灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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第二話 魚がうめぇ!

歩く。

ただ何も無い所に変化を求めてひたすらに歩き続ける。

ただ意味もなく歩き続けていた訳じゃない。

この体についてわかったことがある、まずお腹減らなくて喉が渇かない。

これは前からわかっていたことだが1週間近く飲まず食わずでも平気だったからそもそも必要としないのかもしれない。

 

それと灰をいっぱい出せる、ただ灰を出せるだけと思っていたがこの灰はドローンのような役割を持っている。

例えば灰を風に乗せて飛ばすと飛ばされた灰からなんとなく地上の景色を見ることが出来る、これを知ってから定期的に灰を出して近くに何かないか調べているのだ。

 

そして最後に妖力。

妖怪が当たり前のように持っている力……らしい。

使い方が分からない、今のところ火出して焚き火とするぐらいだ。

火打石でせっせこ頑張る必要がない、というのは便利かもしれない。

でも多分、これで妖怪か人かを判断してるんだと思う。

この妖力を他人に認識されないようにすれば見た目は人だし人里にも行けるんじゃね?

 

ということで灰を飛ばして見つけた小さい村へレッツゴー。

そして、呆気なく簡単に俺は村に入れた。

 

 

 

 

 

 

フハハハハハハ馬鹿め人間共!俺が妖怪とも知らず妖力を隠しただけで易々と里へ入れるなんて簡単すぎて笑いが込み上げてくるわ!

 

クックックまずは何からやってやろうか。

まぁ別に人襲ったりはしないがな!こういうのは報復が怖いんだ。

 

最初の里よりもだいぶ小さく、不用心にも串焼きにした魚をそのまま置いている。

俺は地面に突き刺さった魚の串焼きを躊躇いなく奪い取って村を出る。

ふははははは!この魚の持ち主には悪いけど、どうせ妖怪なんだから悪いことの一つや二つやってもいいでしょ!……けどバレたら怖いから直ぐに村を出ていく。

防犯カメラも何も無いなんてちょろ過ぎる、人の目さえ気を付ければ余裕だ。

 

俺は久方ぶりに手にする焼き魚をもっきゅもっきゅと食べていく。

うーん塩がかかってないから微妙だけど久しぶりに食べたから思い出補正で60点、これからも見つけたら奪っ…貰っていこう。

 

そうやって懐かしの焼き魚をしばらく食べ歩いていると岩を…いや岩の横でうずくまってる汚い人間?を見つけた。

人間か?いやでも妖力持ってるし妖怪か。

 

うずくまって全く動かない妖怪を見る。

長い白い髪の毛で顔はよく見えないが多分女だと思う。ひざから覗く片目はどこを見ているのか分からずちょっとやばそうだった。

そして注目すべきがその妖力量、俺の10分の1程度もなかった。

 

ははーんなるほどわかったぞ。

こいつ俺と同じで妖怪になったばっかで人間に虐められた感じだな。

いいだろう、俺もちょっと前によくわからん妖怪に助けてもらったばかりだ、情けは人の為ならずとか偉い人も言っていたし、焼き魚を1本分けてやろう。

 

俺はうずくまってる女に俺は焼き魚を1本差し出す。

 

「……え?」

 

焦点の合ってない目が段々と光を戻していき、やっと魚を認識した。

恐る恐るといったふうに焼き魚を受け取り、しばらくしてゆっくりと食べ始めた。

 

それを確認して俺も岩の上に座って残りを食べていく。

 

初めはかすれた呼吸音のようなものに聞こえた。

それは段々と大きくなっていき鼻声の泣き声に変わっていた。

 

「うぐっ…う…ぅえ……」

 

堪えるように鼻を啜る声、何度も涙を拭いながらも焼き魚を食べる。

 

ええ……そんなに魚美味かったのか……。

まあ俺も塩がかかってたら懐かしさのあまり泣いていたかもしれない。

うん彼女は余程魚が好きだったんだろう、ただ俺は急に泣かれてちょっと気まずくなったから帰らせてもらおうか。

 

5本目の魚をパクッと食べて岩から降りる。

 

じゃあな魚好きっ子よ。

もちろん口には出さない、ただ手をヒラヒラさせて俺は歩き始めた。

 

すると魚好きっ子は焦ったようにばっと立ち上がり、こちらを振り向く。

 

「ま、待って!」

 

うげっなんだよこいつ、まだ魚欲しいのか?なんて強欲な奴だやらんぞ!残りは全部俺のなんだから1本も渡さんぞ!

 

「ちょ、ちょっと待ってってば!」

 

俺が構わず歩いていこうとしたらちょっと強めに引っ張られて仕方なく一旦止まる。

 

「あんたこれから何処行くの?」

 

少し焦ったように聞いてくる。

 

「適当」

 

特に目的地とかはない、行きたい場所もないからフラフラしてるだけだし。

 

「な、なら私も連れて行って!」

 

「やだ」

 

何言ってんだこの子。

やだよ魚取られそうだし、ってか一人旅だから気楽でいいのに他人が居るとめんどくさいから

うん却下却下めんどくさい。

 

「お願いだよ、荷物持ちでもなんでもやるから!」

 

お?

今なんでもするって…ふむふむ、気が変わったしょうがないたまには2人旅というのも悪くないねうん。

ちょうど一人旅に飽きてきたと思ってたんだ、そこまで言うなら連れて行ってあげよう。

荷物持ちと雑用はしっかりしてもらうがなガハハハ。

 

俺は彼女に魚を1本渡す。

 

「え?あ、ありがとう?」

 

彼女は戸惑いながらもそれを受け取った。

よし受け取ったな、これで契約完了。

その魚を受け取ったならキリキリ働いてもらおう、もう取り消しとかはさせないから。

 

ふっふっふ、思わぬ労働力を手に入れたぜ。面倒なことは全部押し付けよう、これで一人旅が楽になる。

ん?あれでも俺別にご飯食べなきゃいけないわけでもないし、寝る必要も無いし、特に大きな荷物を持ってるわけでもないしほんとにこいつ雇う必要あったか?

 

まぁ何かあったら適当にやらせればいいか。

 

 

 

 

 

 

軽い気持ちだった。

いや今だからこそ軽い気持ちと言えるが当時はあれでいて本気だったはずだ。

本気で本気の気持ちでかぐや姫が置いていった蓬莱の薬を飲んだ。

黒かった髪は白くなり、老いることなく、死ぬことも無く妖怪でも人でもない蓬莱人になった。

 

人でも妖怪でもない、けれど私は化け物だ。

都を追い出され、妖怪に殺されて何も出来ず覚悟はあっさり砕け散り人目を避けるように生きてきた。

 

それでもお腹は空くし、喉は渇くし、体は疲れる。

やがて飢餓を誤魔化すようにうずくまっていた。願わくばこのまま死んでしまえるように。

 

いつから居たのだろう?

気が付いたら男が焼き魚を前に突き出していた、しばらく経ってからそれを譲ってくれているのだと気付き受け取った。

 

それを見ると男は無表情のまま岩の上に座って魚を食べ始める。

私もそれにつられて魚を1口食べる、そういえば誰かと一緒に食事をするのは久しぶりかもしれない。

いや傍から見ればそれは一緒に食事をしているとは言えないだろう、私と彼は顔も合わせず無言で食べ続けているだけだ。

 

けど、それで良かった。ただ横に誰かが居てくれるだけで良かった。

今の不安定な状態の私にとってこの空気がとても居心地が良いものに思える。

ふと彼の顔を見る。彼は私と会ってから一言も話していない、それどころかずっと無表情だ。

 

彼の考えていることがわからない、どうして私に魚をくれたのか、どうして私と一緒に居てくれているのか…同情?好意?気まぐれ?

それを彼の表情から推測するのは不可能だろう。

 

気楽だ、もし彼が私の事を嫌っていたとしても恐らく私はそれに気付けない。

私もそれを気付かないフリをして逃げることが出来る。

 

そう考えてそれがとても魅力的なものに見えた、自分が傷つかずにいけるとてもとても魅力的なものに見えた。

 

だからだろう、彼を引き止めたのは。

私は化け物だ、化け物になった。

 

人も妖怪も誰も受け入れられない化け物になった。

でも、それでも覚悟が出来るその時まで誰かに縋っていきたかった。

 

 

 

涙を拭いて前を向く。

久しぶりに食べた魚の味は元貴族の私にとっては味気なくそれでいて優しいものだった。

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