、はたてはそれを気にせずまくし立てるように話した。

 

「いい、今回はたまたま近くにいたから妖怪のよしみで助けてあげたけど次はないわよ!自殺したいなら誰もいない所でやりなさい!」

 

はたては男が未だに黙っているのを反省しているからだと自己解釈した。

なお実際はどうやって感謝の気持ちを伝えれば良いのか悩んでいただけである。

男は絶望的に他人とのコミュニケーション経験が少なかった。

 

「私もこんなところでサボっているのがバレたらまずいんだから、これ以上あなたに構ってられないわよ!これ以上馬鹿な真似しないでね!」

 

はたてはあの状況で同じ天狗である訳でも無い男を助けたあたりお人好しだったが、はたてもまたコミュニケーションが下手くそだった。

相手の返事など関係なしに言いたいことだけ言って恥ずかしくなって帰った。

 

男は感謝を伝えようと考えている間に逃げられてしまい唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

驚愕の事実を知らされて俺はしばらく固まっていた。

何故か俺を助けてすぐどこかへ行ってしまった少女をよそに今の状況を整理する。

 

なんと俺は人間から化け物扱いされる妖怪だった…らしい。

見た感じ妖怪と人間は対立しているっぽいというか親の仇のような目で見られていたからなんとなく理解はできた。

 

つまり人間とは話せないってことだ。

人里入れないのかぁ…。

別に出会って速攻で殺しにくるようなヤツらと馴れ合うつもりなんかないし……。

別にちょっとショックデカいなんて思ってないし……。

 

心做しか歩幅は短くなり、ため息が小さく零れる。

 

周りを見る。

数時間前と比べて何も無い。

歩く、歩く、歩く……。

 

人間に追われてちょっとショックだが俺のやることは変わらなかった。

俺はこの世界に来たばかりの時のようにひたすらに歩いた。

やはりお腹は空かないし喉も乾かないから便利な身体だ。

 

最初に見たあの森を思い出した。

次に見たあの人里を思い出した。

 

なんとなく、本当になんとなく、強いて言えばまだ科学のかの字もない綺麗な風景を見て回りたいと思った。

それしかする事がなかったとも言える。

 

旅だ。

 

便利なことにこの体は食事を必要としない。

人間と力の強い妖怪にさえ気を付ければ大丈夫なはず。

 

この今はない風景を目に焼き付けておきたいと何故か俺はそう思った。

この小さな島国を旅する、やることのない今の第一目標としよう。

 

男は人から拒絶され、人ですらないと言われてショックは受けたものの、まあいいかと済ませた

男は極端にまあいいかの精神だけ尖っていた。

 

率直に言って、男は少しおかしかった。

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