たった一度の会食から始まった戦いは、未明から明け方まで続いた砲撃音によって終わる事となった
人里の上空から八雲の式神白墨によって放たれた砲撃、その威力は凄まじく、山の頂上部分の土が軒並み掘り返され、木々は弾け飛び、消し飛びこそしなかったものの、固く踏みならされていた地面は今も柔らかく、多くの木々がなくなった事により土砂崩れが頻発している
初めに交戦していた10人あまりの天狗達は遠距離からの長距離砲撃に為す術なく、山の裏側に退避する事によって事なきを得た
また白墨から放たれた砲撃が山を貫通することこそ無かったが、天狗達が山の裏側に撤退した後も砲撃を止めず、およそ3時間近くの間、絶え間なく撃ち放たれた砲撃が山の表側を穴だらけにする事となった
騒ぎを聞きつけてやって来た山に残された天狗達が30人近く集まったもののいたずらに被害を拡大するだけとなった
その後、満足したのか夜明けと共に攻撃は止まり、白墨は姿を消した…
「こんなところかしら…」
先日起こったことを適当に纏めながら新聞に載せる文面を考える
今回ばかりはあまり詳しく書きすぎると上から文句が出てくるかもしれない
中級妖怪が引き起こしたにしては被害が大きく、また天狗達のプライドもズタズタだろう
なにせ守るべき自分達の山を格下相手にめちゃくちゃにされたというのだからその情けなさは考えるまでもない
ただいつもは威張り散らしている大天狗様達も、夜の間ずっと撃たれ続けたのがよっぽど効いたのか、パンッ!という音を聞く度にビクビクと周りを警戒する様は見ものだ
つくづくさっさと逃げておいて正解だったと胸を撫で下ろす
なんでも白墨は近付くと砂になって消えてしまうという、そんな面倒な特性を持った妖怪を相手するなんて絶対に御免だ
意識を戻してペンを握ろうとした時、ドタドタとやかましい音が聞こえてくる、思わず集中力が切れてそちらに目を向けると予想通りの人物が襖を壊しそうな程勢いよく開けた
「聞いた文!?なんだか先日凄いことがあったらしいわよ!なんと妖怪の山の頂上部分が穴ぼこだらけ!きっと大ニュースになるわよ!」
案の定、ずかずかと部屋に入ってきたのは同じ鴉天狗の姫海棠はたてだった
はたての同じ新聞記者とは思えない情報収集の遅さを嘲笑いながら答える
「相変わらず情報が入るのが遅いのね、そんな事昨日の内に山中に知れ渡ってるわよ。というか逆になんで山で引きこもってたあんたが知らないのよ…音とか凄かったじゃない」
「道理でなんだかうるさいと思ったら」
道理でうるさいと思ったら…じゃない、山から離れたところに居ても聞こえたのだ。はたては山にいたのだから気付いていない方がおかしい、というかただの騒音騒ぎだとしても3時間もぶっ通しで鳴り続けたら何か異常があるんじゃないかと思うだろうに…
「それで…ほら!見てみてよ、今朝ちょっと念写してみたら例の妖怪かバッチリ写ったのよ」
そう言って出された写真を手に取る
バッチリ写った…という言葉に嘘はなく、写真には灰色の髪に灰色の服を着た、長身の男が写っていた
「念写で人や妖怪を撮るのは難しいって言ってたけど、やけに綺麗に撮れたわね」
「まあね、私の念写も日々進歩するってことよ…ただ引っかかる事に何処かであった気がするのよねぇ…文は見たことある?」
そう言って念写で写し出された写真を色んな角度から見ては、眉を八の字にした
「さあ?少なくともここ100年くらいはこんな無機質な顔見た覚えがないわ、そんな事よりいい加減その使い勝手の悪い念写は辞めて、自分の足で取材したら?」
もう興味が失せたと言わんばかりに適当に話題を変える
「なっ…!私の新聞には念写を使った他の人には真似出来ない個性があるのよ!」
突然の言われように声を荒らげて反論するはたてを笑い、声を潜めて言う
「いるわよねぇ…底辺が何故か自分にしか出来ない個性がある〜とか何とか言って、成功したことも無いのに成功者みたいに講釈を垂れ始めるやつ」
「あ、あんたねぇ…!その性格の悪さはいい加減直しときなさいよ!そんなんだからもみじにも嫌われてんのよ!」
ぷるぷると震えながら負けじと言い返してくる
ちなみにはたての新聞、花果子念報は記事の内容に新鮮味が無く、人気が無い
「部下に嫌われるのも上司の辛い役目ね…私やもみじ以外とは殆ど話さないあんたにはわからないかも知れないけど…」
「〜ッ!つ、次の新聞大会では覚えてなさいよ!この花果子念報が一位を飾るんだから!」
ちらりと横目で見ながらとどめを刺すと、流石に堪えたのか、勢いよく机を叩きつけて立ち上がり、目尻に涙を溜めながら部屋から逃げだした
◆
清々しい日だ
紫との約束とは少し違ったけど、まぁ問題ないだろう!
念入りに結界の槍を撃ちまくったし報復に来たりは無いはずだ…多分。
ルーミアに関しては…あいつはなんで来たんだ?
まあルーミアが来たおかげで数秒とはいえ天狗達から距離を取ることが出来たし役には立ったけれど…特に結界の槍の適正距離的な意味で
初めに屋敷で結界の槍を撃った時は簡単にあっさりと防がれたのにその後の結界の槍が相手にダメージを与えることが出来たのにはもちろん理由がある
そもそも結界の槍は地底に落とされる前、博麗の巫女と対峙した時、残り少ない妖力で作った薄い板状の結界を何重にも何百重に折り曲げ続けた結果、たまたま槍のような形になった物だ
意識が朦朧としてたからどういう折り方をして作ったのか分からないし他人に作り方を教えることも出来ない。俺がやってるのは、ただあの日巫女に放ったその結界の槍をコピーしてるだけだ
何重にも折り重ね続けたからか、信じられない程固く、頑丈だ
ただそんな結界の槍にも勿論弱点がある
一つは狙って撃てないということ
結界の槍はくねくねと動かしながら撃ったりは出来ない、あくまで直線的に、出来ても角度を少し付けるぐらいしか無理だ
そこに俺のへっぽこ射撃スキルを合わさると、20メートルも離れていれば動いてる敵に当てるのはほぼ不可能となる
だから俺は結界の槍を狙って撃っていない
今回の騒動の時だってそうだ、俺は天狗なんか見えちゃいない。どんなに目が良くても1〜2kmも離れれば人なんて認識出来ない
そもそも勇儀と戦った時なんて目が見えてないのだから狙えるはずも無い
俺はただ、例え目が見えなくなったとしても存在を感じられる、自分から生み出した”灰”だけを見て攻撃しているのだ
俺は攻撃する時に相手を見ていない、ただ敵に付着した灰からどこにいるのか感覚的に把握しているだけなのだ
相手に付着した灰と結界の槍の先端部分が磁石のような関係になっていて、結界の槍は吸い付くように灰に引き寄せられる
目も見えていないのに結構正確に当てられる理由がこれだ
結界の槍は放たれると同時に対象に付着した灰へと角度を修正し、加速しながら向かっていく
そう、”加速”するのだ
何故そうなったのかはよく分からんが、この槍…というより灰に引き寄せられるという効果が原因で、距離が離れれば離れるほど勝手に加速していく
離れていればそれだけ角度を修正しやすくなって命中率も上がる
だからこの結界の槍は離れているほど速く、当たりやすく、そして強い
逆に言えば至近距離で撃っても遅いし、相手に当たるかどうかが俺の発射角度によって決められるため命中率も悪い
しかしこの槍にはまだ弱点というか使いずらい点がある
結界の槍は離れれば離れるほど強いというのに、肝心の灰を相手に付着させるために一度近付かなきゃいけないのだ
いつも適当に生み出しているものとは違う、特別な灰だから10メートル以内まで近付く必要がある
遠い方が強いというのに近づかなければ攻撃出来ない…この矛盾した戦法がちょっと面倒くさい
まあそれでも格上への対抗手段がこれしかないから――
「おい白墨、さっきお前が渡してきた報告書なんだが…紫様は本当にこれをお前に命令したのか…?」
ぐっすりと眠ってたらしく、いつもより顔色の良くなった藍がおずおずと言った様子で聞いてきた
ああもちろん、紫様は生意気な天狗共の鼻っ柱をへし折ってやれって命令を俺に出したんだよ。報告書に嘘は一切無いとも!!
俺は勢いよく頭を縦に振る
こういうのは勢いと自信が大事なんだ
自信を強く持って頷いておけば何も問題は無い!
「そ、そうか…うーむ…わかった…とりあえずそろそろ紫様も帰ってくるはずだからその時に私から報告しておこう」
いつもキツい印象受ける藍だが、自分が休んだ事によって紫に負担をかけた事を気にしているらしく、いつもより簡単に引き下がってくれた
それはそうと俺は急いで荷物を纏める
紫との約束を全部破って会食をめちゃくちゃにしてしまったのだ
大した問題では無いとは言え簡単にキレる紫の事だ、きっと今回のことで怒らせてしまうだろう
だが人の怒りは時間経過で薄れていくものだ
紫が冷静になるまで時間を置いて、忘れた頃に何食わぬ顔で挨拶すればきっと解決するだろう
俺は少し考え込んで自分の考えに問題が無いことを確認し、家を出た
◆
「それで……白墨に任せた件について…どうなったかしら…?」
私の言った通りにしっかりと休めたのか、いくらか気色が良くなった藍に恐る恐る尋ねた
「は、はい…それより紫様、報告の前にお休みになられては…?先程からふらついておりますし…私が休んだ分を負担させてしまい申し訳ありません…。」
「良いのよ…ええ良いの…。それよりも報告をお願い…これを聞かなきゃ怖くて寝れないわよ……大丈夫…最悪な結果ならいくつも想定してきたから心の準備は万端よ」
白墨の事だ、何事もなく……という事は無いだろう…。
問題はそれがどの程度まで行ってしまったか…だ。
しかし、予想に反して藍の顔は心配するような顔から一転、安心させるように柔らかくなった
「ああ…!それならご安心を、紫様の命令通り完璧に出来た、問題無いと豪語しておりました」
耳を疑った、そして同時に歓喜した
憑き物が取れたように晴れやかな気分になり舞い上がる
「ほ、本当!?ほんとに!?よかっ良がった…!それだけが心残りだったから…!これで安心して寝れるわ」
ホッとして胸を撫で下ろす
色々心配していたが、どうやら彼は真面目にやってくれたらしい
安心するとどっと疲れが来る。白墨に任せてからずっと寝ないで動いていたから久々に疲れたようだ
「ん〜!安心したら眠くなってきちゃったわ、完全に眠くなっちゃう前にどうなったかだけ教えて」
「はい!白墨曰く、紫様の命令通り、天魔の居ない間に山の頂上付近を穴だらけにし、壊滅的な被害を与えたと……紫様?」
「……は?」
◆
疲労の溜まった身体を寝床まで引きずる
藍からひと通り話を聞いて大体の事は分かった。
出来れば話し合いという確実な方法を取りたかったから、今回の事は胃がきしむばかりで安心出来ない事が多い
鬼ならまだしも天狗相手にこんな事になるなんて想定していなかった
天魔が居ない時とは言え、天狗達からすれば何よりも大切な山を穴だらけにしたとなればあっちの面子も丸つぶれだろう
そこから天狗側が穏便に済ませるか、それとも溝が深まるだけか。
「いや、まだ大丈夫…。先に手を出してきたのは天狗側らしいし、その上で返り討ちにしただけなら正当防衛って事になるし、逆にこっちが有利に要求を通せるはず」
これが他の妖怪ならどちらが先かなんて些細な問題で何も意味をなさないが天狗は違う
奴らはそういう所を気にする。天狗はそういう妖怪なのだ
なのだが……今回は明らかにやりすぎだ、妖怪の山と戦争をするかのような勢いだ
そうなってくると天魔がどう出てくるか分からなくなる
ちょこっとその場に居た天狗を吹き飛ばす程度ならまだしも山を頂上付近だけとは言え壊滅させたのだ
……。
「…。寝よう……」
寝てから……とりあえず寝てから考えよう
白墨への給金代わりのお菓子を無しにしてやろうかとも思ったが、一概に今回の事は白墨が悪いとも言えない
それこそただ何もせず逃げ帰ってくるよりはまだマシかもしれない
それも寝てから考えよう
スキマを開き、一刻も早く布団の中に潜ろうとした時、突然人の気配を感じた
「待ちなさい、八雲紫」
説教臭く感じる声に足を止める
後ろを振り返る
そこには左側だけ伸びた緑の髪に、頭には大きな紅白リボンの付いた帽子、そして何より特徴的な笏を持った少女が居た。
いや、少女と言うのは不適切か……何故ならそこにいるのは幾千万にも及ぶ者の死後を裁く地獄の裁判長、四季映姫その人に他ならない
「…?多忙な閻魔様ともあろう御方が、一体何用で?」
「ええ多忙な身ではありますよ、前々から貴女とは話をしておかなければならないと思い、こうして時間を作りやって来ました」
言外に今話すべき内容で、断ることを許さないという意志を感じる
一刻も早く帰りたくて断り文句を考えていたというのに出端を挫かれた
映姫は乗り気になれない自分を無視して話し始める
「…あまり長引かせたくなさそうですね…。単刀直入に言いましょう、今回は貴女の行なった契約違反に対して注意勧告をしに来ました」
流石に今の私を見て気の毒に思ったのか、いつもの長い前口上はなかった
しかし相手の言葉に疑問を感じる
「契約違反…?私が…?」
「ええ、やはり自覚はありませんか…ですがこれからも今までのように過ごすなら注意していかなければなりません。特に貴女にはその責任がある」
その言葉を聞いてもピンと来ず、首を傾げた
眠気とストレスに耐えながら続きを待つ
「貴女の式神である白墨が地底と地上の不可侵条約を侵し、地底の妖怪を地上に連れ出す事がありました。幸いその妖怪はその日のうちに地底に戻る…いえ戻されましたが、立派な違反行動であり、その責任の一端は貴女にもあります」
「…?は、はくぼく…?」
「良いですか?今回連れ出された妖怪にその気がなかったから良かったものの、これが鬼などであったらどれ程の被害が出るか…。その辺を自らの式神に言い聞かせていなかったのは白墨だけではなく貴女の落ち度でもあり――――そもそも、貴女の式神という立場にありながらあの妖怪はそのことを全く理解しておらず、八雲の式神としての自覚も足りず、普段の行いから問題だらけで――――その事も本来貴女が管理しなくてはならない部分でもあります。コレが一介の妖怪ならまだしも、この幻想郷という地で重要な位置にいるのですから―――――。もっと周りを見て――――一刻でも早くしたいと思うのは否定しませんが――――貴女は毎回――――一つのことに囚われすぎて貴女が境界の妖怪だから仕方ないとは言え―――――少しは貴女も白墨の身体の特異性を―――――今一度考え直して――――貴女はいつも大したことない事に関してはよく見れば気付きそうな事を見逃す癖が――――、その怠慢が巡り巡って大きな落ち度となり――――そしてそれは普段からの習慣が―――。他にも―――。ですから―――。――、―――、―――。」
長引かせないとはなんだったのだろうか?言葉の波に溺れそうになる
そんな中、ストレスと眠気で限界が近い中……1つの単語が頭を回る、頭の中を回る、ぐるぐる回る
白墨、白墨、白墨、はくぼく、はくぼく、はくぼく……
「あ、ああ……あば、あばば……」
「それに……聞いていますか?」
そして――導火線に火がついた
「ああ――!絶対1ヶ月は飯抜きにしてやるッ!!!」
ここまで読んで下さりありがとうございます
今回の話は説明が長くて展開が進まないので結構退屈になってしまいました、すいません。
読み飛ばした人用にまとめると「ゆかりん、超過労、犯人は灰」って感じです
灰くんの槍についてはダラダラとした説明で分かりにくい部分があったと思います。疑問に思ったことがあったら感想の方で聞いて貰えれば出来る範囲で答えます