内容自体は終わりまで考えついてるのにいざ書こうとすると宇宙ネコみたいになるのは作者あるあるだと思います(投稿遅い言い訳)
第十二話 暗い場所
『血』が流れる
女にとってそれは誰のものでもない久方ぶりに見る自分の血だった
「本当に驚いた…まさか中級妖怪がこれ程までの一撃を放つとは…」
死にかけの存在が苦し紛れに放った一撃は外れ、巫女を殺しきるまでには至らなかったものの、たしかに1つの領域へと”完成”したものだった。
それは巫女の自らの経験と確かに流れる生暖かい血が証明している
かすり傷のようなものだ、出血は激しいが跡に残るようなものではない―しかし決して油断し、胡座をかけられる様なものでも無い
巫女は感慨深く特異の妖を見た
与えた傷はまるで何も無かったかのように綺麗さっぱりと消えている、しかし最後の一撃を放ったこの妖怪は確かに瀕死で今にも事切れそうなほど衰弱しきっている。
巫女の仕事とはただ1つ。故に弱る妖怪にする事も既に決まっている
振り上げられた腕は綺麗に弧を描き妖怪へ振り下ろされ――「待って!」
しかしそれは止められた
必死に体を震わせ、それでもなお妖怪を守るように大きく広げられた手を張る妖怪の少女によって
それに対して巫女はあからさまに顔を歪めた
◆
「待って!本当に死んじゃうよ!」
私――村紗水蜜の反射的に動いた体と口から出た言葉はソイツを前にした瞬間大きな後悔へと繋がった。
幸運にも振り上げられた腕は私の頭の真上で止められる
「船幽霊…まだ、居たのか」
「…ひっぁ」
底冷えするような低い声、圧倒的な霊力の強さが声を通じて体をいっそう強く震わせる
まともに相手を直視するなんて、出来こっない
格が違う。無理だ。無理に決まってる。目の前にいるのは紛れもない人類最強の女だ。
妖怪がとか人間がとかのレベルで推し量っていい類の生物じゃないんだ
少なくとも妖怪という身で、妖力を持つような生き物がこの女に勝つことはありえないとそんなことさえわかってしまう。
なんだよお前
お前こんな怖いやつ相手にこんなボロボロになるまで戦ってたのか
戦闘能力なんて全くないっていつも言ってたじゃんか、もし格上を相手にしたら直ぐに逃げられるって珍しく自慢気に話していたんじゃんか
なんだよ、なんでそんなボロボロになるまでここにいるんだよ。
こんな奴に勝てるわけないじゃんか、私なんて睨まれてるだけで体すら動かせない
お前がこんな奴を前に死にかけてるから私まで馬鹿な真似しちゃったじゃんか
女は、いや博麗の巫女はこちらを見据えて見定めるように立っていた
「そいつは1秒でも早く殺さなきゃ面倒になる――”どけ”」
「……ッッ」
カッはと途切れ途切れに息を吸う
とんでもなく恐ろしい。恐怖で体から力が抜けて床にへたり込む
立つことさえ出来ない。
助けにきたはずなのに怖くて、縋るように白墨の手を小さく握る
既に気を失っているためか握り返されるような事は無い…その代わりに手のひらから伝わる暖かさが温もりが、何ものにも代え難い安心感を感じる
「私も白墨もここに来てから何も悪いことなんてしてないっ!だから…だから、もうやめてよ…本当に死んじゃうよ…ほんとうに白墨が、しんッ死んじゃうから…」
怖くて、情けなくて涙が出てくる。言葉に嗚咽が混じる
それでも。そんな言葉を言っても。
巫女がゆっくりと巫女が近付いて来るのが分かった
どんな理由があろうと、命乞いをしても。
巫女のやる事は変わらない
巫女が私たちに腕を向ける
最後の抵抗として私は巫女に背を向けて、守るように覆い被さるように白墨に抱きついた
目をつぶる
じんわりと体に伝わる白墨の温かさに場違いも安心する
ああ、何やってんだ私
こんなことをした所で助からない
2人とも殺される。私の行動は結界1枚分の防御にすらならない
巫女が止まった。もう目の前にいる
「……そこは暗く、今では忌み嫌われた者たちの最後の楽園。もう二度と地上の光を見る事は出来ないだろう」
「……?」
「しかしそれでもお前のその体は危険すぎる。故に1つ貰っていく。何も映さない暗い世界で達者でな」
痛みは無い。代わりに軽く人差し指で押される
軽く押されて体勢が崩れ、浮遊感に襲われる
ハッとして後ろを見るが、後ろにはあるはずの地面なぞ既に無く、ただただ暗闇だけが広がっていた。
気が付いた時には周りに何も無く、変わらない景色によって自分が落ちているのか、登っているのかさえわからない
それでも強く抱いた腕の中には白墨がいた、今なお暗い世界で温かさを共有し合える者がいた。
私は何があっても離さないようにしっかりと腕の力を強めた。
もし離してしまったらこの真っ暗闇な世界でひとりぼっちになってしまうのではないかという恐怖を紛らわすように、強く、強く、握った。
◆
死して物言わぬ骸となったそれに、口汚く罵る者がいた。何度も何度も悪態をつき、あまつさえもう魂の入っていない死体に唾を吐きつけ辱める。それはきっと恨みの類であっただろう。
死んだ者に対し、嘆き悲しみ涙を流す者がいた。死したその者にせめて天上の世界では心安らかにと願いを込めて。
しかし両者の声は思いは、死んだ者には届かない。当然だ死した者に声だけは届いて欲しいというのは人間のエゴであり意味なんてない。
ならその死者に向けた2人の声は思いは、一体どこへいくのだろうか
◆
あれっなんか体が重いし、ちょっとだるい
どこだここ?
「▲▲▲▲▲」
何か声が聞こえる、誰だ?
あっ段々意識がはっきりとしてきた気がする
確か理不尽な巫女に大人気なくボコボコにされてたような…
「もしもし、聞こえてますか?」
なんだうるさいな。聞こえてるよ
「あっ気が付いたみたいですね、良かったです。このままずっと起きなかったらお昼に間に合わなさそうだったので」
ん?
お昼、俺もお昼食べたいな。にしても暗い、電気ぐらい付けてくれよ
いや電気なんてないからランタンか
「へぇ、こいつが紫の言ってたやつか」
また声だ。って今紫って聞こえたぞ
うげぇ…急に逃げ出したくなってきたな
というかここ何処なんだ?真っ暗だし何も見えない
「ええ、まあそうですね。順を追って説明します。私は古明地さとり、ここ旧地獄にある地霊殿の主をやっています」
旧地獄?地霊殿?えっえ?命蓮寺は?聖達は?
「聖、という人は知りませんがあなたと一緒に何人かが、ここに落とされて来たので探せば見つかると思いますよ。まあ状況を理解するのに時間がかかると思うのでゆっくりと理解して下さい、私はそれまで本でも読んでいますから」
えっちょっ落とされた?んん?どういうこと??
とりあえず生きてるってことは見逃してくれたのか?と、とりあえず喜んどこう、ラッキー
にしてもなんでこんなに暗いんだ?おーいさとりさーん明かりを付けてくれよー
そうやってここで初めて言葉を発しようとして――
「……残念ですが、明かりはもうついています、はっきりと」
…え?
少し言いづらそうな声が聞こえる、多分声の主はさとりという人だろう
「なんだお前、目が見えないのか?」
さとりじゃない、もう1人の声が追い討ちとなって現状を把握する
顔を触ってみるが、分からない
さっき声がした方向を向いても、何も無く誰かがいるような気配がするだけ
試しに軽く周りを見てみる
そこにはどこを見てもただぼんやりとした黒が永遠と広がっているだけだった。
それを理解して俺は自分の指の皮を噛みちぎり、流れ出ているであろう血を舐める
怪訝そうな声が聞こえてくるが無視して進める
あの巫女と戦った後、俺は視力を失った。
だが俺はそれでも安心していた
無くなったのが味覚じゃなくて本当に良かった!!!
ということで白墨くん地下労働編開始です。やったね!
感想評価にお気に入り登録してくれるとめっちゃ喜ぶのでしていってね!