灰の旅路   作:ぎんしゃけ

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これからちょっと忙しくなるので4月は投稿遅れると思いますが、それでも一、二ヶ月に一話は投稿すると思います

【追記】
総合評価7000を超えました、ありがとうございます
これからも見てくれると嬉しいです


第三十二話 厄神さまのお夕飯

結局、紫に1ヶ月ご飯抜きの刑に処された白墨は今晩の夕飯の為に、壊れた釣竿を持ってある店を訪れた

その店は白墨にとって特に思い入れのある場所という訳では無かった

強いて言うとすれば、その店の店主に昔一度だけ大根を分けてもらったことがあるというぐらいだろう

そしてその時のお礼は既に済ませたつもりでもあった

だからその店の店主とはそれっきりで、特別白墨にとって何かあるということは無かった

 

しかし不思議な事に店の店主はそうでは無かったようで、来る度に白墨に色々とサービスしてくれるのだ

 

白墨も貰えるものなら貰ってしまおうと他より優先して足を運ばせていた

 

残念ながらその店はただの道具屋であった事から、白墨も多く通う事は無かったが、人里内では珍しく不気味がられている白墨にとって好意的な知り合いの一人だった

 

「おおう、白墨よく来たな」

 

店に入ると、好色な笑みを浮かべた店主が大きな声で白墨を出迎える

前来た時よりもまた一段と繁盛しているようで、店内で物色していた客が来店してきた白墨を見てぎょっとしていた

 

白墨は軽く会釈だけすると、まっすぐ店主の元へ歩く

 

互いに周りの目を全く意に介さずに話を始める

最も話と言っても一方的に店主が喋り、それに対し白墨が相槌を打ったり打たなかったりというものだが

 

「んで、今日はどうしたよ?」

 

仕事の顔で店主が聞くと、白墨は無言で手に持っていた壊れた釣竿を差し出した

 

それだけ見るとわかったように店主は席を立つ

 

「ああ…お代はいいよ、倉に埃のかぶった物がいくつかあるんだ、適当に持って行ってくれ」

 

白墨は金袋に伸ばしていた手を戻し、遠慮すること無く素直に頷き、店主の後に続いた

これもいつもの事だった

 

歩いている最中、店主が言う

 

「どうよ?へへっこの店も中々デカくなっただろう?久々に来たから驚いたんじゃないか?人も増えてきてなぁ、今度支店も出来ることになったんだ」

 

返事は無かった、しかし店主は気にした様子もなく話を続ける

 

「…随分と間が空いたからもう来ねぇんじゃねぇかと思ってたんだが、やっぱり気まぐれかな…。もしもう来なかったら本当に礼を言う機会が無くなってしまうからちょっと後悔してたんだ、今日来てくれてほっとしたぜ」

 

「……安いから。」

 

久々に返ってきた返事に店主は驚いたように笑い、昔を懐かしむように話した

 

「ここまで来れたのもあんたのお陰なんだぜ?家業を継がずに家を出て、勝手に始めた商売だ。上手くいく訳もなく、明日食う物も無くて…自業自得とはいえ大変だったなぁ…家を出た矢先親に頼るも出来ねぇし、頑固だったから友を頼ろうともしなかった…そんな時、突然どこからともなく食糧が送られてくるようになったんだ……そこからだった、この店が繁盛しだしたのは」

 

そうして店主は歩を止め、白墨を指さした

 

「白墨、お前なんだろう?…ずっと、礼を言いたかったんだ。それがお前を贔屓する理由、そんで…これからもそうしてやる…だから…まあ、偶には顔を出せよ…」

 

店主はそれっきり話すのをやめて、薄暗い倉庫の中を歩いていった

白墨もただぼんやりと辺りを照らす蝋燭を見つめるだけで答えようとはせず、2人して蝋燭の明かりを頼りに進んだ

 

「どうして……家を出たんだ…?」

 

目的の物を取り、いざ倉を出ようと店主が扉に手をかけた時、驚く程平坦な声と共に白墨は店主を見つめた

 

予想外の事に店主は驚き目を見開き、そしてすぐに勝気な笑みを浮かべた

扉から僅かに零れる外の光を背に店主は声を高くして答える

 

「せっかくこうしてなんでも挑戦出来るんだぜ?何か大きなことをしなきゃあつまらんだろう!」

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山

先日俺が問題を起こしたばかりのこの山とは紫が色々頑張って和解したらしく、俺も天狗達に嫌な顔をされながらも自由に出入りができるようになっていた

ビシビシと敵意の視線を感じながらも山の川で釣りをする

のんびりと釣り糸を眺めるまで仕事、いや趣味か

気が付けば、少し遠くには口を謎肉でモゴモゴとさせたルーミアが座っていた

目を向けるとまだ釣れないのか?とヒマそうな目線を向けていた

 

「ねぇ」

 

いい天気だと心が晴れやかになるから好きだ

釣りをしながらぼんやりと飛んでく雲の形を見るだけの時間が好きだったりする

 

「ねぇってば」

 

ルーミアもこの気持ちのいい天気にやられたのか眠そうに目を擦っていた

釣れたら起こしてとでも言いたげな目だ

絶対に起こさない、何があっても起こさない

 

「ね、ねぇ…なんで私まで巻き込まれてるのよ…!」

 

釣りは黙ってやると相場が決まっているというのに…

もぞもぞと居心地が悪そうにしている小うるさい少女にため息をつく

緑の髪に特徴的な赤いリボンそれにゴスロリ風のドレスが印象的だ

 

「な、なんでため息吐かれるのよ…!わたし巻き込まれてる側なのに…!」

 

釣りをしていたら興味津々といった感じに遠くから見ていたので無理やり引っ張って釣り竿を握らせた

 

途中で俺と自分を見比べながら「えっ?えっ?えっ…?」と困惑していたが釣り竿を離さないようにしっかりと握ってしまっているあたり流されやすいのだろう

 

嫌ならそんな釣り竿投げ捨てて何処かへ行ってしまえば良いのに…

勝手に放り出したら迷惑とか考えているのかもしれない

そんな訳で名前も知らない少女は涙目になりながらも夕食確保の手伝いを強制的にさせられていた

 

ちょろい、ちょろすぎる、もちろん手伝わせる、カモだ。釣られるカモじゃなくて釣ってくれるカモだ、つまりは良いカモだ

意地でも手伝わないルーミアとは大違いだ

 

「そ、そもそも私の近くに居ると――」

 

「揺れてる」

 

「えっ?あっ…!ほんとだ、引っ張らなきゃ…!」

 

何か言おうとしていたのを遮って魚がかかる

明らかに不慣れな感じで危ない所もありながらも何とか釣り上げた

 

「や、やった…!私にも釣れた!」

 

息を上げながらも嬉しそうに自分の釣った魚を見ている

 

うんうん分かるよ、魚釣りってやっぱり楽しいよね

俺も釣れるとちょっと嬉しいよ

 

ちなみにこの少女が来ると、監視していた天狗達がみんな遠くの方に逃げていった

嫌われているのだろう、友達も居なさそう

まるで人里に来た時の俺みたいだ、可哀想に

だからこれは無理やり手伝わせてるのではなく親切心だ、断じて楽したいからでは無い

 

忘れてそうだったので直ぐに水の入った桶を差し出す

 

「あっそ、そうだったわね!…これってどうやって釣り針取るの…?」

 

しょうがないなぁ…と立ち上がって目の前で取ってやって、魚を桶に入れた

桶には既に8匹ほど俺が釣った魚が入っていた

 

「ありが…じゃなくて!私厄神だから!こんなに近くにいると厄が移っちゃう…はずなんだけど……」

 

厄というのはさっきからこの少女の周りにうねうねと浮いている黒いモヤのことだろうか?

厄が移る気配ってのは今のところ無いし、近くにあっても悪い気はしないから無視していた

 

少女も厄が俺に移らないことを疑問に思ったのか、怒るのを中断して俺の事を見つめていた

 

「お、おかしいなぁ…。普通だったら近くに寄るだけじゃなくて私に見られたり、見たりするだけも…もっと言えば噂するだけでも厄が移ったりする人も居るのに……」

 

名前を言っちゃいけないあの人かよ、と心の中でツッコミ入れつつ釣り針に餌を付け直す

 

他はどうか知らないけど、俺は平気みたいだし興味ないなぁ

 

少女が悩んでる間にもう一匹釣った後、2本のナイフを取り出し、そのうちの1つを少女に渡す

 

「え、えーと…貰えばいいの?」

 

少女はどうして渡されたのか分からない、と困惑気味に受け取った

察しの悪いやつだ

 

「なか」

 

それだけ言って魚の下準備を始めると、ようやく気付いたのか同じように隣で始めた

少女のナイフ捌きは温室育ちの現代っ子みたいに下手くそだった。魚に失礼だと感じるくらいには下手くそだ。

でもまあ魚の内臓とか何も取らないまま焚き火に投げ入れてた頃の妹紅に比べれば何倍もマシだと思ったので、特に口出しはしなかった

 

ちなみにルーミアにはやらせない、あいつにやらせると生のままバリバリ食べるからだ、ふざけんな。

お前だ、お前に言ってるんだよルーミア、半目で寝たフリしやがって……

出来上がるまでサボろうとしているルーミアに石を投げつける

 

「痛っ!」

 

額を擦りながら起き上がると、涙目で恨みがましい目を向けてくる

 

「枝」

 

「…はぁーい」

 

そう一言だけ言うと諦めたかのようにのそのそと歩き始めた

 

一通り下準備が終わると、少女の方も考え込むようにじっと俺の作業を眺め始めた

しばらくして魚に塩を塗りたくっていると、すっかり今の状況に順応し始めた少女が話しかけてきた

 

「にしても不思議ね…なんで貴方には厄が移っていっちゃわないのかしら?」

 

「……」

 

少女の方も答えが帰ってくると思ってなかったのか無視する俺を気に止めることは無かった

 

「元々が負の存在だから関係ないんじゃないー?」

 

そんな中、静寂を切り裂くように気の抜けた声がした

いつの間に戻ってきたのか、枝を抱えたルーミアが興味なさげに人を陰キャ扱いしやがった

…こいつの魚はへたくそな切り方をされたやつにしよう

 

乾燥された枝に妖力で無理やり火をつける

少し火力不足が否めないけど大丈夫だろう

 

パチパチと火の音を聴きながら3人で焚き火を囲った

ルーミアだけは少し離れたところに座って焼けるのを待っていた

 

その後も特に問題なく…強いて言うならルーミアが形の悪い魚を渋ったくらいだろうか

 

「下手っぴだなぁ…いつも魚食べないのか?」

 

「うっ…人里に行けないから釣竿なんて持ってないし、食べるものなら充分あったから自分で釣る機会なんてほとんど無かったのよ」

 

ほとんど何もしてないルーミアが厚かましくジト目で見ると、少女が気まずそうに言葉を漏らした

 

「でも…悪くないわね」

 

はふはふと食べながらはにかんだ笑みで言う

 

そうだろう、そうだろう、やはり魚は偉大だ

いつも通り美味しい

 

ルーミアには色々言ったが、ご飯は人と食べた方が二割増しで美味しく感じるという気持ちもあって悪くなかった

 

夜というにはまだ早く、夕陽をバックに食べることになったが、それも偶にはいいだろう

片付けながらそう思った

 

 

 

 

 

 

 

その日も厄神としていつも通りの日であった

私――鍵山雛は生まれてから一度も誰かと食事を共にすることは無かった

 

人間は厄を祓うことは出来ず、ただそれを人形に移すことしか出来ない

その雛人形達に集められた厄が勝手に人間達のところへ行ってしまわないように自らの周りに溜め込む、それが私の役目だった

 

ある日突然この役目を負わされた訳でもないし、別に嫌々やってる訳でもない、厄を溜め込む事だって、それが私自身の力になるからという理由もある

だからそれを辛いとも悲しいとも思ったことは無かった

 

それに、全く誰とも会わないということも無く、妖怪なんかはある程度距離が離れていれば話すことだって出来た

人に嫌われている訳でもないし、むしろ時折寺子屋の半妖が人里の代表としてお礼に来てくれたりもする

近くで話せないという不便はあるけれど、不満は無い

 

けれど…けれどもやっぱり…

時々憧れる、羨ましく思う……寂しいと感じる

でも私にとってそれは当たり前の事で、仕方ないと切り離して考えてきた

だというのに変化は起きた

 

「今日はたのしかったなぁ…」

 

ゆっくりと今日あった事を振り返っていると、一本の釣竿が目に入った

 

帰り際に無造作に渡されたその釣竿をそっと撫でる

焚き火の後からはまだぼんやりとした温かさを感じる

 

無いだろうと思っていたのに、あまりに突然やってきた非日常

突然過ぎて、驚きの連続だった

私のことを知らないのか、突然引っ張られて、気付いたら釣竿を握らされていて…

半ば流されて一緒に魚を食べる事にまでなった

それは私が想像していたものより静かで、予想と違っていて、それでも隣に誰かが居るというのは悪くない

どうして彼が近くにいても平気なのかは分からない。

彼はあまり喋らないし、表情も全然動かないから何を考えているかはさっぱりだったけど…

 

それでも、やっぱり……

 

「いいなぁ……また、来てくれたりしないかなぁ…」

 

一層静かに感じるそこで、私はそう独りごちるのであった

 

 




灰(ゴン)…お前だったのか…ってのと雛ちゃん可愛いね!って感じの話です
ここまで読んでくれてありがとうございます!感想評価してくれると嬉しいです
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