灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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第三話 実は食に対する欲は高かったり

山を寺を村を行く

特に目的地なんてないし適当にほっつき歩いてるのを旅してると言って楽しんでるだけ、同じ場所に長く留まりもすれば直ぐに出ていくこともある。それは気分だ

 

いいじゃない気分で、妖怪だもの

虫はいるし妖怪もいるし飯はあんまり美味しくないけど村の雰囲気も外の空気もまるで違う。それに今は荷物持ち…賑やかし担当の魚好きっ子いるし退屈はしない。しっかり計算してないが魚好きっ子と旅を始めてから恐らく1年ぐらい経っただろう。まだまだ楽しめそうだ

 

そうそう、魚好きっ子は妹紅って名前らしい…上の名前は忘れた。面倒臭いし魚好きっ子って呼び続けている、特に問題は無い。本人は凄い不服そうな顔をしていたけど問題無いったら無い

 

魚好きっ子と言えば初めの頃は3時間歩いた程度で直ぐに休憩しよーと軟弱なことばかり言っていた。妖怪の癖に疲れるなんて…と言ったら人間だ!と言い返された、どう見ても妖怪だろ…そしてもちろん休憩せず無理やり行った

 

 

「なー次はどこへ行くんだ?」

 

いかにもアホそうなバカそうな頭の弱そうな感じで話しかけてくる魚好きっ子も諦めたのか休憩せずしぶしぶ付いてきている

 

「前みたく人里で妖怪なのがバレて追いかけられるのは嫌なんだけど」

 

俺はその言葉に対して軽く顔を横に振る

 

違う、この前のはこの世界では珍しい砂糖をたまたま見つけたから拝借しようとしたところ警備に見つかっただけだ。断じて妖怪だとバレたわけじゃない

 

警備の奴らが妖怪め!などと抜かしていたが俺の完璧な妖力隠しがバレるわけない、魚好きっ子は馬鹿だからばれたと思っているだけだ

 

「あっそう」

 

魚好きっ子が諦めたようにそう言った

 

「それで結局この後はどこへ行くのよ?」

 

「適当」

 

実は飛ばした灰から変わった神社をみつけたのでそこへ行こうと決めてるけど、それを説明するのが面倒臭いから適当と言っておく

 

適当、素晴らしい言葉だ

面倒臭い時はこれを言っとけばなんとかなるし言葉を発する時もたったの4文字しかない

魚好きっ子が絶対嘘だろと言ってくるが知ったこっちゃない

ふっふっふ、この世は武力社会なのだよ魚好きっ子。俺より少ないその妖力でなんか言われようと取るに足らんわ

 

「へぇ〜夕食の魚取ってきてあげないよ」

 

悪いことを思いついたようにニヤニヤしながら恐ろしい脅しをしてくる

う、うぜぇ…

けど魚が…別に妖怪だから食べる必要は無いけど唯一の楽しみが…!!あいつ俺がどれだけご飯を楽しみにしているか知ってるくせに

 

ああでもそうだな魚の為なら言わざるを得ないな…最善だよ魚好きっ子

残念だ…軽蔑したよ魚好きっ子…まさか君が夕食を人質に取るという最低最悪下劣外道なことをしてくるなんて

 

「……近くの神社」

 

できるだけ軽蔑したように失望したように言う

 

 

「え!?喋るなんて珍しい…」

 

自分から脅してきたくせに驚いたようにこちらを向く

 

そうだね珍しいね、代わりに君は僕の信頼を失ったけどね

 

「へへっ気分が良いし今日は多めに採ってきてやるよ」

 

前言撤回、君はめちゃくちゃ良い奴だよ魚好きっ子

 

 

 

 

 

 

コイツは眠らない

こいつと旅を始めてからもう10年も経っていた、10年も一緒にいれば全く喋らないこいつの事も多少わかってくる

 

こいつは眠らないし、食事を必要としないし、喋らないし、表情を変えない

妖怪というより生物かどうかも怪しい

 

こいつは生き物がするであろう事を全く必要としない

おかげで初めの1年は本当に苦労した、私は不老不死だから死なないがお腹は空くし、眠くもなるし、喋るし、表情も変わる

だからこいつとは根本的に生活が違う、私がお腹が空いたから休憩しようと言っても初めのうちは全く止まってくれなかった、それどころが無言でスタスタ歩いていくので私は2週間ほど水も飯も食べずに歩き続けた

 

いくら死なないからと言っておなかが空くから流石にキツい、なんとか説得して今では1日2回食事休憩があるけどあれは恐らく私の事を気遣って食事休憩をしているのではなく魚が美味いことに気付いたからだ

なぜなら私が夜だから寝ようと言って寝ていたら夜中に蹴り起こしてきて、そのまま昼間のように歩き始めたからだ

 

もう一度言おう、あいつは睡眠を必要としない

だから普通人間が寝るであろう時間も構わず歩き続けようとするのだ

私も何度か抗議しようと頑張ったが結局夜には蹴られて無理やり起こされるし、無視すればそのまま置いていかれるから泣く泣くついて行くしかない

 

何度も文句を言ったりしてみたが見事にすべて無視された

あいつは基本的に喋らない。特に自分にとって都合の悪いことと面倒臭いことは無視して進む

 

それ以外でも話しかけたとしても無視かジェスチャー、頷くぐらいしかやらない、ほんとに面倒臭い奴だ

 

だから私はこいつとのまともな会話は諦めた、まあ話しかけるのをやめるつもりは無いけど

 

しかしそんなこいつでも食事の時間だけはしっかりしている

こいつが唯一感情を露わにすること、それは食事だ、食欲だけは人並み以上持っている

 

この前魚を釣ってきたら私が釣った魚なのに何故か半分以上奪われた

それに採ってきた魚が少ないと自分からは絶対に喋らないこいつがわざわざ少ないと文句を言ってくるのだ

 

なんと理不尽な、そもそも私が採ってきた魚なのにほとんど持っていかれるのも納得いかない

ほんとに食に関する執着心だけは凄い、人里や村を追い出される理由の八割があいつが食べ物に目を奪われて素っ頓狂なことをしでかそうとして追いかけられるのがほとんどだ

 

折角名前を教えたというのに変な呼び名で呼び続けるし、だから私もあいつの事を名前で呼ばない、それに魚好きなのはお前だろとツッコんだが無視された、せめて何考えてるかだけでも分かれば楽なのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々に命の危険を感じる

神とか呼ばれている割に器の小さい奴め!良いじゃないか美味しそうなご飯のちょっとやそっと分けてくれるぐらい

 

「まさか神である私への貢物を盗もうとする妖怪風情がいるとは思わなかったぞ…!!」

 

「おいおいおいお前ふざっけんなよ!何を考えたら神様の供えもんをを盗み食いしようとか言う罰当たりなことが出来るんだよ!私まで巻き添えで死にそうだよちくしょう!」

 

勝手についてきた分際で魚好きっ子が何か言っているがもちろん無視する

お前は不死だから平気だけど妖怪の俺はあの神力で死にかねない

自慢じゃないが神に追われるのはこれが初めてでは無い、この世界の神はケチばっかだから神社に行く度に何かしらの理由で追われる、しかし未だ捕まったことが無い。まあ捕まっていたらこの世から既に去っているんだがな

 

ひょいひょいと神の攻撃を避けながら灰を飛ばし隠れられそうな場所を探す…見つけた

そこまでの最短距離を走っていく

 

「おい!ここ壁があるから右へ行くぞ!」

 

何言ってるんだ壁があるからここまで来たんだよ

まあ逃走の何たるかを知らない魚好きっ子には分からないかもね

 

俺はそのまま壁へ直進して妖術で煙幕をはる、ただの視界封じじゃない

この妖術の煙幕は歩いていくとまっすぐ歩いているつもりでも真横に行ったり、平衡感覚をおかしくしたりと逃げるのに最適な煙幕だ

 

煙幕で姿を見失っている間に壁に手を当てる

すると石の強固な壁がサラサラと塵となって分解されていき人一人分入れる程度の穴が出来た

 

魚好きっ子は足を掠ったのか片足を引きずって歩いていたから首根っこ掴んで今開けた穴に放り投げる

 

小さな悲鳴が聞こえた気がしたけど気のせいだろう

神に見つかる前に俺も穴に入ってまた壁に手を当てる

すると塵が集まっていきあっという間に穴が元通り、これは俺が最近知った力

大体のものを触れることで分解させられる。そんでもって分解し、作り替えることが出来る。もちろん分解した質量以上のものに作り替えたり素材を変えたりは出来ない

 

だがこれのおかげで壁に穴を開けて塞ぐぐらいの事が出来るため逃走にはうってつけだぜ!ゲへへへへへへ

 

「な!?クソっ!どこへ行きやがった!探せ!まだ近くに居るはずだ!」

 

神ともあろうものが妖怪1人捕まえられないなんて無様なものだ、俺は念入りに自分達がいる場所を結界で隠蔽する

 

「お前…ほんとにふざけブ厶っ」

 

なんか大声を出しそうだったんで魚好きっ子の口を無理矢理塞ぎ、人差し指を出して静かにしろと伝える

 

「誰のせいでこんなことになってるんだよ…」

 

額に青筋を立てながらなんか言ってる、こいつ馬鹿なのか…?潜伏中に声出してはいけないということがわからないなんて…

 

やれやれ

まあ魚好きっ子だし仕方ないか

なんか怖い顔して手から火出してるんだけど…大丈夫かこいつ

 

まあなにはともあれ無事酒を奪えたぜ…お酒なんて飲んだ事ないけどさぞ美味いんだろうなぁ…

 

今ここじゃ飲めないけど魚好きっ子にもこの酒を少し飲ませてやろう

何故か機嫌悪いしこれで機嫌を直してくれるだろう、今から飲むのが楽しみだ

グヘヘヘへ

 


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