灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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どうもしゃけです1ヶ月に1話しか投稿しないことに定評のあるしゃけです。
今回も遅いことにまず謝罪からと思っていたのですが、なんと!なななんとね!評価バーが真っ赤に満タンまで行っているじゃぁないですか!赤評価MAXって都市伝説じゃなかったんですね!

いやほんとにね50以上もね、評価してくれて本当にありがとうございます
これからも細々と投稿していくのでどうぞ〜見てやって下さい


第十話 たび〜は道連れ世は情け〜

俺は今怒っている。過去最高レベルのイライラだ

それはこの反吐が出るほど何度も何度もしつこく追いかけてくる事じゃない。もっと別の理由だ

 

しかし困ったことに俺が怒っている相手も俺を見ながら静かにキレているのだ。だが、どちらの方が怒っているなんて言うまでもないだろう

 

「お久しぶりね”白墨”さん?今度は逃げないのかしら?」

 

とてもどうでもいい話だが、今俺の目の前には静かに拳を握りしめた八雲がいつものお決まりの言葉である「お久しぶり」とあたかも偶然出会ったかのように話しかけてくる。当然無視でいつもなら当然逃げているのだが今度ばかりはそうはいかない

 

俺はちょうど今開けたばかりの木製の弁当箱に蓋をして今もなお吐きそうな程の恐怖をばら撒く八雲に対して1歩前へ出た

 

「…ッッ!!」

 

その今までにない俺の行動が予想外だったのか一瞬驚いたような顔をした

が!!しかしそんなことはどうでもいい!!かの傍若無人のクソ野郎の顔面に1発いいのをぶち込まねばと気が済まない!

 

「…驚いたわね、貴方もそういった感情を持ち合わせているとは知らなかったわ。一体何に対して激怒しているのかは知らないけれど…」

 

知らない!?よくもこんな簡単に嘘をつけるもんだよ

突然現れてめちゃくちゃ脅してくるのは許そう

有無を言わさず恐怖で俺の心をボキボキに折るのも許そう

 

だがな!俺が仕事終わりに楽しみにしていた弁当タイムに吐き気を催すレベルの妖力をぶつけて台無しにしたことだけは絶対に許せねぇ!

 

例えで言うなら楽しみにしていたご飯の時間に唐突にう〇この画像を脳裏にこびりつかせて食欲を無くさせるぐらい最低だ!

 

その怒りは無表情の鉄壁仮面から空気を通じて確かに八雲の体をヒリつかせる

 

「呆れたそもそも怒りたいのはこちらの方なのだけれど?あの日去り際におかしたハンドマークは一体何なのかしら?でもその微弱な妖力で歯向かう根性は認めるわ。はぁ…思い違いだったのかしら…」

 

ハッ!言っとけ馬鹿野郎

スカッとするためにやるべき事はただ1つ!あの澄ました横顔に右ストレートをぶちかます!

 

「あなたもしかして怒ると短絡的になるタイプ?でもあなたみたいな人にとってそれは致命的じゃないかしら…」

 

八雲が頭痛が痛いといった様子で頭を押さえているがそんな事は関係ない!むしろ油断をしていてやりやすい!

妖力溜めてぶん殴る!

 

おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとに無策で突っ込んでくるなんて…買い被り過ぎた…?いやでもこんなにも呆気なく…?」

 

俺はこめかみを抑えてブツブツと独り言を言う八雲に文字通り椅子のように尻に敷かれていた。無様だ…

 

今だとなんでさっきまであんなに熱くなっていたんだと疑問で頭がいっぱいになるくらいには冷静になった。うん頭おかしいねなんでイケると思ったんだ?

 

戦いは一瞬で終わった。達人同士の戦いだと1秒で決着が付くみたいなのと同じ感じだ

 

俺が右手に妖力を溜めて八雲の顔に殴りかかった。まずその時点で俺の肩が脱臼した

なけなしの妖力で強化された俺の拳は人が放つそれよりも幾分か強めに射出された、しかし悲しいかな…どれだけ妖力で強化しても俺の体の耐久性は人間レベルだ。

 

人間レベルの耐久性で人間以上のパンチを、殴り方も知らないド素人が放った

もちろん普通のパンチが繰り出される訳もなく俺の肩はいい音出して外れてしまった

 

けれどそこまでは良かったんだ…

肩が外れても勢いよく飛び出した俺の拳は八雲に向かって飛んでいく

 

しかし無情にも殴る瞬間、俺と八雲の間に生まれたスキマから大きめの岩が飛び出し衝突

 

俺の指は本来曲がらない方向にねじ曲がり、八雲はぽかんと呆けた顔をしながらとりあえず勝手に自爆した俺を拘束して椅子にしながら難しい顔をしてブツブツと何かを言っている

 

自分で言っていて悲しくなるような結果だ恥ずかしくて死にそう

 

そんな放心状態の中、未だにズキズキと痛む右手を見る

おっふ…とても人に見せられるような形じゃないね…

 

そう思っていると、俺の右手を包むように灰が集まり5秒程してその灰は散らばった。灰で隠れていた指は完全に治っており、痛みも綺麗に消えていた。

 

試しに折れていた手をグーパーグーパーさせる。おーすげー!これが妖怪の再生力か!便利!

 

「あなた…それ…」

 

八雲の目が鋭くなったのを見て思わず身構える

 

「いや今は時間が惜しい、私も困ってるのよあなたが思いの外マヌケな捕まり方したせいで、当初の計画がめちゃくちゃよ。どうしてこうも思い通りにいかないのかしらねぇ…」

 

知らないよそんなこと。というか重いからどいてくれ

じたばたと動くも八雲が重いからか、結界の拘束のせいか思うように抜け出せない

…おうふ!?

 

「何となくムカついたからチョット大きめの重りを置かしてもらうわね。知り合いの庭師の練習道具なのよ」

 

肋が!肋が折れる!?

上でもう一個増やしちゃおうかしらなんて言いながら重りをチラつかせる八雲に戦慄すら覚える。あっ待って下さいほんとに折れちゃいます

 

「まあいいわ、本題に入りましょう?”白墨”さん」

 

ん?なにか違和感あるけど…

 

「酷いじゃない、私には教えてくれなかったのに妖怪寺の人達には名前を教えるなんて」

 

からかうようにニタリと八雲は笑った

サーっと血の気が引くのを感じた。その含みのある笑みが最悪の展開を予感させる…こいつさては見てたな

 

「そう遠くない場所で変装すらしてないあなたを見つけれないほどマヌケじゃないわ。でも意外ね、てっきりあなたは一人で行動して拠点などは持たないと思っていわ。何か気を引くような物でもあったのかしら?なんてね、余程仲が良かったみたいだけど大丈夫かしら?」

 

ああやっぱり苦手だよこいつトラウマだ

大丈夫ってなんの事だ?何かが引っかかる。嫌な予感だ、嫌な奴と話すと嫌な予感も膨らんでいく

 

「数十分前ぐらいから、人と例の寺で抗争が起こっているみたいね」

 

何事もないかのようにあっけらかんと八雲は言った

 

瞬間身体中に妖力を張り巡らさせて最大限の力で何とか八雲をどかそうとするが、案の定ピクリとも動かない

 

マズイ事になった

最悪のタイミングで八雲に出会って最悪のタイミングで問題が起こった

じたばたするが変化なし。結界のせいで灰逃げも使えない

 

「どいて、お願い」

 

最終手段でそう訴えかけると気味悪く笑った

 

「ああ、そう。反応してくれるのね…いいわよ、1番知りたいことが知れたから」

 

すると八雲は驚くほど素直に退いた

これまた気味の悪いぐらい都合良く頷くもんだ…なにか裏があるんじゃないか?いやきっとある!

 

「何構えてるのよ?早くしないと着いた頃には誰もいないかもしれないわよ?」

 

「?」

 

てっきり助けて欲しかったら命乞いをしながら靴を舐めなさいこのウジ虫野郎!とか言ってくると思ってた

本当に意図が読めない

重い体重のプレスも結界も気づけば無くなっていた。それを確認して体は灰になる

 

体が灰になるのを眺めながら未だに満足そうに笑う八雲の顔を見る

それは何もかも意味が無いようにも見えるし何もかも意味があるようにも見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

あやふやな感覚がゆっくり時間をかけて覚醒していく

 

ここは…命蓮寺だ当たり前だ。いつも使っている定位置みたいなもの、変わることは無い

 

上にうっすらと膜が見える

結界だ。たぶん聖か一輪あたりが張ったやつだろう。それが今にも割れかけ…いや、割れた――続いて誰かの怒声が辺りに響き渡る

何が起こってるのか全くわからないが馴染み深い気配を頼りにその方向へ向かった

 

 

「あ!よかった帰ってたのね、でもちょっと今回ばかりは逃げた方がいいかもしれないわよ」

 

汗を滲ませそう提案してきたのは聖ではなく一輪だった

 

八雲に言われてここへ来ただけだからなんで襲われてるのかとか聞きたいけどめんどくさいので1番重要な部分だけを聞きたい

 

え、えーと簡単に短くするとなんて言うんだこういう時

 

良い天気ですね?いやこれはダメだな定番すぎる

本日はお日柄もよく…いやいや今そういう会話じゃ無くて…

 

「?あんた何やってるの早く離れた方が良いわよ今回ばかりは私達の話だし」

 

いや逃げるけどね?逃げるけど現状把握だけしたいからえーと

 

「聖、どこ」

 

「!」

 

「そう、なんだかんだ言って付き合ってくれるのね…ありがとう。姐さんなら今1番ヤバい奴を説得するために此処には居ないけど、きっと大丈夫。姐さんの我の強さと、拳の撃鉄は私達が1番よく知ってるから」

 

ん????いや一輪がヤバいっていうような奴がいるの?逃げるよ?何故か一緒にやるみたいな流れになってるけどそんなの当然逃げるよ?

 

そうこう行ってる間にドタドタと決して1人ではない数の足音が近付いてくる

 

しょうがない、逃げる為の時間稼ぎはしよう。だってやらなきゃ俺も逃げれないし

 

やがて足音の正体である者たちが姿を表した

 

いや…えっこれほんとにどういう状況?

足音の正体は里の用心棒達がほとんどだった。用心棒なだけで妖怪に立ち向かうほどの力を持つものでは無かった

 

「止まりなさい!あなた達の言いたい事はわかっています!ですが!今一度時間を預けては貰えないでしょうか!私は逃げも隠れもしません!全てを話す覚悟を持ってここに立っています!」

 

「お願いします!今一度だけ、あなた方と話す時間をわたしに下さいっっ!!」

 

そう言って一輪は両手を広げて訴えかけた

覇気のある声だったと思う。もし空気が可視化されていたとしたら本当に揺れているのを確認出来る程度には力を持っていた

 

1人の男が前へ出た

 

「なら、何故もっと早くに言ってくれなかった…何故私らに信じさせてくれなかった…嘘を付き続けてきた者の代償はでかい。あなた方の代償は我々の信頼だ、最早止まることなど出来ぬ…ここにいる者は全て命を捨てる覚悟で立っているのだ。今すぐにここで納得出来るだけの、今までの信頼を取り返すだけの証明を、ここでしてくれ」

 

「私だけでは…。それは出来ません…」

 

たっぷり20秒ほどして一輪が絞り出すように声を出した

 

「そうか、残念だ…」

 

話の内容がわからない、けど上手くいかなかったことだけはなんとなくわかる。一輪の顔を見れば苦虫を潰したように顔を歪めて下を向いていた

 

こうなってしまえば後はわかる

用心棒達が武器を構えたのを見て俺も妖力で警戒態勢を取る。だけどきっと勝負にすらならない。

ただの人間なら、一輪どころが俺ですら簡単に倒せる

 

何人かが先のとがった鉄の槍を投げた。しかしそのほとんどが空を切って落ちていく…はずだった。

 

うぅっと呻くような声を上げて一輪が後ろに倒れた

 

は?いやっえ?なんで

 

横を見れば、今しがた投げられた槍が一輪の肩に深く突き刺さっていた

 

妖怪の鋭い爪の切り裂きを大樹も折れるような攻撃だって簡単に避けていた。こんな遅い槍に当たるなんてありえない

 

い、いや今はそれよりこれを何とかした方がいいんじゃないか???

 

槍を抜こうとして手が止まる

 

こういう時って抜くと余計に血が出て危ないんだっけ?それとも止血ってのをすればいいのか?止血ってどうすればいいんだ?傷口に布を詰め込めば出来るのだろうか?

 

不味い、じわじわと血が青い服を濡らしていく

血が、止まらない。なんでだ?妖怪だろ?もっとこう、シューって傷が塞がるんじゃないのか?

傷の治し方なんて知らない、そんな力の使い方なんて考えた事すらない

 

一輪の顔を見ると汗をびっしりとかいて辛そうに息をしていた

やばい、どうするんだこれ治んないぞ。聖だ、聖に頼めば多分何とかしてくれる

 

サッサとこいつら退かして聖の元に連れていこう。それで解決

 

一輪を横にして男達に向き直る

 

1歩、前へ出ようとして足を掴まれる

 

足を掴んでいたのは一輪だった

 

「すぐ、終わる」

 

「っ…ダ、メ」

 

ハッハと不規則に呼吸をしながら一輪は俺を引き止めた

 

「私…達が、ここで殺し合えば、姐さんの…姐さんのやってきた事が全部、無駄になるッから…」

 

意味がわからない

それがどれだけ重要なのかわからない。けれどそれが抵抗しない理由になるのか

 

「死ぬ」

 

出来るだけ抑揚のない声に、お願いしているように、懇願するように言った

 

「私は…妖怪だから…!姐さんと会う前なんて人だって殺したことある…だから、こうなっても仕方がない…から、だから、大丈夫」

 

「……」

 

痛みからか、一輪の目には涙が溜まっていた。なのに安心させるように笑顔を浮かべている、変な顔だ

 

周りに浮かべていた妖力弾を消す、代わりに右腕に溶けるような熱い妖力を注ぎ込む

掴まれている足を無理やり払い、その勢いのまま踏み込んだ

 

大きく踏み込んだその脚は思いのほか遠くに飛び相手との距離を縮ませる

勢いに身を任せ、型もクソもない素人パンチで相手の体を吹き飛ばす

 

後に残ったのは呆けた顔の一輪と、用心棒、それとまともに握れなくなったぼろぼろの右手だけだった

 




今回遅れた分少し長めになってしまってごめんなさい
どうしてもここで区切りたい!って思って書いていたらダラダラと長めになってしまいました。
とうとう赤ゲージまでいきましたがもっもっと皆さん評価感想もちろん質問もしてくれて良いんですよ!作者は最高にハイな状態でそれらを楽しみにしています!

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