灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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第十三話 鬼が面倒をみてくれるらしい

「お願い?」

 

「ええ、鬼のあなたに私からのお願いよ」

 

それを聞いて分かりやすく鬼は顔を歪めた

妖怪の、それも八雲紫からわざわざ”お願い”なんて言葉が出るんだから誰が聞いたって顔を顰めるだろう。それが感情の起伏がわかりやすい鬼なら尚更だ

 

「あの日、あなた言ったわよね?これは貸しにしてくれって」

 

「ああ、わかってる。わかってるよ、約束だ嘘はつかないさ。それよりお願いって…紫から言ってくるなんてどんな面倒事だ?」

 

鬼は――星熊勇儀は諦めたような脱力したようなふうにそう聞いた

それに対し八雲紫は嬉しそうにニタニタと笑みを浮かべる。鬼相手におちゃらけた雰囲気で話すから周りの評判まで悪くなるのだと、当の本人は全くもって気にしていないが

 

「んふふ、もうしばらくすると1人の妖怪が”落ちてくる”」

 

「そいつはまた…」

 

ここ旧地獄の地底で落ちるという言葉は他の場所とは意味が違い、外の世界から忌み嫌われ封印される事に他ならない。それはまたとびきりの面倒事だと確定付けるには充分だった。そして勇儀は妖怪が落ちてくる事を何故か知っている八雲紫にまたもや嫌気が差した

 

「あなたにはね、その妖怪の”面倒を見て”あげて欲しいのよ」

 

勇儀はそれを聞いて1度目をつぶり、大きく息を吐いた

 

「…なぁ紫、鬼に世話を頼むってどういう意味かわかってるよな?」

 

「ええ当然、だからこそあなたに頼むんですもの」

 

「わかったよ、鬼の四天王が1人星熊勇儀の名にかけてそいつがどんなやつだろうが”面倒”を見てやるよ」

 

「確かに聞いたわ、それと間違っても殺さないようにね」

 

「ああわかった、多少の怪我なら良いんだろ?」

 

「ええ、それは」

 

目的が果たせたからかその妖怪は嬉しそうに笑った。

後に星熊勇儀はその八雲の顔を軽薄な笑いだとため息をついたという

 

 

 

 

 

 

 

 

目が見えないってのは案外不便なことで、急に壁にぶつかったり段差がある事を知らずに体が1段下がってめっちゃビビったり…

 

それを見たからかさとりが杖をくれた

これで老人みたいに地面をトントンして歩いている

なんでも目にめちゃくちゃ強力な封印がされていてそれのせいで目が見えないらしい

 

めちゃくちゃ強力な封印…心当たりしかないな

恐らくあの巫女にかけられたのだろう、そして同時にこの地底という場所に封印された

 

「はい、大体合ってます。恐らくあなたと一緒にいたお仲間さんも地底に落とされていたので探せばどこかにいると思いますよ」

 

おかしいな、まだ一言も話していんだけど

 

「はい、そういう妖怪なので。あなたが想像している通り悟り妖怪というものです」

 

ということは、こいつ!直接脳内に…!!ごっこが出来るのか!

 

「表情からは分かりませんが喜怒哀楽の激しい方ですか?ポーカーフェイスがご上手ですね…いや生れつき?また周りから色々と勘違いされそうな性分ですね…」

 

?そんな場面1度もなかったけどなぁ

 

「…まあ良いでしょう単純で裏表のない方がペットと同じで私にとっては好ましいですから」

 

おお!珍しく初めから好印象

じゃあ明日も泊めてくれるんだな!

 

オレは期待を込めてさとりんの顔を見た

 

「え…普通に嫌ですけど、適当な空き家で寝泊まりして下さい」

 

神は死んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

よよよ、、、

金なし文無し光無し…いつの時代も社会って冷たいね

これじゃあ住む場所ないどころが今食べるものすらないよ。川なんて近くにないから魚だって釣れないし…

 

聖達を探すにも目が見えないから出来ない

食べなくても平気だから死ぬってことは無いだろうけど死んだようなもんだ

 

がやがやと賑やかな音はするのに真っ暗。恐ろしいね

ほとんど酒の匂いで消されているけど温泉っぽい匂いもする。

地獄と言うからどんな所かと思っていたけど案外ここに住んでいる者たちは満足しているのかもしれない、唯一欠点があるとすれば陽の光が届かないことだと思うけどそれも目の見えない俺からすれば関係ない事だ

 

…やめよう、珍しく憂鬱な気分になりそう

 

自然とため息が吐かれる

けれど誰も聞こえないような小さなため息はそれを大きく上回る大きな声で掻き消された

 

「ん?ぉお!白墨じゃないか!長い話は終わったか?」

 

声がでかい、姿は見えないけど既に嫌な予感がする、そんな声色だ。確か目が覚めた時にも居た気がする

あれだ前世で言うところの体育会系って感じだ。多分「いいもん持ってんな、オラ!それ全部寄越せよ!」みたいなこと言うヤンキー系だ…!

特に八雲と関わりがあるという時点でマトモな奴じゃない…

 

「何やってんだ?早く来い、適当な空き家と飯ぐらいならある」

 

…!?

 

「ちょっと訳ありでな、紫の奴があんたの面倒を見ろって言うんでちょっと来な。まぁわざわざ紫からそんな事言われなくてもいつもやってるんだけどな。今回は1つ多い」

 

ゆ、勇儀の姉御ォ!

ヤンキーじゃなくて頼れる姉貴分だ!

にしても紫が?あの紫が?…いや普通に考えて同名の別人さんだな

紫なんかと間違えるなんてすまんね同名の紫さん。今度会ったらお礼しとこう

 

「ああ、そういやお前さん目が見えないんだったか?…ほら握っとけ、迷子になるぞ」

 

おお助かる!

俺は渡されたであろう何かを握ろうとして2回ほど空中をスカったあとやっとそれを握った

 

「…あんた本当に見えないんだな…でも悪いが私は約束は絶対に破らないんだ」

 

なんだ急に?俺はお前と何かを約束した覚えなんてないんだが…

にしても硬いな、なに握らされてるんだこれ?硬くてゴツゴツしてる…岩?これ岩握らされてるのか?

 

「聞いた話だが、お前さんは現博麗の巫女と戦ってここに落とされたんだって?」

 

なんだ?よく分からないけどとりあえずコクコクと頷いておく

目は見えないけど、何となく雰囲気が変わった気がした。なんというか、さっきまでの豪快な感じが消えて少し大人びた声になった

さっきまでも子供のような声ではなかったけれど、姉貴から近所の頼れるお兄さんに代わったみたいな…

 

「実は私も過去にやり合った事があるんだ、今の博麗じゃ無かったけどね、当時の博麗の巫女、それに数名の退魔師。今思い出しても震えるよ、あの時強い退魔師があと一人でもいれば私はここに居ないと確信出来るほどには僅差だったさ。後にも先にも人間との殺し合いであんなに興奮したのはあれっきりだね。そんな存在に代は違えどお前さんは立ち向かったらしい、結果はこうでも私は少なからずそこは評価してるんだ、普通の木っ端妖怪じゃ戦うことすら許されない存在に確かに”戦った”と紫は言った。

だからな白墨、私は期待してるのさ」

 

なんだ…それってどういう―――

 

「覚えときな白墨、鬼に面倒をみてもらうってのはこういう事だ!山の四天王の一人星熊勇儀!本気で来な!じゃなきゃ紫の言うよう半殺しにするよ!」

 

は!?ちょっ待って!?

 

「ぶん殴るッッ!」

 

「ぃッ!」

 

地震が起きた

そう錯覚するほど体が揺れる。いや、既に足と地面が離れていた

しばらくしてから浮遊感が無くなり地面に背中を勢いよくぶつけた

 

2秒ほどしてから地面から背が離れる、違う…地面だと思っていたこれは天井だ、この地底の高い天井まで一瞬でぶっ飛ばされたんだ

 

笑えない…笑えないぞこの状況は…

 

ぅぐぐぅ…ちぐしょう!なんだよ!紫ってやっぱりアイツかよちくしょう!あいつそんなに俺の事が嫌いなのかよ!

 

「なんだァ?星熊の奴と喧嘩か?」

 

「ブァッハハ!新参がケツでも触ろうとして飛ばされたんじゃねぇか!?」

 

「誰か酒もってこい!あの星熊とやり合った何分もつか見ものだぞ!」

 

ガヤガヤと部外者の愉しそうな声が聞こえる

 

「にしてもよりにもよって喧嘩を売る相手が星熊なんてアイツ相当根性あるぞ!」

 

下の方からふざけた声と酒の匂いがする

ちくしょう誰かこんなふざけた現場を助けようとしてくれる奴はいないのかよ!

目が見えなくても馬鹿みたいな顔したアホ面の野次馬が俺の死に場を肴に美味いもの食べてるのが目に浮かぶ…!

 

「蹴るぞォ!白墨!」

 

目が見えないからどれくらいで地面に着くのか、どの方向から蹴られるのかすら分からない

 

ああクソっ!もう!またかよ!ちくしょうッッ!この前博麗の巫女にやられたばっかだってのに!

汚ぇ、汚ぇぞ八雲紫ィィィィィ!

俺の体は馬鹿みたいに熱狂的な観戦と強い酒の匂いに包まれ、勢いよく吹き飛ばされた。

 

 




どうも皆さんしゃけです。安心して下さいまだ生きてます
今回から本格的に地底の話を書いていくので荒い部分が目立つと思いますが優しい目で見てやってくれるとありがたいです

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