それと前回の二十話で感想いっぱい書いてくれてありがとうございます!ニッコニコで読ませもらってます!
第二十一話 新人式神白墨くん
「ん〜〜!!」
広い地霊殿のある人部屋にて、気の抜けた声が聞こえる
「あれ?さとり様いつになくご機嫌ですね」
そう、今の気の抜けたような声は他でもない私のご主人様の口から出たものだった
腕をピンと伸ばしていつも以上にリラックスした様子…
いつもの静かな印象を受ける優しいご主人様にしてはやや浮ついた場面だった
「あらお燐、わかるかしら?重い肩の荷がおりたのよ」
そう言ってソファにぐでーっと寝転ぶさとり様
可愛い
肩の荷がおりたというが一体何があったのだろうか?そもそも最近そんなに神経質になるような事があったっけな?
「白墨さんが正式に八雲紫の傘下に入って地上にいくらしいのよ、どんな話し合いがあったのかは知らないけれど…そんな事よりこれで八雲紫と勇儀さんの重圧から解放されるわ」
そう言ってあまり動かさない表情を少しだけ緩ませている
休日前の人みたいだ
「白墨さん…ああ!あのよくさとり様の所に来ていた妖怪ですか、ご友人だったのですか?」
そう聞くとさとり様は少し悩んでから口を開いた
「友人…と言うほど親しい仲ではないですよ、まぁでも…お燐、あなた達の次には好ましい人だったかもね、良くも悪くもアホだったので考えていることと行動がわかりやすい、動物みたいな素直なアホだったので」
あ、あほ!?
さとり様には珍しく口が悪いので少し驚く
でもわかりやすい…?私が見た時は全く表情を動かさない冷たいヤツと言う印象だったけど
アホ…?
でも基本的に人との交流を嫌っているさとり様にしては珍しくそこまで嫌がっていないのだなと思った
…ということはやっぱりご友人?
「だからそこまで親しい仲ではありませんよ…難しいですね」
さとり様は本気でなんと言おうか悩んでいるような仕草で考え込んだ
「…?まあ次地霊殿に来たらもてなしておきますね!」
「いや次見かけたら門のところで追い払って…いや、どうせもう二度と地底には戻ってこないと思うし、別に好きにしてもいいわよ。でもこれで…本当に安心して生活がおくれる…お燐、珈琲を入れてちょうだい」
「はい!」
結局さとり様と白墨とかいう妖怪の関係は良くわからなかったが、究極的に仲が悪いということは無いみたいだ
自分ではよくわからないが悟り妖怪のさとり様が言うのだから間違いないだろう
ご機嫌なさとり様につられて鼻歌交じりに珈琲を入れた
◆
「ええ!?帰った!?」
「ええ、少し前に地上に出るからと挨拶して帰ったわよ…直ぐにそうやって帰れるところはやっぱり地上の妖怪ね…妬ましい」
「いくら嫌われてると言っても家も食うもんも面倒見てやったのに一言もなしかい!?」
鬼は…勇儀は酷くないか!と驚き声を荒げていた
「全く妬ましいわね…嫌われ者の地底の妖怪でさえ鬼がこれほど帰りを惜しむなんて」
橋上でパルスィは目を細めてそう呟く
「いやぁ…私もあいつの事は嫌ってたけどさぁ…ハッハッハ…こりゃ参ったね!アタシは地上に行けないし、戦いの続きはまた今度かぁ…」
勇儀は戦いを懐かしむように今はもうない傷を撫でながら諦めたように上を向いた
「出たいなら出ていけばいいじゃない…1人はそうしてるわよ?」
「萃香か…あいつの自由さは羨ましいけどね、アタシは鬼で地底の妖怪さ、それを違えちゃならないよ」
パルスィは分かったようなわからないような感情を、きっとこれは鬼にしかわかるまいと押しとどめた
「地底の妖怪と自分で言えるその自信が妬ましいわね」
パルスィの無理に押しとどめた感情が意味の無い言葉となって口から漏れた
◆
何も見えない暗闇で肩を押される
「真っ直ぐと進みなさい、そのスキマの先が地上に続いているわ。あなたがこれから行くのは地上と陸続きのある山奥…これから出来る理想郷よ」
紫の言葉を聞いて歩を進める
相変わらずスキマとやらの中は不思議で、灰バリアを使っても何もわからない
つまり質量が無い…まるで宇宙空間にできた道を歩いているような有り得ない奇妙な感覚だ
暗闇を進む恐怖が徐々に大きくなったところで突然世界が現れる
目に広がるめいいっぱいの緑、春の暖かな風が頬を撫でた
暗く肌寒い地底と違って生命の溢れた風が吹いてくる、それがあんまりにも優しくて暖かいものだから思わず息をするのも忘れてしまいそうになる
「ああ…」
それは間違いなく歓喜の心だった。自然の力は偉大で、そばにあるだけで心が晴れやかになる。
「どう?目は見えるかしら?」
言われて自然に自分の目元に触れる。初めて気付いた、今自分がこの光景を自らの瞳で観測しているのだということに
長年色を映さなかった瞳に色鮮やかな自然が入り込む
地上はやっぱりいい場所だ…閉鎖的な地底にはきっとない…いや、もしかしたら地底にもあったかもしれない、目の見えなかった俺にはそれが分からなかっただけかもしれない
惜しいな
「改めて、ようこそ幻想郷へ」
久々に見る紫の顔はいつものブチ切れた黒い顔ではなく綺麗なものだった
…多分ずっとその顔しとけば胡散臭い年増妖怪なんて陰口たたかれないと思うぞ…。
そうやって俺が感動しているとふわふわと1人の妖怪が降りてくる、それもかなり強力なやつが
「お帰りなさいませ紫様」
「ええ、藍もいつもご苦労さま」
そいつを見て冷や汗が流れる
冗談じゃないぞ…
藍、と言われた妖怪…その特徴的な黄金色のいかにももふもふしそうな毛はともかく、その背後の九本の尾は…ヤバい…
知識不足な俺でも知っている九尾の妖怪…歴史に名を残すような大妖怪じゃねぇか!
え?この大妖怪すらも紫の式神?ほ、ほーんやるじゃん…え?これ俺いる必要あるの?この九尾さん以上の働きを求められても困るよ!?
「紫様、この妖怪が例の?正式な式神としての契約はないように思えますが…」
「ええ、まだ仮契約みたいなものなのよ、甘味で動く期待の新人…なはずよ…」
「はぁ、契約内容もそうですがそこまでの力があるとは思えませんが…」
なんだが訝しげな目で見られているがとりあえず先輩には敬意を払っておこう
まああんたら大妖怪に比べればそこら辺の妖怪なんてみんな力不足もいい所だと思うよ、うん。
何十年も鬼に追いかけ回されても技術の向上は無かったし、これ以上強くなったりとかは無さそうなんだよな、才能の差ってやつかもしれん
「まあ戦力的な価値は期待しないから大丈夫よ、それよりもどう?結界の様子は、私のいない間になにか変化はあったかしら?」
結界?なんの話だ?
「例の結界ですが、やはり対象が曖昧で多すぎるためかいくつかの綻びが生まれ始めています、調整が必要かと…」
少し言いにくそうに藍が結界とやらについて報告している
結界と言えば地底にあった結界を俺はどうやってすり抜けたんだ…?謎が多すぎる…わからん、もう美味しいもの食べたい…
「ああ、やっぱりそうなのね…はぁ…先が思いやられるわね…1つ直せば2つの問題が生まれてくるし…」
「…心中お察しします…。」
苦労してそうな顔でため息をつく紫と同じような顔で疲れたため息を吐く九尾さん…なんだか急に空気が重いよ
「そうねぇ…どこから説明しようかしら………。藍!説明お願い!」
「え!?は、はい!ここと結界についてですか」
「ええ頼んだわ」
途中まで考えていたのに自分の式に説明を丸投げした紫を尻目にこれまた苦労してそうな九尾の方を向く
「ええと、幻想郷がどういう場所かは知っているな?」
いや知らないけど…ぶんぶんと首を振る
あっおいちょっと面倒くさそうな顔するな
「近年…といっても数十年前から妖怪はその数を緩やかに減らしていき、それとは対象に人間は増え、文明という力もつけた。その事に危機感を覚えた紫様が幻と実体の境界という結界を…あー、簡単に言うと少なく世界に散らばった妖怪達をここ幻想郷に訪れるような結界を張ったのだ。」
俺がわからないですと頭を傾げると馬鹿でもわかりやすい感じに話してくれる九尾の妖怪は有能だ。つまりさっきまで言ってた結界はその幻と実体がなんちゃらの結界のことだな?
「この結界によって存在の弱くなった妖怪からここ幻想郷に呼び寄せる事で衰えた妖怪の勢力を何とか保つことは出来るようになった…が、現在その結界が問題を起こしている」
そんなまねきねこみたいな効力の結界をこの馬鹿でかい土地全体に張ってるの…?
チラリと紫の方を見ると、私頑張りました!という感じでドヤ顔していた
おおー、とぱちぱちと手を叩いておく。…ん?問題があるとか言った?
「…聞いているのか?まあいい、その問題とやらが深刻でな…力の弱まった妖力を持ったものをなんでも引き寄せてしまうのだ、その効力は凄まじく、例えば妖力を持った花だったり、意思すら持たない半端なものまで幻想郷に呼び寄せてしまう…そうやって無理に色んなものを呼び寄せた結果、結界に綻びが生まれ、その綻びがどんどん広げられていってしまっている。このまま結界の綻びが大きくなっていけば、そのうち存在しない伝染病について書かれた妖魔本などもこの幻想郷に呼び寄せられ、最悪が起こるかもしれない…」
ダメじゃねぇかその結界
チラリと紫の方を見ると、ぴゅ〜とかびゅ〜と下手くそな口笛をして目を逸らしていた
「ま、まあだから私達はその結界の修復と修復と修復……そしてまた修復……で忙しいのよ…ええ本当に…」
そう言って暗い目でぶつぶつと呟く
俺結界の修復しろとか言われても出来ないんだけど…俺が使う結界なんてめっちゃ細長く折った結界を早く飛ばすぐらいなんだけど…
不安に思っていると再び紫が口を開いた
「それにこのままいくともう1つの問題が生まれることも予測しているわ…そうなるともはや妖怪だけではどうすることも出来なくなる。だから博麗の巫女と連携を取って人と共存していく形をとる必要があるのよ」
妖怪が人と共存?それに妖怪絶対殺すマンみたいな博麗の巫女と連携?
話す紫は未来のことでも考えたのか憂鬱そうだ
「博麗の巫女とは既に話をつけて、人里の方にも説明はしてもらったわ…けど弱者である普通の人間が突然そんなこと言われても到底受け入れることは出来ないでしょう?だから人と妖怪の垣根を取り壊す…まではいかなくても妖怪と人が共存できる”そういう”ルールがあるのだと納得させる必要がある」
そう言い、紫はゆっくりとこちらに歩を進める
そして俺の前まで来ると持っていた扇子を俺に向けた
「あなたには、結界の管理で忙しい私達の代わりに人里での妖怪と人間の共存を納得させてほしいのよ」
ここで初めて紫は俺に仕事の内容を言った
……それは、もっと明るくて警戒されにくい妖怪でなきゃ無理じゃないか!?
ここまで呼んでくれてありがとうございます!
次回はニート歴が900年近くある灰くんの初仕事です
それと本編とは関係ありませんが102人もの方が評価で9を入れてくれました!100人の大台を超えたのでバーの色が緑色になり感無量です。これからも評価に見合うように頑張って書かせていただきます