灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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なんとか間に合ったの30話投稿です
とうとう30話まで来てしまいました、書き始めた頃は30話位で終わるかなと思っていたのですが未だに原作開始すらできていません。
まだまだ続きそうです


第三十話 はじめてのとくべつにんむ!後編

八雲紫には一つの誤算があった

いくら天魔の居ない時だからと言っても、直接的に大妖怪八雲紫との争いになるような事は避けるだろうと考えていた

あくまで立場をはっきりさせたいだけで、会話の機会も無く敵対することなんてありえないとすら感じた

 

しかし、事態はただの若い天狗の暴走だけでは無かった

大妖怪でありながら人里の有権者である稗田家の者と接触を図り、あまつさえ妖怪の天敵とまで言われている博麗の巫女とも協力関係を築いた存在

 

そんな妖怪が最近になり、幻想郷に大きく影響を与える大規模な結界を幻想郷の最大勢力の一つである天狗達に許可なく作り、我が物顔で幻想郷の人里内での人間への攻撃を禁止するルールとやらまで作り始めた

 

妖怪の山に居るものたちからすれば面白いわけがなかったのだ

特に人里内での人間への攻撃を禁止するというのが決して少なくない反発を生んだ

 

妖怪の山に住まう妖怪達からすれば八雲紫なんて存在しか知らない、彼らの表向きの大将はいつだって天狗達であった

納得し切れない、しかし力じゃ敵わない

 

そんな不満が少し、また少しと自分たちの大将である天狗達に向けて溜まっていった、そして天狗達自身もその事に不満を感じていた。

 

そんな欲求不満を抱えた妖怪達が天魔の不在に若く、しかし権力のある一人の天狗を担ぎあげた事が始まりだった

もしくは天魔が居ればこうはならなかったかもしれない、しかしそうはならなかった

誰かが始めたのでは無い、気が付けば止まらなかった

 

若い天狗は気を良くして筆を走らせた

 

今回の事件は天狗だけでは無い、言ってしまえば妖怪の山全体の不満が暴発した結果なのだ

 

偶然が重なっただけとも言える

八雲紫がもっと結界に対する理解を広めさせていれば――だが、そんな時間は無かった

 

天魔は自分がしっかりと山に居座り、天狗達を、妖怪の山に住まう者たちを抑えることが出来れば――しかし、天魔は急用があると言い山を出た

 

偶然は重なり、不満は止まらず、事件は起きた

 

あるいは、担ぎあげられた天狗が別の者だったなら…

あるいは、古い世代の天狗が保身に走らず止めに入って入れば…

あるいは、、、、

 

 

 

 

 

 

 

部屋の気温が少しだけ上がる

ほんの少しだけ…

けれどそれでも確かに変わる

 

身体が熱い、嫌な感じではない。冷静さを失っているのだと理解出来た。

 

未だにこの身体は天狗に踏みつけられて動かない

相手が油断している隙に自然な形で”手のひらで床を触る”

 

「なんだ…貴様のその身体は…赤い…?」

 

目の前の天狗の警戒が低くなった瞬間を狙って一気に行動に移す!

 

土で出来た大地と違い、畳と木の床では出来ることが限られている…だがそれでも地面を作り替えて軽く揺らす程度ならできるんだよ!

 

「貴様…!なにをッ…」

 

体勢が崩れた天狗を突き飛ばして何とか立ち上がる

 

やっと体勢を立て直せた

かなり強く踏みつけられていたのか身体が痛い。気合いで動かす

 

「…ックソ!囲え!逃がすな!」

 

周りの天狗達も刀を抜き、こちらに向けてジリジリと近付いてくる、だがまだ遠い

 

俺を踏みつけていた天狗に対して結界の槍をぶっぱなす

右手から発射された結界の槍がいとも容易く叩き斬られる 

一応その技勇儀にも効果あったんだけどなぁ…。まあ距離が近いから仕方ない…

 

急いで二発目を放とうとするも、それより速く動いた天狗に右腕を斬り飛ばされる

 

地底で散々味わった苦しみが再び蘇った

 

まずい、結界の槍も防がれた、右腕も切断された

ああもう!この天狗も普通に強え!っというか天狗と言うだけで並の妖怪とはレベルが違う

 

でも不思議と身体が興奮する!なんだか知らんがテンション上がってきたぜ!

 

「出てこい肉友同盟ルーミア!ご飯を粗末にする不埒者共を殲滅せよ!」

 

ノリで言った後に少しだけ後悔する、ちょっとだけ恥ずかしい!

恥ずかしいノリをアドレナリンパワーで誤魔化して動こうとした時、自らの背後に出来た影が揺れて、そこから誰かが飛び出してくる

 

「呼ばれて出てくるルーミアちゃん参っ上!とうとうその気になったか我が同志よ!手始めにこの山から殲滅じゃー!」

 

わはー!と飛び出してきた予想もしないゲストキャラに、たぶん、敵も俺も一瞬止まった

呼んだ俺だって驚いたのだ、天狗達もさぞ驚いただろう…だってほんとに来るなんて思ってなかったんだもん

 

「構うかぁ!低級妖怪が一人増えたところで!」

 

一瞬惚けていた周りの天狗達がとうとう斬りかかってくる

それに対してノリノリでこの場に似つかわしくない幼女が躍り出る

なんだか楽しそうだが…

 

「フッ、漆黒の暗闇のダークな感じのあれに呑み込まれるが良い!」

 

斬り掛かれるその寸前、片目を瞑り指を鳴らす

ノリノリのルーミアのスカっ…とした指パッチン

そんな締まらない音ともにルーミアを中心に暗闇が広がり、一瞬で視界が封じられる…そう俺ごとだ…

 

俺にも効果あるのかよ!

なんかそれっぽく言っていた割にはただの目くらましだがその絶妙なチョイスはまあナイスだ。

 

未だに突然の出来事に対応出来ず、騒いでる天狗をよそに、急いで灰を展開する。

封じられた視界、懐かしい感覚だ。一体俺がどれだけ長い間暗闇で生きてきたと思ってる

 

この空間で誰よりも練度が足りてないのは俺だろう、だがこの暗闇で誰よりも早く動いたのは俺だった

 

暗い世界は慣れっこだ、展開された灰から全員の位置関係を把握していく

 

何をしに来たのか分からないバカは自分の作った暗闇で自爆し、壁に頭をぶつけて目を回していた

なんで自分の技を食らっているんだよ

 

天狗に察知されないように急いで走る、いくら視界が封じられてるとはいえ油断は出来ない

 

「わわっ!」

 

未だに目を回しているバカの首根っこを掴み、障子を蹴り破って外へ出る

 

「…ッ!逃げたぞ!」

 

怒声とともに1人の天狗が刀を投げ飛ばし、肩に深々と突き刺さる

 

ああもう!痛ったいなぁ!

相手も目が見えないはずなんだけどなぁ!あれか!?風のゆらぎとかでも感じられるタイプの奴なのか!?

 

「こんな妖術!斬り払え!!」

やや遅れてルーミアの展開した闇が天狗達によって斬り払われる

「ええ!?うっそぉ!」

 

闇を斬り払うという意味の分からない行動に俺もルーミアと一緒に目を丸くする

 

結果的に見ればルーミアの目くらましは一瞬しか効果がなかった。10秒も無かったかもしれない

 

ただそれだけあれば充分…!充分なはず!天狗相手だからもっと距離を取っておきたかったが仕方ない…!

 

風向きが大きく変わり、天狗が本気で自分を追ってくるのを感じる

ルーミアもそれを感じたのか急いで口を塞いでキョロキョロし出した

お前ほんとになんで来たんだ…?

 

「逃がすな!奴は山の地形を知らない!地の利は我らにある!」

 

そりゃそうだ、なんせ俺は今日初めてこの山に来たのだから知っているはずは無い…

だが忘れてもらっては困る、この山は既に俺が適当にばらまいた灰がそこら中にある

地形の把握なんて基本のキだ、問題ない

 

走りながら”地面に触れる”

速さじゃ敵わない、けど技術で劣るつもりは毛頭無い。

俺の通った場所が隆起と沈降を繰り返して形を変えていく

坂道が谷に、通った道は木々で消え、足跡は1つも残らない

 

しかし、突然背後から気配が消える

 

「奴め、明らかに慣れている…よせ!深追いはするな!今すぐに犬走を呼べ!」

 

「既に呼ばせております!」

 

なんだ…?追ってこないのか?

追ってこないのならこっちからやる。さっきみたいにいくとは思うなよ。

 

「おー、おー、なんだか凄いことになって来たけど、お礼はお肉で構わないよ」

 

ルーミアは何かを察したのか再び俺の影に隠れていった。それはどういう原理なんだ…

 

右手の先に結界の槍を構築し、狙いを定めて力を込める

食べ物の恨みは怖いんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

男は――天狗は突然予想外の方向から放たれた”何かを”刀で弾く

 

「っ…!狙われているぞ!警戒しろ!」

 

再び別角度から飛んでくる白い槍のようなものを先程と同様に弾こうとし…――天狗は横に飛んで避けた

 

(なんだ…今のは、最初に屋敷で撃ってきたものと同じなのか…?)

 

1発目の屋敷で撃たれた時は危なげなく弾き飛ばすことが出来た、2発目も最初よりも強いが何とかして弾くことは出来た…3発目は刀で受けることを危険だと判断して横に避けた

 

なら4発目は…?

 

段々と威力の上がっていく攻撃に初めて危機感を覚える

嫌な汗が背中を伝う

 

刀を強く握り、さっきよりも一層警戒を強めて周りを見る

仲間の天狗達も同じようにして顔を強ばらせている。

相手の場所は掴めず、射撃技も油断が出来ない…もしかしたら逃げるべきなのは既に…

 

音が聞こえた。自分の横脇めがけてそれが飛んでくる

そして誰よりも早く反応して迎え撃つ

 

あまりに速く、月光に照らされて白く輝く槍

それを見て、避けることも防ぐことも無理だと直ぐに悟った。

 

それでも刀を使って何とか軌道をそらす

 

「ぐ…ぁああっ!」

 

左腕の肉が引き裂かれ、赤い血が服を汚す

 

歪む視界に、息を切らせてやって来た犬走が写る

 

「犬走です!今来ました!」

 

仲間に応急手当を施され、ぜぇぜぇと息をしながらも声を張る

 

「――ッは、ッは!…犬走!お前の眼でさっきの男を探せ!」

 

「…はっ!」

 

白狼天狗である犬走椛の眼は普通と違い、千里先まで見渡すことが出来る

特定の誰かを探すならこれ以上ない適任だ

 

犬走が敵を探している間にも例の槍が飛んでくる

それを自分以外の天狗が同じように傷付きながらも何とか対応して時間を稼ぐ

 

「…!来た!来たぞ!撃ってきた!東の方角だ犬走!」

 

「…!居ました!距離70m!走り回りながら地形を変えて撃ってきます!」

 

飛んできた槍を1人が受けて、撃ってきた方向から犬走が場所を特定し、3人がその場へ向かう

 

そうして対応するも結果は著しくない

 

「どうだ!?」

 

「ダメだ、また近付いた瞬間に砂になって消えた」

 

その報告を聞いて爪を噛む

まただ、何度繰り返しても白墨を捕まえることが出来ない

速度ならこちらが大きく上回っている、場所さえ分かれば造作もないと思っていた…。

しかし何度やっても近付くと砂になって消えるという…

厄介な特性だ…

 

4度目の逃走を許すと、突然あの槍を撃って来なくなった

さっきとは打って変わって嫌な静けさと虫の鳴き声が辺りに響く

 

「探せ、犬走。まだ遠くへは行ってないはずだ」

 

「はっ!」

 

犬走にそう命じて自分も周りを警戒する

 

そして――

 

「なんだ…?」

 

数人の天狗が異変に気づいたようで当たりを確認する

 

音が、した。空を裂く音、風を斬るような音だった。

キィイイィイィン…という耳鳴りにも近い不快な音が段々と大きくなっていく

 

ぶわっと嫌な汗が噴き出すのを感じ、直感に従って叫ぶ!

 

「散開ッッッ!!!」

 

全員がその場を飛び退き、そして瞬きする間もなく地面が噴火でもしたかのように破裂した

地面が破裂し、土や小石が散弾のように弾け飛ぶ

吹き飛ばされた砂や土が壁となって視界を塞ぐ

何が起きたのか理解が出来ない

 

相手は新兵器の大砲でも持ってきたのだろうか

耳が馬鹿になるほど轟音が未だに収まらず、夜の静けさを破壊した

 

土埃が酷く、目を細めて状況を確認し、絶句する。

 

「は…」

 

誰が呟いたとも知れない乾いた声

ただそれ程の惨状が広がっていた

 

地面は抉れ、クレーターを作っていた

急激に意識が現実に引き戻され、そして理解する

 

「犬走ぃ!今すぐにヤツの居場所を探れぇ!!」

 

「今探してます!し、しかし!居ません!この山には…もうどこを見ても…!」

 

青い顔して叫ぶ犬走にそんな莫迦な事があるかと悲鳴にも似た怒鳴り声を被せる

しかしそんな叫びも再び山を抉る爆音によって途中で遮られる事となった

 

自分たちのやや上を狙って放たれたそれは、木々を吹き飛ばし、土砂崩れを引き起こす

尋常では無い被害、明らかに中級妖怪程度が出せる威力を超えたもの。

反応することすら出来ず、ただ当たらないことを祈って飛び回る無様な空の支配者がそこにはいた

 

悲鳴や怒声が飛び交う中、未だに冷静に状況を把握しようとしていた自分の耳に絶望したような声を拾った

 

「対象…発見しました…。場所は人里…上空、超遠距離からの狙撃がきます…。」

 

「なんだと……?」

 

耳を疑いたくなるような事だった。

男はこの妖怪の山から人里までどれほど離れているかを知っていた、天狗であっても1人を除いてこれほど素早く移動できる者を知らない

 

もしかしたら、もしかしたら……

それほどの距離から狙撃しているのか…?さっきまで木々の影から放ってたものと変わらない、それどころが屋敷で最初に放った物と同じ、あの白い槍を…

 

再び空を裂くようなあのキィイイィイィン…という音が近付いてくる

 

男は自分の顔が引き攣るのを感じた

もうどうしようもない

 

「全員、やまの――

 

声は最後まで続かず、再び放たれた相手の攻撃によって遮られる

あまりの爆音に自らの声が届かない――

男は再び息を大きく吸って声を張り上げた

 

「全員、山の裏側に退避しろぉ!!速度を緩めるな!当たれば即死だぞ!!」

 

苦虫を噛み潰したように顔を歪ませ、砕けた石や木の破片が雨となって降り注ぐ中、ただ、必死に逃げた

 




ここまで読んで下さりありがとうございます!感想評価して貰えたら嬉しいです
灰くんが過去にないぐらい強く描写された話です、強く見えるように書いたつもりなのでそう見えてると嬉しいです
鬼やら巫女やらに負け続けてきた灰くんの最初で最後のつよつよ回かもしれません

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