灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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少し開きましたがいつもよりは早い投稿
そして皆さん何となく勘づいていると思いますが……夏休みブーストは…死にました

これからまた投稿が1ヶ月ぐらい開いちゃうけど気長に待ってくれると嬉しいです。またできる時に休みブーストをしたいと思います


第二十四話 肉友同盟

俺は動かない。ただじっと置物のように、ピクリとも動かずにその時を待つ

きっと傍から見ればなんかのカメラで撮った静止画像のような印象を受けるだろう。

ただそれも釣り人という人種にとっては日常茶飯事だ。

やがて釣竿が重く引かれ、糸がグッグと沈んでいく

 

ようやく動き出した世界で1秒ほど待った後に俺も、バッと動き始める

 

釣竿と釣り糸が切れないことを願いながら腕を力強く引く。突然かけられた力に為す術なく、その糸の先にいた獲物は中に釣り上げられた。

釣り上げた魚を直ぐに水の張った桶に放す

 

ぴちゃぴちゃと水を撒き散らしながらも魚は桶に収まった。

 

ふふふ…大量大量!今釣り上げた奴で5匹目だ

これだけあれば充分だ。魚の食べれない部分を取り除き、血を洗って串をぶっ刺す

 

懐かしいな、妹紅と旅をしていた時はよく魚をこうやって夕飯にしていた

あの時はなかった塩をまぶして地面に魚を突き刺す

河原で拾った手頃な石で魚の周りを固めて火をつける

 

これで完璧だ…!

別に釣りよりも自分で取りに行った方が早いが、ああやって待つ時間が楽しいのだ。いい天気の中、気持ちのいいそよ風を浴びながらする釣りはなかなかに趣がある

 

パチパチと魚の焼ける音といい匂いがしてくる。堪らない…それが自分が苦労して取ったものだとなお良い。

 

 

そんな至福の時間に嫌な知らせが入る

また馬鹿な妖怪が人里でやらかそうとしているらしい、今週で2度目だぞ…?

めんどくさい気持ちになりながらも魚の火加減を見る。

…これぐらいなら5分で戻ってくれば大丈夫。

 

俺はその妖怪の場所を特定して灰逃げを使った。

 

 

 

 

 

 

「んー、絶妙な塩加減がまた…」

 

「…………………………………………。」

 

人里の妖怪を殺して元いた場所に戻ると、そこには他の妖怪がいた。

 

敵だ、人の幸福を奪わんとする悪だ。そこにいるのは間違いなく倒すべき悪だ。

 

妖怪は少女の見た目をしている。

妖怪の髪は金色で可愛らしい赤いリボンを付けていた。

黒い大きなスカートを履いた妖怪はそれはもう美味しそうに俺の焼いた魚を口いっぱいに頬張っていた。

妖怪はとても満足そうな顔をして両手いっぱいに持った焼き魚を食べる。ガツガツと見た目相応に口元を汚しながら美味しそうに食べる

 

深い悲しみと、後悔が押し寄せてくる。俺のお昼の楽しみが奪われたのだ。故も知らぬ妖怪に奪われた…。それを再び理解して今度は怒りがふつふつと込み上げてくる

 

許せん

固まっていた身体が怒りによって動かされる。突き動かされたと言ってもいい。1歩、確かに大地を踏みしめて1歩前に身体が動く。

 

しかし、身体は止められた。

他でもない俺自身の意志によって止められた。走り出さんとする身体が、そうしようとしていた本人の意志で止められたのだ。

 

…未だに俺に気付いていないのか幸せそうにもっきゅもっきゅと魚を頬張る少女。赤いほっぺをこれでもかと膨らませて、リスみたいに……

 

決して行儀の良い食べ方なんかじゃない…口や手を汚して…そんなことすら気にせず食べていく。とても……とても…美味しそうに……。

 

ふよふよと浮遊しながら欲張りな少女は……普通は捨てるであろう骨すらもバリバリと良い音を鳴らして食べていく……。

 

俺の魚だ…俺が苦労して釣った魚だ…。それをぽっと出の妖怪に奪われてショックだ。だけど…だけれども…美味しそうに…!そんなに美味しそうに食べてくれるなら…食べ物への感謝を忘れず食べてくれているのなら…ならば……ならばぁ……うぅぅ…ならば…よしッ…それならば良いのだ…!

 

美味しそうに食べる姿勢は悪では無い、だから良いのだ…。そもそもあんな所に放置していた俺が悪い…ゥゥ…でもあの塩高かった…幻想郷の周りには海がないから…だから高かった…俺も…食べたかった…。

 

少女は全て食べきって満足したのか、小さく幸せなゲップをした後に両手を合わせて、やや苦しそうにご馳走様でした、と言った

 

それを聞いて、固まっていた身体はプツリと糸が切れたように沈んで膝を着く。

 

「うっ…ぅぅ…」

 

声は意図せず震えていた

 

無くなってしまったものは仕方ない…。美味しく食べられてしまったのだからそりゃあ無くなる。そう、仕方ないのだ

 

心じゃ理解出来ている…、ただ身体はそうとはいかなかった。未だにショックでガクガクと震える身体は抑えようがなかった。憎むべき相手などいない。

 

「…ん?なんだか嗅いだことのある臭いが…なんで跪いているのだ?」

 

やっとこさ俺に気付いた少女がそんな残酷な事を聞いてくる

 

「な、名前は…?」

 

相変わらず震えた声を絞り出すと、元気いっぱいな声が返ってくる

 

「…?ルーミアなのだ!」

 

俺が震えながらさっきまで魚があった方を見つめると、何かに気付いたルーミアはドキリと顔を震わせた

 

そうだ、処理された魚は普通に考えて、誰かの手が加わったものなのだ。自然に焼き魚がドロップするような世界じゃあ無い

そこに処理され、焼かれている魚があるのなら、それを釣って、食べようとしていた誰かが居るのだ…。

 

ルーミアはそんな当たり前の事を今知った。

 

少し気まずそうに頬を掻くと口を開いた

 

「え、えーと…お、おいしかったのだ!」

 

な、ならば…よ、し…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、すまなかったのだ。お詫びにこれあげる」

 

そう言ってルーミアが差し出してきたのは肉だった。もう少し詳しく言うと人の手首らしき物だ

 

やめろよ!俺は人肉はなんかこう…ダメだろ!

ぶんぶんと顔を振って断る。

 

「あっそう?美味しいのに…というかお前、やっぱり何処かであったことあるのだ?」

 

そう言ってルーミアはスンスンと俺の体に顔を近づけて臭い嗅ぐ

しばらくそうしているとルーミアの顔は最初の脳天気なバカそうな顔から、何だかおかしな奴を見る目に変わっていった

失礼なやつだな…初対面の相手の臭いを嗅ぐほうがおかしいだろう

 

「お前…なんでまだ生きている?」

 

その声は問いただすように、珍妙なものを見るような目で俺の瞳を覗いてくる

ゆるゆるとさせていた眼を大きく広げ、瞬きもせずにただジっと…

 

「やっぱり…この臭い、そう言えばあの日も釣りをしていたのだ…。なんで…あれから何年経ったと思っているのだ、ニンゲンが生きていい年数を超えている…」

 

暇だからと、取り出した固い干し肉をガシガシと噛んで食べる

ちなみにルーミアはピタリと止まってずーっと興味深そうに俺を見てはブツブツと何か言っていた

奇妙な独り言は続く

 

「仙人にでもなったのか?いやでも全く臭いが変わってないなんて有り得ない……いい加減話してる最中に食べるのをやめるのだ…あと1つ私にもちょうだい」

 

ルーミアと2人で固い干し肉をガシガシと噛みながら見つめ合う奇妙な時間が続く

不思議と嫌な時間ではなかった

それはルーミアも同じみたいで、変なものを見る目はしているが、嫌な顔はしていなかった、なんなら今は固い干し肉を食べる方が重要そうだ

 

「お前なんなのだ?空にいる干された干物みたいな連中達のご飯でも食べちゃったのか?」

 

一旦食べるのをやめて口を開く

 

「妖怪」

 

変わったとか何とか言っているが俺はずっと同じだぞ、産まれた時から髪も伸びないし、身長も変わらないし、なんなら服装だって一生同じだな

 

「…妖怪?」

 

それを聞いてから俺の体や服をベタベタと触ってくる

 

「…妖怪なのだ…。」

 

しばらくそうしていたのち、諦めたようにそう一言漏れる

 

失礼な、こちとら万年スーパー妖怪だぞ、激しい怒りで目覚めるタイプのな!

納得させるために妖怪っぽいポーズを決めて手から灰を出す

 

「うわっ煙たいな!…にしても…うーん」

 

そう言って少し悩んだ後に手を大きく叩くとさっきのさっぱりした様子になった

 

「まぁ、いっか!魚もくれた恩なのだ!肉友同盟を結成するぞ!手始めにもっと魚を釣るのだ!結成祝いの魚パーティ!」

 

お、おう?

勝手に話を進めて勝手に俺の首に肩車をするように乗っかってくる

ただ単純に塩が欲しいだけのような気もするがなんだか悪い気はしないし乗ってやろう

 

肉友同盟か…

まぁ…良いか!肉友なのに結成祝いが魚なの?とかは置いておいて俺も魚は食べたいからな!

 

小さな妖怪を頭に乗せて釣竿を再び持つ、肝心のルーミアは、わはー!とか言ってるだけで全く手伝おうとしてこないがまぁ仕方ない。

 

明日はどこへ行こうか、幻想郷は狭いようで1つ1つの場所が個性的で楽しいからな…ここを旅するのは楽しいに違いない

 

そんなことを考えて釣りをする。この時間が好きだ

飽きて俺の髪の毛を引っ張って遊ぶルーミアに呆れながらもゆっくりと時間が進む

 

 

……あっ魚が掛かった

 

 




ここまで読んで下さりありがとうございます!
ルーミアのイメージは人によってかなり多いですが、本作ではちょっと話し方が混ざったような感じの子です

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