灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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ごめんなさい、間違えて消してしまったので再投稿です
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大変長らくお待たせしました
どうもしゃけです。まだ生きてます、現役です。

今回も色々前書きに書きたいのですが眠い。もうほんとに眠い。なので一言だけ書いてさっさと寝ることにします。
遅れてごめんちゃい!ちょっと長いけど楽しく読んで言って下さい!


第十一話 博麗の巫女

白墨の周りから消えていく妖力弾を見て張っていた力が抜けていく。そしてそれが私の勘違いだと言うこともすぐにわかった。

 

刹那、空気が変わった。

物理的にも感覚的にも文字通り肌でわかるほどはっきりと変わる。少し渇いた風がそこから吹いてきた

 

赤、それはぼうぼうと燃え盛る炎ではない、火事の時の焼け落ちてしまいそうな熱さなどない。ただそこに静かに“ある”というのが分かるだけ。

 

無炎燃焼

昔ある人の葬式を見た時を思い出した。皆が一様に哀しそうな顔をして佇む姿を。

ただただ静かに炎を出さず燃える赤い線香の火だけが時を刻んでいた。

 

なぜ今それを思い出すのか--理由はわかりきっている。

彼の、白墨の身体の所々が鉄を熱した時のように赤く、淡く、静かに燃えていた

 

踏み込んだ足は誰にも止めることは出来ず、大雑把に振り上げられた拳は荒々しく感情の起伏のない彼には珍しく、その静かな怒りを表すようだった

 

振り抜かれた拳は骨の折れるような音ともに人体を吹き飛ばした。

 

ああ、やってしまった。起こってしまった

つまるところ白墨は優しかったのだ。自分に利益のある事しかしないと、身の危険を感じればすぐにでも逃げてくれると願望にも近いことを勝手に思っていた。

 

どんな考えがあったとしても妖怪が人を殺してしまった。

そこから始まるのは人と妖怪の終わらない対立だ

 

白墨はーーー

 

「パンチ」

 

白墨が握りきれない拳を見せつけ子が親に言い訳をする様に言った

 

「………え?」

 

「拳、だから…ケンカ…」

 

そう言って誤魔化すように走り出した

 

「…ぷっく、あっはっはっは!そんな子供みたいにっくふっふっふ、そうねそれなら殺し合いにもならないわね。にしてもあの鉄仮面の裏は案外子供っぽいのかしら」

 

私の身体は今度こそ安心して張っていた力が抜けていく

疲れて薄くなっていく意識の中である女を見つけた

 

あいつは確か姐さんが…

 

それを白墨に伝える前に私の意識は沈んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

ダッラァ!

1体4理論でボコスカ殴っていく!強靭!無敵!故に最強!

右でパンチ!左でパンチ!後は雰囲気で蹴り飛ばす!相手は死ぬ!いや殺しちゃダメだった!

 

兎狩り以来の多人数戦だがそれをものともせずに突っ込んでいく

妖力で強化した身体は一瞬でボロボロになっていく。腕は拳も握れない鈍器と化して感覚が無いし、腰あたりにはいつ当たったのか、槍が1本突き刺さっている

 

痛い、めちゃくちゃ痛い。ほんとにマジで泣き叫びたいほどの激痛が身体全身を駆け巡っていく――がそれも数秒のうちに灰が集まり癒されていく

ボロボロの腕は傷一つない新品に、腰も同様に完全回復する

 

身体が完全に治ったことを確認して再度妖力を込めてぶん殴る

ぶん殴ってぶん殴って治るぶん殴ってぶん殴って治る――

 

鋭い刃が身体を貫通する――治る

不利な体制から腕を限界迄伸ばして殴ったため不自然な方向に曲がりちぎれそうになる――治る

ゾンビのように蘇っては何度も何度も殴って殴って殴って殴ってそしてまた灰が自分を包む

 

相手のほとんどが地に伏せ、残った者も戦意などとうに失せていた

対して俺はまた灰が集まり傷一つない綺麗な体に戻る。妖怪の体って凄い便利だな

 

そろそろ理不尽にも感じてきているだろうが残念ながらこれが現実だ。

致命傷に近い攻撃を食らっても俺はピンピンしてる一方、人間は顎に良い感じのアッパーを食らわせれば一発KOだ。確かに人間にも強い部類の者がいるだろうがそれでも今の俺ならタイマンじゃ負けないだろう。

 

弱い人間が束になってそれでようやっと大妖怪を封印したりしてきたのだ。だから数が増えれば脅威にもなるが流石に退魔師でもないような人間が束になったところで負けることはない。

 

おっけーっと、とりあえず全員のしといたから一輪の様子でも見に行こう

 

そして俺はその考えによってすぐに後悔をする羽目になった

 

埃かぶった服を払って歩を進める

 

そうやって何気なく振り向いた時にヤツが居た

やや露出の多く思える赤い巫女服を身にまとった大柄な女だ

 

いつから?とか誰だ?とかそんな疑問をすっ飛ばして今まで生きてきた全てが理屈を壊して俺の脳に訴えかけてくる――ただ1つ”逃げろ”と

 

全身の毛穴から汗がブワッと一斉に溢れ出るほどの錯覚を覚える。体がサーっと冷えていくのを感じながら目だけは逸らすまいと必死にその巫女を凝視する

 

この時代のしかも女にしては珍しく190cmは行っているだろう体格に、筋肉質ながらも女性らしい体つき、長い髪はサラサラと纏められ、その目には感情の起伏を感じさせないよく知るものがあった

 

「まだ、いたのか…これをやったのはお前か?いや、関係ないか…」

 

周りを軽く確認すると女は拳を構えてこちらを見据えた

 

来る!?俺のなんちゃって武術の適当な構えじゃない――ただ積み重ねてきた年月を彷彿とさせるような芸術にも似た構えにそれだけででプレッシャーがのしかかる

 

「…ッ!」

 

あまりの圧に耐えきれず1歩後ろに下がった瞬間虎のように狙いを定めて突撃してくる!

 

大丈夫なはずだ巫女との間にまだ50mほどある、近距離にさえ持ち込められなければ!

決して目で追えない速さじゃない、人間にしては恐ろしい速度だが天狗のように弾丸のごとき速度で突っ込んでくるわけでもなければ紫のような理不尽な長距離ワープもない、ただ単純に突っ込んでくるだけだ!

 

少しでも距離を取るために後方に跳びながら両手には手馴れた妖力弾と投擲用の結界を作り巫女に向かって投げつける

 

この間に距離を取れば…!?

 

巫女は減速するどころが更に速度を上げてそのまま妖力弾と結界を両手で添えるよう触れてはじき飛ばした

 

!?

考えてみればそりゃそうだ。最初の1歩目から最高速度なんて出来っこない、遅い走り始めから徐々に速度を上げて向かってくる――それはまだわかる!だが冗談だろう?2つの俺の攻撃をものともせずにはじき飛ばして来るのか!?

あれ一応木ぐらいなら簡単に吹き飛ばせるんだぞ!

 

煙が晴れ、気がつけば巫女は目の前にいた。この間約3秒

それまで一応目で追えていたその動きが殴るモーションだけフッと右腕が消えたように視界からいなくなる―否、無くなったように思えた右腕は俺のみぞおちを的確に撃ち抜き爆音を轟かせる

 

たった一撃、それだけで俺の肋骨はひび割れ内臓に確実なダメージを残し、水平方向に吹き飛ばされていく

 

急激に変わっていく景色と血染められていく体に現実味がなく呆けたようにしていた意識が壁に衝突することで引き戻されていく

 

体にかかるGがやばい

再び身体にダメージが入り、血を吐き膝を付く

 

どこまで飛ばされたんだ?

痛い、体が痺れて動かせない…それでも体を起こそうと震える手を無理やり動かそうとし、喉に突っかかっていた血が再び口から吐き出される

 

やばい、クラクラしてきた。目が震えて涙が…出ない。

こんな時ぐらい感情変化を起こせよ!涙の1つでも出してなきゃやってらんねぇ!

 

灰が集まりガクガクに震えていたボロボロの体が元のイケメンボディに戻っていく

 

大丈夫、治る。めちゃくちゃ痛いし怖いけどやっぱりこれは妖怪のアドバンテージだ

 

「確かに人体を壊した感触があったが…?その再生能力は妖怪という枠組みでもバケモノクラスだな…手早く済ませるとしよう」

 

治ったことに安堵してるとそんな恐ろしい言葉が奥から聞こえてくる

 

やめろよ!俺だってどこまで治るのかわかんないんだぞ!

それにやばい!あの女はやばい!踏み込みが早すぎるんだ、足捌きや体重移動、体の運びが”完璧”すぎる

 

地に足ついたあいつ正面戦闘は下策…とにかくあいつを地面から引き剥がす

 

そう考えて手を地面の上に置く

単純な話だ。地面と足を離したいなら”地面”ごと動かせばいい

 

久方ぶりに使う能力に戸惑いつつも形を作る―そして地が破裂する

地面が大きく揺れて水平だった地面が地割れを起こしたように傾き、大地から槍のような物が飛び出し巫女に襲いかかる

 

俺の「触れたものを作り直す程度の能力」はこういった使い方だって出来る!

今や俺の触れている大地全てが巫女の敵だ

 

最初の4、5発は上手く躱すが床が傾きどこから攻撃が来るかも分からないような状況、次第に無理な体勢で躱そうとする。

 

そして!バランスが崩れかけた瞬間ほぼ全方位から迫る攻撃を巫女はとうとう”ジャンプ”して避けた

 

きたっ!

 

この時をずっと待ってい高く飛び上がった巫女に向かって前から溜めていた最高火力の妖力弾で狙い撃ちする

 

自分でも十分な威力を持った攻撃だったと自慢気に思えるほどの一撃だ。

既に空中で回避行動を取っていた巫女では避ける術もなく絶対に当たると確信すらしていた

 

妖力弾が巫女に当たる寸前、俺の放った最高火力の妖力弾が”消えた”

少し遅れて大地から突き出ていたいくつもの槍が”何か”に潰され粉微塵になって消えた

 

一瞬のうちにして巫女の周りにあったはずの全てが消えていくのを俺は黙ってみているほかなかった

 

陰陽玉、巫女を中心にして回るあらゆる法則を無視したような2つの玉が全てを壊したのだ

 

「そんな見た目をしてお前、人なのか?人間よりもドス暗く、妖怪よりも数が多い…いや人間なんかよりもよっぽど…」

 

巫女は何かを言いかけそして諦めたような顔をし、そして陰陽玉を蹴って再び空高く飛び上がり、そのまま重力に身を任せ恐ろしい速度で俺に向かって落ちてくる

 

巫女の接近を許す…それは俺にとって死を表すことに他ならない

しかしもう避けれない!俺は焦って素人みたいに頭を手で覆い隠した

 

はるか上空から放たれた刃物も何も付いていないただのかかと落としは、まるで紙でも引き裂くかのように俺の右腕を両断した

 

 

 

 

 

 

爆発音にも似た音により耳がキーンと麻痺する

こんなダイナマイトみたいな音が人間のかかと落としだって?笑っちゃうよ

もう潮時だ、こいつには勝てない。八雲と同じかそれ以上の力をこいつからは感じる、もうお前人類最強だろ。

 

逃げたいさ、めちゃくちゃ逃げたいよ。

人間のくせして八雲レベルに強いなんて馬鹿げてる、こんな奴からはさっさと逃げて美味しいものでも食べるに限る…だが、恐らく無理だろう

 

灰逃げは発動までに1秒程度の無防備な時間がある

今までは何とか誤魔化して時間を稼いでいたけれど、恐らくこの巫女相手には1秒もの隙なんてありもしない…よってこの場からの逃亡は不可能だろう

 

もし本当に逃げるつもりならこの女を見た瞬間に使ってしまえばよかったのだがもはやそれも後の祭りだ

 

しばらくして足音が聞こえてくる

 

どうやら無様に吹き飛び片腕を失った俺にとどめを刺しに来たらしい

やがて足音の主姿を見せた

 

「驚いた…まだ再生するのか…」

 

…え?

言われて気づいた

先ほどまで軽くなっていたはずの肩に綺麗な腕がくっ付いていた

 

マジかよ腕が吹き飛んでも治るのか、想像以上に妖怪ってのは理不尽だな

 

でも腕があってもなくても状況は大して変わらない

アリの足の本数が1本2本変わったところで獅子がそれを恐れるだろうか?

 

「…む?」

 

一瞬何かに気付いたように横に目を向けた巫女に対してヤケになって結界を飛ばした

 

飛ばして、それが直ぐに消される。俺にはもうほとんど妖力なんて残されていなかった

攻撃を流された後に来るのはカウンターだ

 

 

頭を、腕を、足を、心臓を、殴られ、千切られ、潰されて、

 

意識がだんだんと朦朧になっていく

ふわふわとした感覚の中悲鳴も上げずにただ殺され続ける

さっき飛ばされたはずの足が再度無くなる

上を見ていたはずの視界が一瞬にして黒に染まる

 

このままだとまずい

なんでまずいんだっけ?ああいやだめだ、このままだと死んでしまう

死ぬのはマズイ、もう美味しいものもなにも食べれなくなる

逃げないと、足はどこだ?どうやって?何から逃げるんだっけ?

 

ああまずい。大事な所のはずなのに食べ物の事ばかり思い浮かんでくる

絶対にそういう場面じゃないのにそればかりが思い浮かんでくる

 

「四肢をもぎ、頭をはねて、心臓を潰して尚こちらに向かってくるのか…これが、これがこの世に生を受けた者の末路だとはなんとも酷く、憐れなものだな…」

 

女が俺に何かを言ってきた。赤い女だ返り血と、元の服の色で全身が真っ赤に染まっている

 

そうだ、そうだ巫女だ。こいつは強いんだ、逃げれない。

 

いや…今なら逃げれる。油断している…1秒程度の時間なら誤魔化せる

逃げて…適当に美味いご飯でも……あれ?聖はどうしたんだ?

そうだ一輪が怪我をしているんだった確か血が出ていた。早く聖の元に連れてかないと。このまま逃げるのはダメだ

 

倒さないといけないんだった

でもどうやって?

妖力がもう無いんだ、妖力がある時の最高火力でも俺は傷一つこの女につけれてない

今じゃどうやったって勝てない。ああでも倒さなきゃ

何とかしなきゃ

妖力は本当に残ってないのか?よくよく探れば残りカスみたいなものだけどほんの少し残ってるじゃないか。妖力弾1回分にも満たない少ない量だ

 

”右手”を前に出す

それと同時に前に出した右手の小指が切り飛ばされる。巫女の投げた針が小指を骨ごとえぐり飛ばしたんだ

 

けれどまだ指は4本残ってる

体の中で結界を構築する。いつもはほぼ無意識のうちに作ってる結界がぼんやりとした意識の中で構築される

 

でも弱い、俺の結界は半透明ないつもの結界を薄く伸ばしたように弱々しかった

妖力が少ないからこんなんじゃダメージを与えられない。

 

その薄い結界を折る、何度も何度も半透明だった色が白と見分けがつかなくぐらいまで何度も折る

なんでそんな事をしようと思ったのかはわからない。

 

ただ何度も折り曲げて長細くなった結界を苦し紛れの一撃を、俺はあの巫女に向かって放った

 

鉄と鉄がぶつかり合うような音を出した後何かが砕けるような音がした

 

もうほとんど自分の放った攻撃も見えなくなっていたがはっきりとそれが防がれたということだけはわかった。

ただ女の腕からぽたぽたと血が流れ落ちているのがわかった

それはただの返り血か、俺の苦し紛れの一撃が幸をそうしたのか…ここは都合よく俺の最後の最後の一撃が運良く当たったという事にしよう

 

「■■■■」

 

ああ…まずい、女が何を言っているのかもわからなくなってきた…

ほんとに…意識が…

 

「▲▲!■■■■!」

 

意識が落ちるその寸前

誰かが俺と女の間に割り込んできた

 

聖か?それとも一輪か?もしくは…

頭で思い浮かんだ少女を思い、無いなと目を瞑る

あの少女と俺はは仲が良くないきっと聖か誰かだろう…

 

今度こそ俺の意識は暗闇に沈んでいった

 

そしてこれがこの場所での最後の時間となった

 

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます

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