灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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地上に出れてウッキウキの灰君です


第二十三話 人里と警備員

身体が強ばるのが自分でもよく分かる

 

長い人生の中それなりに緊張することには慣れていたと思っていたが存外そうでも無いらしい

 

それほどまでに目の前のソレは異質だった。私が出会った中でも最も人間味が薄く、最も機械的で、その目は冷酷なものだった。そしてその殺し方もまた異質だ。

 

急に動き出したかと思うと、一瞬の躊躇いもなく妖怪の頭を吹き飛ばした

私だって人里を守るためなら躊躇いなく妖怪を殺すだろう、ただそれは誰かを守るという事のために他の命を奪うのだ、だがこいつは違う。

 

話だけを聞いたならあの少年を助けるために動いたように見えるだろう、だがあれは、違う。あの目は違うのだ。あれは誰かを守るとか、誰かのためにとかではない…眉一つ動かさず、まるでそうなるのが当然かのように妖怪を殺した。

その無機質な目で、一切の無駄なく、あたかもその妖怪を殺す為だけに存在しているかのように。

 

あの目で見られると身体が強ばる、身体が一瞬で冷たくなり嫌な汗が頬を伝う。まるで生物とは思えないその異質さに経験した事の無い種類の恐怖が身を襲ったのだ。

 

数瞬迷ったあと、意を決して言葉をかける

 

「まずは、人里の子を守ってくれたことを感謝する…私だけなら間に合わなかったかもしれない。ただ、何も、人里内であんな殺し方する必要は無かったんじゃないか…?それだけの力量差があるのなら無理に里の人を怖がらせず他の場所に移したり、里の人々が居なくなってから殺すことも出来ただろう…」

 

なぜあんな不気味に、里の人々を怖がらせるような真似をするのか、と私は問うた

 

相変わらず無機質な顔で初めてその妖怪が口を開いた

 

「仕事だ。」

 

その言葉で嫌な相手に結び付いた

 

「八雲…紫か…。」

 

目の前の妖怪の持っている木彫りのそれが他でもない八雲の使いを示すものだ。少し前に博麗の巫女と稗田家の当主という幻想郷では決して無視することの出来ない二大勢力が共に妖怪との擬似的な共生を発表した。

その時にいた八雲紫という妖怪がそのルールを守れるように手配すると言っていたのを思い出す

 

それが、そのルールを守れるようにする者がこの妖怪なのか。

私は八雲紫もこの妖怪も信用することなんて出来なかった。

 

決して大妖怪程の力がある訳じゃない、目の前の妖怪はせいぜい中級妖怪がいい所だ、例え争いになったとしてもきっと楽な戦いでは無いだろうが勝つことは出来るだろう、ただ里の人間にも攻撃が及んだら?

 

私は全てを守りきれる自信がなかった

 

俯いていると、頭の潰れた妖怪の死体に、まるでうじが群がるように砂のようなものが付着していく、その気持ちの悪い光景を目の当たりにして思わず1歩後退する。

 

「何を、しているんだ…?」

 

声は震えていた。妖怪の死体は周りに飛び散った血も含めてまるで地面に沈んでいくように死体が消えていく

 

「ここだと、汚いから、掃除」

 

淡々と妖怪の死体を片付けると、先程まであったはずの死体や血の跡は少しもなく、まるで何もかもが無かったかのようだ。

 

それを確認すると八雲の妖怪は興味を失ったかのように離れていく。

 

私はその光景を見て、しばらくそこから動けなかった。

もし自分が死んだら、ああやって処理されるのだろうか?

 

そんな嫌な考えが、頭から離れなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

人里で人を襲おうとした妖怪を殺す、分かりやすくていいじゃないかすっごい単純な仕事だ。

それに人里内でそういうことする妖怪のほとんどは小物も小物、雑魚ばっかだ。間違っても勇儀みたいなバグキャラは来ないときた。雑魚狩り、正に俺にぴったりだ。

 

手からサラサラと出していった俺の灰は既にこの人里中にばらまかれている

つまりは、いつどこで妖怪が暴れだしたとしても直ぐにわかるのだ。なんなら今人里で話されている全ての会話だって把握出来る。面倒臭いから暇な時にしかやらないけどね!

 

ということでこの人里内は俺特製灰の監視カメラと盗聴器で何が起こっているのか丸わかりということだ

 

極めつけに人里の至る所に灰の山を作ってバレないように安置してきた、これによって離れたところにいたとしたも直ぐに灰逃げを使ってその暴れている妖怪の元へ駆けつけることが出来るのだ

 

ふっふっふ…どうよこの完璧な仕事体制…!

なんなら俺は寝る必要がないから24時間稼働中だぜ……フッ俺の職場はブラックだな!

 

なんとも楽な仕事か!クズを殺して食う甘味は美味い!俺の給料(甘味)の為に文字通り塵になってもらうぜ!

 

ただ甘いものばかりだとバランスが悪いのも事実……ということで俺は味噌汁が飲みたい!健全な大和魂を心に宿したものならみんな大好きな心温まる最強のスープだ

 

そんなわけで人里内を歩いて、目的の場所へ行く

そこには子供がやる気のなさそうに店番をしていた

 

ゆかりからは普通に人里の施設を使っていいと聞いているから俺も当たり前のように活用する

 

良さなんてわからんが適当に大根を1本持っていく

 

「お兄ちゃん客?大根1本130円ね」

 

相変わらず俺は金なんて持ってないのでいつものあれを取り出す

懐から地底の時にご飯代として物々交換してもらっていた勇儀特性の酒だ

それを1本少年に差し出した

 

ほらその大根と交換じゃ

 

「…?お兄ちゃん金ないの?それじゃあ売れないよ」

 

「えっ…」

 

そう言って少年は大根を戻してこいと手をヒラヒラさせた

なんだと…地底じゃ何よりも高価な酒だったのに……!俺が絶望して固まっていると奥から焦った様子で女の人が向かってくる

 

「春水!あんた何やって……!すいませんッ!その大根ならいくらでもあげます、代金は取りません!」

 

物凄い勢いで焦りながらその女性はペコペコと頭を下げた

ついでにその少年の頭をガシッと掴んで無理やり頭を下げさせてもいる

 

「な、何言ってんだよ母ちゃん、ちゃんとお金貰わなきゃ……」

 

「あんたは黙っておきなさい!」

 

その迫力にこっちがビビる…

と、とりあえずこの大根貰っていいの?あ、ありがたいけどちょっと怖いぞ

ちょっと気まずくなって言われた通り大根1本だけ貰ってそそくさと店を出た

 

でもまあタダでくれるって事は良い人?だな!今度なにかあったら助けてやろう…うん。とりあえず今日はスタコラサッサと逃げる、特に逃げる必要も無いが逃げた。

 

人里からほんの少し離れた草原の?少し盛り上がったところに座って生の大根を齧る

 

うん。これはこれで悪くないけど料理にしないとダメだな

 

でもなぁ…物々交換ダメなのか…。俺金持ってないし…

 

生の大根……いやまあまあ美味いんだけど…。っというかわざわざ味噌汁の具を買ったとしても作る場所がないじゃん

俺そういえば家ないんだった

 

ゆかりにどこで住めばいいと聞いた時だ。

 

『あなた別に眠る必要ないのよね?』

 

『…?コクコク』

 

『貴方って別に特別なことしなければ疲れたりとか疲労が溜まったりとかしないのよね?』

 

『……?コクコク』

 

『そうっ!じゃあ私は結界の修復をしてくるから契約よろしくね!』

 

(えっいや家……)

 

 

 

とまぁこんな感じで、俺の雇用主さん俺にホームレスしろって言ってくるんだよね

確かに妹紅と旅してた時とかは何年も休まずぶっ通しで歩き続けたりもしてるし、一度も寝たことなんて無いけど、心休まるおうちは大切だ。

 

それが今じゃ開放的で風通しの良い土の床だよ

なんてこった勇儀なんて食べ物と住む場所もくれたのにこの差だよ…

 

とにかく自分で作るってのはなしだ。作れる、作れない関係なしに作る場所がないのだからな

 

困ったな、そうなるとやっぱり人里のご飯屋さんで食べるのが理想なんだが、金がない

紫との契約で毎日お菓子だったりと言った甘いものは送られてくるのだが、普通に食べるご飯は無い

 

俺は1日2食は食べたいからなぁ…流石に契約してる手前、紫に金をせびるのは無理そうだし……

 

しばらくは魚でも釣って、誤魔化そうかな…とか考えていると、ある1つの妙案が頭に浮かぶ

 

そうだ、ちょうど良さそうなヤツがいたじゃないか!頼むだけならタダだから言ってみよう

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は?お小遣いが欲しい?貴様は何を言っているのだ?」

 

…俺は既に後悔している……。そう俺はこの地上で唯一面識のある九尾の藍さん…先輩にお小遣いくれー!と頼み込んでしまったのだ

 

怖い、むっちゃ怖い。というか顔が怖い。ゆかりみたいな笑顔でビビらせてくるタイプじゃなくて普通に顔が怖い

 

目は細められ怪しく光り、眉間にシワを寄せ、俺を眼力だけで殺せそうな目で睨みつけてくる

ドスのきいた声はヤクザそのものだ……。

ひぇ、ひえっひえ……。

 

「それより貴様、人里はどうした?なぜこんな所まで来ている?わかっているのか?もし人里内にいる人間に妖怪による被害が出れば、紫様の計画は大きく遅れる…それほど重要な事なのに貴様はなぜここにいる?」

 

ひゅ…かひゅっ…

 

ひ、人里は灰をばらまいてるから大丈夫……今だって何かあったとしても、直ぐに灰逃げで駆けつける事が出来るから……

 

それを口に出して伝える訳にもいないのでとりあえず大丈夫ということを教えるために親指を立てて、大丈夫と一言だけ言った

 

「どこからそんな自信が…、いや何かそういう手段があるのか…?まあいい、あの程度のことも出来ない無能でもないだろう」

 

藍が話はそれだけとその場を去ろうとして少し焦る

本題のお金を貰ってないじゃないか!

 

「お小遣い……」

 

言って直ぐにまた後悔した

ギロリと明らかにイラついた目で再び睨まれる。

 

「貴様……いやしかし、それだけでやる気を出すなら安いものか……。」

 

そう言って服の中ををゴソゴソと探し、やがて紐で結ばれた包みを取り出し俺に投げた

 

「1ヶ月後にまた来い、それ以上はやれん」

 

それだけ言うと今度こそ用はないとその場を離れていった

 

包みから程よい重さが伝わる、これだけあれば朝晩飯が食える!やったぜ言ってみるものだな!

怖いけど藍も良い奴だな!怖いけどね!

 

よし、今日は何を食べようか?まあしばらくは人里で食べるとしても、釣りは好きだからな、それはそれとして釣竿でも作っておこう。

 

ふふふ、やはり地上は楽しいな

 

 




お金の価値に関してはご都合主義です。分かりにくいからね
ちなみに、店番の少年は数年後、食うものにも困っていた時にどこからか大量の食べ物が送られてきたとか何とか…
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